転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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第50話 新たな翼はバカヤロウ その4

「で、提督? 後ろの二人は誰なんだコノヤロウ!?」

 

「あ、あぁ、我が飯塚艦隊の誇る空母、加賀さんと龍驤だよ」

 

「ん? 加賀ぁ~!? おいおいおい、懐かしい名前じゃねぇかバカヤロウ!!」

 

「加賀さんの事知ってるのか?」

 

「知ってるも何も、アタシら38期生は訓練用空母加賀の栄えある卒業一期生だからな!」

 

 両者の間にそんな関係性があったとは思ってもいなかった。

 

「ま、正式に空母航空隊に配備される前に十二分に実物を使って訓練させてもらった事は感謝してるよバカヤロ!」

 

 なお、菅隊長は感謝の言葉をさらに述べていたが、口が悪いので本当に心の底から感謝しているのかどうかは今一伝わりづらい。

 

「加賀さんも、菅隊長についてはよくご存知で?」

 

「えぇ、そうですね。他の方もいらっしゃいましたけど、菅学生は特に覚えています。……彼は、よく無茶な操縦をしたり、胴体着陸した事もありました。更に、教官に怒られ不機嫌になると、通路の壁などを思い切り蹴っていましたので」

 

 一方加賀さんの方も、菅隊長についてはかなりの思い出をお持ちのようであった。

 ただしその殆どは、お世辞にも良いものとは言えないものばかりであったが。

 

「しかし、そんな彼もなんとか卒業し正式に航空隊に配備された後は、良きパイロットとして……」

 

「てか思い出話はそれ位でいいだろコノヤロ! おら提督! さっさと天風操縦させろよバカヤロコノヤロ!!」

 

 思い出話に花を咲かせる加賀さんではあったが、菅隊長の割り込みにより、結局思い出話はそこで終了を余儀なくされる。

 

「いや、そう言われても。もう夜だから……」

 

「あ? 夜……。そうか、夜か。なら仕方ねぇなコノヤロウ」

 

「なんや、案外聞き分けはええんやな」

 

「ん? そういやお前、龍驤とか言ったな!? アタシの世界にも同じ名前持ってた奴はいたけど、ほーん、成る程」

 

 そして、舌も乾かぬうちに、菅隊長は次なる口撃のターゲットを龍驤に絞るのであった。

 なお、彼女自身は装備妖精である為か、初めから認識の相違というものは解決済みらしい。

 

「そ、そうやけど。……な、なんやねん」

 

「ふーん、お前も加賀と同じ空母なんだよなコノヤロウ!?」

 

「そ、そや、れっきとした航空母艦や!」

 

 菅隊長は目を細め、龍驤の姿を上から下まで隅々に渡って確かめていき。

 時折加賀さんの方に視線を移しては、まるで何かを見比べるかのような動きをした後。

 

 やがて、何も言わず龍驤に対して手を差し出すと、再び言葉をつむぎ始めた。

 

「気が合いそうだな! よろしくなバカヤロウ!!」

 

 気が合うとは、もしかして希少価値的な事を言い表しているのだろうか。

 そんな事を内心思いながら、若干動揺しつつも菅隊長と握手を交す龍驤の姿を眺めているのであった。

 

「そうだ、菅隊長。龍驤と気が合うのなら、菅隊長を含めた天風航空隊は龍驤にとうさ……」

 

「ちょ、待ってや司令官!!」

 

 同属的な意味で気が合うのなら話は早いと、彼女達を龍驤に預けようと言い出した矢先。

 言い終わる前に龍驤に裾を引っ張られ、菅隊長に聞えぬように離れた場所へと移動させられる。

 

「何だ龍驤、別に搭載できる機種に制限はないんだから問題ないだろ? それに、"一番いいのを頼む"って言ってたじゃないか」

 

 オリジナルであれば、カタパルトを持たない上に飛行甲板の長さ等から、運用は極めて困難と判断されるだろう。

 だが、艦娘においては、搭載する機種も妖精さん(ご都合主義)の脅威の科学力によって生み出された物ゆえ。特に問題視される事なく。

 オリジナルでは運用が困難とされている組み合わせであっても、特に問題なく運用は出来るのだ。

 

 ただし、全くの制限がない訳でもなく。レシプロ機の運用を前提にしている空母では、ジェット機の運用は出来ない。

 だが、天風はレシプロ機である為、今回は問題はない。

 

「いやいや、確かに言うたけど。あんな悪い意味で一番いいのは、うちちょっと無理やわ」

 

 同属嫌悪か、と一瞬頭を過ぎったが、おそらくそれは関係ないだろう。

 

「……分かった。じゃ、天風航空隊は加賀さんに装備して運用してもらう。これでいいか?」

 

「あぁ、ええで」

 

「じゃ、戻るか」

 

 いつまでも二人でこそこそと話していると、いつまで内緒話をペッチャラクッチャラしてんだと菅隊長からの怒号が飛んできそうだ。

 なので、話を終えて菅隊長のもとへと戻ってみると、そこでは衝撃的な光景が繰り広げられていた。

 

「てか何だよこりゃ!? 初めて軍艦として見たときもでけぇとは思ってたけどよコノヤロウ!! 人間になってもでけぇなバカヤロ!!」

 

「や! んっ!」

 

「つかこんなでけぇの持ってて意味あんのかバカヤロコノヤロ!!? それともあれか!? このでけぇのであの提督のナニをナニして喜ばせてんのかバカヤロコノヤロ!! つかやわらけぇな! 羨ましいな! バカヤロウコノヤロ!!」

