調査官、カルデアに赴く   作:あーけろん

11 / 12


お待ちかね?の両儀との対面です。ちょっと思ってたのと違うかもしれませんが、そこはご容赦下さい。


調査官と直死の魔眼 1

 

 

 

 

 

 

 

 

窓のない薄暗い一室。部屋に取り付けられた蛍光灯は十全に機能を発揮しているが、部屋の面積と光量の比率のせいで多少暗い。

 

『べつに暗くしておく必要はないのだが、そこは気分だよ』と、この部屋の主はのたまっているが気にしてはいけない。どこかおかしいのは前からのことだ。

 

まぁ、部屋全体が薄暗いのはまだ我慢できる。が、別の要因がこの部屋の居心地の悪さを際立たせている。

 

 

「……この不気味な音楽はどうにかならないものか」

 

 

この部屋には会話の邪魔にならない程度の音量で音楽が常時流されている。曲のタイトルは『旧支配者のキャロル』、不気味さが音になったみたいな曲だ。

 

 

会話しているぶんには全く気にならないが、こうも無音状態だと耳に響く。一刻も早く要件を終わらせてこの部屋から出たい気持ちに駆られるが、今回は長引くだろうな。

 

 

「仕方ないじゃないか、局長。盗聴対策なんだから」

 

「盗聴対策ならノイズでも噛ませれば良いじゃないですか。べつにこれでやる必要もないでしょう?」

 

 

だだっ広い部屋に置かれた一対の椅子と机、座っているのはたった一人だ。

 

 

「この部屋を盗聴しようと試みた者の精神を壊すための曲だって知ってるだろ?せっかく僕が術式を編み込んで作った曲なのに、お気に召さないかね?」

 

 

灰色のスーツを着て軽薄な笑みを浮かべる白髪の男こそ、この部屋の主人。氏名不明、住居不明、年齢不明、趣味作曲。国連上層部のなかでは『室長』と呼ばれている人物。

 

超法規的処置によって『国際連合 例外処置情報収集室』の室長に任命された、時計塔から封印指定を受けた化け物魔術師だ。もっとも、室長といっても構成員は彼だけだが。

 

そしてこの部屋は彼の工房兼室長室。覗き見しようとした者の目を焼き、盗み聴きしようとした者の精神を壊す。ありとあらゆる干渉手段を遮断し、干渉しようとした存在を殲滅する要塞だ。

 

 

「…いや、べつに。それより、本題に入りませんか?」

 

「せっかちだね、君は。彼はもう少しのんびりしてたよ?」

 

「彼と私を同じにしないで頂きたい」

 

 

「違いない」と室長は笑うと、俺に椅子を勧めてくる。あらかじめ用意された椅子に腰掛ける。これからこの化け物相手に舌戦を仕掛けるなんて、正直冗談じゃない。

 

彼は私の上司ではないのだが、なにかとこちらの様子を伺ってきた。初めは私が三流の魔術師だからだと思っていたが、本当の狙いはウチの部下だったのだ。油断もスキもあったもんじゃない。

 

 

「…さて。私が君をここに呼んだ理由はわかるね?」

 

「人理保証機関フィニス・カルデア…、いや、彼の事ですね」

 

「ご名答。君に室長ポイントを3点あげよう」

 

 

でた、『室長ポイント』。彼の質問に答えると必ず貰えるポイントだ。だが、全く使い道がわからない。

 

 

 

「前も10点ほど貰いましたけど、貯めたら何が貰えるんですか?」

 

「100ポイント貯めたら国連総長の椅子が貰えるよ」

 

「……はいぃ?」

 

 

思わず身体が固まる。…これだから、彼の相手は嫌いなんだ。こちらの予想を遥かに超えてくる。国連総長の椅子をあげるなんて軽い口調で言えるのは、きっと彼だけだろう。

 

まったく、どこぞの有能な部下にそっくりだ。

 

 

「…まぁそのポイントは貯めておいてと。それで、彼がどうかしたのですか?報告書は上げたはずですが」

 

「うん。報告書は一応貰ってるんだけどね?少し聞きたい事があったんだよ」

 

「聞きたいこと、ですか?」

 

「うん。今現地に行ってる彼の身内についてだ」

 

「…はぁ」

 

 

なんだろう。背筋を嫌な感覚が走っている。今までも何度か経験したこの感覚、その全てが悪いことの前兆だったものだ。

 

 

「実はね、それらのセクションから彼についての疑問が相次いでいるんだよ」

 

「…と、言いますと?」

 

 

