調査官、カルデアに赴く   作:あーけろん

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真面目っぽい作品ではありません。終局まで終わってない人ネタバレ注意‼︎


調査官、カルデアに赴く
調査官、カルデアに赴く


人には運命というものがあるらしい。

 

 

絶対に逆らうことの出来ない、天によって定められた指針。人皆それを『運命』と呼ぶ。

 

 

『運命』なんて下らない、なんて思う人もいるだろう。そんなのは只の確率論の空想であると。

 

 

俺もそう思う。いや、そう思っていた。

 

 

けれど、人には絶対に逆らう事の出来ない流れがあるのだ。俺は、それを身をもって学んだ。

 

 

そして俺の運命は、手元にあるこの薄っぺらいコピー用紙によって定められた。

 

 

『人理保証機関 フィニス・カルデアへの調査を命じる』

 

 

 

 

フィニス・カルデアって何処?山岳地帯?…左遷ですね、わかります。

 

 

 

 

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「やぁ、元気かい?」

 

 

ーーーー何の用ですか、局長?今見ての通り、すっごい忙しいんですが。

 

 

壁の様に積まれた紙束から声が聞こえる。いや、紙束から聞こえるのでは無く、その向こうから聞こえるのだろう。

 

 

紙束を押しのけて、若いゾンビが顔を出す。肌色は健康的だが、目の下には隈が落ちない汚れのようにこびりついている。

 

 

 

 

 

「うん、元気そうだね」

 

ーーーー元気そうに見えるのなら眼科、もしくは精神科を受診する事をお勧めしますよ。

 

 

 

 

 

そのゾンビは頭を掻くと、大量の書類を『処理済み』の籠に積んで行く。あの山を渡したのは2日前なのに、相変わらずの処理能力だ。

 

今更ながら、彼を極東の日本で見つけた事は僥倖だった。『Mr.キリツグ』には感謝しなければならないね。

 

 

 

 

 

 

「さて、書類は一通り終わったようだね。良かった良かった」

 

ーーーー…丁度良いタイミングを見計らって来た癖に。

 

「何か言ったかい?」

 

ーーーーべつに何も。…で、何かあるんでしょう?

 

 

 

 

 

 

…やはり、彼は優秀だ。こちらの態度から何かある事を即座に見抜き、それが自分にとって『良い事』か『悪い事』かを即座に判断できる。

 

そして彼は、自分にとって『悪い事』と判断した。うん、やっぱり優秀だ。

 

 

 

 

 

「うん。君には出張に行って貰おうと思ってね」

 

ーーーー…出張ですか。何処に?

 

「所で君、『2016年が無くなっている』事は知っているかい?」

 

ーーーーえぇ、知っていますよ。なんでも、暦上では今は2017年とか。でも、そんなの眉唾なんじゃないんですか?

 

 

 

 

 

 

彼はそんな事はあり得ないと断じる。確かに、そんな事は通常あり得ないだろう。一晩眠っただけで一年経過するなんて、まるでハリウッドのSF映画だ。

 

私も事実を知らなければ、彼と同じ反応を取った筈だ。

 

 

 

 

 

「あれね、事実なんだ」

 

ーーーー…はぁ?

 

胡散臭げに声を上げる彼の顔には軽蔑の表情が浮かんでいる。どうやら、上司を信じる事が出来ないらしい。酷い部下だ。

 

 

「この国連に、『人理保証機関 フィニス・カルデア』というものがあるのは知っているかい?」

 

ーーーー噂に聞いた程度なら。なんでも、我々人類の繁栄を観測するための組織だとか。

 

「ちなみにその情報。上層部しか知らない情報だから」

 

ーーーー…やぶ蛇だったかぁ…。

 

 

 

 

 

 

やれやれ、有能すぎるのも考えものだな。だが、その能力がなければあの魔境に行くことなど任せられない。

 

 

 

 

 

「そのカルデアなんだが…。君、魔術って信じる?」

 

ーーーー……。

 

