転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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第54話 ミニ観艦式と女王との邂逅 その4

 さて、自分の背負い投げを披露したお陰で一時的に休戦が訪れる。

 だが、紀伊もリクトも、そして警備員達も。互いに消耗した体力を回復させているだけに過ぎない。

 何れ、時が来れば再び激しい殴り合いがまた始まるだろう。

 

 何とか事を収めたいが、身を挺しても、紀伊とリクトが逆上してしまうだろうし。

 かと言って、もう今更話し合いで収まるような雰囲気でもない。

 

 本当にもう、どちらかが力尽きるまでこの殴り合いは終わらないのか。

 

 そんな諦めが脳裏を横切った時であった。

 

「『そこまで!!』と言ったんだよ」

 

 不意に、フロイト少佐の官舎(女王の居城)から凛とした女性の声が叫ばれる。

 刹那、その声に反応するように、警備員達の臨戦態勢が解除される。

 

 なお、ロシア語で叫ばれた為、ヴェールヌイの翻訳はあり難い。

 

「何だ?」

 

「女王様のお出ましさ」

 

 ヴェールヌイの説明に呼応するかのように、ヨーロッパ州海軍の軍服を身に纏った一人の女性が、正面出入り口から姿を現す。

 それは、写真で見るよりも見事なまでにたわわに……。

 じゃなかった、凛とした雰囲気を漂わせたフロイト少佐であった。

 

「曹長! これは一体何事か!?」

 

「は! 少佐との面会を申し出た者達を、面会させてもよいかのテストをしていた所であります!」

 

 直立不動で現状に至るまでの経緯を説明する曹長。

 そんな彼の説明を聞きながら、フロイト少佐は自分達の方へと歩み寄ってくる。

 

 因みに、フロイト少佐と曹長の会話の内容は、ヴェールヌイの翻訳によって理解できる。

 

「ふ、成る程。また曹長の悪い癖が出たと言うわけか……」

 

 薄汚れ、殴られた跡を曝け出している紀伊とリクト。

 そして、そんな二人によって地に伏せさせられた警備員達の姿を目にしながら、フロイト少佐は現状に至るまでの経緯を理解した模様だ。

 

「それで? 貴様が私に面会したいと言う提督か?」

 

「自分は、飯塚艦隊司令長官の飯塚中佐。フロイト少佐、貴女に来週予定されているミニ観艦式の打ち合わせの件を伝えにやって来た」

 

 やがて自分の方へと歩み寄ると、真っ直ぐ自分を見据え、先ほどまでのロシア語は何処へやら。流暢な日本語で自身を訪ねてきた用件を尋ねる。

 女性とはいえ、その身に纏った雰囲気は相手を簡単に飲み込もうとしてくる。

 

 自分も、一瞬彼女の雰囲気に飲まれそうになったが、何とか切り抜けると、用件を伝える。

 

「あぁ、あの行事の事か。安心しろ、ドタキャンなどせん。ちゃんと参加はする」

 

「で、では。フロイト少佐の官舎に上がらせていただいてよろしいか? 詳しい内容をお伝え……」

 

「だが! 少々、癪に障る事がある。……分かるか? 中佐?」

 

「え、いえ」

 

「今回のミニ観艦式に参加する提督は、中佐他、チェザリス中佐にマッケイ少佐、そして私だ」

 

「数が少ない事が問題だと?」

 

「人数構成は問題ではない、寧ろ、これ位が丁度いいだろう。……私が気に入らないのは、参加する提督の顔ぶれだ」

 

 厳しくなる視線が突き刺さる。

 問題とする顔ぶれの中に自分もいるのだから、当然だろう。

 

「あの、自分自身で言うことではないですが。今回参加する提督たちは、皆ずぶの素人ではなくある程度の実績を築きあ……」

 

「他人の下した評価など、私には何の意味も成さん! 私は、私が信用に足り、肩を並べ背を預けられると判断するのは、私自身の下した評価をおいて他ない!!」

 

 そこまで声を荒らげているわけではないのだが、その気迫に、圧倒されそうになる。

 成る程、これはチェザリス中佐やマッケイ少佐が苦手意識を持つ訳だ。

 