「色んなところから来てるよ?冠位人形師殿、直死の魔眼持ち、現代の名探偵、魔術師殺しに聖杯御三家の内二家。後はルーマニアの名家だっけ?」

 

 

聞くだけで背筋が凍りそうになる面子だ。誰か一人でも敵に回したら生きて帰れないと確信するラインナップでもある。

 

 

…ある一時から連絡が来なくなったからまさかとは思ったが、彼らが室長とコネクションを取っていたとは。おそらく黒桐君と切嗣の仕業だろう、相変わらずとんでもない情報収集力だ。

 

 

「まぁそんな彼らから『彼は今、どこで、何をしている?』という連絡が相次いだんだけど、説明状況は大丈夫なの?彼らを怒らせると、後々怖いよ?」

 

「対応、ありがとうございました。ですが大丈夫です、わたしから懇切丁寧に説明するので」

 

「『極力情報を抑えつつ真実に嘘を織り交ぜて説明』するの間違いじゃないかね?」

 

「さぁ?どうでしょう?」

 

「……まぁ今回は不問にするけど、あんまりやり過ぎないでね?度が過ぎると、色々面倒な事になるよ?」

 

「…肝に命じます」

 

「ならよし」

 

話は終わりと言わんばかりに目を閉じる室長。その様子を見て席を立ち、彼の工房から立ち去る。部屋の扉に手をかけた時「あ、そうそう」と声がかかる。

 

 

「彼がカルデアから戻ったら僕の弟子にするからそのつもりで」

 

「………は?」

 

 

……天才の考えることはわからない。俺はそう改めて思った。

 

家族の待つ家に早く帰りたい。そう思ったのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

ーーーーへくち。

 

 

意図せず口からくしゃみがでた。この感じは多分、局長と室長が俺のことを話題にしているな。

 

おそらく仕事のことだろう。納期を遅らせた無能にどんな処罰を送るのか決めてほくそ笑んでるに違いない。局長には無能な部下の気持ちがわからないのだ。

 

ーーーーあー、癒されたい。癒されて幸せになりたい。

 

 

癒しと言えば最近衛宮家の人と会っていない。あの人たちは今でも元気だろうか…。

 

士郎は間違いなくモテるだろうし、イリヤちゃんも気が気じゃないだろうなぁ。うんうん、微笑ましいじゃないか。遠坂ちゃんも気になってる様だし、これは三角関係になるのかな?それはそれで嫌だけど、まぁそこはそれとなく士郎を誘導すれば良いだろ。

 

 

「もしもーし」

 

 

ところで切嗣さんはどうやってアイリさんみたいな美人外国人を捕まえたのだろう?あんまりパッとしない人だから、一目惚れはあり得ないと思うんだが…。そう言えば切嗣さんの家に最近ドイツから贈り物がよく届いてたな、来た瞬間にアイリさんが燃やしてたけど。あれなんなんだ?

 

 

「おい、聴いてるのか?」

 

 

恋愛は切嗣さんから行ったんだな。どうやったら女の子を口説けるのか、是非ご教授願いたいものだ。

 

それかもう一回ルーマニアに飛びたいなぁ、あそこなら美人も多いし、仕事で知り合った人たちもいるしね。

 

 

「おーい。もしもーし」

 

 

それにしても、最近は仕事が忙しくてゲームすら出来てない。ギルメンの『大戦略大好きっ子』さんまだオンでやってるかなぁ…、不安だ。またアレキサンダー大王の豆知識が聞けるのはいつになるのやら。

 

「おーい!聴いてますかー⁉︎」

 

ーーーーはいはい聴いてますよ。まったく、現実逃避くらいさせろよ…。

 

 

さっきからうるさいなぁ。お前は黒桐と話してれば……。

 

 

………うん?

 

 

「おい◻︎◻︎、お前なんでこんな辺鄙な所にいるんだよ」

 

ーーーー…………………………式?

 

 

 

いや、俺が言いたいよ。

 

 

 

 

____________________

 

 

 

ーーーー……つまりお前は英霊としての『両儀 式』であって、現代に生きる『両儀 式』本人ではないと。そう言うことだな?

 

「あぁ、そういうことだ。わかったか?」

 

 

 

場所を移して自室。相変わらず紙の散乱している部屋だが、メルトリリス事件の時にエミヤが部屋に襲来してきたせいでだいぶ片付いている。

 

その後も定期的に部屋を訪れては「お茶はどうだね?休憩を取った方が良い」なんて紅茶を持ってきてくれるのだから、頭が下がる。先日言った嫌な奴発言は誤りであったと謝罪しておこう。心の中で。

 

それにしても、お節介な所もますます赤毛の彼に似ていると思うのだが…。まぁ、終わった話を蒸し返すのも良くないだろう。

 

 

ーーーー大体はな。…にしてもお前、相変わらず肌白いな。日光ちゃんと浴びてるか?

