オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~   作:北条氏也

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新しい学校生活

 翌日。初登校の時間が迫っている中、星は新しい制服に袖を通し、昨日の夜渡された新しい教科書と時間割が書かれたプリントを再確認して、昨夜用意した教科書とノートを確認する。

 

 不思議と初めて転校するにしては、心も落ち着いていた。おそらく、いじめに遭っていた学校から転校したことで知り合いがいない環境に安心感を持っているからかもしれない。

 

「――こうして、また学校に通えるなんて……色々な事があったけど、学校に行けなくなって初めて分かった。私は学校が好きだったんだって…………だから、こうしてまた行けるようになっただけで充分……エミルさ――お姉様には感謝しないと」

 

  学校指定の新しいランドセルを優しく手の平で撫でながら感慨深げに目を閉じた星の耳に、ドアをノックする音が聞こえてきた。

 

「星ちゃん朝食の用意が出来たわよ。もう起きてる?」

「はい! お姉様、今行きます!」

 

 星がドアの前まで駆けて行くと部屋を出ようとドアを開けた。

 

 ドアを開けるとそこにはエミルが驚いた顔をしたまま立っていた。そんな彼女に「どうかしました?」と尋ねると、エミルが星の両肩をがしっと掴んだ。

 

「星ちゃんさっきなんて言ったのッ!?」

「えっ? どうかしまし――」

「――ううんその前!」

 

 顔を更に寄せて迫ってくるエミルに星は驚き目を丸くさせる。

 

 その星の顔を見てふっと我に返ったエミルは掴んでいた肩から手をゆっくり放した。

 

「……ごめんなさい。ちょっと熱くなってしまったみたいね」

「いえ、私こそごめんなさい」

 

 そう言った直後、エミルに向かって星は不安そうに眉をひそめながら尋ねる。

 

「あの……いやでしたか?」

「ううん! 全然! それよりも、お願い! もう一回言って!」

「……はい。お……お姉様?」

 

 星は小首を傾げながらそういうと、エミルが満足そうに目を瞑り。

 

「……もう一回」

「え? お姉様」

「もう一回」

「お姉様」

 

 星はエミルに言われた通り「お姉様」と彼女のことを呼んだ。

 

 すると、エミルは床に膝を突いて星の体をしっかりとその小さな体を抱きしめた。

 

「……うん。お姉ちゃんよ……あらためて、これからよろしくね。星」

「……はい。お姉様」

 

 星もエミルの体をぎゅっと抱きしめた。

 

 それから、2人は朝食を取るために食堂に向かった。食堂の中に入ると、部屋のテーブルの周りには5人のメイド達が立っていた。

 

「おはようございます。愛海お嬢様、星お嬢様」

「おはよう」

「おはようございます」

 

 2人はメイド達に挨拶をすると、椅子に腰掛けた。すると、テーブルの周りにいたメイド達がキッチンの方に消えていった。

 

 キッチンに消えた彼女達が料理の載ったお盆を持って戻ってくると、その料理を星の前に置いた。

 

 星とエミルの前に置かれたのはベーコンの入った野菜のスープとスクランブルエッグに食パンに瓶に入ったイチゴジャムが置かれている。

 

 2人は手を合わせて「いただきます」と言って朝食を食べ始めた。

 

 食事を終えて紅茶とホットミルクを飲んでゆっくりしていると、車の準備ができたようでスーツを着た白髪の執事の小林が2人を呼びに来る。

 

「お嬢様方、お車の用意ができました」

「分かったわ。それじゃ、星行きましょうか!」

「はい」

 

 星は返事をすると部屋に戻って用意していたランドセルを取りに戻ろうと部屋を出ようと走り出そうとした時、それをエミルが呼び止めた。

 

「荷物はもう玄関に用意してくれてるから、後は行くだけでいいのよ?」

「え? は、はい」

 

 そう言って微笑む彼女に、星は半信半疑のまま頷く。だが、エミルの言葉は事実で玄関に行くとメイド達が星とエミルのカバンを持って待っていた。

 