「しかし、ミニ観艦式はラバウルの地において代々続いてきた大事な行事だ。それに、命令とあればそれには従う。だが、覚えておけ! 私は中佐や他二名の提督を信用に足る者とは思っていないと!」

 

 きっぱりと言い捨てると、フロイト少佐は踵を返して官舎へと戻ろうとする。

 

「ま、待ってくれ!」

 

「……ん?」

 

「では、フロイト少佐が、貴女が自分達の事を信用に足る者とそう評価してくれれば、問題は解決し、円満にミニ観艦式当日を迎えられる。そう言う事ですね?」

 

「まぁ、そうだな」

 

「ではこの場で、自分の事を信用に足る者であると、テストしていただきたい!」

 

「……ほう」

 

 突然の申し入れに、フロイト少佐は足を止め再び自分の方へと振り返ると、不敵な笑みを浮かべる。

 

「その言葉に、二言はないな?」

 

「えぇ」

 

「……よろしい、曹長!!」

 

「は!!」

 

「"アレ"を持ってこい、大至急だ!」

 

「アイ・マムッ!!」

 

 フロイト少佐は曹長を呼び寄せると、何やら指示を出し準備を始める。

 次いで、事の成り行きを見守っていた他の警備員達にも指示を飛ばし、同じく準備を進める。

 

「な、何が始まるのです!?」

 

「多分、凄いことだよ」

 

「提督、あんな事を言っていたが、本当に大丈夫なのか?」

 

「うむ。(わらわ)も少々軽率ではないかと思うが」

 

「あはは、大丈夫だって……、多分」

 

 準備が進む傍ら、うやむやな決着を向かえた殴り合いと言う名の腕比べから解放された紀伊とリクトは、自分の今後を心配し。

 一方の自分も。二人の心配の眼差しや、着々と進んでいく準備状況を目にして、内心段々と先ほどの申し入れは軽装だったのではと、不安になっていくのであった。

 

 

 

「よし、準備できたぞ!」

 

 程なくして、フロイト少佐から準備が整ったとの旨が告げられる。

 準備と言っても、何やら地面を掃いて、応急処置の為の道具を用意し。そして、曹長の手からフロイト少佐へと渡された、二本の木刀。

 

 一体、これから何が始まると言うのだろうか。

 いや、何となくではあるが、当たってほしくない嫌な予感は浮かんでいる。

 

「中佐、さぁ、こちらへ」

 

「……紀伊、これ持っててくれ」

 

 フロイト少佐に呼ばれ、紀伊にタブレットを託すと、観覧と化した紀伊達や警備員達の視線を受けながら彼女のもとへと歩み寄る。

 

「受け取れ、中佐のだ」

 

 そして受け渡されたのは、二本の木刀の内の片割れであった。

 

「あ、あの……。フロイト少佐、これは?」

 

「中佐が言ったのだろう、テストして欲しいと? だから、これよりテストを行う!」

 

「……状況から推測して、平和的なテスト内容には思えないんだけど」

 

「そうだ。中佐、これより私と戦って一本を取れれば、その時は中佐を信用に足る人物であると認めよう」

 

「やっぱり……」

 

 そして、嫌な予感は見事に的中した。

 自分自身で見極めた評価が絶対なのだ、ならば、当人同士でテストを行うのが一番いいに決まってる。

 

 だが、仮にも相手は女性だ。ここは、手加減をすべきだろう。

 

「言っておくが、女だからと手加減すれば、一本を取ったとしても信用に足る人物との評価は下さん! そのつもりで」

 

 あぁ、どうやら女王様は全力がお望みの様だ。

 

「何、この身体、入隊した時から傷物になる覚悟は出来ている」

 

 しかも何て男らしいのだろう、これは曹長ら警備員達が慕うのも納得だな。

 

「では、ご希望通り、全力で一本を取らせていただきます」

 

「ふ、さぁこい!」

 

 互いに距離を取り木刀を構えると、開始を告げる合図を待つ。

 

「では、……始め!」

 

 やがて、曹長の合図と共に、戦いの幕が開かれる。

 

「はぁぁっ!!」

 

「っ!!」

 

 開始早々、フロイト少佐は一気に間合いを詰めると、迷う事無く自分目掛けて構えた木刀を振り下ろす。

 何とか一本取られないように太刀筋を見切って攻撃を受け流してはいるものの、開始早々、防戦一方の展開だ。

 

