転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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第43話 アッレナメント その9

 航空隊の模擬戦が終わり空母達の訓練の様子を見学し終えた自分達は、最後に戦艦達による訓練の様子を見学する。

 モニターが切り替わり映し出されたのは、タイムトライアルの如く海上を航行する二つの艤装の姿であった。

 艤装の持ち主は、我が艦隊の金剛と、チェザリス中佐隷下のもう一人の戦艦、コンテ・ディ・カブールの二人だ。

 

 一体どういう経緯でこんな事になってしまったのか。

 事の経緯を確かめるべく、映像を映し出すカメラの持ち主、紀伊と音声を繋げ一連の経緯を聞きだす。

 

「俺も困惑しているんだが。どうも金剛とカブールで勝手に俺の取り合いを始めて、勝手に勝負で勝った方が俺の正妻になるという事になってしまっているんだ……」

 

 紀伊の口から語られたのは、何とも羨ましい。もとい、何ともはた迷惑なものであった。

 

「よし分かった。自分が何とか説得してみる」

 

 合同訓練は正妻の座を争う場ではない、ここは自分が金剛にちゃんと言い聞かせなければ。

 金剛との音声が繋がり、彼女に注意をしようとした刹那、金剛の怒鳴るような声が司令室に響き渡る。

 

Seat next to him(紀伊の隣の座)は私にこそ相応しいんデース!!」

 

「何言ってるのさ! Accanto a lui(彼の隣)は僕にこそ相応しいんだ!」

 

「は! ほざけデース! 三十ノットも出せない、老体に鞭打ってる貴女には紀伊の隣は荷が重いデース」

 

「言ってくれるね! でもそういうけど、僕の方が君より二年も後に竣工してる。だから若さなら、僕の方が良いに決まってるさ!」

 

「ほほ、ほざけデース!! 大体若いから良いって訳じゃないデース! 私には、ちんちくりんな人工人体の貴女にはないSex appeal満載デース!!」

 

「確かに僕の容姿は戦艦としては不相応だけど。でも世の中には、こんな容姿を愛している人だっているんだ! 彼だってそうかもしれないじゃないか!」

 

「紀伊はnice-looking bodyがきっと大好きデース!!」

 

 金剛とコンテ・ディ・カブールことカブールの熾烈な言い争い、そんな間に割って入り説教する。そんな事、果たして出来るだろう。

 答えは、否、である。

 間に割って入れば最後、お互いに向いていた敵意が一気にこちら側に降りかかるのだ。それだけは、御免蒙る。

 

 因みに、コンテ・ディ・カブールの人工人体は、金剛や河内のようなグラマラスな容姿ではなく。人工人体だけなら駆逐艦と誤認しそうな容姿を持っている。

 サラサラとした銀のショートヘアに艦橋を模した帽子を被り、白の長袖ブラウスにイタリアカラーのリボン、黒のケープを羽織り、ショートパンツにニーソックスをはいている。

 

 閑話休題。

 

「よし紀伊、大体事情は分かった」

 

「提督、説得はどうしたんだ……」

 

「あれは無理だ、うん。と言う訳で、説得は無理だが自分なりに代わりの解決策を考えてみた」

 

「ほう、どんなものだ?」

 

「いっその事二人を娶ればイインダヨ。なぁに、そもそも艦娘との結婚なんて『仮』って付いてるだけあって義務とか権利とか建前みたいなもんで実質は事実婚だし、そもそも紀伊以外艦息がいた事もないから前例がない分重婚したって大丈夫さ」

 

「提督、仮にも俺達の上官である貴方が、そんな適当な事でいいのか」

 

「違うぞ紀伊。自分が提示したのは皆が何とか幸せになれるようにと考えに考え抜いたものだ。決してモテモテ紀伊君のあまりのモテさ加減にもう嫉妬を通り越してやけっぱちになって、こうなれば逆転の発想でとことん紀伊君のハーレムを応援してやろうとか思っての事ではないぞ」

 

