転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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第45話 潜水艦は楽園(ラプチャー)の薫り その2

 さて。何とか燃え尽きた灰の中から自力で立ち上がり、再び現実と向き合う覚悟を決めた所で、明石に建造状況の説明をお願いする。

 

「四つともまだ建造中です」

 

「……なら、高速建造材を使ってくれ」

 

 明石に指示してさっさと建造を完了させる。

 それにしても、一体何時間経過しているかは分からないが、かなりの長時間だな。これだと少なくとも、駆逐艦や巡洋艦辺りではなさそうだ。

 となると、戦艦或いは空母か。

 

 記憶にないが使った資材の分が無駄にならなくて済むのはありがたい事だが、少しばかり贅沢を言うと、重巡や潜水艦辺りがよかったな。

 

「提督、建造完了しました」

 

「よし、分かった」

 

 なんて思いを馳せていると、明石から建造完了の報告が飛んでくる。

 さてと、鬼が出るか蛇が出るか。ご対面といきますか。

 

「ん、明石、まだか」

 

「もうすぐ出てくると思います」

 

 新しく加入する艦娘()達はマイペースなのか、既に開かれている開閉式扉からまだ姿を現さない。

 と、不意に開閉式扉の奥から足音が聞えてくる。

 

 だがその足音は、まるでヒールを履いているかのような、或いは金属同士がぶつかるかのような甲高い音を響かせている。

 

 そして遂に、煙の中から一人の艦娘が姿を現す。

 

 姿を現したのは、前世のゲームでは影も形もない、一見して今までの艦娘()達とは異なる装いをした艦娘であった。

 それはまるで、ヘルメット潜水或いは古臭い硬式潜水服の様な装い。ただし、機能美よりも女性美を優先してか、身体のラインがハッキリと強調される程密着している。

 背中には酸素ボンベ、そして両腕には、カタパルトを模したものを装備している。

 

 あれ、この姿、似たような外見をしたキャラを前世で別のゲーム内で見た事がある。

 おかしいな、ここ(ラバウル統合基地)は太平洋であって大西洋じゃないんだけどな。しかも海底でもないし。

 『ADAM』なんて物質もなければ、保護すべき小さな姉妹さん達もいない。

 

 そもそも、自分は『プラスミド』なんて使えません。あ、でも、レンチなら工廠だからあるだろう。

 

 そのあまりにも凶悪な形相に内心戦々恐々としていると、目の前で立ち止まっていたビッグシス……、もとい謎の艦娘がおもむろにヘルメットに手を当てヘルメットを脱ぎ始めた。

 そして、ヘルメットの下から現れたのは、綺麗な黒髪ショートヘアでぱっつん前髪の美しい女性だった。

 

「はじめまして、超弩級潜水艦伊一○○○です。敵地奇襲から、特殊作戦の支援までお任せ下さい。……そうだ、名前、呼びにくいですよね。では『ユキ』と呼んで下さい」

 

 透き通るような声で自己紹介を行う彼女に対して、自分はヘルメットを脱ぐ前と後のギャップに少々面を食らっていた。

 しかし、いつまでも間抜けな表情を彼女の前に曝け出している訳にはいかず。気を引き締め意識を戻すと、自身の自己紹介を行う。

 

「提督、今後ともよろしくお願いしますね」

 

「あ、あぁ、こちらこそ。"恐縮"だが、よろしく頼む」

 

「??」

 

 い、いかん、まだ心の隅にラプチャー(楽園)の香りが残っていたようだ。

 頭を振り残り香を全て消し去ると、改めて挨拶を行いながら握手を交すのであった。

 

 

 こうしてユキとお互いの自己紹介と挨拶を終えた所で、ユキの履歴書を拝見していく。

 名前を聞いて前世とは異なる世界からやって来た艦娘()だろうとは容易に想像できていたが、案の定そうであった。

 

 伊一○○○型潜水艦、潜特型の別名で呼ばれている潜水艦の艦級の一つで、同型艦には伊一○○一がある。

 前世の大戦時において通常動力型潜水艦として最大の大きさを誇った伊四○○型。

 その伊四○○型を遥かに凌ぐ、全長一九○メートル、全幅二四メートル、基準排水量は水上で約一万八千トン、水中では役二万五千トンもの排水量を誇る。

 

