調査官、カルデアに赴く   作:あーけろん

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らっきょコラボ復活おめでとうございます。この調子でプリヤも頼む(懇願)


調査官と名探偵 2

 

 

 

 

 

「…さて。何処から話そうか」

 

ーーーー何処からでも構いませんよ。時間はありますから。

 

 

カルデアから与えられた自室、そこに置かれた簡素な机を挟んで2人は座っている。

 

互いの前には淹れたての珈琲が置かれており、未だ白い湯気を吐き出している。因みにエミヤ製のものではなく、インスタント珈琲だ。

 

互いに不味い珈琲に口を付け、唇を湿らせる。エミヤ製の珈琲を飲んだ後だと、まるで泥水だ。

 

 

 

「…君、インスタント珈琲の淹れ方間違えてないかな?」

 

ーーーーいえ?ただ粉を目分2倍近く入れてるだけですよ。

 

「カフェインの取りすぎは身体に悪い。気をつけた方が良いよ?」

 

ーーーーご忠告どうも。ですが、生憎これくらい無いと飲んだ気にならないので。

 

 

 

俺の淹れた珈琲を飲んでホームズは顔を顰める。そんなに苦かったか?不味くはあるが、苦くは無いと思うのだが。

 

 

「…さて、唇も湿らせた事だしそろそろ質問に答えようか」

 

ーーーー助かります。時間があるとは言え、有限である事に変わりありませんから。

 

「そうだね。じゃあ、まずは何を聞きたいのかな?」

 

 

そろそろ世間話も閉じ、本題に切り出す頃だろう。時間が有限であることに変わりはないのだから。

 

 

 

ーーーー『魔術』、もしくはこれに準ずる異能力は実在するのかどうか。

 

「それを答える前に、君にある約束をしてもらいたい」

 

ーーーー約束?

 

「これから私の話すことは、世間一般に公開してはならない。これが、私の提示する『条件』さ」

 

 

本題に切り込んだ直後、向こうから条件が提示される。よくある『黙秘』の依頼だが、それを真面目に聞くほど甘くは無い。

 

 

ーーーー何故ですか?後ろめたい事がないのであれば、別に公表しても問題はないと考えるのですが。

 

「それは耳が痛い話だが、本筋はそこじゃない。もし世間に公表しようとすると、君が間違いなく殺されるからさ」

 

ーーーー私が、殺される?

 

 

殺される?俺が?

 

…『魔術』という言葉から真っ当なものではないと感じてはいたが、まさかそこまで安直とは。

 

予想というのは案外当たるものだ、先入観を持ってしまう事があるのが玉に瑕だが。

 

 

 

ーーーー今の世間では匿名による公表も可能です。俺個人が特定される事は考えにくいのですが?

 

「残念だが、これ以上は先ほどの条件を飲んでもらわないと話せない。悪いけどね」

 

 

 

そういう彼の態度は毅然としており、それが前提条件である事がうかがえる。

 

…これを飲まなきゃ先に進めないということか。だが、俺にも渡せない条件がある。

 

 

ーーーー…わかりました。ですが、俺の職場である『国際連合事務局』には報告させて貰います。

 

「…ふむ。もし、それを受け入れなかったら?」

 

ーーーー『虚偽報告』多数という事を報告させて頂き、然るべき『処罰』を受けて頂きます。

 

 

処罰という『優しい』言葉を使っているが、ようは『人事の再編』である。ここにいる人間を全員ここ以上の僻地へと飛ばし、『国連』に首輪をつけられた人材を派遣する。

 

簡単に言うと組織の『乗っ取り』である。

 

 

 

 

「……もし、今ここで君を『口封じ』出来ると言ったら?」

 

ーーーー構いませんよ?もっとも、窮地に立たされるのはそちらですが。

 

 

 

『口封じ』なんて常に付き纏う言葉だ。そんな覚悟、誓約書を書いた時に決まっている。

 

…それに、『口封じ』なんてするはずが無い。彼ほどの聡明な人物なら、そんな事をしたらもっと不味い事になる事は分かりきっているだろう。

 

さぁ、どう出る?これ以上…。

 

 

 

「……ハハハッ!」

 

ーーーー…はい?

