調査官、カルデアに赴く   作:あーけろん

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※2章と矛盾点が生じています。大変申し訳ございません、作者にあんな伏線を予想する事なんて出来ませんでした。


調査官と正義の味方 1

『人理保証機関 フィニス・カルデア』

 

 

標高6000mに位置する、正体、存在理由、存在意義、それら全てが謎の組織。

 

標高6000mの雪山という事から、交通の便はすこぶる悪い。ゴンドラは愚か、登山道すらろくに整備されていない。

 

そんな雪山にある施設なのだ、娯楽は愚か、食事すらまともなものはないだろう。非常時用の貯蓄を減らさせるわけにもいかないし。

 

だから俺はわざわざ食事を最低限取らないようにしていた。空腹でも最低限仕事の効率を落とさない方法は、前の職場で学んだからだ。

 

 

だが……。

 

 

「ここが食料庫です。一応、ここの職員を向こう3年分の食料は保管してあります。レイシフトの時にも小まめに補充しているので、食料が尽きることは無いと思います。」

 

 

可愛い後輩キャラのマシュちゃんに館内を案内されている時、俺は信じられない物を目にした。

 

 

業務用の巨大な冷凍庫に並べられた色とりどりの食材。倉庫に保管されていた大量の備蓄。冷蔵庫の中の中にはどういう手段で手に入れたのか、足の速い野菜すら並べられている。

 

 

 

ーーーー…常に、この状態を維持しているんですか?

 

 

「はい。もっとも、今はクリスマスも終わって食料が減っている状態ですが。」

 

 

 

…ここって、雪山だよな?

 

なんで辺鄙な雪山にある施設にこんなに大量の食料、おまけに新鮮なものが揃えられているんだ?

 

書類ですでに確認したが、ここには約一年間どんな組織も補給に訪れていないはずだ。

 

UFOや空飛ぶ船でも使っている、と言われても不思議は無いな、ここまでくると…。ありえないけどね。

 

 

 

「…あっ。そうでした。実は、伝えたいことがあったんです。」

 

 

 

いや、しかしあり得るのではないだろうか?寝ぼけてたのか、昨日人の3倍から4倍ほどの大きさの狼とその上に乗った首なし人間に遭遇したし。

 

 

いやぁ、夢にしては良く出来てたなぁ。

 

 

 

ーーーー…うん?伝えたいこと?なんだい、それ。

 

 

「はい。実は、お礼を伝えようと思いして。」

 

 

 

そう言うマシュちゃんだが、はて?何かお礼を言われるような事などしただろうか?

 

ここ最近やったことといえば、仕事と痴女っぽい幼女達にサンタ知識を教えていた位なんだが。

 

 

 

「ジャックちゃん達と遊んでくれて、ありがとうございました。」

 

 

ーーーーあぁ、そんな事か。別に構わないし、そもそも好きでやったことだしね。

 

 

「けど、とても楽しそうでしたし、やっぱりお礼は必要かなって。」

 

 

 

 

そう言って微笑む彼女は、やっぱり良い子なんだなぁ。と思える。

 

 

けど、俺にはやらなきゃいけない。言わなきゃいけない事があるんだ。

 

 

……大変良い雰囲気なのはわかる。ここであの話題を出してはいけないことも、重々承知している。

 

 

だが、この話題を振られた時に必ず言おうと決めていた事があるのだ。

 

 

それは言うまでもないが、彼女達の服装である。

 

 

度がすぎたゴスロリ衣装に、迷走しているデザイナーの考えたであろうサンタ服。極め付けは痴女もビックリな露出姿。

 

 

 

他人の子供にあれこれ言うつもりは毛頭ない。ないのだが…。

 

 

あれで外歩かせたら大きなお友達に攫われちゃうから。保護という名目であれこれされちゃうから。

 

 

おまけに、あの服装で学校に行こうものならイジメに遭うのは必至だろう。その結果、悲惨な人生真っしぐらまである。

 

子供に可愛い服を着せたいという気持ちも大切だが、子供の気持ちを考えてあげて欲しい。

 

 

 

ーーーー…じゃあ、お礼ついでに一つ頼まれてくれないかな?

