オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~   作:北条氏也

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敵の本当の狙い3

 バランスを崩したメルディウスが堪らずに地面に膝を突いた直後、クレイモアの刃を受けていた彼の左腕が切断されてその刃が彼の左肩に刺さる。

 

 膝を叩かれ左肩にクレイモアを受けている今の状況下では、身動きが取れないだろう。

 

 エミルは剣を地面に突き立て、走ってきた時の勢いを殺すと、地面を蹴って今度はメルディウスと対峙していた男に襲い掛かる。

 彼の得物は大物のクレイモア――攻撃力は高いが、一撃の破壊力を重視したもので扱いにくさはロングソードの比ではない。

 

 両手に持った剣を構えたエミルの瞳が一瞬強い眼光を放つと、彼女は咆哮を上げながら素早く男の体に剣を振り抜く。

 全身をバネのように使っているにも関わらず、手首を柔らかく使った順手と逆手の切り替えの素早さは見事としか言いようがない。

 

 全く抵抗できないうちに、見る見る男の体に斬られた黒い線のような傷を残して最終的に15連撃ほど食らわしたところで、エミルは男の背中に武器を突き刺して男は力無く地面に倒れた。

 

 ――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!

 

 それを見たメルディウスが激昂しながら咆哮を上げると、膝を地面に突き立てたまま強引にベルセルクをエミルに向かって振り抜く。

 咄嗟に男の持っていたクレイモアを掴むと、エミルはそれを体の横に構えた。2つの刃がぶつかり合い、物凄い金属音を辺りに響かせる。

 

 だが、メルディウスはその手を休めることなく力任せに振り抜き、激しく擦れ合う刃と刃が火花を散らしながらエミルの体を押し退ける。

 地面に踏ん張り堪えると、持っていたクレイモアが割れたガラスの様に粉々に砕け散った。

 

 なんとか彼の一撃を受け切ったが、彼が両手で大斧を振っていたら本当に危なかっただろう。剣の耐久値が足りなかったら、最悪の場合、エミル体が真っ二つになっていた。

 派手な破壊エフェクトが発生はしたが。まあ、あのクレイモアはエミルのものではない為、壊れても持ち主のインベントリ内に戻るのだが……。

 

 興奮が抑えられないメルディウスは、まるで人のものではないような声を上げると、殺意に満ちた視線をエミルに向けた。

 

「――キサマァ!! 俺の仲間をよくもやりやがったな……粉微塵にして、外のモンスターどもの餌にしてやる!!」

 

 メルディウスがゆっくりと立ち上がって、持っていたベルセルクの刃をエミルに向ける。

 

 エミルは冷めた目で彼を横目で見ると、装備欄に再び装備し直して戻ってきた剣を手に握り締めて、右手に持った剣の先を向けた。

 

「あなたがやりたいなら相手をするわ。でも、そこに転がっているのが本当にあなたの仲間ならね……」

「はっ? なにを言ってやが――」

 

 地面に倒れていたはずの仲間を見たメルディウスは言葉を失う。

 当たり前だ。その場に倒れていたのは先程まで戦っていた人物ではなく、マントを纏ったスケルトンだった――。

 

 動揺を隠しきれない様子のメルディウスは「なんだこれは……」と口に出して言うと。

 

「これが正体です。どこから侵入したかは分かりませんが、街にプレイヤーに化けたモンスターが侵入したのは事実ですね。でも、この子が居れば、そのモンスターを探すのは問題ないですよ」

 

 ポーチから回復用の宝石を取り出すと、エミルはそれをメルディウスに向かって投げる。

 

 彼は「悪いな」と一言だけ言ってその宝石をキャッチすると、自分の真上に放り投げてHPを全回復して星の方を見て訝しげな顔をする。

 

「――そんなことが本当にできるのか? 俄には信じがたいな……」 

「大丈夫ですよ。その人がモンスターなのを教えてくれたのも、この子なんですから!」

「あっ、わっ!」

 

 突っ立っていた星の手を引いて、エミルはメルディウスの前に星を押し出した。メルディウスの熱い視線に星は恥ずかしそうに頬を赤らめる。

 