「ん?どうかしたかい?」

 

ーーーーあ、今精神科の医者を呼ぶ所なんで。

 

「君酷いな⁉︎」

 

 

 

 

 

 

真面目な話をしているのに全く信用されていない。困ったものだ…、そんな態度を取られると、また紛争真っ只中のウクライナに飛ばしたくなっちゃうじゃないか。

 

 

 

 

 

「…魔術は実在する。そして『人理保証機関 フィニス・カルデア』はその魔術を持って世界の滅亡の危機を救ったんだ」

 

ーーーーわかりました。つまり貴方はその魔術とか摩訶不思議なものが2016年が消えた原因を担っていると言いたいんですね。

 

「まぁそういう事だね。…あれ?君、信じるの?」

 

ーーーー嘘を言っているんですか?

 

 

 

 

 

 

……やれやれ。これだから彼を手放す事は出来ないんだ。ここぞと言う時、彼ほど信用に値する人材はいないだろう。

 

「いや、神に誓って嘘は言ってないよ」

 

ーーーーなら、そういうことです。出張の件、了承しました。

 

 

 

 

 

彼は一例すると、オフィスから出て行った。おそらく出張の準備をするのだろう、呆れるほど真面目なやつだ。

 

 

 

「頼むぞ、君にしか頼めない事なんだ」

 

 

 

にしても、国連総長も無理を言いなさる。時計塔の連中に悟られないように職員を派遣しろなんて、無理難題だ。

 

 

だが、彼ならばきっと役割を果たしてくれるはずだ。私は、それを期待。いや、確信している。

 

 

「さて、私も仕事に戻るとしよう」

 

 

まずは彼の出張の諸々の隠蔽から始めよう。さぁ、忙しくなってきた。

 

 

 

 

 

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やべぇよやべぇよ…!局長が中二病を患ってしまった…!

 

 

『君、魔術って信じる?(キリッ』

 

 

あかんやつや、これ。笑いを堪えるのがキツくて席を外したが、今となって笑いが込み上がってきた。

 

 

 

まぁ、生まれつき表情に乏しいのでニヤッと笑うだけなんですけどね。気持ち悪い事この上ない。

 

 

 

にしても、まさか『人理保証機関 フィニス・カルデア』って実在したのか。てっきり何処かの馬鹿が間違って自分の小説()の設定を上げちまったものかと。

 

局長、なんで急にあんな典型的な中二病にかかってしまったのだろうか?日本のサブカルチャーの闇に触れてしまったのか…?

 

いつの日か『飛天御剣流‼︎』とか『お前はもう、死んでいる…』とか言いださないよな?そうなったら退職も辞さない。

 

けど、実際のところそんな所に何をしに行けば良いのか?調査とか言っても、どうせ実態のない機関なんだろうし。

 

 

 

…ハッ‼︎まさか、局長が働きすぎな俺の事を気遣って出張と銘打った旅行券をくれるのでは?。

 

だよな、最近の俺働きすぎだし。国連の末端に所属できるから俺勝ち組だぜ!とか思ってたの入局して3日で終わったわ。どこもかしこも社畜は辛いなぁ…。

 

 

 

まぁ真面目な話そんな与太話あり得ないんですけどね。

 

 

『うん?君、昨日ノルマ終わったね?良かった。じゃあ明日ウクライナまで飛んでくれ』

 

こんな事を真顔で言う人物だぜ?そんな気遣い期待する方がどうかしてる。

 

さて、取り敢えずは出張の準備を始めましょ。どうせどっかの都市部にあるんだし、いつも通りのスーツとかでいいでしょう。

 

あぁー、出会いが欲しい。どこかにめっちゃ美少女が転がってないものか。落ちてきても縁台にぶら下がってても食い倒れていても可。

 

 

 

 

 

 

 

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「国連から、極秘に使者が来る?」

 

「しっ。声が大きいって」

 

 

 

