今日も今日とて、我が飯塚艦隊は絶賛活動中。
昨日より始まった新たな護衛任務は、我が艦隊が誇るねぼすけアイドルの加古ちゃんを旗艦とした、新第四戦隊によってつつがなく行われている。
勿論、他の任務に関してもローテーションを組んだそれぞれの戦隊が当たり、つつがなく行われている。
そんな絶賛活動中の飯塚艦隊を構成する各戦隊の中でも、特殊なものが第六戦隊だ。
同戦隊は、ユキ達潜水艦四人で編成された戦隊で、まさに飯塚艦隊版潜水艦隊なのだ。
同戦隊は現在、昨日よりラバウル統合基地を出港し、完熟航海も兼ねた近海への哨戒任務に当たっている。
そして、そんな第六戦隊からタブレットへと送られてくる定時報告を、自分は執務室の定位置に腰を下ろしながら眺めていた。
昨日は特に会敵する事はなく平和な定時報告が連なっていた。だが、今日は違う。
先ほど送られてきた定時報告の内容は、深海棲艦と会敵、交戦したというものであった。
水中を航行中、水上を航行する不審な航行音を探知。
音を探知したチサネが潜望鏡深度まで浮上した後、潜望鏡にて音源の正体を探り、音源の正体が単艦航行している駆逐イ級と判明。
確認される範囲内に更なる敵影の存在も確認できない為。見敵必殺とばかりに、チサネは浮上し自慢の30口径46cm三連装砲で砲撃。
見事初弾で命中させると、見事に駆逐イ級を撃沈した。
この交戦により、第六戦隊に損害らしい損害はなく。第六戦隊にとってはまさに華々しい初戦果となった。
しかし、この定時報告を見た時、自分は思った。
これは潜水艦からの定時報告だよな、と。
潜水艦が駆逐艦を"砲撃"で撃沈した。アンブッシュによる雷撃ではなく、浮上しての砲撃戦でだ。
今まで見たことも聞いたこともない内容に、思わず二度見してしまった程だ。
だが、時間がたつにつれ、今までの概念から外れた異次元の戦力を、今まさに自分自身の手元に有しているのだという実感が強くなり。
彼女達の存在が、今後の飯塚艦隊にとって頼もしい存在になって欲しいとの期待感が芽生え始めるのであった。
それから数時間後、午後の業務も間もなく終了の時刻を迎えようかとした頃。再び第六戦隊が深海棲艦と会敵し交戦したとの報告が上がってきた。
午前の報告と異なり、午後の報告では重要な役割を果たしたのはリクトであった。
再び不明な航行音、それも複数を探知した第六戦隊は、ニコの潜望鏡により音の正体を知る。軽巡ホ級一と駆逐イ級二からなる小規模艦隊。
単艦ではなく複数の深海棲艦である為、午前のように浮上し砲撃戦を挑むのは困難と判断。魚雷攻撃による奇襲が提案された。
だがそこで待ったをかけたのが、リクトであった。
リクトはまだ日没前である事や気象条件にも問題ないとの事から、艦載している晴嵐改での航空攻撃を提案。
アンブッシュによる魚雷攻撃よりも確実性があるとして、リクトの提案が採用され、敵小規模艦隊に対してリクト航空隊による航空攻撃が実施された。
八○○キロ魚雷を搭載した六機の晴嵐改が大空へと放たれると、一路敵小規模艦隊に向けて羽ばたいていく。
空母による航空攻撃ならば、六機という数は効果の程はあまり期待できないかもしれない。
しかし、それが水中から突如として現れた潜水空母によるものならば、例え六機であろうとその効果は絶大だ。
特に、相手側の思考の外、何の前触れもなく航空隊が飛来してきたのならば尚更。
機数が少ないとはいえ、敵小規模艦隊の混乱の隙を突き、二機が被弾したもののリクト航空隊は見事航空攻撃を完遂。
駆逐イ級を一隻撃沈し、残りについても手負いとする事に成功。
そして、航空攻撃により速度を落として航行することを余儀なくされた二隻に対して、第六戦隊はユキとチサネによる砲撃での追撃戦を敢行。
見事、残りの二隻も撃沈し、ここに二度目となる戦果をもぎ取ったのだ。
特殊な潜水艦故に出来たであろう、見事なまでの戦果を挙げた翌日。
起床して定時報告を確認すると、夜明けに深海棲艦の護送船団に対し雷撃を敢行、輸送艦二隻の撃沈を確認。
との、極めて一般的な潜水艦の戦果報告が上がっていた。
一連の第六戦隊からの定時報告に目を通すのは当然ながら、自分には他にも目を通さなければならない報告の数々がある。
護衛任務遂行中の第四戦隊からの報告に、他の任務に当たっているその他の戦隊からの報告書に、訓練の報告書。
更には。
「で? なんだこれ?」
