紀伊と同等の背丈に褐色に焼けた肌、別の意味で河内とタイマンを張れそうな胸板に、鍛え抜かれ見事なまでに隆起している手足。
日頃の激しいトレーニングのせいなのか、手足には痛々しい傷跡が見える。
そんな鍛え抜かれた肉体美を持つ者の顔は、これまた男らしい逞しさに溢れていた。
ただ、その髪型はお洒落なショートボブで、赤いリボンの可愛いヘアアクセサリーを付けている。
「失礼、
声は女性のように高めにも聞えるが、外見では艦娘か艦息か性別測定できない者が自分の目の前まで歩み寄ると、その鋭い眼で自分を見つめながら問うのであった。
「あ、あ……は、はい」
「そうか。では自己紹介をさせてもらおう。伊六○○型潜水艦、一番艦を務める
差し出された逞しい手と握手を交すと、その力強さが嫌でも伝わってくる。
「所で提督よ?
一体どうしたって、そりゃあなたのせいですよ。
そんなユキとは別次元の凶悪で圧迫される形相を目の前にして、一体どれだけの者が及び腰にならないといえるか。
「あ、あのですね。リクトさん」
「ん?
「じゃ、じゃぁリクト。失礼を承知で聞きたいんだが。……君、艦"娘"?」
刹那、リクトの眉間にシワが寄り、自分は身の危険を感じ取った。
まずい、やっぱりストレート過ぎた。
「……、やはり、提督には
「え……、ということは?」
「
失礼な自分に対して制裁の強烈ビンタでも飛んでくるのかと内心身構えていたが、飛んできたのはしおらしいリクトの声であった。
「あー! 提督さん、リクトちゃん泣かせた!」
「え!? 違う違う!! あぁ、すまないリクト、泣かせる気はなかったんだ!!」
「いや、
リクト、何て強い子なんだ。
と感想を語っている場合ではない。急いでリクトに非礼を詫びると。
「謝る事はない。もはや
と言って、その輝かしい白い歯を携えた笑顔を見せてくれた。
あぁ、リクト、何て健気で強い子なんだ。本当に、君は素敵な女性だ。いや、素晴らしい艦娘だ。
「リクト! 改めて、我が飯塚艦隊へようこそ! そして、今後ともよろしく頼む!!」
「うむ! よろしく頼む!!」
再びガッチリと握手を交す。もう、及び腰は何処かへ消えていた。
「所でリクト。さっきユキやチサネの事を知っているような口だったが、二人の事、知っているのか?」
「うむ。お二人の事なら十分に承知している。軍艦だった頃は、共に艦隊を組み幾多もの
成る程、先ほどのチサネの発言もあり知らない仲ではない、とは思ってはいたが、共に僚艦として戦った仲だったのか。
ということは、同じ世界の出身か。
「となると、リクトもユキ達と同じ潜水艦なのか。やっぱりユキ達と同じ潜水戦艦のような潜水艦とか?」
「いや、
リクトの性能を知るべく彼女から履歴書を受け取ると、それに目を通していく。
因みに、潜水艦であるにも拘らず水着を着ていないと思われたリクトだが、セーラー服の下に紺の水着を着用していました。
さて、リクトの水着事情も知った所で、本題の性能へと目を向けていこう。
ユキやチサネと比べると一回り小ぶりな全長一五○メートル、全幅一五メートル、基準排水量は水上で約七千トン、水中では約九千トンもの排水量を誇る。
しかしユキやチサネのように巨砲を搭載する事はなく、砲の類は搭載していない。しかし戊式40ミリ連装機銃、即ち40mm機関砲を四基搭載しており、かなりの対空能力を有している。
勿論、艦首には魚雷発射管を六門設けている。
そして、リクト最大の特徴と言えるのが、デッキ上に設けられた筒状の構造物。
大型の司令塔の下部にあり先の戊式40ミリ連装機銃に護られたそれは、艦首に向かって設けられたカタパルトを使い大空へとその翼を羽ばたかせる鉄の鳥達の巣。即ち飛行機格納筒だ。
巨体に似合う飛行機格納筒に搭載される航空機の数は六機。前世で潜水空母とも俗称された伊四○○型の倍の数を搭載可能としている。