「本音はそこか……、はぁ。もう提督では埒が明かなさそうだ。チェザリス中佐も司令室にいるのだろう? チェザリス中佐、中佐の口からカブールに言い聞かせてやってくれないか?」

 

「ははは! カブールの奴、普段警備隊の連中に声を掛けられてもあまり愛想は良くないし、自分の事を僕と呼んでいるから、男に興味ないのかと思ってたが。なんだ、ちゃんと興味あったんだな! しかも紀伊のような男がタイプとは! よし、ちゃんと幸せにしてやれよ!」

 

「……貴方達には失望したよ」

 

「そういうな、紀伊。結局、男女間の恋愛問題はやはり当人達で話し合って解決するのが一番だ。下手に自分達が間に入れば取り返しの付かない事になる可能性だってある。ま、もし話し合っても折り合いが付かなさそうなら、自分が間に入って何とか説得してみるさ」

 

「……分かった。では、何とか話し合ってみるとするよ」

 

「もし話し合いでも纏まらないなら、もう一発やればいいんだよ! 二人を竿姉妹にしちゃえばいいんだ!」

 

「お、チェザリス中佐、いいこと言う!」

 

「……、やっぱり貴方達には失望したよ」

 

 こうして自分とチェザリス中佐によるちょっとした紀伊遊びを経て、紀伊に先ほどの事は半分冗談である事を伝えると、姿の見えない河内とローマについて尋ねる。

 

「二人なら砲撃訓練を行う為に離れた場所にいる。あぁ、精度の測定の為に俺が搭載している水偵を派遣しているから、そちらに切り替えてくれれば様子を見学できる筈だ」

 

 紀伊の言葉に従ってモニターの映像が切り替えられると、映し出されたのは、大海原に産み出された巨大な火柱。そしてスピーカー越しに響き渡る轟音であった。

 

「凄いな……、これがヤマトクラスを上回ると言われる主砲」

 

 火柱を上げる張本人、河内の艤装に設けられた50口径46cm連装砲の発砲映像に、チェザリス中佐はそれまでの様子から一変、生唾を飲み込むようにモニターに食い入っている。

 そんなチェザリス中佐の様子を横目にした自分は、内心少し、鼻高々であった。

 

 

 

 こうして一通りの訓練の様子を見学し終え、ちょっとした意見交換会を終えた頃には、合同訓練も無事に終わり。参加してた面々が帰港の途についていた。

 彼女達を出迎えるべく、司令室から集合場所へと足を運ぶと、艤装から下船しやって来た彼女達に労をねぎらう。

 

「無事に事故もなく合同訓練を終えることが出来た。今回の合同訓練により、互いの艦隊の事を少しは分かり合えたと思う。だが、一度だけでは分かりきれない事もある。そこで、今後もチェザリス中佐の艦隊とは可能な限り合同訓練を行っていく事で双方合意したことを、最後に報告しておく」

 

「じゃ、最後はビシッと敬礼して決めるか」

 

 チェザリス中佐の合図とともに、一同敬礼し、今回の合同訓練は幕を閉じたのであった。

 

「……じゃ、無事に終わった打ち上げに、俺が用意した上質なアルコオル()と美味いピッツァ(ピザ)でパーッと盛り上がるか!! な、飯塚中佐!」

 

「え? 自分達も御呼ばれしても?」

 

「勿論だ! 飯塚中佐達の分も含めて用意してるんだ。中佐達が来なけりゃ、折角用意した分が腐っちまう!」

 

「うひょー! むっちゃ気前ええやん! なぁ提督はん、こう言うてることやし、遠慮なく及ばれしよや!」

 

「では遠慮なく。……あ、でも駆逐艦の艦娘()達にはお酒は、どうなんだろう」

 

「ご安心下さい。ちゃんとスーコ(ジュース)もご用意してあります」

 

 自分の心配にローマが答えてくれた事により、迷いは完全に断ち切られた。

 

