転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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第5話 これより建造を始めます その2

 官舎を出て基地内を移動し工廠を目指す。

 マッケイ少佐に紹介してもらった工廠エリアへと足を運ぶと、鉄を叩く音に油や鉄の臭い、そして漂ってくる熱気。そこは工廠の名の如く、鉄と炎の世界であった。

 

「ここか……」

 

 そんな工廠エリア内を歩き、極東州に割り当てられた施設へと足を踏み入れると、油や金属粉で汚れた施設内で一生懸命に働いている『妖精』に声をかける。

 

「お、見慣れない顔だ」

 

「何だ? 誰だ?」

 

「今日からこのラバウル統合基地の提督として着任しました、飯塚 源です! 妖精の皆さん、よろしくお願いします」

 

「おー! 新人だ!」

 

「にゅーふぇいす!」

 

「顔はふつうだ、でも性格は良さそうだ」

 

「カーン、カーンするのか!?」

 

 青い作業着を着て黄色の安全ヘルメットを着用している妖精の皆さんを前に挨拶を行うと、各々の反応が零れてくる。

 因みに、妖精達は前世のゲームのような頭身ではなく。艦娘がメンタルモデルである為に、本体たる軍艦を建造するに相応しい頭身を有している。

 

 始めて見る者にとっては、まるで子供が軍艦を建造しているようにも見えるだろう。

 

「で、新人さんが今日は何の用で来たんだ?」

 

「今日は新しい艦娘を建造しに来ました」

 

「おぉ、カーン、カーンッするのだな!」

 

「じゃ、こっちに、こっちに」

 

 用件を伝え妖精達に連れられ案内されたのは、施設の一角にあるプレハブの事務所みたいな所であった。

 

「ここに座る、で、持ってるタブレットとこの線を繋げる」

 

「繋げたらモニターをタッチして地域と年代を選択、そして投入する資源の量を選択する!」

 

「全部決まったら建造開始ボタンをタッチ! そしたらカーン、カーンが始まる!」

 

 妖精達の言うとおりにモニターの置かれた机の前に腰を下ろし、モニターから伸びている有線を持ってきたタブレットに接続。

 すると、なにやら読み込みが開始され、ものの数秒で完了すると、最初に地域と年代の設定画面が表示される。

 前世のゲームと異なり、建造する地域、所謂国籍とモデルとなった軍艦の建造の年代を選べるようだ。

 

 これも、幻想とは言え一つの国家であり、過去も未来もない故か。

 

 とりあえず費用対効果の一番良いとされる第二次世界大戦時の年代を選択し、国籍は日本を選択する。

 地域と年代を設定し終えると、次いでモニターに各種資源の投入画面が表示される。

 脇には、自分が今蓄えている各種資源の値も表示されている。

 

「ん~、とりあえず最初だし、無難に駆逐艦の数値で……」

 

 おぼろげに記憶している前世での建造レシピの数値を入力しようとして、ふと手が止まる。

 

 確かに今自分が建造しようとしている数値は安パイだ。だがしかし、本当にそれでいいのか。

 前世のプレイ時とは違う、今は資材の蓄えにも余裕がある。なら、ちょっと位冒険したっていいのではないか。

 

 いやしかし、これはゲームじゃない、現実の出来事だ。冒険心で行った挙句取り返しの付かない事になったらどうする。

 

「く、んん~」

 

「悩んでるのか?」

 

「迷ってる、分かる。欲望と理性が葛藤してる」

 

 そんな悩む自分の姿を見て、妖精達が各々言葉を漏らす。

 

「……だよ」

 

「そう、いいんだよ~」

 

「オール999で建造したって、イインダヨ~」

 

「そう、小出しは駄目。やる時はキッチリ、全力。贅沢、好奇心、冒険心、全ては全力で出し切るからこそ面白い」

 

「さぁ、さぁ、倍倍プッシュだ」

 

 刹那、まるで悪魔の囁き。

 欲望の沼へと誘う甘い誘惑。

 

 妖精達が語りかける、圧倒的甘言。

 

 そんな甘言に乗せられ、気がつけば入力、オール999。

 

 そして、押す。建造開始のボタンを。

 

「……あ」

 

 言い現せぬ達成感、そして満足感。

 

 が、それも束の間。次に訪れたのは、満足した事により正常を取り戻した自身の思考であった。

 ふと冷静さを取り戻し考える。万が一失敗した場合はトータル四千近い資材の散財であると。

 

 確かに今の蓄えならそこまで痛手ではないだろうが、今後も同じ過ちを犯すとも限らない。

 そう考えると、やはり最初の歯止め、最初の一歩は肝心だったな。

 

