転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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第56話 ミニ観艦式と女王との邂逅 その6

 こうして、お願いの皮を被った赤い洗礼を受けた自分は、再びフロイト少佐達のもとへと戻ると。

 今だ顔を赤らめ乙女の様相を呈しているフロイト少佐に、自身の答えを伝えるのであった。

 

 ガングート達の厳しい視線を受けながら。

 

「フロイト少佐、その、こんな自分でよければ、どうかよろしくお願いします」

 

「それは、その、付き合ってくれる。と言うことでいいのか?」

 

「はい」

 

 刹那、フロイト少佐の顔が一気に嬉しさで満たされると、自分の手を取り喜びを隠しきれない様子で言葉をつむいでいく。

 

「で、では、中佐。私の事は堅苦しく階級など交えず、気軽に"レーニャ"と呼んでほしい。その代わり、私も中佐の事を、ハジメと呼んでいいか!?」

 

「ご、ご随意に……。あ、でも時と場所によっては」

 

「分かっている。ちゃんと公私は分けて接する」

 

 こうして恋人同士らしく互いの名前の呼び方も決まった所で、それまで黙っていた紀伊達から祝福の言葉が送られてくる。

 

「何だか不思議な感じだが、兎に角提督、おめでとう」

 

「提督、幸せになるのだぞ」

 

「お付き合いだよ、甘くなるか酸っぱくなるかは本人次第だよ」

 

「破廉恥から始まる恋物語なのです!」

 

 祝福は嬉しい、それに、現世では初めて出来た彼女だし、これで晴れて自分も紀伊側の仲間入り、嬉しくない訳がない。

 ただ、ただ一言言わせて貰うと。

 

「ふふ、中佐、我々も末永く二人の幸せを祝福しよう」

 

「えぇ、そうね」

 

「ハラショー」

 

 不敵な笑みを浮かべている彼女の保護者様方が過保護でなければもっと嬉しかったのだが。

 

 

 こうして、紀伊達立会いのもと正式にお付き合いをする事になった自分とフロイト少佐、もといレーニャ。

 レーニャは承諾前とは打って変わって、今にもスキップしそうな程上機嫌に案内を再会している。

 

 一方の自分はといえば、歩きながら今後のレーニャとのお付き合いの仕方を熟考していた。

 

 厳しい保護者様方の目がある手前、いきなり初デートでキスなんてしたら順序を飛ばしすぎと言われるだろうか。

 やはり、最初は手を握る所から順序だてて、キスは三回目のデート位でしたほうがよいのか。

 と言うか、そもそもあんな魅力的な御身体を持っているにも拘らず順序を守らぬ穢れたお付き合いは厳禁とか、もう生殺しじゃないですかやだー。

 

「わはは、何だか司令官さんが頭を抱えて悶えているのです!?」

 

「あれはね、葛藤、だよ」

 

「本能と理性の狭間で揺れ動いているんだよ」

 

「って、こら! 勝手に人の心を分析するんじゃない! ダブル響!」

 

「「はっラショー!!」」

 

 なんて熟考していたら、響とヴェールヌイが勝手に自分を分析して楽しんでいた。

 まったく、人事だと思って楽しむんじゃない。

 

「ハジメ、さぁ、着いたぞ」

 

 なんて内心怒っていると、何時の間にやらレーニャの執務室の前に到着していた。

 

「失礼します」

 

 執務室に足を踏み入れると、事前に想像した通り、室内はロシアを含めたヨーロッパ家具で飾られていた。

 なお、執務机の上にはマトリョーシカ人形が置かれている。

 

「こちらにかけて待っていてくれ、今お茶を用意する」

 

 そんな執務室内の一角に設けられた応接用のソファーに腰を下ろすと、手際よく準備を進めるレーニャの姿を眺める。

 勝手なイメージが先行していたが、こうして見ると、北海の女王と呼ばれた彼女も、実は可愛らしい女性なんだな。

 そんな彼女と付き合う事になった、そう思うと、不意に言い表せぬ優越感が湧いてくる。

 

 は、いかん。ニヤニヤしてしまっていた。

 別室で待つ事になった紀伊達が同席していたら、間違いなくからかわれていた所だ。

 

「紅茶は取り寄せたものだが、ジャムの方は自家製だ。口に合えば……嬉しいんだが」

 

 テーブルに置かれたガラス製容器には、黄金色に輝く紅茶が美味しそうな香りを立たせている。

 そしてその隣には、鮮やかなイチゴジャムが入った容器が置かれている。

 

「スプーンでジャムをすくい、直接舐めながら紅茶を飲むんだ」

 

「成る程。……では、いただきます」

 

 レーニャの言う通り、ジャムをスプーンで適量すくいそれを舐めると。次いで容器を手に取り、一口、紅茶を口へと含ませる。

 すると、芳醇な甘みと紅茶の香りが口一杯に広がり、心も身体も温かさで包まれる。

 

