オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~   作:北条氏也

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ダークブレット日本支部崩壊4

 その場に簡易的なテントを張ってその中に、デュランを加えた四天王が揃って今後のことを話し合う為の緊急会議が行われた。

 

 テントの中に簡易的な四角いテーブルを置き、その上には地図が置かれていた。

 椅子に腰掛けながら皆険しい表情で見合っているだけで、誰一人として言葉を発しようとしない。

 

 それもそのはずだろう。この話し合いの内容は、ダークブレットのメンバー達を始まりの街に連れていくか否かというデリケートなものだ。

 元々、初心者プレイヤーをターゲットにしていることが多いダークブレットのメンバーを、今あの街に連れていくのはあまり得策とは言えない。

 

 数にして千人以上いる人間を一気に大移動させればそれだけで人目に付く、その上それが犯罪系のギルドのメンバーとなればいざこざは避けられないだろう。

 

 何故なら彼等は、窃盗だけではなくPVPを利用したPKも同時に行っていたからだ――その為、被害にあったプレイヤーのギルドのメンバーや、近親者に殺されても仕方ないほどに恨まれているに違いない。

 

 そんな者達を引き連れ、彼等の被害者が多いであろう始まりの街に凱旋なんてした日には、街中に血の雨が降ることだろう……。

 

 しかし、首領とアジトを失ったダークブレットのメンバー達に、これ以上のストレスを与えれば、最悪の場合は自暴自棄になった彼等がゲリラ集団の様な振る舞いをしかねない。

 

 事は急を要するものの、とても丁寧に扱わなければならない問題でもあった。

 

 テーブルを囲んで向かい合う重苦しい空気の中、四天王が向い合っていると、紅蓮が徐ろに口を開く。

 

「――どうでしょう。マスターと合流し次第、ここは彼等を千代に連れて行くのは」

「いや、それもどうかな」

 

 その言葉に水を差すように、腕組をしていたデュランが言葉を発した。

 自分の出した意見に対して、意味ありげな言葉を投げかけてくる彼の態度が不満だったのか、紅蓮は不機嫌そうな顔をしながら「どういう事ですか?」と訝しげに聞き返す。

 

 デュランを見る紅蓮のその瞳は、不愉快極まりないという感じだった。そんな彼女の様子に気付いていながらも、それを気にかけることなくデュランが言い放つ。

 

「どこに行っても。はみ出し者は受け入れられないということだよ。紅蓮」

 

 デュランは眉をひそめている紅蓮にそう告げて彼は持論を展開する。

 

「俺はこのまま始まりの街に滞在するのがいいと思う。どこに行っても、対応は同じだろうし。逆に悪名高いからこそ、周りの人間は無闇矢鱈に手を出せないと思うよ」

 

 確かにデュランの意見も一理ある。どこにいったとしても、犯罪集団を受け入れてくれる場所など警察署以外あるはずがない。

 

 ならば、いっそのこと最も嫌われている場所に滞在した方がいいかもしれない。実際に被害者やその関係者も多くいるが、その物量の多さに少数ではそうそう手は出せないとデュランは踏んだのだ。

 

 危険人物の集まりであるからこそ、刺激して何をするか分からないと逆に我が身の保身の為に何もしてこない可能性だってある。

 

 人間とは情を大切にするが、ひとたび己が危機的な状況に陥れば自己保身に走る薄情な存在なのだ――。

 

「でもよー。この人数はあまりに多いぜ。いったいどこに住むんだ?」

 

 メルディウスはそう言って首を傾げた。

 

 だが、そのメルディウスの意見も最もだ――ゲーム開始時。始まりの街ではマイハウスなるものがあるのだが、それも環境に応じて様々な都市や場所への移動が可能だ。

 

 その為、始まりの街に必ずしも家がある者だけではない。 

 そうなると、宿屋などを使わなければならないが、ゲーム内に閉じ込められる事件以降、手軽な敵を倒し宿屋を拠点にする者が殆どだ。

 

 元々宿屋は傷を癒やす目的でしか利用しないような補助的な施設だった。

 だからこそ、宿泊代は5ユールと安価であり。これは始まりの街の前にいる最弱モンスターのラットを5体倒せば容易に手に入れられる程度のもの。

 

 だが、マイハウスのある者が宿屋に皆が泊まるのには、もう一つ重要な理由がある。その理由は人との交流だ――。

 

 それは初心者の冒険への出発地点である始まりの街ならではのもので、本来は人が集まる場所には情報が集まるという的を射た考えでもある。

 各街にはギルドホールという場所もあるが、そこはギルド単位で借りているのが殆どで、新たに人間関係を構築させるのは少し難しい。

 

 また、すでに事件発生から一ヶ月近く経っている為、もう宿屋には独自のグループが形成され始めているのも事実。

 こんな状況で、犯罪者ギルドのメンバーをその場所に駐留させるのは、争いを誘発させることと同じなのだが……。

 

 デュランはそれを何食わぬ顔で皆に提案してくる。

 彼に何らかの思惑があってのことか、それともただ単に安易な考えからそう提案しているのかは、本人である彼以外は分かり知れないことだ。

 

 笑みを浮かべながら唸るメンバー達を見つめるデュランに、つまらなそうに話を聞いていたバロンが言葉を吐き捨てるように告げる。

 

「どちらにしても……俺様には関係ない。帰るぞフィリス!」

「ちょっと待てよバロン!」

 

