転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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第53話 ミニ観艦式と女王との邂逅 その3

 谷川を引きつれ会議室を後に、司令部施設を後にすると自分達の官舎を目指し晴れた空の下を歩く。

 昨夜は一時激しい雨脚も見られたようだが、本日は昨晩の天気が嘘のような快晴だ。

 しかし、基地内の各所に出来た水溜りが、昨晩の雨模様の形跡として見られた。

 

「それじゃ、谷川は他の艦娘()達にミニ観艦式についての説明をよろしく頼む」

 

「分かりました。……でも、大丈夫なんですか先輩? 連れていくのが紀伊とリクトの二人だけで?」

 

「我が艦隊で腕っ節の強そうなのと言ったら、あの二人位だし。……幾らなんでも、共に肩を並べて戦う者同士、手荒すぎる歓迎はない、とは思うが。……って、谷川、さっきお前心配し過ぎって言ってただろ!?」

 

「そうですけど」

 

「ま、いざとなったら腰にぶら下げてるこいつで何とかするさ」

 

 腰の革製ホルスターに収まっているカスタムガバメントを使う状況には、出来ればなって欲しくないけどな。

 と心の中で付け足しつつ、目前に迫った官舎に足を踏み入れようとした時だった。

 

「司令官さーん! 大変!! 大変なのですっ!!」

 

 官舎の中から、慌てた様子の電が飛び出してきたのだ。手を繋いだ響を引き連れて。

 

「どうしたんだ、電? そんなに慌てて?」

 

「響ちゃんが大変なのです!! 変なのです!!」

 

「響が?」

 

 電の口から慌てている理由を聞き、ふと電の隣に佇む響に目を向ける。

 大変、と慌てる割には、特に普段と変わらないようにも、ん。

 

 そういえば、被っている帽子が黒から白いものに変わっている。それに身に付けている服も、何処か違うような……。

 

「えっと、響、だよな?」

 

「Я не резонирую."Верный"Я знаю.Внешний вид может быть схожим, но не ошибиться(私は響じゃないよ、"ヴェールヌイ"だよ。姿は似ているかもしれないけど、間違わないでね)」

 

 響、と思しき目の前の艦娘()は、何とも流暢なロシア語で質問に答える。

 

「は、ははは……。響、からかうのはよせ」

 

「Не для того, чтобы сделать удовольствие от меня.(からかう事なんてしていないよ)」

 

「響ちゃん、どうしちゃったのです!?」

 

Вот почему я не резонирую.(だから私は響じゃない)

 

 以前にも、響はからかってロシア語で話しかけてきた事があった。

 今回も、からかっているのかと思っていたのだが、どうやらそんな雰囲気でもなさそうだ。

 

「ん、待てよ。……響そっくりで流暢なロシア語。……まさか、君、ヴェールヌイか!?」

 

Я так давно сказал об этом(さっきからそう言ってるよ)

 

 ロシア語はさっぱりだが、頷いた仕草から、彼女が響ではなくヴェールヌイである事は間違いないようだ。

 

 しかし、おかしいな。

 前世のゲームではレベルを上げて改造を施せばヴェールヌイは入手出来る。

 現世でも、一部の艦娘においてその辺りは変わっていない筈だが。自分は、そんな改造を施す命令を出した覚えはない。

 

「電、響がおかしいと感じたのは何時からだ?」

 

「えっと。……今日はお休みだったし、雨も止んでいいお天気だったので、響ちゃんと基地内をお散歩していたのです」

 

「うん、それで?」

 

「あ、そうなのです! お散歩中に不注意で綺麗な大人の艦娘さんとぶつかったのです! それで、ちゃんと謝って、その後官舎に戻ってきたら、響ちゃんの様子がおかしな事に気がついたのです!!」

 

 電の説明を聞くに、どうやら散歩の途中でぶつかった際に響とヴェールヌイが入れ替わってしまったようだ。

 

「電、ぶつかった艦娘が何処の提督指揮下の艦娘()か分かるか?」

 

「そこまでは、分からないのです……。ごめんなさい」

 

「謝らなくても大丈夫だ。電は良く頑張った。それに、ちゃんと謝れたのもえらいぞ」

 

 肝心な所で役に立てない歯痒さから顔を伏せる電、そんな電の頭にやさしく手を置くと、やさしく撫でてあげる。

 すると、伏せていた電の顔がぱっと明るくなって戻ってきた。

 