まさに、潜水空母と呼ぶに相応しい潜水艦だ。
搭載されている航空機は『晴嵐改』と呼ばれる、前世でも日本海軍が開発した特殊攻撃機の改良型で。
航続距離は千キロと前世の晴嵐よりも低下したものの、一トンもの爆弾ないし八○○キロ魚雷を搭載可能な、戦闘爆撃機兼雷撃機に仕上がっている。
この様な性能を有する巨体を持つリクト、発揮される速力は水上二二ノット、水中は十・一ノットを誇る。
なお、同型艦には伊六○一がいるようだが。
やはりリクト同様に、艦娘となった場合には素晴らしい肉体美を持つ女性となるのだろうか。
怖いもの見たさで、少しばかり見てみたい気もする。
「ありがとう、大体理解できたよ」
「うむ。それはよかった」
「あ、そうだ。実を言うとね……」
履歴書をリクトに返すと、ユキとチサネ同様に簡単に軍艦時代とは別の世界である事を説明し、ワイヤレスイヤホンで認識の相違を無くしてもらう。
「承知したぞ」
「それはよかった」
「所で提督、あの者達は一体何者なのだ?」
「え?」
こうして問題も無事に解決した矢先、不意にリクトが指を指しながら告げた方へと視線を向けると。
工廠の出入り口付近にいたのは、河内を筆頭に紀伊や加賀さん、それに天龍や響に電。
そして、宇宙最強のマグロ解体業者兼システムエンジニアのような、溶接保護面とレンチを手にした明石の姿があった。
おい待て明石、何故そんな格好をしている。あれか、ユキに対抗してか。
「大丈夫かいな提督はん!? 明石が、提督はんが潜水服の化け物に襲われそうやって助け求めてきたから助けにきたで!!」
「待て待て、ちょっと待て! ユキ達は化け物なんかじゃないぞ、お前達と同じ立派な艦娘だ!!」
明石の奴が早とちりしたせいで、何やら大事になってしまった。
そういえば、思い返せばユキが出てきた直後ぐらいから姿を見せないと思ったら、応援呼んで来てたのか。
「へっ! 安心しろよ、提督。化け物だろうが何だろうが、このオレ、天龍様がかるーく捻り潰してやるからよ! おい化け物ども! よく聞け! オレが天下の軽巡、天龍様だ。フフ、どうだ……」
しかし、自分の言葉を聞いていなかったのか、威勢よく天龍がその手に自慢の刀を持って歩み寄ってくる。
が、最後まで言い終える前にリクトと目が合ってしまったのか。
急に歩みを止めると、見たこともない速さで後ずさりし、紀伊の背中に隠れながら。
「……こ、こひゃいか!!」
裏返った声で最後の台詞を言うのであった。
「天龍と申したか、なかなか面白い者だ」
その結果、怖いどころか面白いと、リクトには思われていた。
「皆落ち着け! ユキもチサネもリクトも、三人とも立派な艦娘だ! 化け物なんかじゃない!!」
「ん? ユキ、チサネ、リクト? なんやどっかで聞いたことある名前やな?」
「河内、お前三人の事知ってるのか!?」
「んん~、お、そや。そういえば同じ名前で特別潜水艦隊構成してた子がおったな」
河内から零れた言葉に、他の面々が纏っていた警戒感が徐々に解けていくかのように、表情が和らいでいく。
「そういえば、そんな艦隊があるとの噂は、俺も聞いた事がある」
「私も、聞いた事があります。極めて機密性の高い艦隊で、海軍内でも極一部の者しかその全容を知らないと噂されていました」
そして、河内の言葉を後押しするかのように紀伊や加賀さんからも言葉が漏れると、他の面々の警戒感は完全に払拭される。
「な、なんだ、姐さんの後輩か」
足が震えている天龍が口火を切ると、響に電も、それまで加賀さんの陰に隠れていたのが、一歩踏み出すとユキやチサネに近づいていく。
「わはは、綺麗なお姉さんなのです! 化け物だと思ってごめんなさいなのです!」
「ハラショー! とんだ早とちりだね」
「いいのよ、気にしてないわ。ユキです、よろしくね」
