転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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第4話 これより建造を始めます

 官舎の中へと足を踏み入れた自分は、すいませんと声をかけてみる。

 が、特に返事など返ってくる気配はなく。官舎内には誰もいないのかと疑いの念が芽生えてくる。

 

 再度声をかけてみるも、全く反応なし。

 疑念が確信へと変わると、どうせこれから我が家となる建物、ずかずかと奥へと進んでいく。

 

 そして、まだ使い古されていない新品同様の扉を開け、扉の向こう側を確かめていく。

 応接室に客室、それに会議室に休憩室等など。掲げられているプレートと間違いがないと、各種用途の為の部屋を確認する。

 一応、それらの部屋は直ぐに使用できるように上が配慮してくれたのか、必要最低限の家具は揃えられていた。

 

 そして、一通り部屋の配置などを確認し終えた後、二階のとある部屋の前へと戻ってきた自分は、部屋の扉に手をかけた。

 その部屋は、これから自分が提督として、自身の艦隊の実務や雑務等をこなしていく重要な部屋。執務室だ。

 

「お、おぅ……」

 

 真新しいフローリングの床に、染み一つない白壁。温かい日差しが差し込んできそうな窓に、夜は隅々まで照らしてくれる照明器具。

 しかし、それよりも何より目立つのは、引越ししたて感満載の、ダンボールの山であった。

 

「ここは自分で用意してねってか……」

 

 他の部屋は整いておいて執務室だけは荷解き丸投げ、贅沢を言えば執務室も整えておいて欲しかった。

 

「はぁ……、仕方ない」

 

 が、今更言っても仕方がない。

 適当なところに手荷物と脱いだ背広を置くと、ワイシャツの袖をまくり、準備が整うとダンボールの山の攻略を開始する。

 

「えっと、ここを繋げて、ネジで固定して……」

 

 ダンボールの山の中には、必要な書類の束の他に組み立て式の椅子と机と棚が入っているものもあり。

 文字通り、自分で一から整えなければならなかった。

 

 こうして説明書と睨めっこし、組み立てていく事数十分。ようやく、椅子と机と棚が完成する。

 

「ここで、よし」

 

 完成した椅子と机と棚を置き、そのレイアウトの出来栄えの確かめてみるが。

 

「何か、安い事務所みたいだ……」

 

 仕方がないとは言え、組み立て式の椅子と机と棚だけでは執務室と言う感じは全く感じられず。

 他の小物類や家具、もっと上質で見栄えのいい椅子と机と棚が早く欲しいと感じずにはいられない。

 

 とは言え、今はこれで満足して使っていくしかない。

 

「残りを整理するか……」

 

 頭を切り替えると、まだまだ未開封のダンボールの山に手を付けていくのであった。

 

 

 こうしてダンボールの山と格闘すること更に数十分。

 遂に、全てのダンボールを開封し終え、一通りの整理を終えると、椅子に腰を下ろすのであった。

 

 組み立て式だから低反発も心地よさもへったくれもないが、座れるだけでも大分違うだろう。

 

「あ~、とりあえず終わった」

 

 自分自身を労い一息ついてから、ふと腕時計で時刻を確認する。

 まだ夕食の時間までには余裕がある。ならば、何か出来ることをやろう。

 

 思い立ったら直ぐ行動。

 手荷物のアタッシュケースを開け、重要と書かれた茶封筒の中身を取り出すと、取り出した書類の束に目を通し始める。

 それは、自分が初の提督として活動を始めるにあたり支給された手引書だ。

 

 まぁ、前世の頃に艦これはプレイした事があるので流れは分かってはいるが。

 現世に来て年月が経過しているからか、記憶がおぼろげになってきている。そこで、再確認の意味も込めて目を通している。

 

 提督としての心得等のページを読み終え、いよいよ提督として最初に何をなすべきか、そのページに目を通していく。

 

「えっと、本来ならば初期艦と呼ばれる艦娘が支給されるが、今回は都合がつかなかったので、工廠にて新規に建造してください……。追記、お詫びとして初期支給量に加えて各種資材を追加しておりますので、支給したタブレットでご確認ください」

 

 何じゃそりぁ。

 思わず声に出して心の声が漏れてしまう。

 

 おぼろげとは言え、最初に初期艦を迎える事は覚えている。

 しかし現実はどうだ、五人の中から選んでねなんてレベルの話じゃない、まさかの丸投げ。そこまで丸投げなのか。

 

「しかも何だよ、今回はって……」

 

 出だしから何と前途多難なんだろう。そう思わずにはいられなかった。

 が、こうなったら頭を切り替えていくしかない。

 

 とりあえず、アタッシュケースから支給されたタブレットを取り出し起動すると、追加分も含め支給されたと書かれていた資材の量を確かめる。

 確か、ゲームでは初期の値は三桁だった筈だが。

 

「……ん?」

 

 タブレットを操作し画面に表示された資材の量を目にして、自分は移動や整理で疲れているのかと目を疑った。

 しかし、何度見直しても、その桁が変わる事はない。

 

 そこに表示されていたのは、ゲームで言うところの上限一杯の数値。

 即ち、カンスト値だ。

 

 大盤振る舞いと言うべきか、それとも、これが当たり前なのか。

 何れにせよ、考え方を変えれば暫くは資材が足りないと嘆く心配はない。

 

「ま、あり難く受け取っておこう」

 

 資材の量を確認し終えると、再び視線を手引書へと戻す。

 が、後に書かれている艦隊の発足・編成や出撃等、それらは結局の所艦娘がいなければ始まらず。

 次に成すべきは工廠での建造に決まった。

 

 手引書に目を通し終えると、工廠に向かうべく身支度を整え始める。

 流石にスーツ姿のままではしまりがない。

 

 手荷物のスーツケースから呉鎮の時より着慣れた軍服を取り出し袖を通していく。

 因みに、極東州海軍の幹部用軍服のデザインは大日本帝国海軍の第1種軍装等ではなく。ダブルの黒背広。

 即ち、海上自衛隊の幹部常装第一種冬服に酷似したものだ。その他各種夏服や下士官・兵と言った階級別の軍服も、概ね海自のそれに酷似している。

 

 真新しい中佐の階級章が付けられた軍服に袖を通し終え、最後に制帽を被ると、タブレットを片手に一路工廠を目指して執務室を後にする。


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