「まぁ、一番いいのはヴェールヌイが自分で所属を言ってくれる事なんだが。……ヴェールヌイ、英語か日本語、どちらか喋れたりしないよな?」

 

「喋れるよ」

 

 刹那、流暢な日本語を話すヴェールヌイに対し。

 某新喜劇よろしく、自分や谷川、それに電がこけたのは言うまでもない。

 

「しゃ! 喋れるのか!?」

 

「うん。だって元は日本の軍艦(ふね)、だからね」

 

「それじゃ、ヴェールヌイ。君の所属は何処なんだ? 送っていってあげるよ」

 

「私はレギーナ・フロイトアドミラールの指揮する艦隊所属さ」

 

 乾いた笑いが零れる中。

 何はともあれ、これでヴェールヌイを元の所属先に返すことが出来るし、響も迎えにいける。序に自分の用事も済ませられるで一石二鳥だ。

 と、自分自身の心に言い聞かせるのであった。

 

 

 

「それじゃ、行くか」

 

「提督、体が硬いが、大丈夫か?」

 

「うむ、相当強張っているぞ」

 

「だ、大丈夫だ大丈夫。さぁ、いくぞ」

 

「はい、なのです」

 

Уразуметно(了解だよ)

 

 それから数分後。

 紀伊とリクト、それに別件の電とヴェールヌイを連れて、自分は一路、フロイト少佐の官舎(女王の居城)を目指し歩き始めた。

 

 

 それから更に数分後。

 サンクトペテルブルク歴史地区と関連建造物群、或いはノヴォデヴィチ修道院の建造物群。

 のようなロシアの文化遺産に酷似した個性的な官舎、ではなく。

 

 フロイト少佐の官舎(女王の居城)はいたって平凡な、無個性溢れる白いコンクリート造りの三階建ての建物であった。

 

 だが、そんなフロイト少佐の官舎(女王の居城)の正面出入り口を守っているのは、屈強な身体を有する警備員達であった。

 黒を基調としたセーラー服にブーツを履き、頭にはヘルメットではなくセーラー帽を被っている。

 また、上半身にはポーチ代わりか、弾帯を巻きつけている。

 

 襟元からは、白地に紺の伝統的なストライプシャツがその姿をちらついている。

 

 そして、その手には、バラライカの名で知られる短機関銃、PPSh-41の姿が黒く光っている。

 なお、弾倉はドラム型ではなく箱型だ。

 

 その姿は、間違いなく陸に上がり戦った海兵達。

 第二次世界大戦時にソ連海軍が各戦線に投入した海軍歩兵部隊に酷似していた。

 

Стоп!(止まれ!)

 

 突き刺すような視線と共に、鋭いロシア語が飛んでくる。

 意味は分からずとも、制止を促す手の動きや、その突き刺さる視線と雰囲気から、何をすべきかは理解できる。

 

「自分は、飯塚艦隊司令長官の飯塚中佐だ! 来週予定されているミニ観艦式の打ち合わせの件と、もう一つ別件も含め、フロイト少佐に面会を願いたい」

 

 立ち止まると、臆する事無く今回の訪問の理由を説明する。

 しかし、警備員達は互いにアイコンタクトを送るだけで、確認を取ってくれる気配がない。

 

 もしかして、ロシア語で説明しなければならないのだろうか。

 ならヴェールヌイに通訳を、と思った矢先。

 

「失礼ながら飯塚中佐。我等が女王様は只今大変忙しく、面会はまた後日、改めてお願いしたい」

 

 警備員の一人が、流暢な日本語を話してきた。

 

「な! それ程時間はとらせません!」

 

「どうか、お引き取りを」

 

「ミニ観艦式にはフロイト少佐の参加も決定しています。その打ち合わせ内容は大事な筈では!? それに、別件も、自分にとっては大事な事なんです! どうか面会を!」

 

 と、必死に面会を求める自分を他所に。

 日本語を話した警備員に対して、他の警備員達がロシア語でなにやら話を交し始める。

 

「『曹長、あんなマッチ棒みたいな男、女王様の御前に立たせるだけ時間の無駄だろ』『あぁそうだ、どうせ女王様の雷が落ちて追い返されるに決まってる』『ちげぇねぇ、ガハハハ』……と言っているよ」

 

 を前に紀伊の影に電同様隠れていたヴェールヌイが、不意に彼らの話を訳してその内容を教えてくれた。

 やがて、彼らの話も区切りがついたのか、再び曹長と呼ばれた警備員が、日本語で話しかけてくる。

 

