『双賢の姉妹』ベロニカとセーニャを仲間に加えた勇者とカミュが、ホムラの里からサマディー王国にむかう道中での話。


*本作はpixiv様にも投稿しております。

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 某所で某イラスト、というか2P漫画を見て思い浮かんだ話。
 主ベロとカミュセニャが好きなのでそんな風味です。
 某漫画の方は主ベロ、カミュセニャではありませんが。
 


超暴走魔法陣・改

 元気になったなあ。

 『ホムラの里』を()って数日、キャンプ地で野営の最中、カミュはそんなことを思った。

 カミュの相棒である勇者は、『ふしぎな鍛冶場』を使っての鍛冶作業のかたわら、つい先日仲間になった『双賢の姉妹』の姉の方である、魔法使いベロニカと楽しそうに話をしている。彼女の妹である癒し手セーニャも、興味深そうに彼の鍛冶を見て、たまに話をしていた。

 心配させないためにだろう、表情にこそ出さないようにしていたようだが、故郷である『イシの村』が焼かれていたのを見てから、相棒はずっと落ちこんでいた。村では、血の痕や死体などは確認できなかったため、おそらく村人はデルカダール城に連行されたのだろうが、それも推測でしかない。落ちこむなと言う方が無理というものだ。それでもいま、多少なりとも明るくなってくれたのは、カミュとしても嬉しかった。

 勇者が悪魔の子だという汚名を晴らす。それが、村人たちを助けるために必要なことだと、思うことができたのだろう。

 勇者は、悪魔の子などではないと、ベロニカとセーニャに言って貰えたことも大きかったに違いない。やるべきことをはっきりと見定めたことで、いままではなんとなくしか感じられなかった光が、彼から見えた気がした。

 たまに故郷の人たちを思う時があるのだろう、つらそうに顔をゆがめる時もあったが、大抵はそのあと、決意に満ちた表情を浮かべる。それを見るとやはり、ベロニカとセーニャに会えたことは、非常にありがたかった。

 しかし、それはそれとして、相棒とベロニカを見て、思うことがある。

「仲良くなるの早かったなあ、おまえら」

 カミュがそう言うと、三人が不思議そうにこちらを見た。

「なにがよ?」

 ベロニカが首を傾げて言った。同意するように、相棒も首を傾げていた。ベロニカの金色の三つ編みと、相棒のサラサラヘアーが揺れる。

「おまえら三人。とりわけ相棒とベロニカだよ。なんか早々に仲良くなった気がするなって」

「そう?」

 ベロニカが首を傾げながら相棒に顔をむけると、彼もベロニカの方に顔をむけ、よくわからないな、とばかりに首を傾げていた。

「まあ、意外と気が合うわね、とは思ったけど」

 ベロニカの言葉に、相棒が頷いた。

 ベロニカは気が強く、相棒はおとなしい性格をしている。しかし気が合わないかと思いきやそんなことはなく、二人で話が弾むこともしばしばだった。セーニャがのんびりした性格をしているため、彼女とどこか似ている相棒もまた、相性がいいということなのかもしれない。