「よぉーし、会場は俺の官舎の中庭だ! さぁ、いくぞ!」

 

 チェザリス中佐を先頭に、自分達は打ち上げ会場となるあの個性的な官舎を目指す。

 暁に染まる基地内を移動し会場に到着すると、そこにはビュッフェ形式の見事なまでの光景が広がっていた。

 

「さぁ、遠慮せずにどんどん食べて飲んでくれ!!」

 

 チェザリス中佐の合図とともに、チェザリス中佐の艦隊の艦娘()達はもとより、自分の艦隊の艦娘()達一斉に料理目掛けて最大戦速で向かう。

 各々が食べたい料理を自身の皿へと取っていくと、口にし、更に目を輝かせ口々に美味しいと言葉を漏らす。

 

「ここまで喜んでくれてると、用意した甲斐があるってもんだ」

 

「今回は何から何まで、本当にありがとう」

 

「ん? いゃぁなに、気にするなって。提督同士、助け合いだからな。……それよりも、さ、飯塚中佐も飲め飲め!!」

 

「あ、あぁ」

 

 嬉しそうな彼女たちの様子を眺めながら、自分はチェザリス中佐に勧められるがままに手にしたグラスにワインを注がれ。それを飲み干す。

 

「お、いい飲みっぷりだな! さ、まだまだあるからどんどん飲んでくれ!!」

 

 飲みっぷりが良かったからか、更にワインが注がれ、再び自分の胃の中へと消えていく。

 

「はぁ~い! ぽぉ~ら、モノマネ一発芸しまぁ~す。……コロッセオ!!」

 

「あはひゃひゃひゃ!! ポーラさん最高!! あはははっ!!」

 

「よぉ~し、阿賀野も負けないんだから! モノマネ一発芸、……秋刀魚!!」

 

「ぷっ、ふふ、くく。わ、わたくしはお洒落な重巡、ぶふっ! ですから、ひ、品のない笑い方は、い、いたしません、わ」

 

 会場の一角では、既に出来上がった一部の艦娘()が楽しい余興を行っている。

 

「私だって、グスッ、好きで長女やってる訳じゃないん、グスッ、だから……。変われるものなら、グスッ、変わりたいわ!」

 

「ザラさん、ザラさんの苦労、解りますよ。私も阿賀野姉ぇには苦労をかけられてますから」

 

「グスッ! ノ、ノシーロ……」

 

「私でよければ愚痴、聞きますよ」

 

「うぅ、ありがとう、ノシーロ」

 

 また別の場所では、残念な妹と姉を持つ二人が、お互いを慰め合っている。

 

「なぁローマ、あんたとはえぇ友達になれそうやな!」

 

「そうね、これからもお互いウンブオンアミーコ(良き友人)でありリヴァーレ(ライバル)でありましょう」

 

 また別の場所では、互いの艦隊旗艦同士が、何やら熱い女の友情を芽生えさせ。

 

「さぁ、紀伊! このピザ美味しいデース! あーんしてあげるからお口をOpenネ!」

 

「何を言ってるんだい! 今はこのリゾットこそ食べ頃だよ。はい、あーんしてあげるから遠慮せずに食べていいんだよ」

 

「HEY! Cavour! 紀伊に食べさせてあげるのは私一人で十分ネ! お邪魔虫はとっととBACK OFF!!!」

 

「何を言ってるんだい! ここの料理の事なら僕が一番良く知ってるんだ。一番知ってる者が一番おいしい食べ方を教えてあげてこそ、食べる側も幸せと言うものだよ! だから、コンゴウ、君こそ邪魔だよ!」

 

「……俺は自分で食べたいんだが」

 

「「紀伊は黙ってて!(Shut up!!)」」

 

「……はい」

 

 片や女同士の熱き戦いが繰り広げられていた。

 

 そんな楽しい会場の様子を眺めていると、自然と自分の気持ちも嬉しくなり。つられて、喉を通るワインの量も、増えていくのであった。




いつもご愛読いただき、本当にありがとうございます。

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