転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

55 / 72
第49話 新たな翼はバカヤロウ その3

 眠らない街の如く、昼夜を問わず炎と油、それに鉄と光に満ちたその空間へと足を踏み入れた自分達三人。

 そんな自分達を、ストレッチしながら歩いていた明石が見つけ、声をかけてくる。

 

「あれ? 提督、どうしたんですかこんな時間に? と、加賀さんに龍驤さんもお連れで」

 

「明石は今上がりか?」

 

「え、あぁ、もう少ししたら上がりますよ。後は艤装の整備状況を報告書にまとめるだけですから」

 

「そうか、ご苦労さん」

 

「いえ、仕事ですから。……と、それで、結局提督はお二人を連れて何しにここ(工廠)へ?」

 

 他愛のない話を終えた所で、明石に今回工廠にやって来た目的を話す。

 

「というわけで、新しい航空機を開発したいんだ」

 

「成る程、分かりました。では開発を行いましょう」

 

「あぁ、疲れてるところ悪いな。よろしく頼む」

 

「いえいえ、工廠での業務の補佐が、私の仕事ですから。……所で提督、新しい航空機を開発するとなると、また一から鍛えなおさないといけませんよね?」

 

「まぁ、そこは仕方がない所だろう」

 

「ふふ、でも提督。実は、今装備している航空機の錬度を新たに開発する航空機に引き継げるとしたら、どうしますか?」

 

「なん、……だと!?」

 

 プレハブ事務所に足を運び、明石から告げられた衝撃の内容に、思わず口が開いてしまう。

 

「"機種転換開発"、現在装備している航空機を資材として新たな航空機の開発を行うことの出来る開発プランです」

 

「凄いな、それは……」

 

「ただし、艦戦なら艦戦。艦爆なら艦爆。と、資材となる機種以外の機種は開発されません。それに、必ず上位機種が開発されるとも限りませんし、成功するとも限りません。また、国籍も変更もされません。もととなった航空機の国籍と同じ国籍のみです」

 

「つまり、下手をすればいたずらに貴重な戦力を失う事になると」

 

「はい、その通りです」

 

 世の中、そんな都合よくうまい話がある訳じゃないか。

 一か八かにかけるか、それとも、手堅くいくか。

 

 やはりここは、実際に装備し運用する加賀さんと龍驤の意見を尊重しよう。

 

「加賀さん、龍驤。二人はどう思う?」

 

「私は、手堅く……」

 

「あ、やっぱりそう……」

 

「と答えるのが良いのでしょうが。今回は、あえて挑戦してみてもよろしいのではと、思います」

 

「え?」

 

「手堅く開発し、一から育てるのが良いのでしょうが。……その間も与えず、敵が攻め入ってくる可能性も考えられなくはありません。ならば、今回は可能性を信じて、挑戦してみるべきです」

 

「うちも加賀と同じ意見や。可能性があるんやったら、それにかけてみるんもええやろ。ま、もしアカンかったら、そん時はそん時や。うちらが選択した未来やし、後悔はない。今まで以上に一から鍛え直したったらええねん」

 

 加賀さんと龍驤の意見を聞き、開発の方法を内心決めると、後はそれを言葉に出して明石に伝える。

 

「明石、機種転換開発で頼む」

 

「本当によろしいんですね?」

 

「あぁ、頼む」

 

「分かりました。では、準備します」

 

 建造の際に使用するモニターとは異なる別のモニターを眺めながら、慣れた手つきでキーボードを打ち込んでいく明石。

 程なくして、明石から準備が整ったことを告げられると、自分は開発専用モニターの前に立つ。

 

「では後は、こちらから開発資材となる装備を選択し、開始ボタンを押すだけです。……あの、今ならまだ、開発を止めることも出来ますけど?」

 

 明石から最後の念押しが告げられ、ふと見守っている加賀さんと龍驤の方へと視線を移す。

 すると、二人は黙って頷いた。

 もう二人の覚悟は出来ている、ならば、後は自分が最後の一押しを行うだけだ。

 

「いや、大丈夫。……それじゃ、いくぞ」

 

 資材となる航空機、九九式艦上戦闘機二一型を選択し、運命の開始ボタンを押す。

 刹那、作業開始を告げるサイレンが響き渡ると共に、モニターの表示が切り替わり、開発成功を告げる開発時間が表示される。

 

 どうやら、第一関門である成否は無事に突破できたようだ。

 

 装備の開発は、建造と異なり高速建造材等がない為、一律十分となっている。

 その為、時間から大体の予想を立てることも難しく。特に、今回のような開発方法なら尚更だ。

 

「……さて、鬼が出るか蛇が出るか」

 

 開発の成功にとりあえず安堵しながらも、自分は十分後に訪れる未来に対して、そんな独り言を零すのであった。

 

 

 

 そして、十分後。

 作業終了を告げるサイレンと共に、モニターに表示されていたカウントがゼロとなる。

 

