調査官、カルデアに赴く   作:あーけろん

5 / 12
総合評価4000を超えました。多くのお気に入りや評価ありがとうございます。


調査官とサンタ服を着た聖女

「…むっ?お菓子が欲しい?」

 

「はい。できれば包んでもらえると嬉しいです!」

 

「それは構わないが…。一体何をする気だ?」

 

今日は、朝から珍しい人物か来た。あのフランスの聖女の幼少期のサンタだ。…言葉に直すと、違和感があるな…。

 

そんな彼女だが、会ってそうそう私にお菓子を包んで欲しいと言ってきた。…おそらく、なにかを企んでいるのだろう。

 

「え、えぇと…。ジャ、ジャックちゃん達と食べるんです!」

 

「それならいつも通り3人で来るだろう。…なにかあるのかね?もしやあのお菓子馬鹿の鬼に頼まれた訳ではあるまい?」

 

「ち、違います!り、理由は、その…。」

 

 

…む、これではまるで私が悪役みたいではないか。職業柄慣れているとはいえ、やはりあまり良い気分はしないな。

 

 

「…まぁ、君のことだ。ロクでもない事には使わないだろう。少し待っていなさい。」

 

「い、良いんですか!」

 

「なにやら訳ありらしいしな。…手頃なクッキーがあった筈だ。少し待っていたまえ。」

 

「ありがとうございます、エミヤさん!」

 

 

 

そう言って厨房の奥に入る。…さて、そろそろ彼女の目から離れたか。

 

彼女の考えている事は未だ分からないが、野放しにする訳にもいくまい。そうだな、小太郎君あたりに追跡を頼んでみよう。

 

きっと彼なら快く引き受けてくれるだろう。

 

 

「…まぁ、子供のやる事に付き合うのも、偶には悪くあるまい。」

 

 

 

 

_______________________

 

 

 

 

 

ーーーー…とりあえずは、こんな所か。

 

 

本日をもって、此処『人理保障機関フィニス・カルデア』の滞在一週間目となった。が、まだわからない所が多い。

 

 

いや、調べる所と調べる内容が多すぎるのが問題なんだけどね。

 

金銭面の流れについての精査は完全に終了。結果から述べるのであれば此処は極めて良好な運営状態であった。

 

借金や負債、個人の資金横領や偽装工作の類も一切確認できなかった為、運営は極めて良好と言って良いだろう。

 

 

まぁ、そんな事はどうでもいいんだけども。

 

 

 

金銭面についてはなんの問題も確認出来なかった。が、問題と言っていいのかわからないが、少し疑問に思う所が見つかった。

 

 

この施設は、多大な電力を賄うために原子力発電装置を設置している。まぁ、これだけでもこの組織がいかに大きいかわかる。

 

 

たが、その電力の使用率を見てみると、極めて意味のわからないものに割かれている事がわかった。

 

『近代観測レンズ・シバ』や『事象記録電脳魔・ラプラス』。

 

『守護英霊召喚システム・フェイト』、『電子演算装置・トリスメギストス』、『擬似地球環境モデル・カルデアス』と言った。用途不明なものばかり。

 

 

此処が国連系列の組織で無ければ、どこの中二病設定館だよ、と馬鹿にした所だ。いや、正直そうなのでは?と疑っているんだけど…。

 

 

 

ーーーーほんと、どうなってるんだ此処は…?

 

 

 

正直、かなり参っている。今まで多くのところに視察に行ったが、こんな組織は初めてだ。

 

用途不明なもので埋め尽くされている組織なんて聞いたことが無いんだが…。

 

 

…たが、この組織の謎はこれだけに留まらないのだ。

 

 

 

 

ーーーー…あとの問題は、これだよなぁ…。

 

 

 

俺の手元には『協力者名簿』と銘打たれた書類がある。

 

眼鏡を掛けた後輩属性極振りのマシュちゃんに頼んだら1日で用意してくれました。いやぁ、頼れる後輩ですね!

 

…いくら言ってもいいじゃない、どうせ夢物語なんだから。

 

あの時観測者なんてスカした言い方じゃなくて味方って言えば良かったかな?