 

 

緊迫した雰囲気から一転、弾かれたような笑い声が響く。一瞬誰が笑っているのかと思ったほどだ。もっとも、笑っているのは目の前の男性だが。

 

 

「いや失礼。つい笑い声が出てしまった」

 

ーーーー…笑い話をしに来た訳じゃないんですけど…。

 

「そうだとも、やはりそうでなくては。こちらの思い通りでは面白くない」

 

ーーーー駄目だ、話を聞いてない。

 

 

しまった。話し方から常識人と判断していたが、彼もまたここの住人。まともな筈なかった…。

 

 

「いいとも。その条件を飲もう。ただし、君もこちらの条件を飲んでくれ給え」

 

ーーーー構いませんよ。そもそも、世間に公表する価値もありませんし。

 

「…そうか。それじゃあまず結論から言おう」

 

 

机の上に置かれた珈琲は既に冷め始め、湯気の勢いも衰え始めた。その掠れた湯気の向こうの男性は少しの間を置くと、その口を開く。

 

 

 

「『魔術』は、実在する」

 

 

 

その言葉ははっきりと、聞き間違えようのないほど鮮明に聞こえた。それと同時に、自分の中にある種の確信を覚える。

 

 

もう後戻りは出来ない、という事を。

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

 

ーーーー……今、何時だ。

 

 

壁につけられた時計を一瞥すると、針は既に12を回っている。あの名探偵との会話が終わったのが10時頃と考えると、実に2時間ほどの時間ほどベットで仰向けになっていた事になる。

 

 

…まぁ、今回は仕方ないだろう。流石の俺も、現実を受け止めるのにかなり苦労している状況だ。

 

 

ーーーー局長、恨むぞ…。

 

 

そう、思わず恨み言を言うくらいには弱っているつもりだ。

 

 

よっと身体を起こすと、枕元に置かれてある書類に手を伸ばす。シャーロック・ホームズ氏から手渡された、『魔術』の存在を表す重要な書類だ。

 

 

神代から続く神秘の系譜。『魔術王ソロモン』の死から衰退を始めたそれは、今も細々と活動を続けているらしい。

 

しかもその『魔術』は、我々の世界でも有名な事件の引き金になっているものがあった。海上で爆発し消息不明になった航空機、街一つ消える火事、膨大な数の集団失踪。これらもまた、『魔術』の存在が関わっていたのだ。

 

そして、この組織を取り巻いている全ての存在もまた、完璧とは言えないが理解できた。

 

 

『英霊』のこと。『人理』のこと。『フィニス・カルデア』のこと。この組織の謎全てを、この書類を持って知ることができた。そう、出来たのだが…。

 

 

ーーーーこれ、どうしようか。

 

 

『魔術』の存在、これは控えめに言って世界の有り様を変えることのできるものだ。それと同時に、これらの内容は世間に受け入れられない事も分かった。

 

 

だってそうだろう。『今までおとぎ話のものは実は本物でした』と言ってはたして誰が信じるだろうか、いや、誰も信じはしないだろう。

 

 

ーーーーまぁけど、局長は多分知ってたんだろうなぁ…。

 

 

くそう、くそう。局長のせいでまた貧乏くじを引かされた。そもそも、なんで俺をここに派遣する必要があったんだよ。

 

国連の狸どもの中に絶対魔術に詳しいやついるだろうし、そして局長もその1人だろうし。もう、あれだ。俺には雲上人の考えがわからん。

 

下っ端は上からの命令を聞く事しか出来ないからなぁ…。あぁ、出世したい。出世して可愛い女の子を部下にしたい。

 

けど現時点でそれは絶望的だよな。やっぱり公務員という甘い罠に誘われた俺の報いか…。

 

 

ーーーーそうだ。今度起業しよう、そうすればきっと全て丸く収まる。

 

 

などなど、ひたすらバカみたいな妄想を並べているがそれをする度に頭は冷静になっていく。こういう時、現実逃避できない自身の頭を心底呪いたい。

 

 

この書類の結果、この『フィニス・カルデア』に名を連ねる『協力者』達は、その全てが本人であることが判明した。

 

つまり、ここに正規の殺人鬼である『ジャック・ザ・リッパー』や石化の魔眼を持つ『メドゥーサ』と言った存在が実在していることになる。

 

 

…正直、今すぐここから出て行きたい気分に駆られる。

 

 

いや、もしこの書類が本当ならの話だよ?もし本当なら俺は今すぐここから出て行きたい。この雪山を走って降りたい位だ。俺はまだ死にたくない。

 

 

100歩譲ってジャックはまだ良い、けどメドゥーサは不味い。現代医学では石化した人間の治療なんて不可能だ。魔眼を食らったら間違いなく死ぬ。

 

