オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~   作:北条氏也

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エキシビションマッチ

 会場の中央に設置されたモニターに大きく――。

 

【勝者『メルキュール』 次の試合は30分後。勝者である『メルキュール』のギルドマスター、サブギルドマスターとギルド『THE STRONG』のギルドマスター『メルディウス』とのエキシビションマッチを開催します。】

 

 ステージ上のリアンは辺りを見渡し、試合を観戦していたリカとカムイを見つけると、にっこりと笑って高らかに持っていた剣を天に掲げた。

 観客席のリカとカムイも笑顔を見せると、リアンは満足そうにステージを後にする。そんな彼女の後を追う様に、ダイロスが地面に突き立てた大剣を引き抜き控え室へ向かう通路へと消えていった。

 

 最後の一瞬。煙幕で何が起きたかわからなかったが、分かっていたのはステージ上のリアンの数が10体から11体へと増えていたということだ――そこから推測するに、リアンの固有スキル『幻影』は本体を入れて11体まで増えることができると言うことだろう。

 

 だが、無善は戦闘の最中リアンの言った『私を含めて10体まで増やせますから……』という言葉を信じた。いや、信じたと言うよりは、まさかそれが偽りだとは思ってはいなかったということだろう。

 

 つまり。リアンの召喚できる数は本体を含めずに10体まで、合計で11体での戦闘が可能となり。しかも、分身体への物理攻撃は無効というほぼ不死身のチート級の能力なのだ。

 

 っと言うよりも。レア度がSを超えている固有スキルは全てと言っていいほど、チート級の能力が集まっている。

 ゲーム開始時に強制的にランダムで固有スキルを振り分けられ、その中で幸運なプレイヤーだけがレア度の高い固有スキルを手にすることができる。まあ、RMTを推奨しているこのゲームでは、気に食わない固有スキルを捨てて新たにランダム選択された固有スキルの入ったハードに道具などは、更新という選択をすれば勝手に移動される。

 

 ダイロスとリアンが控え室に戻り。30分後に行われる試合に備え、会場の中も席を立って何かを買いに行く者、次の試合の勝者を予想してざわめき出す者であふれた。勝敗を予想する者の殆どは、やはり数ある千代のギルドの中で最も強いギルド『THE STRONG』のギルドマスター、メルディウスが勝つと予想している。

 

 それも無理はない。ここは彼のホームタウンと言っていい千代なのだ――この巨大な会場内を埋め尽くす人を見ても、彼等の人気を窺い知れるだろう。

 

 早めに会場に出てきたメルディウスがウォーミングアップを始めた。組み合わせが発表される前にもやっていたが、あれからすでに数時間が経過している。

 まあ、体を温めると言っても、実際にアバターの体が温まるわけではなく。具体的に言えばイメージと自分の体を同期させる為、と言った方がいいかもしれない。 

 

 大人の身長ほどもある刃を持つ大斧モードのベルセルクをメルディウスは軽々と振り回している。

 

 雄々しいその姿を見ていると、彼が負ける姿が想像できないという観客達の声も分かる気がする。

 っと、観客がどっと会場内を震わせるほどの歓声を上げた。その観客達の視線の先には、漆黒の大剣を担いだまま現れたダイロスの姿があった。

 

 ダイロスは通路から出ると、ゆっくりとメルディウスの見える距離に陣取り、彼もまた漆黒の大剣を振り始める。そんな彼を意識してか、メルディウスの武器の振る手にも無意識のうちに力が入ってしまう。

 

 互いに武器を振る度に風切音が辺りに響き渡り、時折相手の顔を見ながらすでに試合は始まっていると言わんばかりの演舞を披露していた。

 

 観客達もメルディウスとダイロスの実戦顔負けの演舞に、歓喜の声を上げる。

 会場が熱気で包まれる中、試合開始のドラの音が周囲の歓声に負けじと空気を振動させる。

 

 時間を忘れて一心不乱に得物を振っていた2人は、額から流れる汗を腕で拭い去ると急ぎステージ上へと飛び乗った。

 

 ステージの上ではすでにリアンが剣を抜いて立っていて、いつでも来いと言わんばかりの闘気を全身から放っていた。しかし、試合開始を告げるドラが鳴ったにも関わらず、両者一向に武器を構えようともしない。

 

 それに痺れを切らしたリアンがメルディウスを鋭く睨み、剣を構えて走り出す。

 

「はあああああああああああッ!!」

 

 剣を中段に構えたリアンの体が分裂し、一気に11人にまで増えた。

 すでに前の試合で固有スキルを見せている以上は、下手な小細工は使う必要がない。いや、もう使う必要がないと言った方が正しいかもしれない。何故なら、すでに優勝を決めているからだ――。

 

 所詮この試合はエキシビションマッチでしかない。ならば、その目的は集まってくれた観客達を楽しませることだとリアンは重々承知していた。

 向かってくるリアン達に対して、メルディウスは落ち着いた様子でゆっくりと大斧『ベルセルク』を構え、次々に襲い掛かってくるリアンの剣撃を的確に全て弾き返す。

 口元にニヤリと不敵な笑みを浮かべると、大斧を振り上げて思い切り地面へと叩きつけた。

 

 っと辺りに凄まじい爆音が轟き、直後爆風が彼を囲んでいたリアン達を襲う。

 突如吹き付ける暴風にリアンの分身体がいっぺんに掻き消され、リアン本人もあまりの爆風に腕で顔を隠す。

 

「――なっ、なんてでたらめな攻撃なの!?」

 

ゲームバランスを超越したその破壊力に、さすがのリアンも恐怖を覚えたのか、無意識のうちにメルディウスから距離を置くように後退りする。

 

「あんな化け物相手に勝てるわけが……」

 

 すると、完全に戦意を喪失したリアンの前に立ちはだかった。

 

 リアンの前に立ったダイロスは、全く恐怖の色は見えずとても落ち着いた様子で、真っ直ぐメルディウスの方を向いている。その視線を受けるメルディウスも、動じることなく地面に刺さったままになっていた大斧を肩に担いだ。

 

 互いから発せられた闘気が、ピリピリと感じとれてステージ上の空気を張り詰めたものへと変わった。それが伝染した様に歓声が上がり、賑わっていた会場内もシーンと静まり返っていた。

 

 静寂を破るように、ダイロスが完全に萎縮してしまっているリアンに向かって徐に口を開く。

 

「――リアン。お前は下がっていろ。ここはギルドマスター同士で決着をつける!」

 

 ダイロスはそういうと、漆黒の大剣を横に構えた。それを見たメルディウスは鼻で笑うと、殺気の篭もった鋭い視線を向け言い放つ。

 

「フッ、俺としては二対一でやっと同格と言ったところなんだけどな……」

「まあ、そうかもしれんが。これでも俺も千人を束ねるギルドの長なのでね。二対一で勝っても、仲間達にギルドマスターとしての示しがつかない」

 

 ドラゴンの兜から覗く、彼のその眼差しにメルディウスもそれ以上の言葉は無粋だと感じたのだろう。持っていた大斧を構えると、ダイロスを見据えながら人差し指をクイクイっと動かして『掛かってこい』と挑発する様な仕草をする。

 

 ダイロスはリアンの肩を軽く叩くと、挑発に乗るように大剣を構えてメルディウスに襲い掛かる。 

 

 攻撃を防ごうと大斧を構えたメルディウスは、彼の大剣が炎と共に一瞬だけ赤く輝くのを見逃さなかった。

 

 っと、この試合をする前に紅蓮と話をした時のことを思い出す――。




小説家になろうをメインに活動しています。
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