 

「わ、私と提督様、んっ、わ、その様な関係では、ん、ありません……」

 

「つかクソッ! 謝れバカヤロ! 全世界の同属に謝れバカヤロコノヤロウゥゥゥッ!!」

 

 そこで繰り広げられていたのは、加賀さんの豊満なメロンを鷲掴みにし揉みしだいている菅隊長の光景であった。

 一体何がどうなってこの様な光景が繰り広げられるに至ったかは分からないが。ただ一つ言えるのは、菅隊長の表情はまるで血涙を流しているかのごとく、嫉妬に満ちていたという事であった。

 

 因みに、ふと脇にいた龍驤の方を見て見ると、よく言ったと言いたげな表情をうかがわせていた。

 

 

 その後、自分が仲裁に入り何とか一件落着する。

 それを経て、菅隊長を含む天風航空隊を加賀さんにて運用していく事を伝える。

 

「また世話になるのか、よろしくな、コノヤロウ!」

 

「えぇ、よろしくお願いしますね」

 

 こうして、先ほどの件の仲直りの印を含めた握手を交した所で、菅隊長には明日の午前に訓練飛行を行うことを伝え。

 ゆっくりと休んでもらう為に、待機所と呼ばれる場所に戻ってもらう。

 因みに待機所というのは、航空機搭乗員である装備妖精達の官舎のようなものだ。

 

 装備妖精の中でも航空機の搭乗員である装備妖精は少々特殊で、彼女達は艤装から出入りする事が出来る。

 空母のみならず、陸上でも運用する事があるからだろう。

 なお、人間との区別の為か、彼女達は常時飛行服のままである。

 

 閑話休題。

 

 さて、菅隊長が去り、静寂とまでは言えないまでも格段に静かになった所で。

 再びプレハブ事務所に戻ると、龍驤の為の機種転換開発を行う。

 

「……、一番いいの過ぎるだろ」

 

 するとどうだろう。

 モニターに映し出された開発結果は、見たことのあるものではあった。が、前世のゲームにおいてはもはや滅多にお目にかかれぬもの。

 『震電改』。オリジナルにおいてもゲームにおいても、まさに幻の翼と呼ばれたそれであった。

 

 オリジナルは、日本海軍が七○○キロメートル毎時以上の高速を発揮できる局地戦闘機として試作したもので。

 それまでの既存の航空機とは異なる、エンテ式と呼ばれる先尾翼形式とプロペラを機体後部に設けた推進式を組み合わせた、日本唯一の機体である。

 試験飛行にて初飛行を成功させるも、結局その直後に終戦となり、それ以降大空に羽ばたく事はなかった。

 

 一方ゲームでは、オリジナルをもとに艦上戦闘機として登場している。改と付けられているのもその為だ。

 しかし、ゲームではイベントの報酬としてのみ入手可能であった筈なのだが。

 何故か、現世では開発で入手出来てしまった。

 

 ま、持っていても困るものではないし、ありがたく受け取っておこう。

 

「うわ、これどっちが前なん!?」

 

 そんな震電改を装備し運用することとなった龍驤は、モニターに表示された震電改の全体像を見て、そんな言葉を漏らすのであった。

 

 

 艦上戦闘機が終わると、次は艦上爆撃機と艦上攻撃機の機種転換開発を行う。

 こうして開発されたのは、九八式艦上爆撃機の後継機にして、河内の世界の彗星一二型こと『一式艦上爆撃機"彗星"一一型』に。

 九七式艦上攻撃機の後継機として登場した艦上攻撃機『天山』の二機種であった。

 

 菅隊長付きの三式艦戦天風に震電改等。

 まさに今回の新型航空機開発は大満足の結果に終り。工廠を後にするその表情は、加賀さん曰く大変満たされた表情をしていた。

 

 

 因みに、翌日は予定通り、新たに開発された航空機の訓練飛行が行われたのだが。

 菅隊長たってのご希望により、菅隊長率いる天風航空隊と震電改航空隊の模擬戦が行われる事となり。

 幾ら名のある撃墜王であっても、相手が震電改では分が悪いのでは、と内心心配している自分を他所に。

 

 何と緒戦は互角の戦いを見せ、その後無茶苦茶白星あげた。

 

 

 

 この結果を目にして、自分はさぞ菅隊長は名実共に日本海軍を代表する撃墜王なのだろうと思い、その辺りの事を知っていそうな河内に彼女の事を尋ねたのだが。

 返ってきたのは、予想に反した答えであった。

 

 確かに、菅隊長は素行は兎も角腕は一流の戦闘機パイロットらしいのだが。

 こと国内での知名度においては、大戦後期に活躍し始めた事もあり、開戦当初から活躍し名の知れた『ツクモ虎徹』や『海軍大魔王』の陰に隠れ。

 更に主な乗機が大戦後期に搭乗したレシプロの天風であった為、開戦当初の九九式の大活躍や大戦末期に搭乗したジェット機による戦闘機隊に比べ注目度も低く。

 結果、国内での知名度は一部のマニア以外にとっては、かなりマイナーな人物だったようだ。

 

 ただし、国外においては、戦後にとある国に教官として半ば厄介払いの如く派遣された際、かなり有名になったのだとか。

 トラブルメーカーという認識で。




いつもご愛読いただき、本当にありがとうございます。

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