 

いっそ、この出張自体が夢幻であったらどんなに楽だろうか。と思わずにはいられない。

 

結局、俺にはこの職業はやっぱり向いてなかったのかもしれない。そもそも、何も背負うものがないのに頑張る必要もないだろ。

 

 

ーーーー決めた。この職業やめよう。辞めて田舎の山に篭ろう。うん、それが良い。

 

 

よし、目標が決まった。とりあえずこの案件ははしっかりとこなして、そしてやめよう。夢にまで見た辞表パンチを繰り出す時がきた。

 

 

それじゃあ早速…

 

 

 

「おにーさん。何やってるの?」

 

ーーーーうん?

 

 

全く気配を感じなかった左から、幼い女の子の声が聞こえる。一瞬気のせいか?とも思ったが、振り返って見るとそこには1人の少女。というより、サンタちゃんの仲間である『ジャックちゃん』が居た。

 

 

 

時たま3人で俺の部屋に来てはお話をねだる可愛い女の子だ、服装はちょっと薄すぎるけど。しかし、どうやら今日は1人らしい。

 

 

 

ーーーージャックちゃん、今日はほかの2人と一緒じゃないのかい?

 

「うん!2人は今お勉強中!」

 

ーーーーそうかそうか。………ん?

 

 

 

…なんだ。この違和感は?

 

何処だ、この違和感の正体は?

 

…『ジャック』?

 

 

そう言えば、今まで考えてもいなかったけど普通女の子に『ジャック』なんて名前はつけないよな。

 

 

……いやいや。まさか、それこそあり得ない。それこそ、天地がひっくり返ってもありえない。

 

 

 

ーーーーねぇ、ジャックちゃん。ひとつ、聞いても良いかな?

 

「なに?おにーさん」

 

ーーーー君の本名は、なんて言うの?

 

「うん。私は『ジャック・ザ・リッパー』だよ、おにーさん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー……………うそだろ。

 

 

 

 

 

 

___________________________

 

 

 

 

 

『メールが着信しました。メールが着信しました』

 

 

個人用の携帯電話からメールの着信を告げる音声が流れる。このアドレスを知っているのは、家族や本当に信頼できる人物位だ。

 

そしてこの時期にメールが来るとなれば、相手は1人しかいないだろう。

 

 

携帯電話を開くと、やはり相手はロロ。そろそろ勘付く頃合いだと思っていたから、予定調和と言ったところだろうか。

 

予想通り、彼は『魔術』の存在を知っただろう。そして彼を派遣した理由を『万能の人』は正しく理解したはずだ。

 

 

「やれやれ。謀略の類は苦手なんだけどね」

 

 

たが、直属の上司である『事務総長』に頼まれては仕方ない。全く、孫のように可愛がった娘の置き土産くらい、自分で管理すればいいものを。

 

まあこれで『協会』の連中に喧嘩を売ったことになるだろう。これか

ら忙しくなるだろうが、『彼』が戦力になるから問題にならないだろう。

 

 

本題のメールのタイトルは簡潔に『経過報告』。遊びの『あ』の字も知らないあいつらしいタイトルだ。

 

 

「………うん?」

 

 

だが、メールは二通あった。一つはごく普通のものだが、もう一つのメールについてはパスワード付きかつ、ご丁寧に追跡妨害の処理まで施してある。

 

これが、前者のメールである。

 

 

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『経過報告』

 

 

『人理保証機関 フィニス・カルデア』(以降『甲』と呼称)は、極めて謎の多い組織であった。甲の設立者は『』。彼を協力者(後日身分開示)を用いて調査をした結果、ある一定の時期に急激に資金を確保しており、資金の流れに不鮮明なものが見られた。

その時期に彼は『日本国 冬木市』に滞在しており、そこでなんらかの裏取引を行ったと考え、組織の裏取りを念入りに行う予定。

しかし、現在の甲の運営状況は順調である。内部反発も特に発生しておらず、今の資金の流れにも不正は感じられない。だが、人材の方にいささか常識とはかけ離れた問題が発生しており、問題の究明と解決策を提示するよう代表者に求める予定。

 

 

滞在から既に一週間が過ぎたが、生活環境は特に問題がない。極地に組織を作るのであれば、この組織の構造を元に作ることが最適であると考える。

第一次経過報告は以上。一週間後に第二次経過報告を提出予定。

 