 

「こんな雪山で浴びれる訳ないだろ。あと、肌が白いのは生まれつきだ」

 

ーーーーさいで。…そうか、この時のお前は髪が短かったなぁ。

 

「懐かしむな、気持ち悪いぞ」

 

ーーーーいやいや、お前。俺がどんなに苦労してお前を説得したと思ってる?三日三晩、ありとあらゆるメリットを提示して説得し続けたんだよ?髪を伸ばした方が良いって。けど、黒桐はあいつで「なんでも式は似合う」とかほざきやがって…。惚気ですかそうですか、独り身で仕事が彼女の俺への当てつけかコノヤロー。大体お前もお前だ。互いに好き合ってるのは明白なんだからさっさと…。

 

「お、おう。わかった、わかったからそこまでにしてくれ、俺も胃が痛くなって来た」

 

ーーーー…チッ、まぁいい。

 

 

…うん?待てよ。ここにいるのが現代の『両儀 式』でないのはわかったとして、じゃあ彼女はどこから来たんだ?

 

過去から来たのならそれはかなり不味くないか?バタフライエフェクトとか色々ヤバい事の発端になりそうな気がするんだが…。

 

 

 

「………驚かないんだな」

 

ーーーー驚く?なんで?

 

「はぁ?なんでって、お前の知り合い、友人が昔の姿でこんな雪山に居るんだぞ?普通驚かないか?」

 

 

 

…うーむ。確かに驚くに足る現象ではある。むしろ驚きすぎて腰を抜かすまであるかもしれない。

 

けど、実際は俺はそんなに驚いていない。驚きはしたんだが、大慌てするような事になっていないし、腰も抜かしてない。

 

多分それは……。

 

 

ーーーー驚くよりも、安心したのかも知れない。

 

「…安心?」

 

ーーーー…おい、不気味な物を見るような目で見るな。悲しくなるだろ。……まぁ、言葉にし辛いがそんな感じだ。悪いな、お前の期待する反応が出来なくて。

 

「…………いや、べつにいい」

 

ーーーー……式?

 

 

その時の式はどこか嬉しそうだった。もちろん、俺に理由がわかるはずがない。

 

もっとも、その理由は、この後の式。いや、『式さん』から聞かされるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

___________________________

 

 

 

 

 

 

廊下で彼奴を見かけた時の俺の感情は、よくわからなかった。『嬉しさ』『喜び』、『哀れみ』や『悲しみ』『怒り』の感情がごちゃ混ぜになってよくわからなかった。自分の事なのにだ。

 

スーツを着ていると言うより、着せられている男。多少癖っ毛の髪を短く切り、いつも微笑を浮かべている。私と黒桐の、唯一の共通の友達。

 

事あるごとに私と黒桐をくっつけようとする。傍迷惑で口の回る奴だった。

 

 

 

『おい式、この後暇だろ?黒桐と千葉県にある夢の国に行ってこい。心配するな、チケットはある。俺の奢りだ、精々楽しんでこい。…えっ?チケット持ってる?黒桐から貰った?…さいで』

 

『式、お前は髪を伸ばした方が良い。髪を伸ばす方法の書いてある本買ってきたから、それ読んで実行しろ。面倒臭がるなよ?いいな?』

 

『式ィ!お前黒桐と喧嘩したろ‼︎あいつ落ち込んでたぞ!こういうのは早めの対処が大事なんだよ!ほら、早くあいつの家行くぞ!拒否権?ねぇよんなもん‼︎どんな顔をすれば良いのか?…知らん。それくらい自分で考えろ』

 

『えっ?黒桐がほかの女とイチャついてる?……ほう、成る程。よし、わかった。ちょっと黒桐とオハナシしてくるから、お前はここで待ってろ』

 

『……黒桐から聞いた。最近、危ない事に手を突っ込んでるらしいな。…俺は黒桐みたいにお前の事をよく知らないから、お前の考えはわからない。けど、これだけはわかる。式、お前は強い。物理的にも、精神的にも。けど、強さだけじゃいつか限界がくる。張り詰めた糸が切れやすいようにな。だから、どこかで緩めろ。黒桐でもいいし、俺でもいいしな。…言葉が繋がらん。とにかく、言いたい事はそれだけだ。じゃあな』

 

 

