オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~   作:北条氏也

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護衛ギルド選抜戦5

 先の作戦でギルドマスターとサブギルドマスターのネオ、ミゼを失ったギルド『LEO』から代表して出た2人だ。相当肝が座っているのだろう。この程度の舞台では動じないだけの鋼の心を持ち合わせているに違いない。

 

 そしてリカとカムイの向かった方からは、ギルド『メルキュール』のギルドマスターのダイロス。彼の逞しい肉体を覆う漆黒の甲冑と顔を覆い隠すドラゴンを象った漆黒の兜と背中に背負った巨大な大剣は、何時見ても周りを威圧する雰囲気を放っている。

 

 後ろを少し遅れて歩いているのはサブギルドマスターのリアンだ。茶色い三つ編みを揺らしながら西洋風の甲冑を着た姿に、宝石の様に光る青い瞳。腰には煌びやかな剣が差されていた。

 

 カムイに肩を支えられ、悔し涙を流しながら控え室へと戻るリカの横を通った瞬間、リアンがボソッと呟く。

 

「――貴方達とも戦ってみたかったのに残念です。この試合に勝って、貴方達の仇は必ず私達が取ります……」

 

 振り返ったリカに歩みを止めてにっこりと微笑み返すと、先を行くダイロスが声を発した。

 

「リアン行くぞ。試合はもう始まっている」

「はい」

 

 凛々しい顔で身を翻したリアンが前を向いたまま進んでいくダイロスに続く。ステージの上に登ると、既にそこには『LEO』の2人が待っていた。

 全身に無数の傷がある大男の方は両側に刃が光る大斧を持ち、小麦色の肌に屈強な肉体の胸にクロスの大きな傷を持つ男は大剣を地面に突き立てている。

 

 静かに瞼を閉じてその場に佇んでいた彼等の瞳が、ステージに上ったダイロスに向けられ。

 

「おう。まずは自己紹介といこう!」

 

 向かい合って威圧される様な視線を向けられた直後にそう言われれば、誰だって首を傾げるだろう。だが、そこは千人規模のギルドのギルドマスターだ。冷静に頷くと徐に口を開く。

 

「――俺はダイロス。ギルド『メルキュール』のギルドマスターだ。彼女はリアン。サブギルドマスターだ」

「俺はギルド『LEO』の臨時で頭を張っているゲイン。そんで隣のがウォーニスだ。いい試合にしようぜ!」

 

 歩み寄ってきたゲインが差し出す手を、ダイロスが突き出した手がぎゅっと握り返す。

 

 互いに距離を取って武器を構えると、試合開始のドラの音が会場内に鳴り響く。

 先に突っ込んできたのはギルド『LEO』の体に無数の斬り傷のある大男だった。手に握った両側に刃の付いた大斧でダイロスに襲い掛かる。

 

「うおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 ダイロスはその刃を手に持っていた大剣で防ぐ。

 

「……ぐッ!!」

 

 力の限りでダイロスの大剣に自分の握り締めた大斧を押し付け、火花を散らしながらウォーニスが力任せに押し切る。

 

 凄まじい力で押し退けられたダイロスは地面に、二本の線を引きながら足で踏ん張って止まった。

 

 彼を吹き飛ばしたウォーニスが無造作に生やした無精髭を触って、ニンマリと笑みを漏らす。

 

「わーはっはっはっ!! こんなに弱い奴がギルドマスターだと? ゲイン。こんな雑魚に様子見なんていらないぜ! 儂の全力で叩き潰してやる!!」

 

 ウォーニスは大声で叫んでゲインの方を見ると、彼もニヤリと笑みをこぼして大きく頷く。

 

「なら行くぜ! メタモルフォーゼ! グリズリー!!」

 

 持っていた大斧を地面に突き刺すと、ウォーニスは雄叫びを上げて天を仰いだ――次第に巨大化を始め全身から毛が生えだして、見る見るうちにその姿が人間離れしていき、やがて巨大なグリズリーの姿に変わった。

 

 それを鋭い眼光で睨みつけるダイロス。

 

 すると、野獣とかしたウォーニスと彼の間にリアンが剣を構えて立ち塞がる。  

 

