ラバウル統合基地の食堂は、基地に属する各州軍からの多種多様な味覚に対応すべく、ビュッフェスタイルを採用している。
調理担当のスタッフは各州から腕に覚えのある者が集まっており。その中には、補給艦の艦娘もスタッフの一員として働いている。
当然大所帯である基地の人員を収容できるだけの広さを持つ食堂は、端から端まで移動するのに数分はかかりそうだ。
「あ、そう言えば河内達はまだ『ミールカード』を発行してもらってなかったな」
「提督はん、ミールカードってなんや?」
「基地関係者に発行される食堂利用定期券みたいなもので、手持ちがなくてもそのカードさえあれば、利用時間内なら好きな時に食堂を利用できるカードさ」
「へぇ~、便利なカードやな」
「自分の分はもうあるが、河内達の分は基地の総務に行って発行してもらわないと駄目だからな……」
「それって直ぐ発行してもらえるもんなんか?」
「あぁ、すぐ発行される。だが、生憎今日はもう総務の受付は終了してるんだよな」
「それやったら、あたしら食堂使われへんの」
河内達艦娘は外見は兎も角、その中身はシステムの塊である為、自分達人間と同じように食事を取らなくてもよい。彼女達には飢え死になんて概念はないからだ。
しかし、規則では原則として艦娘も人間と同じ食事を取る様に決められている。
これは、共に戦火に身を置くもの同士、同じ釜の飯を食べ強い信頼関係を築く為である。
勿論、信頼関係を築く手段は食事以外にも存在するが。古今東西、軍隊にとって食事とは何者にも勝る楽しみなのだ。
そんな楽しみを共有するからこそ、互いに強い絆が芽生えると言うもの。
「いや、カードがなくても受付で現金を払えば利用可能だ。……よし、ここは皆の上官であるこの自分が、皆の
「さっすが提督はん!」
「その心意気、俺達も今後の活躍で応えないとな」
「あ、ありがとうございます! 司令官!」
「あら、おごってくれるの。ま、当然よね」
「流石はご主人様! これはメシウマだよ!」
「はわわ! あ、ありがとうなのです!」
「提督のお気持ちに応えて、一生懸命(食べるの)頑張ります!」
皆からの感謝の言葉を背に、自分は食堂の受付へと赴くと、受付スタッフに声をかけ人数分の利用券を購入しようとして手が止まる。
「申し訳ありません中佐、こちらでは、その、クーポンのご利用は……」
「え!? 使えないの!?」
「……提督はん」
宣言は守るがやはり少しでも費用を浮かそうと思ったのだが、生憎と、基地の食堂ではクーポンは使えなかった。
そんな自分を、河内がなんとも言えない冷めた目で見つめていたが、とりあえず気にせずに利用券を購入しよう。
「ほい、お待たせ」
こうして何事もなかったかのように装いながら皆に利用券を配った所で、いよいよ食堂中心部へと足を踏み入れる。
「ふわぁー! い、色とりどりの料理があります」
「あら、いい品揃えじゃない」
「ケーキ、キタコレ!!」
「これだけ種類があると、迷っちゃうのです」
「お肉にしようかな、お魚にしようかな」
テーブルに並べられた各州内を代表する料理の数々に、駆逐艦たちは目移りしつつも各々が食べたいものを自身の皿へと取り分けていく。
「おかわり出来るやつはどんどんおかわりしていいからな」
そんな駆逐艦達を横目に、自分もメインとなる料理を皿に取ると、続いて副菜などを選んでいく。
こうして全員が料理を取り終え空いているテーブルへと移動すると、いただきますの挨拶と共に、全員揃っての夕食会が幕を開けた。
「提督はんのメインは肉かいな?」
「あぁ、折角本場のオセアニア州に来てるんだし、初日の料理は本場のを食べないとと思って。……それに、オージー・ビーフマンの件もあったし」
「ん? なんか言うた?」
「あぁ、なんでもない」
オージー・ビーフマンの事は、幸い小声であった為河内には聞えなかったようだ。
因みに、オージー・ビーフマンの薦めもあり、今回の夕食のメイン料理はオージー・ビーフのステーキとなっている。
なお、自分の他には紀伊もメイン料理にオージー・ビーフを選択していた。
「それにしても一杯人がいますね」
「大所帯なのです」
「国際地球連合の一大基地のひとつだからな」