『結婚おめでとう、式。全く、お前らは色々と面倒臭かったな。恋のキューピッドもビックリだよ、本当。けど、これからが本番だ。結婚してから急に冷めることはよくあるらしいからな、鳶に婿さんを攫われないようにな?…すまん、これは余計なお世話だったな。とにかく、お前らはちゃんと幸せになれよ?じゃないと学生時代からの俺の苦労が無駄になるんだ。ちゃんと頼むぜ?…あと結婚式なんだがなぁ、すまん、転勤になったせいで多分出れない。友人代表はあのヤブ医者に頼んだから、そのつもりでな。それじゃ、お幸せに』

 

『お、式か。久し振りだな。…えっ?つい3日前に話した?…そっかぁ、そろそろ時間感覚がおかしくなってきたな。おっと、仕事の時間だ。じゃあ切るぞ』

 

『式か。悪い、今忙しい。電話なら後にしてくれ』

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

それ以降、幹也も、鮮花も、橙子も、藤乃も、そして私も。誰もあいつの声を聞く事はなかった。

 

音沙汰が消えてから半年後、あいつが転勤先の社宅で死んでいた事が発見されニュースになった。警察の調べによると、過労死が原因だったらしい。なんでも、転勤してからの二年間、休みは実質的になく、毎日の睡眠時間は3時間程度だったそうだ。

 

 

大元の会社は過労の実態を認めたが、それで話は終わった。当初はマスコミによってかなり言及されたが、身内が誰もいない事が嫌な方向へと繋がり、時間と共に追及は静まった。

 

事件はそれであっさり幕を閉じ、彼の死は誰の目にも止まる事なく過ぎ去った。

 

 

……結局あいつは誰よりも、そう。誰よりも自分の事が分からなかった。馬鹿で間抜けで、我慢強くて、他人の事がなにより大切な愚か者だった。そう、それだけの話だ。

 

『何故相談してくれなかったんだ』なんて、今更言えるはずもない。きっとあいつは新婚だった私たちの間に水を差したくなかった。それだけの理由で、あいつは何も言わなかったのだ。

 

葬式は知り合いだけの簡単なもので済ませて、お墓は両儀家の管轄の墓地に丁寧に埋葬した。橙子がどんな手段を使って遺体を引っ張ってきたのかは知らないし、聞く気もなかった。

 

無論、当初の俺の怒りは凄まじかった。あれだけ俺に言っておいて、結局自分は蚊帳の外なのか、と。そして、あいつの異変に気付かなかった自分を心底恨んだ。

 

けど、本当に悲しかったのは誰でもない、幹也だった。

 

『…馬鹿野郎。死んだら、何もできないじゃないか。子供ができたら、真っ先に会いに来るっていったのに…。ほんと、大馬鹿野郎だよ』

 

生前は絶対に言わなかった、あいつへの罵倒。彼を見送った時の言葉だ。

 

葬式と告別式を終えた後の黒桐の顔は、英霊となった今でも夢に見る。それくらい辛そうで、悲しそうな顔だった。

 

 

 

 

だから、もう繰り返さない。繰り返させない。俺の世界では手遅れだったが、この世界は違う。

 

あいつはまだ生きている、なんでここにいるのかは分からないが、それでも生きているんだ。なら、まだ戻せるはずだ。

 

俺は口を開く。話す事は苦手だから、ちゃんと伝わるのかわからない。けど伝えないと行けない。

 

 

「お前が死ぬと、周りが死ぬほど迷惑するんだよ」

 

 

額縁つけて、その微笑に叩きつけてやる。私は、そう誓った。






調査官

地雷の塊。彼が30まで生きている世界は今現在存在しておらず、大体が28くらいで過労死か交通事故を迎える。その原因の一切は不明だが、噂によると宝石翁も原因を調べているとかいないとか。


両儀 式

彼の死んだ世界の式。出会った直後にぶん殴ってやろうと思っていたが、英霊の身でやったら死にかねないと自重した模様。懐には三人で行った夢の国の写真が入っているらしいが、真相は根源の中である。


ルーマニアの名家

ユグドなんちゃら。


ドイツからの贈り物

孫に会いたいお爺ちゃんのお気持ち。なお娘に焼却される模様。慈悲はない。


室長

属性不明の魔術師。一時時計塔で講師をしていたが、有能な弟子を全員廃人にしてしまった為無事封印指定を貰った。橙子や切嗣とは面識があり、調査官を推薦するよう進めたのも彼である。ようは元凶、この世全ての原因である。


局長

とうとう自分に貧乏くじが回ってきたのかと震えている模様。心配しなくても調査官を囲った時点で貧乏くじ確定である。



作者

二部の出来が自分にどストライクした模様。番外編でカドックを出すと心に誓った。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。