調査官、カルデアに赴く   作:あーけろん

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調査官と頼れる後輩

「…へっ?つまり、私が彼の調査を手伝う。と言う事ですか?」

 

 

「うん、その通りだ。彼の調査に協力して欲しいのさ。」

 

 

カルデアの心臓部である『司令室』。そこで私『マシュ・キリエライト』はダヴィンチさんからある事を伝えられました。

 

 

なんでも、おとといから此処に査察に来ている調査官の調査を手伝え。とのことでした。

 

 

「けど、私は…。」

 

 

「…………。」

 

 

 

しかし現在、私の先輩。このカルデアの唯一のマスターは簡易特異点を解決するためにレイシフトを行なっている最中。今ここから離れるわけには…。

 

 

 

「君の言いたいことはわかる。けど、彼の仕事ぶりは見ておくべきだと思うんだ。」

 

 

「そうでしょうか?ただの調査なら、私にだって…」

 

 

「マシュ。」

 

 

 

…っ。わかってます。今の先輩は、この程度の特異点を修復するくらい私の手助けが必要ない事くらいは。けど…。

 

 

 

「彼の仕事は、是非君に見て欲しい。きっと、貴重な経験となるはずだからね。」

 

 

ダヴィンチさんは、真摯な目で私を見ます。その目には、私を思う気持ちが沢山込められていました。

 

 

…うぅ。そんな目で見られてしまったら、流石に私でも断れません…。

 

 

 

「…わかりました。マシュ・キリエライト、調査官の補助に向かいます。」

 

 

「うん。頼んだよ。」

 

 

 

私は司令室を出て、調査官の居るであろう部屋に向かいました。早く終わらせて、先輩を助けなければ!

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

 

 

「…やれやれだね。」

 

 

 

司令室から足早に退出するマシュを見て、私は少し嘆息する。彼女の考えている事が手に取るように分かるからだ。

 

 

大方、マスターのとなりにずっと居たいと思っているのだろう。私も、その気持ちはわからないでもない。

 

 

彼女は、ずっとマスターに依存している。今はまだ克服した方だが、それでも依存している事に変わりは無い。

 

 

前までなら、それでも構わなかった。なぜなら、彼女には将来が無かったからだ。

 

 

 

「…けど、今は違う。」

 

 

 

彼女には、未来が出来たのだ。普通の人間として、未来を謳歌する権利を与えられたのだ。1匹の、尊い獣のおかげで。

 

 

なら、依存を肯定する訳にはいかない。マスターは今は特異点修復のために精力的に活動している。だが、何事にも永遠がないのと同様に終わりが必ず来る。

 

 

それが怪我でも、死でも、だ。…そして今の彼女には、それはきっと耐えられない。

 

 

 

だから、彼女には知ってもらわなければならない。マスターがいなくなっても、自分の足で歩く方法を。

 

 

 

 

「…ま、先ずは様子見だ。」

 

 

 

彼女にとって、彼は初めての『外の人』になる。彼がマシュにどんな影響を与えるのか、先ずは見てみよう。

 

 

 

話を進めるには、きっとそれからでも遅くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…えっ。」

 

 

まず私が驚いたのは、山のように積み上げられた書類でした。

 

 

 

その書類の一つ一つは会計帳簿のようなもので、それ一枚でもかなりの情報量を誇ります。それが山のように積み重なっているのですから、その異常性が見て取れます。

 

 

 

ーーーーあぁ、すいません。部屋を借りているのに、こんなに散らかしてしまって。

 

 

「い、いえ。それは構わないのですが…。」

 

 

 

その書類の山の中に、彼は居ました。

 

 

部屋着なのか少し着崩したスーツに、軽く緩められたネクタイ。髪型は短く見たものに清潔感を与えるもの。

 

 

優しそうな顔立ちの、温厚にみえる男性でした。少なくとも、ダ・ヴィンチさんの言う『すごい仕事ぶり』をする人には見えません。

 

 

 

「あっ。初めまして、私はマシュ・キリエライト。局長代理から頼まれて、調査のサポートを行います。」

 

 

ーーーーあぁ、君が。初めまして、私は◻︎◻︎◻︎◻︎。まぁ気楽に呼び捨てでいいよ。

 

 

「わかりました。では、◻︎◻︎さんとお呼びしますね。」

 

 

 

彼は席を立ち、こちらに手を差し出して来ました。私は少し慌てて手を握り返します。

 

 

 

ーーーーうん。よろしく、マシュさん。

 

 

 

初めて覗く彼の瞳は、真っ黒でした。底の見えない、本当の黒。何を考えているのか、全く検討もつきません。

 

 

 

 

「はい。よろしくお願いします。」

 

 

 

ーーーー……じゃあ、そこに座ってもらえるかな?