料理を口へと運びつつ、吹雪や電と何気ない会話をしながら互いに親睦を深めていく。
「ご、50口径46cm連装砲……、へ、へぇ、凄いの積んでるじゃ、じゃない」
「ふふーん、せやろ」
河内も、何やら叢雲と親睦を深めているようだ。
「ねぇねぇご主人さま~。このドレッシング美味しいよ、食べて食べて~」
「お、おい。俺は提督じゃないぞ」
「いいの、漣にはご主人さまもご主人さまなんだよ~」
「あ、あの漣ちゃん、紀伊さんが困ってるよ」
「あ、そうだ! なら五月雨ちゃんも一緒にご主人さまに『あーん』させようよ」
「え!? ……そ、それじゃぁ、す、少しだけ。紀伊さん、は、はーい!」
「……五月雨。そこは口じゃなくて、耳だ」
「ふぇぇっ、す、すいません!」
紀伊なんて、早速漣と五月雨の二人といちゃついていやがる。
くそ、イケメンだからか。イケメンだからなのか。
「し、司令官……」
「はわわ、司令官さん怖いのです」
いけない、内に秘めた嫉妬のオーラが外に漏れ出していたようだ。
「いやいや提督はん、ステーキぶっ刺して食いちぎっとったら、誰が見たって怖いわ」
と思っていたら、どうやら怖がられていたのはステーキの食べ方のほうであった。
嫉妬のオーラの影響で、ちょっとワイルドになり過ぎていた。
よし、これからは心を落ち着かせ、お上品に優雅な食事を心がけよう。
「はいご主人さま、あーん」
「一回だけだぞ、あーん」
と思った矢先、結局残りのステーキもガッツリワイルドな食べっぷりで食べきってしまった。
吹雪達のみならず、周囲の基地のスタッフ達からも視線を感じていたが、仕方がない。内に宿したイケメン嫉妬のオーラは簡単に治められるものではないのだ。
こうして途中色々ありはしたものの、無事に夕食を食べ終えると、食後の一杯を堪能してから食堂を後にする運びとなった。
「本来なら艦娘用に用意されてる官舎で生活してもらうんだが、生憎、艦娘用の官舎は基本的には女性用だからな……」
「俺は別に野宿でも構わないが?」
「いや、それは駄目だ。……基地の総務に言って特別に用意してもらう事も出来なくはないだろうが。少なくても今晩は何処か別の所で寝泊りしてもらわないと駄目だな」
食後の一杯を堪能しながら、紀伊の住居について本人と話を交す。
艦娘は女性型しかいない、との認識から、当然彼女達用の官舎も女性用を基本として造られている。
勿論、男であっても生活できない事はないが。風紀の観点からも、やはり女性しかいない場所に男性が出入りするのはあまり好ましいものではない。
「ま、今晩は自分の官舎に住み込んでくれ。今はまだ空き部屋も少しはあるし」
「了解した」
「都合が付いたらまたその時にでも改めて話そう」
暫定的な措置として自分の官舎の一室を紀伊用にするという事で話がまとまると、残っていたコーヒーを一気に飲み干す。
こうして食後の一杯を堪能し終えると、程なくして他の皆も堪能し終えたので、食堂を後にする。
その後は各々官舎に戻り、設けられている風呂で疲れを洗い流して明日に備えて就寝する流れなのだが。
「提督はん、もっとつめてや」
「いやいや、これ以上は無理だって」
「ちょっと、紀伊、もうちょっと……よりなさいよ」
「あぁ、狭かったか、悪い」
「ち、ちが! そうじゃなくて」
「ごしゅじんさま~、漣の方向いてください~」
「皆で一緒に寝られて嬉しいのです!」
「何だか修学旅行みたいですね」
「皆さんあったかいです」
何故か、自分の官舎の一室に全員が集まり、布団を敷いて川の字で寝ると言う流れになってしまった。
確か、電あたりが五人だけで寝るのは寂しいと漏らし、それに便乗して漣が紀伊と一緒に寝たいと言い出し。
河内が、あたしも一人で寝るのは寂しい、なんてどう考えても柄ではない、おそらく悪乗りで言った事が決定打となり。
その後はあれよあれよと事が進んで、現在に至った。
「いいか、今回だけだからな」
こうして何だかんだとあった初日の夜は更けていくのであった。
因みに翌朝、相当寝相が悪いのか、河内の足が自分の顔を直撃していた事を付け加えておく。
しかも他の面々は、器用に避けていた。
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