河内の紹介と説明に関しては、やはり山城は爆発事故の際、戦艦河内の当時の艦長を救助した経緯から複雑な表情を浮かべていたが。
それでも、最後は河内の気さくな性格もあって、河内の事を受け入れてくれたようだ。
こうして自己紹介も終わった所で、早速ラロトンガ警備府の視察を開始しようと思ったのだが。
「まぁ、待てよ。折角会えたんだ。少しくらい話していってもいいだろ?」
との西邑大佐からの提案で、自分は西邑大佐とこの離れの縁側で暫し話をして旧交を温める事となった。
因みに、河内は扶桑と山城の二人と共に、警備府内を案内がてら西邑大佐の部下の
「しっかし、まさか飯津が俺と同じ提督になるとはな」
「辞令を受けた時は、半ば呆然としてました」
「だろうな。参謀から提督に華麗にジョブチェンジだ、すんなり受け入れられる方が稀だよな。……でもま、そんだけ上から期待されてるって裏返しだから、良かったな!」
「はは、色々と苦労してますけど」
「若い時の苦労は買ってでもしろってこった。まだまだ苦労して頑張れよ、青少年!」
「あはは……」
「にしても、あの河内、とか言ったか。不思議な艦娘だな」
「実は、他にもいるんですよ」
紀伊や加賀さん、それにユキ達に菅隊長の事など。
摩訶不思議な艦娘や妖精たちの話を、西邑大佐に話していく。
「力があるから引き寄せられる、か。……お前はもしかしたら、俺が期待していた以上の大物になるかもしれんな!」
「そんな、大げさですよ」
「いや、断言する! お前は絶対、近い将来俺なんかを追い越すだろう。……あ、もしそうなったら、その時は是非とも、ラロトンガ警備府の戦力増強に尽力してくれると助かるんだがな」
「それって、何人か提督なり艦娘なりを送れって事ですか?」
「お、察しがいいな! そうすりゃ、俺も楽できるし。何より、山城が戦わなくて済む」
「結局は山城さんの為、ですか」
「あったりまえだろ! 俺は愛する山城の為なら戦闘機に乗り込んで深海棲艦とも戦えるぜ」
「本当にそんな事をしようものなら、山城さんが凄い顔して止めそうですけどね」
「ふ、そうだな。愛する
凄いしたり顔で決まったと言わんばかりに自分の事を見ているが、これは呉鎮時代から変わる事のない西邑大佐の決めセリフの一つのようなものなので、懐かしさから反応してしまいそうになるも、結局軽く聞き流す。
「ふ……、相変わらずつれないな」
すると、西邑大佐も呉鎮時代を思い出したのか、結局それ以上深く突っ込むことはなかった。
「だが、何時かお前も分かる時がくるさ。愛する女性が出来ればな」
「なら、そう遠い話じゃないかもしれませんね」
「! おい、飯塚!? お前、その口ぶり……。まさか、まさか。……やりやがった、のか?」
西邑大佐は自分の発言から勘付いたのか、物凄い勢いで顔を近づけてくると、真相を問いただしてくる。
「え、えぇ。おかげさまで、何とか」
「……相手は? まさかさっきの秘書艦か? いや、ありゃ違うな、あれはどちらかといえば漫才コンビの相方みたいな感じだ。……一体どこの誰だ? 人間か、それとも艦娘か?」
「人間、ですよ。ラバウルで自分と同じく提督を務めているヨーロッパ州海軍の少佐です」
西邑大佐の圧に押されつつ、自分はレーニャの事を語り始める。
一通りレーニャの事を聞いた西邑大佐は、最後に、それまでにない真剣な眼差しと雰囲気で自分に重要な質問をする。
「それで、そのフロイト少佐とやらは。……一体どれ程素晴らしい"もの"をお持ちなんだ?」
「それはもう……、自家用ジェットなんて自家用車感覚で乗り回す程の資産と同じくらいです」
ちょっと自分で言っておいて分かりにくいんじゃないかと思っていたが。
西邑大佐は暫し無言を貫くと、不意に、声を挙げて笑い始め。
「っはははは!! そうか、そうか!! いや~、うらやま……、いやけしからん!! 色白パツキンたゆんたゆんだと!! 実にけしからしいぞ!!! チクショー!」
そして、本音を垂れ流すのであった。
因みに、西邑大佐も自分と同じく、無類の
だからだろうか、西邑大佐と馬が合うのは。
「いやすまん。俺とした事が、つい夢の詰まった資産を手に入れた羨ましさから取り乱してしまった」
「いえ」
ま、その資産を限度なく自由に取り出し可能なら最高なのだが。
実は今はまだ厳しい
「にしても、飯塚に彼女か……。俺、後五年ぐらいは彼女出来ないんじゃないかと思ってたんだがな」
「ちょ! 西邑大佐!?」
「いや~、でもこの見解、山城も同調してくれたんだけどな」
あぁ、どうしてそんな見解になるんですか。
「ははは、冗談だよ、冗談。……ま、でも、おめでとさん」
「ありがとうございます」
ま、西邑大佐らしいと言えばらしいのだが。
さて、その後幾つか雑談を交え、そろそろ最後の話題で話を締めようとの流れになり。
そこで、自分は西邑大佐に直接聞きたかったあの話題を切り出す。
「西邑大佐、最後に聞きたいことが……」