 

 

 

「わかりました。…あの、何をするんですか?」

 

 

 

ーーーーうん。ちょっとした面接みたいなものだよ。あんまり身構えなくても良いからね。

 

 

 

面接……。もしかして、私に何か重要な情報を吐かせるつもりでしょうか?

 

 

もしそうなら、それは甘い考えです。私は口は堅いし、このカルデアを守るためになんだってしてみせます!

 

 

望む所です。この面接、無事に乗り切ってみせます!

 

 

 

指示された通り、席に座ります。彼はその対面の席に座り、懐からメモ帳と万年筆を取り出し、簡素な机の上に置きました。

 

 

…あれが、彼の武器ですか。

 

 

 

 

ーーーーそれでは、この組織についていくつか質問を行います。答えたくない質問は、答えなくても構わないから、そのつもりで。

 

 

「はい。」

 

 

 

ーーーーじゃあ、始めようか。

 

 

 

 

この時、私は全く知りませんでした。彼はカルデアの深い事情に全く興味がない事に。

 

 

 

そして、彼が優秀すぎる事に。

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーじゃあ、特にこのカルデアに不満はない。という事だね。

 

 

 

「はい、不満なんてありません。」

 

 

 

 

うーん。ここまで何度か質問して見てわかった事だが。

 

 

この子は、かなりアンバランスだ。

 

 

話を聞いている限り、知識としては知っている。という感じがヒシヒシと伝わってくる。

 

 

けれど、現場で働かなければ身につかない、直感のようなものも彼女にはある。

 

 

知識としての博識と、現場の直感。この二つが混在している人を俺は今まで見たことがない。

 

 

 

あとは、こちらに情報与えたくない事くらいか。

 

 

 

けど、なんで情報を与えたがらないのかな?なにか裏で暗いことをやっている様子は資金の流れから確認できなかったし。

 

 

 

…考えたくはないが、上からの圧力という事も考えられるかな。だとしたら嫌だなぁ。あの美人を疑うことなんてしたくないよ、ほんと。

 

 

けどこの子も可愛いし、もしそうなら全力で潰しますけどね。

 

 

 

ーーーー…質問を変えますが、マシュさん。あなたは、ここ以外で働いて見たい。と思うところはありますか?

 

 

 

「へっ?……そうですね。考えた事もありません。」

 

 

 

ーーーー考えた事もない?それは、ここで働く以外に選択肢はないという事ですか?

 

 

「はい。私にとって、ここは大切なところですから。」

 

 

 

 

 

彼女は、こちらが見惚れるほどの笑顔で言い放つ。…そうかぁ。この反応を見ると、どうやら脅されている線は無いな

 

 

 

……じゃあ、情報を隠す理由は一つか。

 

 

 

 

 

ーーーーマシュさん。あなたは、私のことをどう思いますか?

 

 

 

「…えぇと、真面目な方だと思います。」

 

 

ーーーー…なるほど。ちなみに、私は今右手のどこの指を動かしていましたか?

 

 

「はい、人差し指です。」

 

 

 

 

 

…あー。これ、俺のこと全く信用してないわ。それこそ、何気ない仕草ひとつに注意を払うくらいには。

 

 

人懐っこい笑み浮かべておきながら、酷い子だなぁ。

 

 

 

 

ーーーー……君、俺のことを信用してないでしょ?

 

 

「っ⁉︎…そんな、事は。」

 

 

 

俺の問いかけに、彼女は目に見えて驚く。こちらを笑顔で騙す狡猾さに、バレた時の不手際。うん、やっぱりアンバランスだ。

 

 

 

ーーーー普通なら、あんなどうでも良い仕草なんてわからない。君がすらすら答えられたのは、俺の仕草ひとつひとつに注意していたからだ。

 

 

「………っ。」

 

 

 

ーーーーなぜ、俺の仕草ひとつひとつに注意していたのか?緊張していたから?いや、そんな訳はない。現に、君は丁寧に情報を隠すほどの余裕もあった。

 

 

 

このまま話していても埒があかない。そろそろ、柔らかな化けの皮を剥いで、本音の話をしよう。

 

 

 

ーーーーもう、前座はいいだろう?

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

 

ーーーーもう、前座はいいだろう?

 

 

 

 

そう言い、彼は私と視線を合わせます。奥の見えない漆黒が、私の瞳を覗きます。

 

 

まさか、こんな簡単にバレてしまうなんて…!

 

 

…けど、このカルデアを守るためには、まだ…‼︎

 

 

 

「…私は、先輩の盾です。だから、ここの情報を、簡単に吐くわけにはいきません!」

 

 

ーーーーうん。先輩についてはまた聞くとして。…で?なんで俺に吐いちゃいけないの?