以上

 

 

 

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うん。いかにも彼らしい、わかりやすくまとめられた報告書だ。

 

 

「……これは」

 

 

そして、これが『二通目』。パスワードは私がよく使う16桁の英数字複合のもので、追跡妨害まで施したそれはわたしにも予想がつかなかったものが書かれていた。

 

 

 

 

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公式には一通目のものを送って下さい。一応疑惑っぽいものを書き連ねて置きましたが、調べる気は一切ないので悪しからず。

局長、貴方には色々と言いたいことはありますがそれは帰ってから言うとします。まずは、この組織について書いていきます。

局長のことですから『魔術』の事は把握しているのでしょう。おそらく上層部の狸どもも知っていると思いますが、それは一度置いておきます。

 

結論から言います。この『人理保証機関 フィニス・カルデア』は、非常に危険です。『協力者』を名乗る彼らは、その機嫌一つで街は愚か国家すら壊滅させかねない核兵器以上の化け物です。

正直、『魔術』という存在も今の世界の繁栄に必要なのか、私にはほとほと疑問なのです。『英霊』なんて核兵器もびっくりの兵器を作り出し、『儀式』と称して人を平然と殺す彼らは、我々の社会を脅かす『癌』そのものであると考えます。

 

知識の探求が悪いというわけではありませんが、彼らになんらかの方法を使って『首輪』を付けるべきです。学問のせいで世界が壊されたら溜まったものではありません。

 

ここまで『魔術』の存在を否定してきましたが、彼らの実績を否定するつもりはありません。文献や資料を見てみると、そうせざるを得なかった場面を多々ありますからね。なにより、この組織が文字通り『世界を救った』んですから、そこは認めるほかありません。

 

ですから私は、この組織に所属する『協力者』。つまりは『英霊』を見極めようと思います。現在の世界へ干渉しないのか、否か。

 

そんなもの『伝承』から判断すれば良いと思うかもしれませんが、そうもいかなくなりました。局長、知っていますか?あの稀代の殺人鬼『ジャック・ザ・リッパー』は、年端もいかない女の子でした。

 

他にも『源頼光』や『宮本武蔵』が女性だったり、『トーマス・エジソン』がライオンだったり。正直頭が混乱しています。ですので、彼らが本人かどうか判断がつかないのです。

 

ですから私は一人一人の英霊と話し、本質を探ってみます。もし私がおかしくなったり、死んだとの報告があったら即座に『フィニス・カルデア』を核攻撃して下さい。貴方ならどうにか出来るでしょう?期待してますよ、『局長』。

 

 

追伸

 

攻撃を行うときは躊躇わず、全力でやって下さい。この組織はシェルター並みの防護壁を持っているので、二、三発打ち込む覚悟でお願いします。

 

もう一つ最後に。俺が死んだら仕事場から銀行のカードと通帳を出して切嗣さん達に渡して下さい。机のパスワードは『0000』です。

受け取らなかったら捨てると脅せばきっと受け取ってくれるでしょう。お願いします。

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

 

「……そうか。職務に殉じると」

 

 

彼からのメールは、これで以上だ。これでは、まるで遺書のようでなないか。

 

 

「全く。彼も私をまだ理解していないな」

 

 

だが、彼には悪いがまだ楽をさせるわけには行かない。わざわざ高い金を払って南極まで行かせたのだ。まだ働かせなければ割に合わない。

 

核攻撃などするものか、そんなことをしたら彼まで消えてしまう。そうなったら間違いなく私は彼の『身内』に惨殺される。それは勘弁してほしい。

 

 

「全く。彼は優等生だと思っていたのに…」

 

 

まぁ、その方が面白いのだがね。

 

 

しばらくは見守らせて貰おう。彼が、『英霊』たちをどう見極めるのか。

 

 

まぁ、その前に…。

 

 

『ピピピッ、ピピピッ』

『prprprpr!prprprpr!』

『着信です。着信です』

 

 

 

この着信に対応しなければならないな。

 

 

…あいつ。今度はスリランカに飛ばしてやる。

 

 




主人公

物事の本質を見抜く能力を持つ。英霊並みの『直感』を持ち、獣のような嗅覚を持って冷静に真実を突き詰めていく。彼の捌いてきた内容は数知らず、国連の総長からも一目置かれている。ちなみに彼が死んだ場合詩人のような奴と赤ジャンを着た殺人鬼と冠位人形師とか諸々が動く模様。


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