 メルディウスは戸惑い気味に声を掛けたが、彼は無言のままテントを出ると馬へと向かっていった。

 フィリスもそんな兄の姿に苦笑いを浮かべながら一礼して紅蓮達に微笑えむと、歩き出したバロンの後を追いかける。

 

 直後。張り詰めていた緊張が解けたのか、メルディウスはため息交じりに伸びをすると諦めたように口を開く。

 

「まっ、なるようにしかならねぇーかもな……とりあえず。ジジイが待ってんだ。始まりの街に行こうぜ! 紅蓮」

「ですが……」

 

 デュランとの話の決着のついていない紅蓮が、文句を言いたげな顔でメルディウスを見た。すると、デュランも不敵な笑みを浮かべるて外へと歩いていってしまう。

 

 怪訝そうな顔でそれを見ている紅蓮は、少しふてくされたように口を尖らせている。

 彼女が不服なのは最もだ。紅蓮の性格からして、決める時はその場で決めてから次の行動をしたいという思いがある。

 

 しかし、ここに居るメンバー達は皆が個性的と言えば聞こえがいいが、要するに自分勝手な者達ばかりで口を開けば喧嘩が始まる始末。

 

 真面目な話をしていても、今の様に文句を言い合うばかりで全く決まらないのだ。

 そんな紅蓮を残し「俺はあいつを見張ってないといけないから、先に行くぞ」とメルディウスがデュランの後を追ってテントを出ていく。 

 

 その場に残された紅蓮は更に不機嫌になり「本当に自分勝手な人達です」と毒づく。

 

 そこにデイビッドと小虎がやって来た。

 

 2人はお互いの固有スキルの話をしながら笑みを見せている。

 

「どうしたんだい? むっとして」

「……貴方には関係ありません。今は話し掛けないで下さい」

「ん? どうして……」

 

 そう口にしようとしたデイビッドの手を隣りに居た小虎が咄嗟に引くと耳元でささやく。

 

「――ダメだよ。こういう時の姉さんは刺激したら」

「どうして、紅蓮ちゃんを怒らせるとそんなに怖いのか? 大人しくて可愛い子なの――」

 

 デイビッドが「可愛い」と口にした直後、彼の目の前を一本のナイフが横切る。

 

 小虎とデイビッドがその方向を恐る恐る振り向くと、殺気立った紅蓮がナイフを手にこちらを鋭く睨んでいる。

 

「今のは手が滑りましたが……次に可愛いといえば。その首から先が無くなりますよ?」

「「……コクコク」」

 

 2人は顔を青ざめさせたまま、何度も無言で頷いた。

 それを見てナイフを仕舞うと紅蓮は「以後、気を付けてください」と小さく呟きテントの中を去っていく。

 

 彼女の後姿を見送ると、ほっと胸を撫で下ろしたデイビッドが小虎に尋ねた。

 

「――あの子って褒められるの嫌いなのかい?」

「ううん。姉さんはああ見えてリアルでは大学生だから、可愛いじゃなくて綺麗って言わないとダメなんだよ。姉さんに『可愛いとちっちゃい』はNGワードなんだよ」

「あの容姿で大学生!? じょ、冗談だろ? 小虎く――」

 

 驚きのあまり大きな声が出てしまった為、話していた内容は外にいた紅蓮の耳にも届いたのだろう。

 

 テントの幕を破り突き破り、高速で飛んで来たナイフがデイビッドの鎧に当たり火花を散らす。

 その破れた部分から見え隠れする先では、2人に殺意を含んだ睨みを効かせる紅蓮の姿があった。

 

 2人はそっとテントを抜けると、紅蓮の目の届かないところへと慌てて逃げていく。

 その姿を見て紅蓮は「仕方ない人達ですね」とため息を漏らすと、口元に微かな笑みを浮かべている。

 

「よう。楽しんでるな紅蓮」

 

 するとそこに、デュランの様子を見にいっていたメルディウスが戻ってきた。

 

 彼の言葉に、すぐに表情を戻した紅蓮が不機嫌そうにそっぽを向く。

 

「……楽しんでなんていません。それより、どうするんです? このままだと話し合いにもならないですし。揉め事が起きるのは目に見えてますよ?」

「まあ、そうなんだがな。こうなる事は古い付き合いだし分かってたことだろう? 最後は俺達でなんとかしようぜ!」

 

 楽観的と言わざるを得ない言動をしたメルディウスは、自信満々に親指を立てて微笑んだ。

 

 だが、今の紅蓮にはそれほど楽観視できない。

 

 どんな人間であっても目の前で人が消えて行く姿を見るのは心苦しく感じるものだ。できることなら、死人を出さずに――いや、自分の目の前では決して死人を出させないと紅蓮は心に誓った。

 

 目の前で微笑んでいる彼に、紅蓮はむすっとしながら視線を逸らすと。

 

「そうですね。そうなったらメルディウスにお任せします」

 

 っと、素っ気なく答えた。

 

「ちょっと待て! じょ、冗談だよな、紅蓮……」

「……私は冗談は嫌いです」

「本気なのかよ!」

「さあ、どうでしょうね……」

 

 返答を聞いて急に慌て出したメルディウスに、そっぽを向いたままの紅蓮は微かに笑みを浮かべた。

 

 マスター達と合流する始まりの街は、ダークブレットの基地から歩いて4日ほどに場所にある。しかし、この人数を移動させるとなると、ウォーレスト山脈の細い山道を抜けるのに、おそらく2日ほど掛かると予想し始まりの街に着くのはだいたい6日ほどと言ったところだろう。

 

 太陽があまり高くならないうちにメルディウス達は馬に跨り出発した。

 

 

              * * *




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