 

 

「頼み事、ですか?なんでしょう?」

 

 

ーーーー今度、此処に子供服を送るから彼女達に着させてあげてくれ。

 

 

「…はい?まぁ、かまいませんけど…。」

 

 

 

良かった。これで、彼女達の未来は守られた。

 

 

少しの感動と達成感を覚えた俺は、再びマシュの解説に耳を傾けた。

 

 

 

____________________

 

 

 

 

ここまでの解説で、一つわかった事がある。

 

『レイシフト』と呼ばれる謎の隠語だ。先ほどのマシュも言っていたが、これは遠征や派遣の時に使われる物だと推測している。

 

 

今現在も、マシュちゃんが『先輩』と慕う人物が現在レイシフト中らしい。

 

 

まぁ、それはひとまず置いておこう。おいおい知る事の出来るはずだ。

 

 

ーーーーそれで、ここには調理師は在籍しているんですか?

 

 

「はい?調理師、ですか?」

 

 

 

調理師、という存在は案外蔑ろにされがちだ。だが、この存在が組織の円滑な運営には絶対に不可欠な存在であると俺は考えている。

 

 

飯が美味ければ、些細ないざこざは消え去るものだ。実際、飯さえちゃんとしてれば多少の出来事は水に流す事が出来るはずだ。…他人がどうかは知らないが、少なくとも俺はそう思っている。

 

 

だから組織という大きな集団を動かすためには、調理師の存在は必要不可欠なのである。実際、俺が調査に行くとまず調理師を雇うことを勧めるくらいだし。

 

 

 

これだけ豊富な食料はあるのは、ほかの組織でも類をみないだろう。だが、肝心な『調理師』の存在を認知することが出来なかった。

 

 

書類を精査している中になにか免許や資格を持っている人もいなかったが…。それならここでは誰が調理をしているのだろうか?もしくは個別?

 

 

 

「はい、『エミヤ』さんがその役割を担っています。」

 

 

 

ーーーー……うん?

 

 

 

…どうやら、俺は疲れているらしい。今、俺の耳に聞き捨てならない単語が届いたのだが?

 

 

『エミヤ』って、『衛宮』だよな?それとも『笑也』?はたまた『網屋』?

 

 

 

…いやいや、ないない。老けたジジィに超絶美人人妻、超絶可愛らしい娘ややたらとモテる赤髪小僧の関係者がこんなところにいるはずが無い。

 

 

だよなぁ。あんなお人好し一家の身内がこんな所にいるわけないし、もしいたら世界狭すぎて泣けてくるわ。

 

 

 

「……君が、調査官なのか?」

 

 

「あっ、エミヤさん。」

 

 

 

そうだよ、そんな事はありえない。あんな長身で腹筋バキバキ、おまけに厳つい目をした。どこか小僧と似ている奴が親類者な訳がない。

 

 

 

ーーーー…うそだろ。

 

 

 

はい関係者確定。…世界って狭いなぁ。うん。

 

 

…あのジジィ、また隠し子持ってやがったのか。

 

 

 

 

 

 

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今思えば、初めから既視感があった。だから、調査官と会うのを避けていたのだ。

 

 

人並み外れた体力を持ち、人間離れした身体能力を持つ。そして、まるで悪魔のように話術に長けている。

 

 

そして、労働に取り憑かれた存在。

 

 

 

『◾︎◾︎は、俺みたいな大人にはなるなよ?』

 

 

 

彼は爺さんの数少ない知り合いで、良く家に来ては爺さんと酒を飲んでいた。

 

 

今の言葉は、酔いを醒ます為に付き合わされた散歩で聞いた言葉だ。

 

 

よく晴れた新月の日だった事を、今でも覚えている。

 

 

普段の明るさとは打って変わった、諦観と悔恨の念に満ちた声だった。

 

 

 

『…はぁ?なんでだよ?だって、兄ちゃんはみんなの為に働く凄い人なんだろ?』

 

 

昔の俺は、その言葉の意味がわからなかった。ロロさんは、みんなの為に一生懸命働く人だと爺さんに教わっていたからだ。

 

 

 

『…いや、違うよ。俺には、それしか無かったからだ。』

 

 

『…うーん、よくわかんない。』

 

 

『あぁ、それが良い。…もし、君がこの言葉の意味を理解したのなら。』

 

 

 

 

 

 

 

『君の人生は、その時点で終わりを迎えるからね。』

 

 

 

 

 

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ーーーー…さて、そろそろ良いと思いますよ。

 

 

「あぁ。そのようだな。」

 

 

 

 

マシュちゃんと別れた後、エミヤと名乗る筋肉むきむきの奴と自室に移動する。

 

別に仕事でそうした訳ではない、これは極めて私用な事だ。

 

 

『エミヤ』という言葉には、少なくない思い入れがある。少なくとも、普通の知り合いという言葉では収まりきれないだろう。

 

 

 

だからだろう。彼のことを放っておくことが出来ないのは。

 

 

 

ーーーーまず、君の名前は偽名ではないね?