「頑張るのです! 司令官さーん!」

 

「提督! 頑張れ!」

 

(わらわ)らが応援しておる! 頑張るのだ、提督!」

 

 テストを観覧している紀伊達の声援が聞えてはいるものの、フロイト少佐の攻撃を受け流すので精一杯なのだ。

 

「っ! のぉ!」

 

 が、このまま防戦一方では何れ一本取られるのは明白。

 何とか一瞬の隙を突いて横切りを仕掛けてはみたものの、華麗なバックステップであっさりと回避される。

 

 あわよくばとは思っていたが、やはり一筋縄ではいかないか。

 仕切り直す事が出来ただけでもよしとしよう。

 

「……ふむ。受ける方はまぁまぁだな、だが、防戦一方では私からは一本も取れんぞ、中佐」

 

「く」

 

 フロイト少佐の言葉に乗せられそうになるが、気持ちを落ち着かせ自らのペースを保つ。

 

「ふ、そう簡単には乗らんか、成る程。……だが、中佐と私とでは日頃からの鍛え方が異なっているようなので、例え攻めてきたとしても、返り討ちにあうのが関の山だろう」

 

 挑発に乗せられ自分自身のペースを崩されれば一巻の終りだ。己を見失い感情に身を任せれば、その先に待つのは多くが破滅だ。

 勿論、勝利を手に入れられる可能性もゼロではないが。何しろ相手はフロイト少佐だ。

 

 先ほどの短い手合わせの間に、彼女が相当の手練れである事はよく解った。

 自ら他人を見極める為に腕を磨いてきたのか、何れにせよ、我武者羅に感情に任せて立ち向かえば無様な姿でテストを終える未来が容易に想像できる。

 

「攻めてこない、か。……ならば、再び攻めさせてもらうぞ!」

 

 かと言って冷静に攻めたとしても、実力の差から言って彼女の言った通り返り討ちにあう可能性は高い。

 ならば、自分が彼女から一本を取る為には、奇策を講じるしかない。

 

 再び構え直し間合いを詰めてくるフロイト少佐の姿がスローモーションに感じられるほど思考と意識を集中すると、考え出された一度限りの奇策を講じるべく、行動に移す。

 

「ん? 何だ?」

 

 木刀の構えを解き、片手でただ持つだけとする。

 フロイト少佐は自分が一体何を始めるのか、怪しんではいるものの、間合いを詰めることを止めはしない。

 

 不意に小さくほくそ笑むと、次の瞬間、自分は手にした木刀をフロイト少佐目掛けて思い切り投げつけた。

 

「なに!!」

 

 木刀を投げるなどと言う予想もしていない行動に、声をあげるフロイト少佐。

 だが、流石は実力者、驚きはしたものの冷静に飛来する木刀を自身の木刀で払い除ける。

 

 しかし、自分の考え出した奇策は、木刀を投げつけ当てる事ではない。

 投げつけられた木刀を払い除ける事により生まれる一瞬の隙、それを生み出す事こそ、木刀を投げつけた真の目的だ。

 

 そして、生まれたその一瞬の隙を、自分は見逃す事無く、一気にフロイト少佐との間合いを詰める。

 

「しまっ……!」

 

 視界の端に一気に間合いを詰める自分を捉えたのだろうが、既に遅い。

 投げつけられた木刀の対処に意識を集中した為、自分への対処動作には数秒の遅れが生じる。

 

 その数秒の遅れこそ、自分が彼女から一本を取れるか取れないかの分かれ目だ。

 

「っ!!」

 

 持てる力を振り絞り、彼女の木刀が振り上げられる寸前。自分は彼女の懐に飛び込むと、一気に飛び掛り彼女を押し倒す。

 

「ぐっ!」

 

 幾ら男勝りと言えど女性。男の力の前には堪えきれず、彼女の身体は硬い地面に背中から叩きつけられる。

 だが、それで終りではない。

 

 倒れた彼女の身体の上に馬乗りになり上半身の自由を奪うと、最後の仕上げに、腰の革製ホルスターからカスタムガバメントを抜くと。

 その銃口を、彼女の額に突きつける。

 

