こうして認識の相違の問題が一応解決したので、まだ時間もあるので続けて建造する事に。
「なんや、あたしだけじゃ不満なん?」
「不満と言うか、性能は大和型以上だから不満なんてないんだけど、やっぱり単艦だから何かとね」
プレハブ事務所に戻りモニターに資材の数値を入力しながら、河内との何気ない会話を楽しむ。
「ちょ! あたしが大和さんよりも性能上とか、恐れ多いわ!!」
「え?」
「あ……そやった。提督はんの言う大和さんは、あたしの知ってる大和さんとは違うかったんやった」
「そう言えば、河内が軍艦(ふね)として生きてた世界にも、大和は存在してたのか?」
「当たり前や。そらもう大日本帝国海軍が世界に誇る……、と言うより、味方であるあたしらからしても、大艦巨砲主義ここに極まれりって存在やったわ」
「スペックとかどんな感じだったんだ?」
「そうやな、大和さんのスペック言うたら……」
河内から河内の世界の大和についてのスペック等を聞いて、実物を見なくても確信した。ヤッバイ奴やん。
基準排水量十五万トン越えとか56cm砲の巨大な主砲とか、果ては両用砲やアメリカ戦艦も真っ青な対空火器の山に初歩的なミサイルまで積んでるって。
聞いただけで分かる、ものスッゴイヤッバイ奴やん。
「な、成る程……。それは足を向けて寝られないわな」
「せやろ」
こうして河内との会話を楽しんでいると、ついつい手が止まってしまう。
まぁ、今回は夢中になってと言うよりも、驚愕の事実に止まらざるを得なかったと言った方がいいだろう。
「っと、入力、入力……」
「なぁ、提督はん」
「んー? 何だ?」
「このモニターに資材入力して建造押したら新しい艦娘(こ)が建造されるん?」
「あぁ、そうだ」
「ならあたしにもちょっとやらせてや!」
「ん~、そうだな。いいぞ」
「ありがと提督はん! ほなこっちのモニター使わせてもらうで!」
更にその後、河内が建造してみたいと言い出したのでその対応の為に更に手が止まる。
隣のモニターから伸びる有線をタブレットに接続させ、二台分使用可能にすると、簡単に河内に建造の方法を教授する。
こうして、教授が終わると、いよいよ自身の建造作業に戻るのだが。
その前に河内に資源を使いすぎないように注意しようとして、三度手が止まる。
「そうだ河内、幾ら資源に余裕があるからって無駄につぎ込むのはやめ……てぇぇぇぇっ!!」
「わ! 急に叫んだらビックリするやん!」
「ちょ! 数値! 数値!!」
「え? あかんかった?」
「アカーン! それあかーん!!」
河内が入力した資源の数値は見紛う事なきオール999。
「えぇ~。余裕あるんやからちょっと位使ったってええやん」
「駄目だ、駄目!! 今は余裕があってもこれから本格的に始動していけば資源なんてどれだけあっても足りなくなるんだぞ!」
「そうなんか?」
「そうなんだ。……て事で、入力できる数値は全て100以内とする!」
「えー! なんやそのおやつは三百円までみたいな制限」
「制限設けないと見境なくなるだろ。はい、分かったらさっさと取り消す」
「ほーい……あ」
「あ?」
河内の指が、その指先が、あろう事か建造開始のボタンを押していた。
「ごめーん提督はん、手滑って間違って押しちゃった、てへ」
「てへ、じゃねぇよ!」
可愛らしく舌出しててへぺろなんてしているが、免じて許される事ではない。
自分で散財したのならまだしも、勝手にトータル四千近い資源を散財させられたら、誰だって怒らずにはいられないだろう。
「そ、そんな怒らんでも……、ほんまごめん」
そんな自分の怒りが伝わったのか、河内はしょんぼりとした表情を浮かべながら謝罪の言葉を述べた。
「あ、あぁ。悪い、少し頭に血が上って言い過ぎた」
そんな河内の表情を見たら、何だか沸き起こった怒りもその行き場を無くし。
気がつけば、自分も冷静さを取り戻していた。
「ううん、あたしもちょっとふざけ過ぎた、ほんまにごめんな、提督はん」
「ま、反省してくれたんならもういいさ。無駄に使っちまった分は、また頑張って貯めればいいだけだしな」
「ほな! あたしも頑張って協力したるからな!」
「おう、頼りにしてるぞ、戦艦河内!」
「まかせとき!!」
こうして河内と仲直りした所で、河内が開始した建造の結果を確かめていなかった事を思い出す。
「まぁ、駆逐艦でも開発されてれば御の字……ゑ!?」
「ど、どうしたんや、提督はん?」
「じ、十九時間!?」
そこに表示されていた建造時間は、十九時間。先ほどの河内よりも八時間も加算された時間だ。
前世のゲームでは大和だって八時間、それに十時間加算されたこの建造時間。一体何が建造されるって言うんだ。
「なんや、提督はん。この時間ってそんなに凄いんか?」
「あ、あぁ。少なくとも、自分はこの建造時間で何が出来るかなんて知らない」
「で、どないするん? 十九時間待つ?」
「いや、素直に高速建造材を使う」
そして再びあのチームが出動し、怒りのビルドロードよろしくマッドがマックスな台詞が開閉式扉の向こうから漏れ聞える。
「なぁ、あたしん時もあんな感じやったん」