 

 

「あぁ。私は、紛れもなく『エミヤ』だ。」

 

 

ーーーー…なら良いんだ。

 

 

 

彼は用意した席には座らず、壁にもたれかかって腕を組んでいる。俺はその彼に座りながら話している状況だ。

 

 

…そう言えば、切嗣さんもこんな感じの出で立ちだったかも知れない。

 

 

 

「そういう君は変わらないな。」

 

 

ーーーー…どこかで会いましたか?

 

 

 

…今の口調は、知り合いもしくは顔見知りに話す時のものだ。だが生憎、彼との面識はない。

 

 

 

 

 

「いや失敬。気にしないでくれ。」

 

 

ーーーー…そうですか。なら、そう言うことで。

 

 

 

まぁ、そんな事はよくある事だ。相手にどこか親近感を覚えて身近に接する、本当に普通のことだ。

 

 

……な訳あるか。これ絶対面識あるぞ。

 

 

おまけに俺の昔を知っているような口振り…。

 

 

小学か中学の同級生か?…仲のいい奴いなかったからないな。

 

 

 

そんなロクでもない事を考えていると、彼は瞳を開てこちらを見る。無骨な、けれどどこか暖かみのある瞳と視線が合う。

 

 

やっぱり、似ている。

 

 

肩上がられた肉体、俺より一回り大きい身長、褐色の肌に白髪と共通点はどこにも無い。

 

 

けど、この瞳だけはそっくりだ。

 

 

 

 

「…私の顔に、なにか付いているかね?」

 

 

ーーーーいや、何でもありません。それより、そろそろ本題に入りませんか?

 

 

 

彼の出自について散策するのはやめよう。彼は、間違いなく『衛宮』の血縁者だ、それは間違いない。

 

 

もしかしたら切嗣の遠い親戚かも知れないし、まぁ世界は狭いという事で納得しよう。

 

 

 

 

 

そう、彼が『衛宮 士郎』であるはずがないのだから。

 

 

 

 

 

 

_________________________

 

 

 

 

 

…やはり、変わらない。

 

 

俺がまだ未熟者であった時のままだ。

 

 

疫病神に憑かれたかの様な雰囲気に、痩せた身体。この体型にもかかわらず剣道は滅法強いのだから人間は不思議なものだ。

 

 

 

ーーーーそれより、そろそろ本題に入りませんか?

 

…気丈に振る舞っているが、少しふらついている。やはり、身体にはガタがきているのだろう。

 

スーツで雪山を登山したと言うだけで下手をすれば死んでしまうのに、その後ロクに休みもせずに働いているのだ。無理が来るのも無理はない。

 

 

 

 

「あぁ。それでは、聞かせてもらう。」

 

ーーーーえぇ、どうぞ。

 

 

 

 

 

脳裏に浮かぶのは、一枚の風景。

 

 

 

 

 

風の入る白い病室。簡素なベットに横たわる、人間だったナマモノ。

死体と言うにはあまりに綺麗で、だからこそ残酷な景色。

彼は過去、文字通り、仕事に殺されたのだ。

 

 

 

 

 

だから私は聞かなければならない。彼にとって、仕事とは何なのかを。

 

 

 

 

「君にとって、仕事、労働とは何かね?」

 

 

 

少しの静寂が包む。決して居心地の良いものではない、刃のような雰囲気が流れる。

 

 

そして、彼はそれを意にも介さず口を開いた。その言葉は、ある種当たり前で、そして異常なものだった。

 

 

 

 

ーーーー当たり前、だよ。無くてはならないものでは無く、あって普通なものだ。

 

…あぁ。私には、一生彼のことが理解できないだろう。

 

 

 

 

 

 




調査官

エミヤの世界線では過労死した模様。現在の彼が見たら爆笑間違いなし。空の境界の黒桐 幹也を『異常な普通』と称すなら、こいつは『普通の異常』と称すべきだろう。仕事は普通、当たり前。


正義の味方

今作のエミヤは記憶がかなり引き継がれている。調査官とはかなり縁が深く、彼とはじめて会った時は死ぬほど驚いた模様。




※今作は2章の内容はあまり含みません。ご留意下さい。

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