 なんてちょっと後悔していると、ふと、ある疑問が思い浮かぶ。

 

 あれ、そう言えばゲームでは建造の際には艦娘を一人同行させていたが、今回の場合は同行させていなくてよかったのだろうか。

 ま、ゲームはゲーム、こちらはこちらだ。多分大丈夫だろう。

 

 なんて無理やり納得させると、不意に施設内に作業開始を告げるサイレンが鳴り響き始める。

 次いで、機械の稼動音が活発となり、事務所の窓からは妖精達が慌しく動き回っている様が見られる。

 

「建造開始! 建造開始!」

 

「所要時間はモニターに表示されます!」

 

「カーン、カーンするぞぉ! 頑張るぞぉ」

 

 作業が開始され妖精達も一段と張り切っている。

 一体何が建造されるのか。それは妖精達の気分次第。

 まったく、どうしてこんな建造システムを採用してしまったのだろうか。採用者の顔が見てみたい。

 

 と頭の中で嘆いても仕方がない。

 とりあえずモニターに表示された時間を確認して、大まかな予想を。

 

「なん……、だと……?」

 

 しようとモニターを見た刹那、思わず心の声が漏れてしまう。

 おぼろげに残っている前世での建造時間は、どうあれ十時間は越えない筈だった。

 

 所が、今目の前のモニターに表示されている建造時間は、何度見返しても十一時間。そう、十一時間。

 大事なことだから二度言ったが、十時間を越えているのだ。

 

 どうしよう、こんな建造時間なんて例がないので何が建造されるか全く予想が付かない。

 ただ幸いと言うべきか、とりあえず建造は成功したので無駄な資材の散財と言う最悪の状況は回避された。

 

「どうしますにゅーふぇいす、高速建造材、使う? 使う?」

 

「十一時間は長い、使ったほうが早い」

 

「使おう、使おう!」

 

「……そうだな、使うか」

 

 流石に今から十一時間も待つとなると、完了するのは明け方になる。

 ならば、ここは余りある高速建造材を使ってもいいだろう。

 

 モニターから高速建造材を選択し使用すると、刹那、施設内にアナウンスが流れる。

 

「高速建造チームの皆さん、出動お願いいたします! 繰り返します、高速建造チームの皆さん、出動お願いいたします」

 

 謎のアナウンスが流れ終えると、事務所の奥から何やら慌しい足音が聞え始める。

 

「ヒャッハーッ!! けんぞうだぁ~、高速建造だぁーっ!!」

 

「高速建造タイムだぁーっ!!」

 

 モヒカンなんて髪型でもなければ、装いは他の妖精達と同じ外観。しかし、強烈な個性を彼女達は内に有していた。

 その世紀末を思わせる台詞と共に、バーナーやカッター等の機材を手にした高速建造チームと呼ばれた面々は、作業が行われている分厚く巨大な開閉式扉の向こうへと消えていく。

 

「ヒャハハハッ! 見ろよ! このタイムラプスの如く建造されていく様をよ~!」

 

お前(建造艦)は新鮮な()の塊だーっ!」

 

「熱いぜ~っ! 熱くてすぐ出来るぜぇ~っ!!」

 

「高速建造される奴はフレッチャー級(日刊駆逐艦)だ! 高速建造されない奴はよく訓練(売却・供与・貸与)されたフレッチャー級だ! ホント、高速建造は地獄だぜ!」

 

 開閉式扉の向こうから作業音と共に漏れ聞えてくる高速建造チームの声。

 それに連動するように、モニターに表示された建造時間のカウントが見る見る内に減っていく。

 

 やがて、表示されていた建造時間のカウントがゼロになると、再び施設内にサイレンが鳴り響く。

 

「作業終了、お疲れ様でした。お疲れ様でした」

 

「あ~、終わった」

 

「おつかれ~」

 

「かれーっす」

 

「先輩、この後一杯、どっすか?」

 

「お、いいねー」

 

 開閉式扉が開くや否や、作業をしていた妖精達が出てきて口々に漏らしているが、完全に仕事終わりのおっさんだよ。

 と言うか高速建造チーム、始める前や作業中はあんなに威勢が良かったのに、終わったら無言で戻るのか。

 

「さぁ、完成した艦娘を見に行く!」

 

「ご対面!」

 

「初顔合わせ!」

 

 と、作業の終わった妖精達の観察もそこそこに、付き添っている妖精達と共に出来たばかりの艦娘との初対面に向かう。


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