「せやから、休憩室にお菓子の自販機設置して欲しいって上申書や! 因みに取り扱っとる商品のリストはな……」
「却下!!」
「……うそやん」
河内のくだらない上申書など。
兎に角目を通さなければならない書類は山のようにある。
そんな書類に追われる日々の中、ひと時のリラックスタイムたる昼休憩を終えて午後からの業務を開始して間もなく。
谷川が慌てた様子で執務室へとやって来て、基地司令部からの命令を伝えるのであった。
その内容は、ニューアイルランド島とブーゲンビル島の中間点にて、哨戒機が発見した深海棲艦の機動部隊を撃滅せよとのものであった。
何故今回発見したのが機動部隊であると確信できたのか、その
どうやら哨戒機は発見した直後、上空警戒に当たっていたと思しき深海棲艦の航空機の歓迎を受けたのだと言う。
成程、深海棲艦の勢力圏内でもなければ、近隣の島々にも深海棲艦の基地は存在しない。そんな状況の中で深海棲艦の航空機から攻撃を受けたとなれば、必然的に空母の存在が浮かび上がる。
相手が空母を含めた戦力なると、こちらも空母を出すのが得策だ。艦隊の傘、或いは長槍。どちらの役割を担っているにしても、航空戦力には航空戦力で対抗するのが一番だ。
更に谷川から、敵機動部隊の詳しい陣容を聞きだし、投入する戦力を決定する。
空母が一、重巡が一、そして複数の駆逐艦。それが谷川の口から告げられた敵機動部隊の陣容であった。
空母が正規空母か軽空母か、そのどちらかでも戦力としては大きく変わってくる所だが、残念ながら空母としか分からないとの事だ。
しかし、空母が一隻である事は間違いないとの事なので。こちらは空母二隻を含んだ第三戦隊と、水雷屋である第二戦隊を投入する事を決める。
「なんや、あたしが軍艦やった頃に
なお、敵機動部隊の詳しい陣容を聞いた際、河内が上記のような言葉を漏らしていたのが。
それを聞いて、河内や紀伊、それにユキ達の事も含め。河内の世界の日本は、本当に、前世で背伸びしてやりくりしていた日本とは雲泥の差がある国なのだと改めて認識するのであった。
さて、投入する戦力が決定すると、第二及び第三戦隊の面々を第二会議室へと召集し、ブリーフィングを行った後出撃する彼女達をバースから見送る。
その後は、司令室に詰めて、逐次状況確認を行っていく。
ラバウル統合基地を出港した第二及び第三戦隊は沖へ出ると、そこで深海棲艦の機動部隊を発見した哨戒機と合流。哨戒機に先導されながら一路発見した海域近海へと急ぐ。
特に問題なく発見海域近海へと到着すると、先導した哨戒機に別れを告げ、接敵の為の偵察機が搭載艦から放たれる。
そして、幾分の間を置いたのち、待望の報告が龍驤航空隊の偵察機からもたらされる。
軽空母が一、重巡一、そして駆逐艦が八。輪形陣で航行中。
第一発見時よりも正確な陣容が報告され、内心、勝利の確信が高まっていく。
正規空母なら一隻とは言えその搭載機数は侮れない。だが、軽空母ならば数は知れているし、正規空母である加賀さんがいる分、自分達の方が断然有利になる。
しかし、それが束の間である事を、矢継早にもたらされた続報で思い知る事となる。
敵軽空母並びに重巡は"エリート"クラスの可能性あり。
オペレーターから告げられたその報告に、先ほどまでの楽観的観測は、何処かへと吹き飛ばされてしまう。
ゲームでも敵の強さを分ける区分の一つであったが、それは現世でも変わらない。
深海棲艦との生存競争開始当初、深海棲艦に艦種ごとの違いはあれど、同一艦種ごとの性能や錬度等の力の優劣はないものと思われていた。
所が、生存競争が始まり年月が経過すると、同一の艦種であっても個艦ごとに力の優劣が存在している事が確認されたのだ。
それが『エリート』並びに『フラグシップ』と現在区分分けされている深海棲艦の等級である。
現在最も多く見られる所謂無印と、エリート並びにフラグシップは、ゲームのようにオーラを纏っているわけではない。
だが、外見的な特長を持っている為、その判別は容易である。
その無印とエリート並びにフラグシップの外見的相違、それは、霧の艦隊の識別紋章よろしく、船体に浮かび上がった紋章だ。
なお、紋章の色によりエリートかフラグシップ、そのどちらであるかも現在では判別可能となっている。
紋章の色が赤ならばエリート、黄色ならフラグシップとなる。
「色は!? 紋章の色は確かに赤なんだな!」
叫ぶようにオペレーターに確認させると、間を置いて、色は赤、エリートクラスであるとの報告がもたらされる。