「っていうかよ、あの連携だよ」

「あの連携?」

「なんか両手を広げた相棒の背中にベロニカが乗るやつ」

「あ、超暴走魔法陣ですね、カミュ様?」

「そうそう、それそれ。あの変なポ」

「かっこいいですよね、あの連携!」

「ーズ、え?」

「え?」

 言葉の途中でセーニャが声を上げ、カミュは茫然と言葉を止めた。セーニャに顔をむける。

 そのまま、二人で見つめ合った。

「かっこいいか、あれ?」

「変でしょうか、あのポーズ?」

「いや、そもそもなんなんだよ、あのポーズ」

 荒ぶるヘルコンドルのポーズ、と相棒が言った。ベロニカも頷く。

「いやポーズの名前を聞いてるわけじゃねえんだけど」

 つーか、そんな名前だったのかよ、とカミュは頭を抱えた。

 (かぶり)を振ってため息をついたあと、顔を上げた。

「まあ、なんだ。いきなり二人であんなことしたからよ、仲いいなー、こいつら、とか思っただけだ」

「そうですね」

 セーニャがカミュの言葉に同意し、息をついた。

「私もやってみたいのですけれど」

「おいおいおいおいおいおいおい」

 セーニャが言い、カミュはただ声を洩らした。なんて言ったらいいのかわからなかった。

 ひとしきり声を洩らして(かぶり)を振ると、カミュはセーニャにむき直った。

「やってみたいっておまえ、なにやる気だよ?」

「もちろん、かっこいいポーズですわ!」

「かっこいいて」

 カミュが呻き、ベロニカと勇者が、うんうんと頷いた。

「そうね。ここはひとつ、セーニャも加えての『超暴走魔法陣・改』でも開発してみましょうか」

 だけど、セーニャまで背負うのは厳しいと思うよ、と相棒が言った。

「うーん、確かに。戦闘中にセーニャまで背負うのは危ないかもしれないわね」

「でしたら、ここはカミュ様に!」

「俺かよ!?」

 付き合ってられん、とため息をついたところで言われ、カミュは慌てて声を上げた。

 ベロニカが、顔を(しか)めた。

「大事な妹を、どこの馬の骨とも知れない男に触らせるとか」

「そんな。お姉様、カミュ様は頼れる方ですわよ?」

 うん、と相棒も頷いた。頼れると言ってくれるのは嬉しいが、巻きこまれるのは嬉しくなかった。

 うーん、とベロニカは唸ると、セーニャとカミュを交互に見た。

「そこについてはまあいいわ。けど、セーニャは構わないわけ?」

「はい、問題ありませんわ」

「おい、待て。俺がやる前提で話を進めるなよ」

「お嫌なのですか、カミュ様?」

「うっ」

 悲しそうにセーニャが言い、カミュは思わず声を洩らした。罪悪感がすさまじかった。

 でも、四人連携ってなんだかわくわくしないかな、と相棒が言った。

「わくわく、っておまえ。百歩譲って、四人での連携を作るのはいい。なんでポーズをつけるんだよ?」

 かっこいいから、と相棒が返し、カミュはまた頭を抱えた。

「答えになってねえ気がするぞ、それ」

「そうでもないわ。ポーズというのはつまり、精神集中をしやすくするための儀式の一環よ。四人での連携は、三人での連携以上の難度になる。全員で集中しやすいルーチンを作ることで、成功確率を上げることができるはずよ。かっこよければ、それだけやる気も出るでしょ」

「はい!」

「いや俺は、かっこいいとは思えねえんだけど」

 カミュがぼそぼそと言うが、セーニャは元気よく声を上げていた。

「よし、決まりね。それじゃあ、どんなポーズをとるか決めましょうか。アイディアはあるかしら?」

「ポーズをとらねえっていうのは」

「却下よ」

 にべもなく言われ、カミュはまたため息をついた。

「やはりここは、お姉様たちに(なら)って、私がカミュ様の背中に乗るというのはどうでしょうか!?」

 キラキラと眼を輝かせて、セーニャが言った。

 ふむ、とベロニカと相棒が声を揃えて考えるそぶりを見せ、やがて二人で頷いた。

「そうね。まずは、二組が並んでポーズをとるっていうシンプルなものからやってみましょうか。とりあえずここで試してみましょう」

「いまやるのかよ!?」

「いきなり実戦でやるわけにはいかないでしょ。まずは練習よ」

「おまえら、いきなり実戦でやらなかったか?」

「よくわからないけど、(からだ)が勝手に動いたのよ。魂が響き合ったのかもしれないわ」

「素敵ですわ――」

 セーニャが、うっとりとして言った。

「魂で響き合って、あのポーズなのか――」

 真偽のほどは定かではないが、相棒は古の勇者ローシュの生まれ変わりで、ベロニカとセーニャは、そのローシュの仲間だったという古の賢者セニカの生まれ変わりとか言う話だった。