「はぁ、はぁ……。フロイト少佐、貴女は仰った、"戦って一本を取れれば"自分を認めると。試合をしてとも、木刀を使ってとも言っていない。そう、ただ戦って一本を取ればそれでいい。……なら、試合ではない以上、どんな方法であろうと、銃口を貴女の額に突きつけたこれは、一本取った事になりませんか? フロイト少佐」

 

 屁理屈かもしれない、だが、これこそ自分が考え出した奇策で、唯一見出した勝機だ。

 

「……ふ、フハハハハッ!! 成る程! 確かにそうだ。ハハハッ!!」

 

 額に銃口を突きつけられても顔色を変えなかったフロイト少佐だったが。

 自分の屁理屈を聞き暫くすると、不意にその顔色を変え大声で笑い始めるのであった。

 

「やられたよ、中佐、貴様の勝ちだ」

 

「それは、つまり……」

 

「あぁ、中佐を信用に足る人物であると認めよう」

 

 勝利を勝ち取った、そう理解した瞬間、一気に肩の力が抜けていく。

 

「曹長! これはテストだ!! 銃を下ろせ!!」

 

 刹那。フロイト少佐の怒鳴り声にふと視線を動かすと、観覧していた筈の曹長ら警備員達が手にしたPPSh-41の銃口を自分へと向けていた事に気がつく。

 フロイト少佐の命令で銃は下ろされたものの、彼らは、職務を全うしたに過ぎない。

 自分達が守るべきフロイト少佐に、セーフティ(安全装置)をかけていたとは言え額に銃口を突きつけたのだ。そんな事をした相手に銃口を向けるのは、当然の事だろう。

 

 と、自分もフロイト少佐に銃口を向けっぱなしであった事に気がつき、慌てて彼女の額から銃口を外すのであった。

 

「ん! ……所で中佐、その、"手"を退けてくれないか?」

 

 刹那、フロイト少佐の妙に色っぽい声が零れたかと思うと、彼女は何故か手と言う部位を指定して退いてほしいと言ってきた。

 何故手なのか、疑問に思い、自分はカスタムガバメントを持つ右手とは反対側の、左手の行方を確かめ始める。

 

 因みに、その目で確かめる以前には、彼女の肩の辺りを掴んでいた気でいたのだが。

 実際に視線を動かし確かめてみると、そこには、彼女の豊満な右のメロンを鷲掴みにしている自分の左手の姿が、紛れもなく確認できた。

 あぁ、テストの最中は夢中になって気づかなかったが。

 意識すると、左手から伝わる何とも言えぬ柔らかで包み込まれたくなるような感触が……。

 

「……っ!! わははははっ!! こここ、これはこれで、これなので!! ごごご、誤解です!!!」

 

 なんて何時までも左手の感触に胸をときめかせている場合ではない。

 慌てて左手を離し、更にはフロイト少佐の上半身からも退くと、先ほどの事は誤解であると、事故であると説明を始める。

 

「解っている」

 

 すると、フロイト少佐は他意はないと理解を示してくれた。

 が、一部始終を観覧していた者達は、そう簡単にはいかず。

 

「提督、がっかりしたよ」

 

「うむ、幾ら全力での事とは言え、あのような行動は如何なものか」

 

「し、司令官さん! こんな真昼間、しかも屋外であんな事をするなんて、破廉恥なのです!!」

 

「だ、だから! これは誤解だぁぁっ!!」

 

 思い返せば、客観的に見てフロイト少佐の豊満なメロンを鷲掴みにしたのみならず、上半身に馬乗りになった際には自分のアレがアレでアレになっているように見えなくもない。

 誤解を解くのは、難しいだろう。

 だが、断じて宣言する、やましい気持ちなど一切ない。

 

「『羨ましいぞこのやろう!』『おら! てめぇ替われこら!!』『てめぇラドガ湖に沈めるぞ!!』……と、羨望と嫉妬の感情が入り混じった怒号だよ」

 

 身内である紀伊達よりも、更に激しい怒号のようなロシア語の嵐が吹き荒れているのが、誰であろう曹長ら警備員達だ。

 意味が解らなければ、少しは楽だったのだが。ご丁寧に、ヴェールヌイの翻訳により聞きたくもない内容を知るのであった。

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