「私、チサネ、よろしくね!」
「よろしくなのです!」
「よろしく」
「天龍と申したな。
「おおお、お、おぅ。よろしくな」
直に手を取り合って仲良くなる響と電に比べ、天龍は足は震え腰が引けてはいるものの、こちらもリクトと打ち解けていったようだ。
こうなると残りの河内や紀伊に加賀さんも輪に加わり、三人との親睦を深めていく。
「ふぅ、なんだ、河内さんのお知り合いだったんです。インフェルノやエレクトロボルト代わりに溶接機やスタンガンを用意していたんですけど、使わなくてよかったですよ」
「明石、"恐縮"だが、罰として腕立て伏せ二百回してくれないか」
「ン゛ン゛ッッゥゥゥ!!」
そんな彼女達を他所に、事の発端を作った張本人にお仕置きを執行すると、自分も輪に加わるのであった。
「しかし提督、あの後本当に建造をしたんだな」
「へ? あの後?」
「昨晩、打ち上げが終わり官舎まで肩を貸すと言ったのに、途中で工廠に寄って建造してから戻ると言って別れたじゃないか」
紀伊の口から零れた昨晩の出来事の様子を聞いて、ぼんやりとだが、昨晩の自身の行動を思い出すのであった。
「提督様が今朝は私室にいらっしゃらないと、河内さんが慌てていらっしゃいましたので、探していたんですよ」
「なのです。皆で探していたら紀伊さんが工廠にいるかも知れないと言っていたので皆で向かっていたのです。そしたら、明石さんが慌てて司令官さんが襲われていると助けを求めにきたのです」
成る程、それであのメンバーでやって来た訳か。
「明石。"恐縮"だが追加で百回な」
「ン゛ン゛ッッゥゥゥ!!」
さて、明石に追加のお仕置きも執行した所で、そういえばまだ一人、新加入の
「ここまでユキにチサネにリクト、潜水艦と名は付いているが特殊な型ばかりだな……」
「なんや提督はん。大まかに言ったら三人とも潜水艦やん?」
「そうだが、やっぱり(一般的に周知されている運用方法的な意味で)普通の潜水艦も一人くらいは欲しいです」
「提督はん。諦めたらそこで試合終了やで?」
「河内先生……」
「お、来たみたいやで」
河内とのやり取りを行っていると、開閉式扉の奥から最後の一人が姿を現す。
「伊二五潜水艦、只今ちゃくにーん! あ、もしかして貴方が新しい司令!? じゃ、私の事はニコって呼んでね! ふふ」
姿を現したのは、オレンジのショートヘア、イ25と書かれたゼッケンを備えている紺色の水着に、イルカのシルエットが刺繍されたキャップを被った少女であった。
同名の潜水艦は前世において伊十五型潜水艦の六番艦として、大戦中はアメリカ本土を爆撃し、更にはアメリカ軍基地を砲撃した事でも有名な潜水艦の一隻だ。
だが、同名の潜水艦が河内の世界にいないとは言えない。なので、名前だけでは自分の知っている伊二五なのかどうかは分からない。
ゲームでも実装されていなかったので、姿を見ただけでも判別は不能だ。
「ようこそニコ、飯塚艦隊へ。司令長官を務める飯塚だ。そしてこちらが飯塚艦隊旗艦兼秘書艦の戦艦河内。更に……」
しかしとりあえずは自己紹介を行い、更には河内達を紹介していく。
すると、河内や紀伊、それにユキやチサネにリクトの事は知らない様子だったので、どうやら前世の世界の生まれのようだ。
「さてと、それじゃ他の面々にも紹介したいから、官舎の方に移動するぞ」
こうして新たに建造された四人と、明石を除く面々を引き連れて工廠から官舎へと足を運び。
任務で出ている者を除く艦隊所属の全員を第二会議室へと集め、加入する四人の紹介を改めて行う。
その反応は様々だったが、ユキやチサネやリクトに関しては、既に河内や紀伊に加賀さんといった前例がある為、すんなりと受け入れられ。
ニコも含め艦隊初の潜水艦艦娘という事もあり、温かく迎え入れられるのであった。
いつもご愛読いただき、本当にありがとうございます。