 

…いや、俺はあくまでも傍観者で、お客様なのだ。そうでなければならない。決して味方でもないし、敵でもない。

 

 

 

話を戻すが、別にその名簿自体に問題がある訳ではない。正式な手順に則って作成された書類なので、作り方については問題ない。

 

 

だが……これは……。

 

 

 

ーーーー…シャーロック・ホームズ。ジャック・ザ・リッパー。ジャンヌ・ダルク。かぁ…。

 

 

 

かるく眺めるだけで目に飛び込んでる過去の偉人の数々。

 

 

コナン・ドイルの描いた世紀の名探偵や、ロンドンで多くの婦人を殺害しバックヤード警察から逃れた希代の殺人鬼、イングランドとの戦争でフランスを救った聖女。

 

 

 

いやいや、どう考えても可笑しいだろ⁉︎

 

 

 

何考えてんだこの組織⁉︎こんな物が、国連系列の組織の正式な協力者名簿だとでも言うのか⁉︎冗談じゃない‼︎

 

 

 

…いかんいかん。冷静なれ、気を鎮めるのだ…。

 

 

 

ーーーー…うーむ。会うしかないのか…。

 

 

 

我々の仕事の範囲は正式な職員の業務体系を調べるのみで、とくに協力者の調査は業務に入らない。

 

 

入らないんだけど…。

 

 

ーーーー…これは流石に問題だよなぁ…。

 

 

自己紹介の時、偽名を使うのはまだ良い。俺個人、もしくは国連に実名を明かしたくないのだろう。

 

 

それはそれで判断材料になる。ようは後ろめたい事をしていると公言しているような物だからだ。

 

 

だが、こういった正式な書類になるとそうは行かない。なぜなら、個人単位での話ではなくなるからだ。

 

 

偽名を書類に登録すると言う事は、組織にも何か後ろめたいことがあると言う事だ。

 

 

 

ーーーー…もっとも、ありえない話だけどな。

 

 

此処の局長、レオナルド・ダ・ヴィンチというふざけた名前ではあるが、能力は超のつくほどの一流だ。

 

これだけ大規模な組織をまとめ上げているにも関わらず、全ての書類に目が通してあった。よほど効率的に仕事ができなければ、こうは行かない。

 

レオナルド・ダ・ヴィンチの偽名も『万能人』という言葉に合わせれば、あながち間違っては無いのかもしれない。

 

 

 

ーーーーま、追々調べていきましょう。

 

 

 

さぁて、そろそろ本腰入れて調査始めますよ。

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

 

「…ここですか。」

 

 

私、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィはこの前から此処に来ている『ちょうさかん』と言う人の部屋に来ています。

 

 

服の着こなしも鏡で確認したし、顔もしっかり洗ってきましたし、失礼の無いようエミヤさんからお菓子も頂いてきましたし完璧です!

 

…けど、本当ならこの部屋は近づいてはいけないと師匠達から言われているのです。

 

なんでも『外の人とは成る可く接触してはいけない』とか。

 

そんなふうにサンタ仮面師匠や正しく育った私に忠告されているのに、私は此処にいます。

 

 

それは、どうしても聴きたい事があるからです。

 

 

「すぅ〜、はぁ〜。良し!」

 

 

聴きたい事はずばり、『外の世界のサンタはどんな人?』と言う事を聞くためです‼︎

 

私は絶対的にサンタであることは間違いありません。ですが、ほかのサンタのついてどうしても興味があるのです!

 

どんなものをプレゼントしているのか、どんなトナカイに乗ってるのか。

 

文献をいくら調べても詳しいことはわかりませんでした。ですが、外から来たひとなら詳しいことも知ってる筈!

 

私が真のサンタとして師匠たちを越えるためには、師匠たちと同じことをしては駄目なのです!

 

 

 

それじゃあ、早速…。

 

と、ノックしようとしたら、その手は宙を叩くだけでした。…えっ?

 

 

 

ーーーー…ん?

 

 

扉から出てきたのは、少し気怠げなスーツ姿の男の人でした。手には器用に紙束が積み重なっています。

 

真っ黒な石炭のような目が私を見下ろします。その視線に当てられると、少し身体が硬直してしまいました。

 

す、少し怖いですけど、ここで怯む訳にはいきません!サンタは、全ての幸せを届ける存在なのですから!

 

 

「あ、あの!私に、サンタについて教えて下さい‼︎」

 

 

私の言葉を聞くと、ちょうさかんさんは困った様に手元の書類を見ます。

 

 

ーーーー……その前に、この書類を置かせて貰っていいかな?

 

 

「あ、ど、どうぞ!」

 

 

 

 

こ、ここから私の戦いが始まります!が、頑張らなければ!

 

 

 

 

 

_________________________

 

 

 

 

 

ーーーーまぁ、座りなよ。

 

 

 

書類を部屋の机の上に置くと、彼は部屋にあった簡素な椅子を私に引いてくれました。どうやら、礼儀はしっかりしているようです。

 

部屋の中にはさまざまな紙束が積み重なっており、此処が仕事場と言うことがわかります。

 

 

「はい、失礼します。」

 

ーーーーえぇと。確か、サンタについて、だよね。

 

「そうです!私は、外の世界のサンタについて聞きたいんです!」

 

ーーーーその前に、お名前を聞いてもいいかな?