「ど、どうだ?」

 

「うん、とても美味しいよ、レーニャ」

 

「本当か!! ……よかった」

 

「このジャムも美味しいし、レーニャは良いお嫁さんになりそうだね」

 

「!! そそ、そそそ……あぅ」

 

 褒められ慣れていない訳ではないのだろうが、この手の褒められ方はあまりされてこなかったのか。

 一瞬で湯気が出そうなほど顔を真っ赤にしたレーニャは、程なくして顔を伏せてしまう。

 

 会って間もないとは言え、見た事もない彼女の一面に、自然と笑みが零れる。

 

「は! も、もう。からかうのはよせハジメ」

 

「本気で思ったことなんだけどな」

 

「あぅ……」

 

「はは」

 

「も、もう。……でも、ありがとう」

 

 こうしてレーニャの新たな一面を楽しんだ所で、いよいよ本題であるミニ観艦式の打ち合わせの内容や本番での役割分担について、伝えていく。

 その際は、やはり公私を確りと使い分け、レーニャも再び北海の女王の顔に戻るのであった。

 

「それでは、本番までの予行練習等については、また調整がつき次第連絡するという事で」

 

「うむ、了解した」

 

「では、そろそろ御暇させてもらいます」

 

「え、もう、帰るのか……」

 

 今回足を運ぶ事になった用件も全て終えたので、退室しようとソファーを立ち上がると、再び北海の女王からレーニャへと切り替わる。

 

「しょ、レーニャも解ってると思うけど、他にも色々と今日中に処理しなきゃならない書類とかがあるから、あまり長居してると、ね?」

 

「あ、あぁ、そうだな。ハジメにもハジメの仕事があるものな。すまない、引き止める様な真似を……」

 

「いや、そんな……っ!!!」

 

 少し俯き加減で別れを惜しむレーニャであったが、そんな彼女とは別の方角から、具体的には執務室の扉の方から凄まじいばかりの殺気が飛来し突き刺さる。

 これはあれか、保護者方の何してんだといわんばかりの無言の圧なのか。

 

「あ、あぁ……その。もう少しだけ、いようかな」

 

「え!? 本当か!?」

 

「その、もう少しだけレーニャと話をしたいし。勿論、プライベートな」

 

「嬉しい! では、おかわりの紅茶を用意しよう!」

 

 悲しそうな表情が一変、再び明るい表情に戻ると、レーニャは空になったガラス製容器を持って紅茶のおかわりを淹れ始める。

 刹那、それまで突き刺さっていた殺気がふと消えると、無言の圧から解放された嬉しさから自然とため息が漏れた。

 

 その後、レーニャのプライベートな、得意料理であるビーフストロガノフやピロシキ等の話で一通り盛り上がると。

 少しばかり名残惜しそうなレーニャを残し、彼女の執務室を退室すると、別室で待っていた紀伊達を迎えにいく。

 

「やぁ中佐、お帰りで?」

 

「あぁ」

 

「では、出入り口までお送りしよう」

 

「感謝しなさい!!」

 

 出迎えたガングートとマラートのご好意を受け、自分達はレーニャの官舎の正面出入り口を潜り、お天道様の下に姿を晒す。

 と言っても、既にお天道様は夕焼けと言うお姿になられていた。

 

「では中佐、また会おう」

 

「楽しみにしてるわ!!」

 

「飯塚中佐、お気をつけて!!」

 

 ガングートとマラート、それに曹長ら警備員達に見送られて、自分達は我が家である官舎を目指し歩き始める。

 

「所で提督、フロイト少佐と付き合う事になったとの報告は、河内達にするのか?」

 

「……隠しきれるものじゃないし、するしかないだろ」

 

「河内辺りは、いじってくるだろうな」

 

「うむ、(わらわ)もそう思う」

 

「ははは……」

 

「でも、司令官さんの幸せなら皆さん祝福してくれるのです!」

 

「お祝いだよ、赤阪炊くよ」

 

 こうして自分達の官舎へと戻った後、任務や訓練に出ている者を除く全員を第二会議室へと集めると、自分の口から先ほど決定した重大発表を行う。

 その内容とは、無論、レーニャと"健全"なお付き合いをさせていただく事になったとの内容だ。

 

 自分からの発表を聞いた面々の反応は、紀伊達の言っていた通り、祝福に溢れていた。

 

 ただし、やはりというべき、河内だけは、やはりいじってきた。

 

「嘘やろ提督はん! フツメンで、なんか地味で、彼女いない歴イコール年齢なんちゃうかと思ってた提督はんに、ホンマにホンマに、彼女出来たん!?」

 

「よし河内、後で官舎の屋上に行こうか」

 