更に肉眼での確認に、偵察機のカメラが捉えた映像を拡大編集して表示した画像がモニターに映し出されると。
そこには紛れもなく、赤い紋章を船体に浮かび上がらせた軽空母ヌ級と重巡リ級の姿が映し出されていた。
だが、今更エリートクラスを含む機動部隊だったからといって、引き返す訳にはいかない。
第二及び第三戦隊の
加賀さんと龍驤に攻撃隊の第一陣、その出撃を命令する。
母艦を飛び立った銀翼の群れ、その第一陣は、届け物を敵機動部隊の中核に届けることは出来なかった。
これがエリートクラスの力なのか。そう痛感せずにはいられない光景が、モニターには映し出されている。
エリート・ヌ級は、どうやら防空空母としての役割を持っているらしく。
その役割を全うすべく、第一陣の前に強力なエアカバーを展開させていた。
当然、第一陣はそのエアカバーを突破すべく、護衛の九九艦戦二一型及び零式艦戦二一型が先だって砲火を交え始める。
九九艦戦二一型及び零式艦戦二一型と砲火を交えるのは、まるで槍の先端を思わせるフォルムを有した、DW109 デバッケに瓜二つの艦上戦闘型航空機だ。
大空に激しい軌道を描きながら砲火を交える航空機達。
ドッグファイトの末翼をもがれ、黒煙と共に無残にも眼下の海へと墜ちていくのは、敵よりも味方の方が多いように感じる。
やはり、エリートに搭載されている艦載機はエリート揃いと言う事か。
やがて、ドッグファイトの輪から余力を残して抜け出した艦上戦闘型航空機の一部が、護衛を欠いた攻撃隊へと襲い掛かる。
艦爆も艦攻も、防御用の機銃で迎撃を試みるも、やはり対航空機戦ではその用途に特化した艦上戦闘型航空機には敵わず。
無残にも数機が翼をもがれ、海面へとその姿を消していく。
しかし、航空機による歓迎を受けながらも何とか、艦爆と艦攻は敵機動部隊をその射程に捉える事が出来た。
だが、次に待ち受けていたのは、エリート・リ級を始めとする厚い対空砲火だった。
特にエリート・リ級の対空射撃は無印以上の精度を誇り。艦爆と艦攻も容易にエリート・リ級が陣取る敵機動部隊中央へは到達できない。
それでも敵機動部隊に一太刀浴びせるべく、熾烈な対空砲火の中を突き進み、爆撃及び雷撃を敢行。
敵機動部隊の外苑にいた駆逐イ級を三隻戦闘不能とし、一隻に深手を負わせた。
だが、その代償として、第一陣の攻撃隊は四割近くもの損耗率を出して母艦への帰路につく事になる。
この損耗率は、第三戦隊運用開始以来、最悪の数字だ。
しかし、そんな数字に臆して第二陣を出撃させない訳にもいかない。
今敵機動部隊はエアカバーを疲弊させ、更には少なからず数を減らしてる。それに輪形陣による対空防御にも、第一陣のお蔭で穴が開いている。
この隙を突かずして、いつ勝機を見出せようか。
第二陣の出撃命令を発令すると、再び飛行甲板から大空目掛け銀翼達が羽ばたき始めた。
目論見通り、第二陣は見事に敵機動部隊の中核に打撃を与える事には成功した。
エリート・ヌ級の最上部甲板に見事二五○キロ爆弾を叩きつけ、艦上戦闘型航空機の着艦を不可能にした他。エリート・リ級にも魚雷を叩きこみ、何とか中破程度の損害は与えた。
勿論、他の駆逐イ級も一隻を沈めた他、複数に多かれ少なかれ傷は負わせた。
しかし、その代償に、第二陣も手酷い傷を負い。第一陣程ではないにしろ、高い損耗率を出す結果となってしまった。
だが、彼女達の犠牲と努力のお蔭で、敵機動部隊は今や敗走の様相を呈している。
彼女達の気持ちに応える意味でも、敵機動部隊は残らず海の藻屑にしなければならない。
故に、第三戦隊旗艦金剛、そして第二戦隊による殲滅殴り込み戦隊を手負いの敵機動部隊追撃に差し向ける。
その結果は、言わずもがな。
母艦に帰れなくなった艦上戦闘型航空機のうっとおしい足止めをもろともせず、殴り込み戦隊は手負いで速力の出ない敵機動部隊を射程に収めると、金剛の主砲が火を噴いたのを皮切りに、次々に殴り掛かっていく。
金剛や熊野の火力、多摩や駆逐艦たちの必殺の雷撃。
手負いであれどエリートの意地を見せこちらにも傷を負わせたものの、砲火が収まる頃には、敵機動部隊はかつて船体を形作っていた破片を海面に浮かばせるだけに成り果てていた。
また、生き残っていた艦上戦闘型航空機も、後の面倒を増やさぬ為にきっちりと、加賀さんと龍驤の継戦可能な両艦戦をもって全て排除するに至った。