「あぁ、そうだ」
「うわぁ……」
河内が高速建造チームの強烈な個性に圧倒されている間に、建造時間のカウントがゼロとなり、作業終わりの光景が再び繰り広げられる。
「って、帰りはなんも喋らへんのかい!」
そんな光景に河内がツッコミを入れた所で、河内を引きつれ、新しく建造された艦娘との初対面へと赴く。
「どんな
「ま、どんな
と、河内と共に期待に胸を膨らませていると、開閉式扉の向こう側から足音が一つ。
今回は時間が時間だけに開閉式扉から流れ出てくる煙の量が多く、全体のシルエットがもやっと見える程度だが、かなりの高身長を誇っていた。
そして、遂にその時はやって来た。
煙の向こうから自分達の前へとその鮮明な姿を現した者は、綺麗な直立不動の敬礼を披露すると、開口一番自己紹介を始める。
「紀伊型戦艦一番艦の紀伊だ。粉骨砕身、護るべき未来の為にこの身を捧げる。よろしくお願いする!」
自分と同じ歳だろうか。大日本帝国海軍のまっさらな第2種軍装をきっちり着こなし、腰には軍刀を添えたその者は、女性にはない低音ボイスでそう自身を紹介した。
スッキリとした目鼻立ち、さわやかな全体像、そして黒髪アンド長身。まさにイケメン。そう、イケてる男或いは面、略してイケメン。
目の前にいるのは、紛れもなく男。
おかしい、人工人体のモデルは女性だけの筈ではなかったのか。
「え、えっと、き、君本当に、艦、娘?」
「貴方はもしかして、俺の上官である提督ですか?」
「あ、あぁ。君の上官で提督の飯塚 源だ。よろしく」
とりあえず握手を交しながら艦娘、否、この場合は艦息、とでも呼ぶべきか。
兎に角、目の前のイケメン艦息紀伊が建造された原因を探る。
「失礼かもしれないが、紀伊は、男、だよな?」
「れっきとした男だが?」
「うーん、おかしいな。艦娘は文字通り人工人体としては女性型しかいない筈なんだが。紀伊、心当たりとか何かないか?」
「心当たりといわれても、悪いがそういうのに心当たりはない」
しかし、本人に聞いてみてもそれらしい原因なんて知る由もないとの返答が返ってくる。
なので、ここはその原因を一番知っていそうな、妖精達に尋ねようとしたのだが。
「イケメンにゅーふぇいす、キタコレ!」
「イケメンで
「やっぱり戦艦はイケメンに限る!!」
「こ、これは早速今晩のおかずですわ……」
紀伊の容姿に完全に目がハートとなり、もはや原因を探れそうにはない。
そもそも、自分の時とあからさまに反応違うな。何だその露骨過ぎる違いは。フツメンだからか、自分がフツメンだからなのか。
くそう。
「はぁ……、とりあえず原因の究明は後回しだな。あ、紀伊、とりあえず君の性能とか知りたいから、君の履歴書出してくれる」
「了解だ」
紀伊から提出された履歴書を見て、案の定と言うべきか、やはり紀伊は自分の知ってる歴史の中で生まれた産物ではなかった。
主砲は45口径51cm連装砲を三基搭載し、副砲に60口径20.3cm三連装砲を二基搭載。更には、連装両用砲を多数搭載し、機銃の類は搭載していないようだ。
そんな重武装を含め、十万トン近い基準排水量を誇るマッスルボディ。
速度は二十七・一ノットと自分の知る大和型と然程変わらない。
これはまさに、戦艦界の筋肉モリモリイケメンマッチョマンの
「提督、気のせいか、俺の事を今し方変に解釈していなかったか」
「え!? そ、そんな事ある訳ないだろ!」
何とか誤魔化したものの、河内もそうであったが、彼ら彼女らは何故そこまで勘が鋭いのだろうか。
あ、そうか。
「っ!!」
「なんでやねん!!」
と脳内でくだらない洒落を呟いたら、河内からハリセンの洗礼が。
流石は難波っ子、脳内のボケにも瞬時に反応しやがる。
さて、落ちもついた所で、紀伊に先輩と言うべき河内の紹介を行う。
「ん? 紀伊って、もしかして第二艦隊の旗艦務めとったあの紀伊か!?」
「あ、もしかして河内って、あの河内か!」
「そや! いや~、名前同じやったけど、男になってるからほんまに同じやなんて分からんかったわ」
「何だ、二人は知り合いなのか?」
「知り合いも何も、あたしと紀伊は、言わば同じ世界で生まれた存在やからな。ま、言わば同郷の先輩と後輩っちゅうやつや!」
河内の話を聞くに、どうやら先ほど興味本位で紀伊の履歴書に目を通して、彼が自分と同じ世界の出身である事に気がついたようだ。
それにしても、河内と同じ世界と言う事は、当然認識の相違も生まれる訳か。
「なぁ紀伊、ちょっとこれ耳に付けてや」
「これか?」
これはあのワイヤレスイヤホンの出番なんて考えていると、いつの間にやら河内が紀伊にあのワイヤレスイヤホンを手渡していた。
そして数分後。
「だいたい分かった」
デジャブを感じずにはいられない台詞と共に、また一つ、問題は解決したのであった。
その後、三度目の正直とばかりに二桁の数値を入力し、駆逐艦の吹雪・叢雲・漣・電・五月雨の計五人。
新たな艦娘を迎え入れた所で建造を終了し、少々時間が過ぎ遅くなったが、親睦を深める意味合いを込めて、全員で基地の食堂へと向かうのであった。