「飯塚中佐。どうしてもお引き取りできませんか?」

 

「えぇ、勿論」

 

「そうですか。……、ではこうしましょう。我々と腕比べし、我々に勝てたら、我等が女王様のもとへお通しいたしましょう」

 

「腕比べ……、腕相撲、或いはアームレスリング?」

 

「いや、違います」

 

 腕比べと聞いて腕の格闘技で勝敗を決するのかと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。

 それまで事の成り行きを見守っていた他の警備員達が、体を解しながら、ぞろぞろと自分達の近くへと集まってくる。

 

「腕比べと言ったら、"殴り合い"でしょ」

 

 指の骨を鳴らしながら、まるで獲物を捕らえた狩人の如く視線が、自分たちに襲い掛かる。

 出来れば、痛いのは避けたかったんだがな。

 

「提督、どうやら向こうは本気の様だぞ」

 

「うむ。これはもはや、穏便に事を済ませられそうにはないな」

 

 そんな警備員達の臨戦態勢にあてられ、紀伊とリクトも、臨戦態勢へと移行する。

 そして、電とヴェールヌイの二人は、自分のもとへと駆け寄る。

 

「お、おい、二人とも!?」

 

「安心しろ。提督や電達の事は必ず守る」

 

(わらわ)も、提督達には指一本触れさせぬようお守りする」

 

 紀伊とリクトのファイティングポーズを目にした曹長は、これはいいとばかりに声をあげた。

 

「お互いに取り巻き同士の腕比べか、これはいい。それじゃ、お互い護衛対象の方の為、全力で腕比べといきますか!」

 

「かかってこい!」

 

「ふん、(うぬ)らなど全力を出すまでもなく打ちのめしてやろう!」

 

「かかれ!!」

 

「Ураааааааа!!」

 

 雄叫びと共に開始される紀伊・リクト対警備員達による殴り合い。

 

 軽い身のこなしで相手のパンチを避けつつ、相手にパンチを叩き込む紀伊。

 その巨体に似合わぬ身のこなしを見せ付けつつ、その重い拳を叩き込むリクト。

 

 紀伊のパンチは一撃必殺、とはいかない一方。

 リクトの叩き込むパンチは、その一発の威力が殴り合っている者の中では一番なのだろう。リクトのパンチを受けた警備員は、もはやノックアウト状態だ。

 

 個々の戦闘力では紀伊とリクトが優勢。

 だが、数の優勢は、圧倒的に警備員側にある。

 倒しても倒しても、まさに北の大地お得意の人海戦術よろしく現れる警備員達に、紀伊とリクトも流石に疲弊気味だ。

 

 そうなると、自分達の守りにも隙間が生まれてくる。

 

「のやろう!」

 

「わはは! 司令官さん!」

 

「ちっ! しまった!」

 

「ぬうっ!」

 

 その隙を突き、一人の警備員が自分目掛けてその拳を振りかざしてくる。

 電の悲鳴にも近い声や、紀伊にリクトの油断したとばかりの声が響く中、自分は降りかかる火の粉を払うべく行動を起こす。

 

「ったく、手荒なことはあまりしたくなんだけどな」

 

 本音を吐き捨てるや、自分目掛けて向かってきた拳を片手で受け流すと、拳を作ったもう一方の手を相手の懐に叩き込む。

 

「うっ!」

 

 低い唸り声をあげる警備員に構わず、受け流した警備員の腕を引き手に、素早く低重心の姿勢へと移行する。

 ここまでくれば、後は引き手を思い切り引き、相手の警備員を投げるだけだ。

 

「うぐっ!!」

 

 地面に叩きつけられ、再び唸り声をあげる警備員。

 まさか、自分よりも貧相で身体を動かすことがあまりないと思っていた提督に、屈強な自分が背負い投げを決められるだなんて思ってもいなかっただろう。

 

「はわわ! 司令官さん強いのです!」

 

「何だ、意外とやるな」

 

「これは少々以外であったな」

 

 それに、身内である電達も、思いもよらないとばかりに口々に感想を漏らしている。

 

「хорошо」

 

 そして、ヴェールヌイも同様であった。

 

「『ちっ! 何だ、あの中佐もそこそこ出来るのか!?』と言ってるよ」

 

 なお、わざわざご丁寧に曹長の感想までも翻訳してくれるのであった。


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