 

 

 

あ、そうでした。私としたことが、自己紹介もせずに質問してしまいました…。うぅ、反省です…。

 

 

「は、はい。私はジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィです!よろしくお願いします!」

 

ーーーー………………うん。よろしく。

 

「あ、これエミヤさんのお菓子です。とっても美味しいですよ!」

 

ーーーー………うん。ありがとう。

 

 

 

たっぷりと時間かけてちょうさかんさんは返事をします。…随分驚いているようですが、何かあったのでしょうか?

 

 

 

ーーーー僕の名前はロロ ロロ。よろしく…えぇと、なんて呼べば良いかな?

 

「私の事はサンタで結構です!」

 

ーーーー…そ、そう。ならサンタちゃん、なんでそんな事を?

 

「簡単です!外の世界のサンタについて教われば、私のサンタ業に磨きがかかるからです!」

 

 

 

そう、私はサンタの中のサンタ!って、あれ?何故か遠い目をして明後日の方向を向いています。…変な人ですね。

 

 

 

ーーーーそ、そっかぁ。それで、サンタのどんな事を聞きたいのかな?

 

「全部です!何を贈っているのか、どんなトナカイに乗っているのか、とにかく色々です!」

 

ーーーーよし、切り替えよう。まともに相手したらダメな奴だこれ。

 

 

 

…??さっきからこの人、何を言ってるのでしょうか?ちょうさかんさんは一度目を閉じると、深呼吸し、もう一度目を開けました。

 

すると不敵な笑みを浮かべて、私に衝撃の事実を突きつけてきました。

 

 

 

ーーーーじゃあ、まず。…実は、俺もサンタなんだ。

 

 

「え?……えぇぇぇぇ⁉︎」

 

 

 

 

 

____________________________

 

 

 

 

 

いまから現実に飛び込もうとしたら、幼女が特大爆弾を積み込んで特攻してきたでござる。

 

…うがぁぁぁぁぁぁ。もう無理、しんどい…。

 

『私はジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィです!』

 

 

 

いやいや、冗談だろ⁉︎

 

 

100歩、いや1000歩譲って、ジャンヌ・ダルクはまだ許そう。金髪だし、可愛いし。

 

 

 

けど、『サンタ』ってなによ?

 

あと『オルタ』ってなによ?alternativeの略称か?

 

 

……とてもではないが、普通の名前とは思えない。第一長すぎるし、語呂が悪いってレベルではない。

 

 

それに自分をサンタと信じて疑っていないご様子。…ダメだ、キャラが濃すぎる。なにかのアニメのコスプレか?うん、きっとそうだ。そうに違いない。

 

…まぁ、いい子そうであるのは確かだし?なら付き合ってあげるのはやぶさかではない。

 

なんでこんな雪山に子供がいるのか、という事には目を瞑ろう。

 

正直これからの事で気が参っていたので、こう言った気分転換は大歓迎だ。…幸い、急務の仕事は終わってるし。

 

どれ、飲み会の罰ゲームのノリでグリーンランドのサンタ村にサンタの研修に行った話でもしてやろうか。

 

…ほんと、局長は今度〆よう。うん、そうした方が人類の為だよ。

 

 

 

 

 

_________________________

 

 

 

 

 

 

「へぇ〜!じゃあ、調査官さんはそこでサンタクロースのイロハを学んだんですね!」

 

ーーーーうん、まぁね。

 

話してみてわかった事だが、この子は普通の子供と名前以外なんら変わりない子だ。

 

ちょっと興味を持つところが変わってはいるが。

 

 

 

「じゃあじゃあ!サンタクロースの友達はいるんですか⁉︎」

 

ーーーーまぁ、いるにはいるね。…ちょっと変わってるが。

 

「へぇ〜、良いなぁ…。」

 

 

 

最初のうちは緊張していたサンタちゃんも、今となっては楽しそうに俺と会話している。

 

 

うーむ、やはり可愛い女の子だ…。

 

 

この組織に入る試験には顔の良さも含まれているのでは?と錯覚を覚えるほどだ。

 

…俺の組織に何人か引っ張れないだろうか?花があればもっと仕事効率も上がると思うし。うん、名案だな。

 

やっぱりやめよう。ドロドロの関係が巻き起こって職場が針山に生ま

れ変わってしまう。

 

 

 

ーーーーサンタちゃんにも、友達はいるだろう?