「ギルマス。ここは私が!」

 

 変化して巨熊の姿になったウォーニスを取り囲むようにして、リアンの姿が囲み込むようにして展開していく。

 

 数は10と言ったところだろうか……これが彼女の固有スキル『幻影』だ。リカの『フェイント』と似ているが、リカの固有スキルは単に認識をずらす為の残像だが、リアンのこれは全てが実体で攻撃も可能。しかも、その規模も持続時間も桁違いなのである。

 

 分身して周囲を囲んだリアンが体制を低くして一斉に剣を構えると、ウォーニスは鼻をひくつかせ、迷うことなく一体のリアンへと猛烈に突進していく。

 

「――なっ!?」

 

 突進してくる熊に驚きながらも、体の前に剣を構え直す。

 大きく振り上げた直後に振り抜いた前足の爪をリアンが何とかガードする。しかし、力の差が大きいのか、そのガードごとリアンの体を吹き飛ばした。

 

 彼女の華奢な体を覆う鎧が地面を転がる度に音を立て、しばらく地面を転がって止まった。

 受けた一撃だけでもHPが残る感じは全くしなかったが、徐々に減少するHPゲージはレッドゾーンに入る手前で止まった。

 

 それは彼女のまとっている西洋甲冑はトレジャーアイテム『不屈の鎧』と言って、瀕死の攻撃を受けてもHPが30%を切ることは決してないのだ。しかし、この効果は戦闘時一度しか発動しない。つまり、次に同じ攻撃を受ければ間違いなく彼女のHPは底を突いてしまう。

 

「リアン。大丈夫か!」

 

 ダイロスの声が響いたが、地面に倒れたままの彼女は全く反応はなく、どうやらリアンは気を失ってしまったらしい。

 

 ――グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 

 追い打ちを掛けるように倒れているリアンに、止めを刺そうと四足歩行で疾走するウォーニス。

 

 ダイロスが巨熊の行く手を遮った。彼は手に持っていた大剣を振りかぶると、自分に向かってくる5メートル級の巨熊に向かって己の体ほどもある大剣を振るう。

 

 勢い良く振り抜かれた大剣が巨熊の鼻面から、その巨体を真っ二つに斬り裂くと、巨熊と化したウォーニスが断末魔の叫びを上げる暇もなく2つに裂かれた体が地面に音を立てて崩れる。その直後、彼の持っていた大剣がガラスが粉々になるように砕け散って消えた。

 

 コマンドを操作して漆黒の鎧と同じく黒い刃の大剣を取り出した直後、ダイロスに向かって襲い掛かる。 

 自分に振り下ろされた大剣を己の大剣で防ぎ、鍔迫り合いをしながらダイロスは驚いた様子で声を発した。

 

「なっ……お前。その剣は!!」

「ああ、そうだ。あんたと同じ剣さ! その武器を持っているのが自分だけだと思っていたのか!!」

 

 鍔迫り合いを続けていたが、ゲインのその言葉の直後。ダイロスが大剣を強引に振り抜き一気に距離を取った。

 

 しかし、ゲインの方はそれを許してはくれないらしく、再び斬り込んで間合いを詰めてくる。

 

「――別に逃げる必要ないだろう? ああ、時間を稼ぎたいのか……あんたの固有スキル『豪腕』は一撃だけだが、通常の100倍という桁外れの攻撃力強化スキル。しかも固有スキルのレア度はDで、リキャストタイムは5分だけ。外れの中の大当たりを、あんたは引いたわけだ。通常そんな攻撃力で敵を倒せば武器の耐久力はなくなり、さっきのように消滅する……が、今のこの大剣は違う。不滅の刃『炎剣デュランダル』そもそも耐久力が存在しないこの大剣ならば、あんたの一撃。『竜殺しの一撃』を存分に振るえるっというわけだろう?」

「ふん。同じ武器の使い手ならば、もはや隠す必要もないか……」

 

 ドラゴンの兜の隙間から微かに笑みをもらしたダイロスの体が、一瞬だけ赤く光ると凄まじい力で鍔競り合いを続けていたゲインを吹き飛ばす。その直後、ダイロスの持っていた大剣が燃え上がるように炎を吹き出した。




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