 その二人もあんなポーズをとっていたのだろうか、となんとなく遠くを見て思った。相棒はベロニカの言葉に力強く頷いている。ツッコむまい、と思った。

「さあ、やりましょう、カミュ様!」

「あー、うん」

 抗うのも面倒くさくなり、生返事とともに立ち上がった。火の近くで行なうのは危なそうなので、ちょっとだけ焚火から離れた。

 セーニャが、カミュのうしろに立った。

「行きますわ!」

「おー」

 気のない返事をしたあと、あることがふっと頭に浮かんだ。

 ベロニカとセーニャの年齢は十代後半。だがベロニカは、魔物に年齢を吸われたことで、幼い少女の躰になっている。セーニャは、年相応の躰だ。

「っ」

 セーニャのやわらかな手がカミュの肩に触れたところで、思わず躰が(こわ)()った。

「なあ、やっぱやめに」

「はっ!」

 カミュが制止しようとしたところで、セーニャがカミュにおぶさった。反射的にカミュは前(かが)みになった。膨らみが、背中に当たっていた。彼女の息遣いが耳もとで聞こえた。不意に、躰が熱くなった。

「カミュ様、どうかなさいましたか?」

 固まったカミュのことが心配になったのか、セーニャが気遣うような調子で言った。

「いや、その、すまん。一旦降りて貰っていいか?」

「あ、はい。すいません」

 言葉とともに、セーニャがカミュの背中から降りた。前屈みの姿勢のまま二、三度と深呼吸し、躰と頭を落ち着けると、カミュはゆっくりと躰を起こした。

 背中を、ぞくっとした悪寒が走った。反射的にベロニカにむき直る。彼女は、半眼でこちらを睨みつけていた。

「あんた、人の妹に劣情を」

「いや不可抗力だろ!?」

「劣情?」

 セーニャが不思議そうに言ったが、カミュはあえてそちらには反応しなかった。反応したら、まず間違いなく藪蛇(やぶへび)になる。

 ベロニカ、と相棒が制止した。

「なによ、カミュの肩を持つの?」

 気づかなかったのは、こっちも同じだし、と相棒がやわらかく微笑んで言った。

 ちょっと考えこむ仕草を見せたあと、ベロニカがふうっと息をついた。

「確かにそうね。あたしの躰が躰だってこと忘れて、セーニャの提案を通しちゃったわけだし。カミュを責めるのは筋違いってものね」

「わかってくれて嬉しいぜ」

 額の汗を拭いながら言った。相棒に視線で感謝の意を伝えると、頷き返された。

 セーニャが、首を傾げた。

「よくわかりませんが、続きを」

「セーニャ、違うポーズにしよう。な?」

「え、あ、はい」

 カミュが必死に訴えると、セーニャは不可解そうにしながらも頷いた。

 

 