 

 

 

彼は心底不思議そうな感じです。何を白々しい、私たちの弱みを握って、裏から掌握しようとしている癖に…!

 

 

 

「それは、あなた方国連がカルデアの実権を握ろうとしているから…」

 

 

ーーーーうんうん。………うん?すまない、もう一回言ってもらって良いかな?

 

 

「えっ?だ、だから。あなた方国連が、カルデアの実権を握ろうと…」

 

 

 

 

私がそこまで言うと、彼はうがぁぁぁぁぁと呻き声を上げて机に突っ伏しました。ペンや手帳も纏めて倒れこみました。それは、もう綺麗に

 

 

 

 

ーーーーはぁ。深い理由があるのかと思ったらコレだよ。勘弁してくれよ、ほんと…。

 

 

「な、何ですか急に。まさか、それで同情を誘おうと…!」

 

 

ーーーーうん。君、少し黙ろう。

 

 

「…えっ?」

 

 

 

疲れ切った顔でそう言う彼には、なんと言葉に出来ない凄みがありました。いろいろ吹っ切っている人間の顔です。

 

 

 

ーーーーつまり、君は。俺が国連がここの実権を握るために送った尖兵だっていいたいんだね?

 

 

「ち、ちがうんですか?」

 

 

ーーーー違う。…こう言ってはなんだけど、君。かなり夢見がちな少女だね。

 

 

「は、はぁ⁉︎そんな訳…。」

 

 

ーーーーよく考えてみろ。ここは、どこの管轄だ?

 

 

 

 

ここがどこの管轄かって、そんなの…!

 

 

…あれ?ここは…

 

 

 

 

ーーーーそう。ここは『国際連合』所属人理保証機関フィニス・カルデア。つまり、もともと実権を握っているのは国連なんだよ。

 

 

 

「……あっ。」

 

 

 

思わず声が出ました。そうです、ここは元々国連の管轄。もう実権は握られているのですから、いまさら握りにくる必要なんて無いのです。

 

 

 

ーーーーようやくわかってくれたかな?

 

 

「じゃ、じゃあ?なんで此処に査察に来たんですか?」

 

 

ーーーーそりゃ、正しく運用されているか調べるためだよ。

 

 

 

 

あっけらかんと言う姿に、私は冷や汗が背中を伝う感触を覚えました。顔にも嫌な汗が伝います。

 

 

 

 

「け、けど。人事の入れ替えもあるんですよね?」

 

 

ーーーーまぁ、そこは人事部に聞かなきゃわからない。けど此処は専門知識がないと難しいらしいから、そんな大幅な変更は無いんじゃないか?

 

 

 

 

も、もしかして。私はとんでもない勘違いをしていたのでは…。

 

 

ひとつ息を吐くと、彼は再び私と視線を合わせる。漆黒の目には、少しの困惑が浮かんでいます。

 

 

 

ーーーーそろそろ、信用してくれたかな?

 

 

「う、疑ってしまい、すいませんでした!」

 

 

ーーーーいや、別に構わないよ。もともとはよく説明してなかった俺が悪かったんだし。

 

 

「で、ですが……。」

 

 

 

こんな失態、一体どうすれば良いのでしょうか。善意で来た査察官を一方的に猜疑し、あまつさえバレて窘められてしまったとなれば…。

 

 

最悪、私はここから何処かに飛ばされてしまうかも知れません…。

 

 

 

 

 

ーーーーなら、その気持ちはこれからの質問の答えに当ててくれ。

 

 

 

 

…えっ?いま、なんて?

 

 

 

「…い、良いんですか?」

 

 

ーーーーいいもなにも、このままだと資料なんて作れないからね。だからもう一度、協力して欲しいんだよ。

 

 

 

 

困ったように微笑んだ彼は、勝手に決めつけて、勝手に疑ってしまった身勝手な私に手を再び差し伸べてくれました。

 

 

ーーーーじゃあ。これよりいくつか質疑を行います。答えられない事は、答えなくても構いません。…良いね?

 

 

なら、名誉挽回のチャンスは此処しかない!

 

 

「はい。…よろしくお願いします!」

 

 

 

今度は、ちゃんと答えよう。わざわざもう一度やり直してくれる彼のために。そして、このカルデアを正しく知ってもらうために。

 

 

 




調査官

俺って第一印象悪いのかな?と真剣に考え始めた思春期社会人。書類は友達、パソコンは相棒、Excelは恋人。色恋性皆無の歩く無欲動物。けど彼女は欲しいしお嫁は欲しい。


マシュ・キリエライト

今作のドジっ子枠。思い込みって怖いよね、わかる。カルデアが好きすぎて色々と空回りしてしまったお茶目な子。調査官と舌戦を繰り広げるはずが、開始1分でマウントを取られてボコボコにされた模様。相手はプロだからね、仕方ないね。

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