 刹那、建造と異なり、開発結果を告げる表示がモニターに映し出される。

 

「……ん?」

 

 モニターに映し出された開発結果は、見たことも聞いたことも。否、加賀さんが就役した頃に名前だけは聞いたことのあるものであった。

 三式艦上戦闘機『天風』。九九式艦上戦闘機の後継機である一式艦上戦闘機『紫電』の後継機だったか。

 

 と言っても、軽く聞き流していた程度であった為機体の詳細は分かっておらず、加賀さんに詳細な機体の説明を求める。

 

「私達の世界の大日本帝国海軍、が大戦の後期に主力として運用していた艦上戦闘機です。二三○○馬力を誇る『栄』エンジンより産み出される約七○○キロの速度に、二○ミリ機関砲を六挺搭載の超重武装。更にはそのペイロードを活かし、ロケット弾や爆弾等を用いて戦闘攻撃機としても活躍しました」

 

 モニターに映し出される全体像を見るに、疾風の愛称を持つ四式戦闘機に酷似しているものの。

 胴体の後部両絃にラジエーターを設け、更に主翼から六つの砲身が覗かせている等、細部を見ると別の戦闘機であることが分かる。

 

 全幅一一・二四メートル、全長一一・二○メートル。航続距離は約二一○○キロ。

 しかも搭載しているエンジンは、名前こそ前世でも知れた名であるが、中身はどうやら日本版ダブルワスプエンジンとでも言うべきもののようだ。

 

 加賀さんの説明を聞くに、まさに大日本帝国海軍版サンダーボルトと称するに相応しい艦上戦闘機であると実感する。

 ジェット機は次元が異なる為除外するが、レシプロ機の範囲に絞れば、間違いなく最高戦力の一角だろう。

 

「凄い機種が開発されたもんだ……」

 

 今回の開発結果についてしみじみ思いを馳せていると、ふと開発結果の端に、何やら人名らしきものが表示されている事に気がつく。

 よく見ると、そこには『(すが)隊長付き』とプラモデルのおまけのような文面が表示されている。

 

 固有名詞付きの航空機装備。それは、機体のみならず、モデルとなった航空機を代表的な乗機とする撃墜王。即ち、エース・パイロットの技術や経験、更には人格などをその身に宿した装備妖精を有する装備である。

 

 前世のゲームでも機種毎に実装されていたが、当然ながら天風と(すが)隊長のセットなど影も形もなかった。

 どんな人物がモデルとなっているのだろうと、知っていそうな加賀さんに尋ねようとしたまさにその時。

 

「出迎えの一人もいねぇってのはどういうことだバカヤロ、コノヤロッ!!」

 

 工廠内に響く、怒鳴り散らすような甲高い女性の声。

 そんな声に反応するようにプレハブ事務所を出てみると、開かれた開閉式扉の前に飛行服を身に包んだ一人の女性、もとい装備妖精の姿があった。

 黒髪ショートに精悍な顔立ち、女性としてはなかなかの高身長を誇っているものの、女性的な魅力の一つである胸元のふくらみは、残念ながらお察しである。

 

 因みに、何故か鼻に絆創膏を貼っている。

 

「アタシは日本海軍が誇る空戦の神様・仏様・菅様だぞバカヤロ! コノヤロ!! 出迎えよこすのが当然だろうがバカヤロ、コノヤロッ!!」

 

 そんな装備妖精。もとい菅隊長はご機嫌が急降下爆撃よろしく悪いのか、眉を逆八の字にして激怒している。

 

「な、なぁ司令官。あれなんなん?」

 

「さっきの開発で付属してきた固有名詞付きの装備妖精の筈だが……」

 

「いやあれ、ちょっと強烈過ぎんちゃうん、個性」

 

 確かに龍驤の言う通り、これまでの固有名詞なしの装備妖精と比べると、大分。

 というよりもその見た目とは裏腹な口の悪さから、個性の塊のような装備妖精だ。

 というよりも、並行世界の別人がモデルなのだろうが、何故か前世のそっくりさんよろしく問題児(ベテラン)として艦隊内でその名を轟かせる未来しか見えてこない。

 

 と、不安しかない未来を想像していると、菅隊長が自分達の存在に気がつき、その荒らげる声を飛ばしながらずかずかと歩み寄ってくる。

 

「アァッ!? 誰だコノヤロ!? 敵なら二○ミリ弾ぶち込むぞコノヤロウ!!」

 

「あ、あぁ……えっと、落ち着いて。自分は敵じゃない、今日から君の上官になる提督の飯塚だ」

 

「てめぇが提督か!? ……ふーん」

 

 自分の前まで歩み寄ってきた菅隊長は、突如口をつむぐと、自分の姿をまじまじと見つめ始める。

 やがて、一通り見つめ終えると、再び口を開いて。

 

「五十点だな、バカヤロウ!」

 

 おそらく提督と言うよりも、男としての自分の採点を言い放つのであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。