 前世においても第二次世界大戦時までは、潜水艦にも単装ながら艦砲を搭載するのが標準とされていた。

 そして、世界は違えどユキにも、艦砲は搭載されている。

 ただ、その搭載されている艦砲と言うのが、3インチなんて豆鉄砲ではなく30口径46cm砲。しかも単装砲ではなく三連装砲、それを前後に一基ずつ計二基搭載。

 それだけの巨砲故に、直接照準ではなく大型の司令塔に設けられている射撃測距儀で狙いをつける。

 その背後には、背負い式に連装高角砲を一基ずつの計二基装備し。大型の司令塔を航空機の胸囲から護るべく、左右には三連装対空機銃が計六基も配置されている。

 勿論、潜水艦らしく艦首には魚雷発射管を六門設けている。

 

 また船体の大きさを活かし、左右両絃には水上機を一機ずつ格納できる飛行機格納筒が設置され、設けられたカタパルトを延ばし、斜め前方に射出できるようになっている。

 

 史上空前の大きさと強武装を誇るユキ。そしてその速力は、その大きさに似合わず水上二二・五ノット、水中八・一ノット。

 搭載しているディーゼル機関とモーターにより産み出される馬力によって、巨体ながらもそれ程の速力を得るに至っている。

 

 まさに怪物潜水艦、モビーディック。

 そして、人工人体となってもその名に恥じぬ見事なまでの胸部装甲。

 

 全く持って、何て規格外なニューフェイスなんだ。歓迎しよう、盛大に。

 

「あの、扱い辛いとは思いますけど、一生懸命頑張りますから。使ってくださいね」

 

「え、あぁ、うん」

 

 履歴書に一通り目を通し終えユキに履歴書を返すと、何やら意味深な言葉を彼女の口から告げられた。

 軍艦時代にはあまり活躍できなかったのか、何て余計な事に思考を回していると、開閉式扉の奥から足音が聞えてくる。

 

「ん?」

 

 そういえば、建造したのは四つの筈なのに、まだユキ一人しか出て来ていなかったな。

 と暢気に思いを馳せていると、姿を現したのは、ユキと同じ装いに身を包んだもう一人のエレノ、じゃなかった艦娘だ。

 

「あれ? お姉ちゃん?」

 

 彼女は一体何者なのかと目を釘付けにしていると、くぐもった声で、確かに彼女はユキの事をお姉ちゃんと呼んだ。

 

「ぷはぁ、……やっほ、お姉ちゃん!」

 

「チサネ!」

 

 ヘルメットを脱いで素顔を現すと、現れたのは黒髪をポニーテールに眼鏡を掛けた女性。

 そんな女性の素顔を見て、ユキは彼女の事をチサネと呼んだ。

 

「チサネもきたのね、嬉しい」

 

「うん、私も嬉しいよお姉ちゃん」

 

 二人のやり取りからすると、どうやらチサネと呼ばれた彼女は、ユキの妹。つまり彼女は伊一○○一なのだろう。

 手を取り合って再会を喜んでいる二人を見比べてみると、姉妹だけあって、やはり似ている。

 お互いに身長も高く、その肌も透き通るような白さを持っている。

 

 ただ、決定的に異なっている部分が一部ある。

 密着した服装を着込んでいるが故に否が応でも強調される胸部装甲。妹のチサネの方は、姉であるユキよりも少しばかり控えめだった。

 

「あ~、再会の感動に浸ってる所悪いんだけど、自己紹介してもらってもいいかな?」

 

「あ、失礼しました! 超弩級潜水艦伊一○○一です。チサネって呼んでください。例え相手が巡洋艦や戦艦だろうと、自慢の主砲で吹き飛ばしてみせます!」

 

 ユキよりも元気に自己紹介を行うチサネ、どうやら彼女は姉よりも活発な子のようだ。

 その後自分の自己紹介と挨拶を終えると、例によって、ワイヤレスイヤホンで姉妹共々認識の相違を無くす。

 

 こうして一通りの事が終わった頃。三度開閉式扉の奥から足音が聞えてくる。

 

 全く、どうして今回はこう一人ずつ出てくるのだろうか。

 と内心愚痴を零していると、開閉式扉の奥から足音の主が姿を現す。

 

「……え」

 

 その姿を目にし、思わず心の声が漏れてしまった。

 何故なら、姿を現したのは、セーラー服を身に纏ってはいたもののまさに筋骨隆々。文字通りの筋肉モリモリマッチョマンだったからだ。


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