 とうとう完成した。

 明るくなりはじめている空を見て、セーニャは感慨深くそう思った。

「完成したわね、セーニャ。『超暴走魔法陣・改』が」

「はい」

 うん、と勇者も頷いた。

 彼もベロニカも、なにかを成し遂げたような、晴れ晴れとした顔をしていた。きっと自分も同じ表情をしているだろう、とセーニャは思った。

「眠い」

 カミュがなんとも言えない表情で呟いた。彼の顔は、疲労の色が濃かった。

「カミュ様」

「ん、ああ、なんだ、セーニャ?」

「申し訳ありません。夜通し付き合わせてしまって」

 カミュが、パチパチと瞬きした。

「――――」

 苦笑したカミュが、セーニャの頭に手を置いた。頭に感じる手の感触に、不思議と心地よいものを感じた。

「気にすんな。それより、ちょっと早えけど、朝飯にしようぜ」

「はい」

 カミュが、セーニャの頭から手を離した。なぜか、ちょっとだけ()(ごり)惜しい気持ちになった。

 ふと視線をむけると、ベロニカがまたカミュを睨みつけていた。

「あいつ、また人の妹に」

 まあまあ、と勇者がベロニカを宥めていた。

 まったくもう、とベロニカが息をつく。

「徹夜しちゃったし、朝食を()ったらちょっとだけ仮眠をとりましょ。そのあと出発よ」

 ベロニカの言葉に、勇者が頷いた。

 カミュが言った通り、二人は不思議と仲がいい。多くを語らずとも、お互いにわかり合っているようなところがあった。

 どこか通じ合うところがあるというか、本質的に似たところがあるように思える。そのためかもしれない。

 朝食を終え、後片付けをし、ちょっとだけ仮眠をとり、出発した。

 ホムラの里からサマディー王国に行く道中の山岳地帯は、いささか進むのに難儀する場所である。加えて、魔物もいる。

「っ」

 最初に反応したのは、カミュだった。短剣を抜き放ち、囲まれたか、と呟いたところで、勇者が背負った大剣を抜き、セーニャとベロニカもそれぞれの武器を構えた。

 魔物たちが、こちらを囲むように姿を現した。こちらは巨大な岩を背にするようなかたちだった。

 かなりの数だった。じりじりと、間合いを詰められている。

 こちらから先手を打つ、と勇者が言った。あれをやる、とも。

「わかったわ」

「わかりましたわ」

「――――」

 カミュだけは、返事がなかった。うつむき、煩悶(はんもん)するように呻いていた。

 昨日の今日で作った連携が、この危機に陥った状況でできるのか。そう躊躇(ちゅうちょ)するのも無理はない、とセーニャも思う。

 カミュ、と勇者が呼びかけた。力強い声だった。

 ベロニカも、彼の声に力強く頷いた。

「覚悟を決めなさい、カミュ。成功させなきゃ、やられるわ」

「やりましょう、カミュ様。きっと私たちならできます」

「いや、成功確率がどうとかじゃなくてよ。あー、くそっ、わかったよ!」

 カミュが上げた声に、魔物たちの間に緊張が走った気配があった。飛びかかろうと身構える者、その場で油断なくこちらを見据える者など、反応はさまざまだった。

 ベロニカが勇者のうしろで杖を構え、勇者が剣を地に突き立てて手を打ち鳴らした。

 セーニャは勇者の左隣に片膝を突くようにして並び、カミュは勇者を挟んで、セーニャと反対側で片膝を突いた。

 ベロニカが、勇者の背中に乗った。

 ベロニカを背に乗せた勇者が、両手を広げて片足で立った。

 セーニャが、両手を左側に揃えて伸ばした。

 カミュが、両手を広げた。

『超暴走魔法陣・改!!』

 四人の声が、あたりに響き渡った。カミュの声はどこかヤケクソ気味に聞こえた気がした。

 魔物たちの動きが、止まった。顔を見合わせるようにして、近くに居る魔物とむき合う者もいた。

 おそらく、あまりの恰好良さに見惚れているのだろう。チャンスだ。

「はっ!!」

 その瞬間を見逃さず、ベロニカが跳躍した。

 

 

 本気で恥ずかしい。

 戦闘を終えたカミュの頭にあったのは、その言葉だけだった。顔を両手で覆い、何度も(かぶり)を振る。

 魔物たちの動きが止まったのは、見惚れたわけではなく、意味がわからなかったためだろう。そういう雰囲気だった。

 魔物すらそんな空気にさせるのだ。もしもこれを人に見られたら、羞恥で死ねる。そう思わざるを得なかった。

 囲んだ魔物たちは、あのあとあっさりと撃退できた。通常の『超暴走魔法陣』以上の呪文暴走率上昇に加え、(はか)らずも敵全体の戦意を(くじ)くという『超暴走魔法陣・改』の効果は、抜群と言えた。が、カミュ自身にも致死レベルの精神的ダメージが入っている。正直死にたいと思わなくもない。

「やったわね!」

 ベロニカが手を上に伸ばし、相棒が座るような姿勢となって手を伸ばした。そのまま互いに掌を打ち合わせる。ハイタッチだ。二人とも、恥ずかしさなど微塵もなく、ただ嬉しそうだった。

「やりましたわね、カミュ様!」

 セーニャがカミュの方を見て、手を頭上に伸ばした。相棒とベロニカのように、ハイタッチがしたいのだろう。

 力なくセーニャを見ていると、彼女が首を傾げた。

「カミュ様?」

「ああ、うん。やったな」

 眼と声が死んでいる。そう自覚しながらも、無造作に手を頭上に掲げた。

 セーニャはちょっとだけ首を傾げたが、すぐに笑顔を浮かべてカミュと手を打ち合わせた。小気味いい音が、あたりに響いた。

 

 

 

 そしてカミュは、もう二度とこの連携に参加すまい、と決めた。

 『超暴走魔法陣・改』は、幻の連携となった。

 




 
 『超暴走魔法陣・改』はゲームには登場しません。念のため。
 ほかになにか話が思い浮かんだら、作品タイトルを『ドラクエ11の短編』みたいなものに変えて投稿するかもしれません。主ベロでなんかほかにも書いてみたくはある。
 


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