人理保証機関 フィニス・カルデアの内部。その廊下の端で二人の職員が話し込んでいる。話題はもっぱら後日ここを訪れにくる調査官についてだ。

 

 

「クソッ!国連の連中もここの利権を奪いにきたってか!」

 

「そこまではまだわからないが、恐らくそうだろうな」

 

 

 

彼らカルデアは二週間前に人理を、世界を救済したばかり。魔術王を打ち倒し、世界を救った後は人類が彼らに対して牙を剥いた。

 

カルデアとは時計塔と国連の二つの組織が結合して出来た異例の組織。ここの利権を取ることが出来たのであれば、相手の組織にとって大きなアドバンテージとなる。

 

 

 

「…マスターの件、どうする?」

 

「馬鹿正直に報告する訳にはいかねぇだろ。そんなことしたら政界の道具になっちまう」

 

「…世界を救ったのにな。ほんと、笑い話にもならねぇよ」

 

「大丈夫さ。なんだって、万能人たるこの私がいるからね!」

 

 

 

辛気臭い顔で将来への不安を愚痴っている二人に、絶世の美女とも言うべき女性が現れる。このカルデアに所属する英雄「レオナルド・ダ・ヴィンチ」である。

 

 

「私がなんとか凌いでみせるさ。…ここを食い物にされてたら、ロマンが悲しむからね」

 

「………」

 

「………」

 

「ささっ。二人とも、仕事に戻りたまえ。まずはノルマを終わらせることだよ」

 

 

二人は彼女に一例すると、その場を立ち去る。その様子を見た後、彼女は静かに拳に力を入れる。

 

 

 

「…ロマンの為にも、此処は絶対に守り抜く。絶対だ」

 

 

彼女は静かに決意を固め、これから降りかかる災難に対する思考を動かし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

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…で、冒頭にいたる。いやぁ、運命って怖い。

 

何よりも怖いのはあの局長だけどね。部下を一人でこんな雪山に放り込むなんて、本当にどうかしてる。

 

因みに、ここで一つ問題があります。

 

私の格好、なんだと思います?

 

 

 

……はい。ビシッと決まった黒いスーツに赤字のネクタイ。それに磨き上げられた革靴です。そして私は今雪山のど真ん中にいます。

 

 

違和感しかありませんよね?うん、俺もそう思う。

 

 

 

いや、違うんだ。これには事情があったんだ。俺は普通の出張かと思ってたんだ。けどその場所が尋常じゃない程辺鄙な所、詰まる所雪山の頂上にあったんだ。

 

 

そんな事知らずに普通のスーツ姿で出勤。ヘリコプターに乗せられて、あれよあれよと雪山の麓ですよ。

 

寒いです。控えめに言って死ぬほど寒いです。いやぁ、吹雪の雪山って怖いですね。

 

パイロットの人がポケットカイロくれたけどこんなん焼け石に水だわ。もう、あれだ、新天地が見えそう。

 

だが、舐めないで欲しい…!こんなもの、一人で冬の戦場に向かうより全然楽ですよ。もう余裕、全然余裕。こんなんウォーキング気分で踏破できるわ。

 

 

はぁー。ちょれー、雪山ちょれー。

 

 

 

…正直、もう限界です。だれか、助けてぇ…‼︎

 

 

 

 




主人公

今作品の主人公。名前はまだ無い。とある経緯で国連の末端に所属することになった最強の事務。ありとあらゆる書類や業務を最高のパフォーマンスでこなす事のできる現代におけるチートオブチート。最近の悩みは休みが蒸発していくこと。


局長

今作の黒幕。結構な出来事を裏から操作する腹黒なお人。これでも既婚者。美人な妻と二人の愛娘に囲まれて幸せ一杯な模様。主人公の事をこき使う事のできる数少ない人物。主人公から恨みカウンターを載せられまくっている。


レオナルド・ダ・ヴィンチちゃん

ダヴィンチちゃん。可愛い、有能。まさに万能人が服を着て歩いているような存在。カルデアを守る為に色々暗躍中。



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