 フツメンや地味だけならばまだ許してやろうかと思っていたが、年齢と彼女いない歴が同一というのは感心しないな。

 そもそも、自慢じゃないが、前世では学生時代にはちゃんと彼女がいたんだぞ。ま、一年で別れたけど。

 

 等と、前世の甘酸っぱい記憶を思い出しながら、河内とのお約束のようなやり取りを経て、無事に、レーニャとの関係に関する発表は終わりを告げた。

 

 

 

 

 翌日からは、それはもう今まで以上に忙しい日々が待っていた。

 通常の業務に加え、ミニ観艦式本番を滞りなく成功させるために、参加する提督や艦娘、そしてスタッフの面々を交えての会議や予行練習等々。

 通常の業務の合間の時間を見つけては行われる為、それはもう日本の首都圏鉄道ダイヤに匹敵するような超過密スケジュールの連続であった。

 

 だが、そんな過密スケジュールとも、今日でお別れだ。

 

 そう、本日は、ミニ観艦式本番当日だからだ。

 

「ご覧いただいております、受閲艦艇部隊の旗艦を務めますは、極東州海軍、飯塚艦隊所属、戦艦紀伊でございます」

 

 アナウンス担当スタッフによる案内と共に、紀伊に先導受閲艦艇部隊が、指定海域の大海原を悠然と航行していく。

 紀伊を先頭に、ガングートやマラート等の戦艦が続き、中間には加賀、そして後方には電やヴェールヌイ等の駆逐艦や潜水艦が続く。

 総勢三十隻もの軍艦が等間隔で航行しているその様は、まさに圧巻の一言に尽きるだろう。

 

 因みに、今回受閲艦艇部隊として参加できなかった河内達は、ミニ観艦式開催海域の警備として指定海域外苑で警備の任についている。

 多分今頃、なんであたしが警備やねん! とか文句を垂れているんだろうな。

 

「上空をご覧ください、受閲航空部隊によります祝賀飛行でございます」

 

 等と考えている内に、観閲が終了し、受閲艦艇部隊は展示訓練実施の為に観閲付属部隊の後方から一八十度回頭を開始していく。

 またその間、来観者を飽きさせない為にも、航空部隊による催しが行われる。

 

 鮮やかな編隊を組みながら先頭を飛行するのは、震電改航空隊の選抜隊、その後に続くはRe.2001 OR改やカーチス P-40、更にはLaGG-3等の各参加提督が有する航空隊の機体が大空を飛んでいく。

 

 因みに、当初受閲航空部隊には菅隊長率いる天風航空隊を充てるつもりだった。

 所が、予行演習の際、菅隊長がお行儀よく飛んでちゃ客が面白くねぇだろバカヤロコノヤロ、と、観閲部隊すれすれを飛行する事件を起こし。

 万が一本番で事が起こっては俺の首が飛ぶだけでは済まないと、急遽震電改航空隊に変更された経緯がある。

 

 なお、今頃待機所で柱に縄で縛りつけられているであろう菅隊長は、不満爆発で罵詈雑言の雨あられを言い放っているんだろうな。

 

「皆さま、お待たせいたしました。只今より、訓練展示を開始いたしたいと思います」

 

 等と考えている内に、観閲部隊や観閲付属部隊の一八十度回頭も終わり、訓練展示用の隊列が形成し終えた所で、受閲艦艇部隊による訓練展示が始まる。

 流石に、戦艦の主砲による祝砲発射は祝砲用の砲弾の問題や発射時の衝撃等々の問題から採用されておらず、代わりに、熊野や加古等の重巡洋艦の主砲を用いて行われる。

 

 戦艦の主砲に比べれば確かに迫力等は劣るものの、それでも、日ごろから軍艦などに接し慣れていない観覧者の方々にすれば、重巡の主砲でも迫力満点だ。

 

 その後、駆逐艦達による戦術運動や、チェザリス中佐たっての希望で行われたアミラリオ・カーニ級の二人による潜水艦の潜航・浮上運動。

 更に加賀さんによる一式艦上爆撃機"彗星"一一型の発艦等々。

 

 ミニ観艦式本番は特にトラブルなども起こる事なく、滞りなく進み。

 夕焼けに染まったラバウル統合基地のバースに、参加した面々の艤装が接舷され、準備が整った順にタラップから観覧者の方々が下艦していく。

 

 

 目下の一大イベントが無事に終わりを告げ、安どする俺ではあったが、それも明日までだろう。

 明日からはまた、いつものように深海棲艦から海の平和と安全を守る為の日々が再開するのだ。

 

 でもまぁ、今日の所は、ミニ観艦式を無事に成功させた祝いの気分を存分に堪能するとしよう。




いつもご愛読いただき、本当にありがとうございます。
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