 メルディウスは小首を傾げると、納得いかない表情をしながらも持っていたベルセルクを肩に担ぐ。

 

「まあ、いい。どっちにしたって放置できる問題じゃねぇーんだ! 俺もこのざまでは、まともに戦闘もできない。と言っても、今から風呂に入ってたんじゃ間に合わねぇー」

 

 痛々しくなくなった左腕を見せると、大きくため息を漏らした。

 彼の腕は肘の下辺りからバッサリいかれている。エミルはそれを見て、申し訳ないと思っているのか表情を曇らせた。

 

 まあ、エミルが対峙していた相手に攻撃を行わなければ、メルディウスは腕を犠牲にする必要がなかったのだから無理もない。

 だとしても、腕一本くらい失ったくらいでは、彼の圧倒的な力だと能力は半分も減少しないだろう。しかし、味方が敵になるこの状況下では致命的だ――それはなにも左腕がないからではなく、対峙する敵が苦楽を共にした仲間だからだ。

 

 たとえそれが偽物だとしても、メルディウスは全力で刃を振り下ろすことはできないだろう。仲間達との思い出は偽りにできるものではないのだから……。

 

「――その腕では戦闘は無理です。戦闘は私が全て請け負います。だから、この子をお願いします」

「ああ、頼んだ! ……ああ、任せておけ!」

 

 星の背中を押してメルディウスの方へと寄せる。

 どうしても男性に慣れないのか、星は少し不安そうな表情でエミルを見るが、エミルはあえて顔を合わせようとしない。

 

 今顔を合わせたら、星はエミルの方に戻って来てしまうだろう……それがエミルには分かっていた。

 正直。星の身の安全を考えると、エミルよりメルディウスの方が適している。基本的にアバターはレベルによって男性、女性に関わらずステータスが均等に割り振られている。

 

 そして装備品や基本スキル『スイフト』『タフネス』によって各ステータスを調整することができるわけだが、大まかに分けて3パターン高速型、攻撃型、平均型にしぼられる――エミルは敏捷性を特化させた高速型。そしてメルディウスは前衛に必要な攻撃力と防御力に特化した攻撃型だ。

 

 なにより。彼の持っているベルセルクは『トレジャーアイテム』だ――フリーダムと名付けられたこのVRMMOゲームには、プレイヤーの能力を飛躍的に向上させる超レアなアイテムが存在する。この高難度ダンジョンを攻略した者に不特定でドロップするアイテムは使い手によって向き不向きがあるのだが、メルディウスの場合はベルセルクとの相性が抜群で、これだけでも対人戦では相当の優位性がある。

 

 手数で勝負する高速型と違い。攻撃型は一撃が重い。それは、うまくいけば一撃で敵を粉砕できるほど。

 

 普通に考えれば、数回斬り付けなければ一体撃破できない者と、一撃で敵を撃破できる者が戦えば、後者が圧倒的に有利になる。

 動物に例えるならばエミルがチーターでメルディウスがライオンだろう。自分の決められたテリトリー内で戦うなら、間違いなく力で勝るライオンがチーターを圧倒することだろう……。

 

 星を守るという目的なら、力でも防御でも勝るメルディウスはまさに適役だ。しかも、彼は四天王と呼ばれるテスターで、ゲーム歴はプレイヤーの中で最も長く、実力も折り紙付きだ。彼に星を預けていれば、エミルは安心して戦闘では全力で前に出られる。

 

 エミルを先頭に、メルディウスの指示の下、千代の街を回ってプレイヤーに化けたモンスターを探す。 

 メルディウスのギルドメンバー達が交戦している相手を片っ端から星が見ていって、モンスターだった者は撃破し、そうでないものは戦闘を止めさせる。

 

 ギルドメンバー達はメルディウスが一言掛ければ戦うのを止めた為、戦闘を止めさせるのは簡単だった。敵と味方の区別が付けば、撃退するのはそれほど手間は掛からない。




小説家になろうをメインに活動しています。
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