 

「はい、います。…けど、サンタのお友達なんていなくて…。」

 

 

 

…うーむ。友達はいるけど、共通の話題を話せる友達がいないという感じだな。

 

俺もあったなぁ、こんな事。そんな時は無理やり将棋とか五目並べとか色々布教して回ったっけ。

 

 

……どっかの詩人みたいな奴には教えて3日で勝てなくなったけどな。

 

 

 

ーーーー…そうだ。その子たちは、今どこにいるの?

 

「へっ?ジャックちゃん達なら、ここにいますけど…。」

 

 

俺の発言の意味が分からず、頭に疑問符を浮かべるサンタちゃん。うーむ、可愛い。

 

 

 

ーーーーなら良かった。丁度暇だったから、その子達も呼ぶと良い。

 

「な、何をする気ですか⁉︎も、もしかしていかがわしい事を…。」

 

 

 

そう言って身体を俺から隠す様に逸らす。うーん、犯罪臭がしますねぇ…。

 

って、アホかいな。

 

 

ーーーー違う違う。…ちょっと息抜きに、ね。あと、そろそろ季節的に丁度良いからね。

 

「…はい?」

 

ーーーーサンタ講座を開こうと思って、ね。

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

「……むっ?」

 

 

 

いつも通り、夕食の下拵えを始めようとした時だった。

 

 

 

「待ってよジャンヌ〜!。」

 

「急がないと遅くなっちゃいます!」

 

 

 

このカルデアにいる少女何人組が、急いで廊下を走っている姿が目に映った。なぜかジャンヌはとても嬉しそうだ。

 

 

「…エミヤ殿。」

 

 

「む、小太郎君か。それで、彼女は?」

 

 

「はい。ジャンヌ・サンタ殿はどうも、この前から此処に査察にきている調査官の所に行ったそうです。」

 

 

…調査官の所だと?確か彼にはあまり近づいてはいけないと話してあった筈だが…。

 

 

「ジャンヌ・サンタは、何をしに彼に会いに行ったかわかるかい?」

 

「はい。サンタについて、色々と聴きに行ったそうです。」

 

「…そうか。それで、調査官の様子は?」

 

 

「とても親切にジャンヌ・サンタ殿と話していました。…それに、彼女も嬉しそうに色々と話していました。」

 

 

 

風魔一族の観察眼なら、信用に足るものだろう。という事は、ここにきた調査官は此処に害を与える存在ではなさそうだ。

 

 

…態々此処に来るくらいだ、相当権力や権威にしがみついている奴だと思っていたがそうでも無さそうだ。

 

 

「…どうします?裁定者(ルーラー)の方々にこの事を伝えますか?」

 

 

…たしかに、いくら彼が信用に足る観察眼を持っているとはいえ、万が一もある。

 

もっとも、彼女らがそう簡単にやられる訳もないが。

 

…それに。

 

 

 

「ほら!早く早く!」

 

「もぉ〜!待ってよ〜!」

 

 

 

 

あんな楽しそうにしているのだ。水を刺すことの方が、よっぽど無粋だろう。

 

 

 

「…いや、やめておこう。それより、準備がある。」

 

「準備?なにかやるのですか?」

 

「なに、今朝渡したクッキーだけでは足りないだろう。新しくクッキーを焼こうと思ってね。君も手伝ってくれるか?」

 

 

「…はい、僕でよければ。」

 

 

小太郎は笑顔で私の提案に賛同してくれた。

 

 

さて、どんなクッキーを焼こうか?たまにはしっとりとした口当たりのクッキーでも良いだろう。幸い、小太郎も手伝ってもらえるようだからな。

 

 

「あの調査官は、クッキーは好きだろうか?」

 

「えぇ、食べたら目を丸くして驚いていましたよ。」

 

「ふっ、それは僥倖。なら、今度はもっと驚かせてやろう。」

 

 

 

こちらに害を与えないうちは、こうしているのも悪くないだろう。なにせ、数少ない客人なのだから。

 

 

 




調査官

実はここって魔境なのでは?と疑い始めた鈍い主人公。今いるところで自分の精神と現実と常識を試されていると確信している。エミヤ証のクッキーを食って死ぬほど驚いた模様。


ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ

長い、説明不要。サンタの在り方を調査官に聴きにいって話術にはまってしまった可哀想な女の子。そこからジャックとナーサリーに伝染していく悪循環を生み出す模様。調査官の話は面白いからね、仕方ないね!


エミヤ

みんなのオカン。無銘も好みです、はい。我がカルデアには未実装の模様。ピックアップはよ、はよ。ネタバレすると次回のメインキャラ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。