「言うな、分かってる。どうせ佐世保に異動した後に、俺に何があったのかを聞きたいんだろ」
すると、西邑大佐自身も話題を切り出す前に何かを感じ取ったのか、自ら、ラロトンガ警備府の最高責任者となった経緯を語り始めた。
「呉鎮から佐世保に異動した後は、ま、俺もそこそこ頑張ってた訳だ」
出だしを聞く限り、特に問題はなさそうだ。
「だかよ、やっぱ何処でも一人位、馬が合わない奴はいるわけだ」
「呉鎮でも、何人かいましたね」
「しかもそいつ、俺と同じく提督でよ。となると、極力避けようと思っても避けられねぇ場合が出てくる訳だ」
鎮守府のスタッフ等であれば関りを遠ざける事はある程度容易だ。
しかし、同じ提督となると、職務上、どうしても当人と関わらなければならない。
「で、ある日の会議の場で、そいつとちょっとした口論になってよ。……で、遂には、"手"出しちまった訳さ」
「その方に、山城さんの悪口でも言われたんですか?」
「はは、やっぱお前は俺の事よく分かってるな。……あぁ、そいつがヒートアップした時に言いやがったのさ。"鈍足で弾除けにしかならん欠陥戦艦など、とっと解体すべきだ"ってな」
西邑大佐の言葉を聞いて、西邑大佐が相手の提督に手を出した事に納得する。
西邑大佐は山城の事を兎に角愛している、それ故に、彼女を傷つけたくない一心であんな特殊な戦法まで編み出してしまう程だ。
そんな西邑大佐に対して、最も言ってはいけない"欠陥戦艦"の言葉を言ってしまった。
西邑大佐は自身の悪口等に関しては、笑って済ませるだろう。が、自身の部下である艦娘の悪口や、特に山城に関する悪口等は、冷静さを失いやすい。
加えて、口論で互いにヒートアップして冷静さを更に失っている状況だ。
感情が理性を上回り、結果手が出た。
「だがま、後になって冷静に考えれば、やっぱ手を出すのはまずかったな」
「そうですね。……それで、その後はどうなったんですか?」
「あぁ、直ぐに同じ会議に出てた他の提督が間に入ってその場は強引に納められ、で後日、俺は突然昇進を言い渡され、同時にこのラロトンガ警備府への異動も命じられた訳だ」
「手を出された提督は、処分なしですか?」
「いや、聞いた話じゃ大湊の方に異動させられたらしい。ま、喧嘩両成敗ってやつだ。……もっとも、手を出した分、俺は島流しにされたがな」
提督同士が起こした不祥事、外部に公表されれば海軍としての威信に傷がつく。
かといって、何ら処罰を与えず有耶無耶にしてしまえば示しがつかないし、しかし処罰をすれば外部に公表せずにはいられない。
そこで、人事異動という形で双方に処罰を与えたという事か。
「でもまぁ、元々俺は出世コースから外れてるんだし、今回の島流しはちょうどいいと思ってるけどな」
もっとも、西邑大佐自身は今回の処罰的人事に関しては、むしろ喜んで受け入れているようだ。
おそらく、主流から外れたおかげで、深海棲艦との激しい陣取り合戦に愛する山城を送り出さねばならない機会が減って嬉しいのだろう。
或いは、職務に追われる事なく山城と緩やかな時間を多く過ごせる居心地の良さからか。
「ですけど、自分は西邑大佐なら、もっと上を目指していけると思っていました」
「おいおい、飯塚、俺の事過大評価し過ぎなんじゃないのか? 俺には、今ぐらいのが身の丈に合ってるんだよ」
西邑大佐の回答に納得できないとばかりの顔を浮かべていると、西邑大佐は再び口を開く。
「そもそも、俺から言わせりゃ。飯塚、お前こそ自分自身の事過小評価してるだろ。お前は、自分が思ってる以上に凄い奴なんだよ。……だから、もう一度言うぞ。お前は、必ず大物になる!」
「……なら、自分が西邑大佐の言う通り、大物になった暁には、自分のもとに呼び戻してこき使ってもいいですか?」
それに対する回答を聞くや、一瞬の間を置いて、西邑大佐は膝を叩きながら笑い始めた。
「……っ、はははは!! 成程! そうきたか! くくく」
「そんなに笑う事ですか、これでも少しは真面目に考えた結果なんですけど?」
「いや、スマンスマン。……でもそうか、よし! いいぞ。お前の下でなら、こき使われてやっても。山城達も、お前の下でなら特に不満もないだろうからな」
冗談なのかそれとも本気なのか。
いずれにせよ、この南太平洋の島国でその能力を腐らせてしまうのは惜しい、との自分の考えに賛同はしてくれたようだ。
「さてと、それじゃそろそろ視察を始めてもらおうかな」
こうして、聞きたい事も聞けて、旧交を温め終えた所で、ようやくラロトンガ警備府の視察を始める流れとなった。
「あ、一応聞くけどさ。昔のよしみできっちりやってましたなんて報告書に書いてくれる事は?」
「ありません。職務ですから、きっちりありのままを書かせていただきます」
「相変わらず真面目ちゃんだね」
立ち上がり、河内達と合流すべく離れから警備府の建物へと肩を並べて向かう途中、そんなやり取りを交えるのであった。