 驚く星を他所に、エミルは「ありがとう」と躊躇することなくカバンを受け取った。

 

カバンを受け取ったエミルが星のランドセルをメイドから受け取って立っている星に手渡した。

 

 星は少し躊躇しながらもエミルの持ったランドセルを受け取った。

 

「さあ、行きましょうか。初登校で遅刻したら大変よ?」

「はい。そうですね」

 

 星がエミルと一緒に玄関を出ると、執事の小林にカバンを渡したが星はランドセルを持ったまま車に乗った。

 

 車に乗り込むと、持っていたランドセルを開ける。

 

 ランドセルの中には、星が用意した教科書の他にハンカチやポケットティッシュなどが追加で入っていた。それと四つ折りにされた手紙が入っていて、開いてみるとそこには電話番号が書かれており、その上に。

 

『お嬢様。初登校で困った事や忘れ物があればご連絡下さい。すぐに対応させて頂きます。最後に初登校おめでとうございます。メイド一同、星お嬢様のより良い学校生活を陰ながら応援しております。』

 

 っと書いてあって、それを読んだ星は感動しながら手紙をランドセルの中に戻した。

 

 その様子を横で見ていたエミルが笑顔を浮かべながら話し掛ける。

 

「うちのメイド達は優秀だから、何かあったら連絡すれば助けてくれるわ。それに、頼ってくれないと悲しくなるから、申し訳ないとか思わないでどんどん頼ってあげてね」

「はい。何か困った事があったら電話します」

「ええ、そうしてくれると彼女達も喜ぶわ」

 

 エミルにそう言われ、星も小さく頷いた。

 

 だが、エミルはカバンの中を確認しないということはそれだけメイド達を信頼しているという証拠なのだろう。

 

 それから30分ほど車で揺られていると、学校が見えてきた。

 

 私立天宮白桜学園――これから星が長い間お世話になる学校だ。外見は西洋の洋館のような外見で小中高一貫校。父親の伊勢智弘と高校時代からの同級生で、元々は智弘と化石を掘りに海外に共に行った関係でもある。智弘が石油の取り引きに忙しくなったのを機に、智弘からの資金援助で学園を立ち上げた。

 

 私立天宮白桜学園では全国から資産家、政治家の息子、娘達を集め。社会に出てからも良好な関係性を築けるようにと男女は別々の校舎に分けられている。

 

 その理由は至極まともなもので、男女を分けることで男性は男性らしく、女性は女性らしくをスローガンに掲げている。

 日本が男女平等を掲げ、女性が社会進出するこの時代には珍しいが、それは庶民の間だけの話だ――非正規雇用、結婚率の低下に伴う出生率の減少。これは2036年の現在も変わっていない。いや、顕著に表れていて社会現象にまで広がっていた。

 

 その為、女性の社会進出など謳っているが、その実はただの労働力の確保する為であり。少子化による高齢者の増加を懸念して、平均寿命を下げる狙いもある。

 

 いくらでも代えが効く一般の国民はそれでもいいが、上場企業の社長や政治家の子息や令嬢に早死にされては国の将来も閉ざされることになる。しかも、まだ精神が不安定な年代の不純異性交遊などの抑制にも男女を分けるのには効果があるのだ。

 

 学校に着くなり裏門に車を止めると、車から降りるエミルが心配そうに星の顔を見た。

 

「大丈夫ですよ。ただ学校に行くだけですから。何かあったら電話しますし、エミルさんは心配しないで下さい」

 

 そう言った星は、心配そうな顔したエミルに笑顔で返した。

 

 エミルは心配そうにしながらも、車のトランクから執事の小林が出したカバンを受け取って学校の中に入って行った。

 

 それから正門に車を回し、星がランドセルを背負って車から降りようとした時、ドアを掴んで立っていた小林が口を開く。

 

「星お嬢様。差し出がましいかもしれませんが、お友達を作るには、自分から相手を理解する努力をする事です。お嬢様はお優しいので心配はいらないと思いますが」

「はい。ありがとうございます」

 

 執事の小林の言葉を聞いて星はお礼を言って微笑んだ。




小説家になろうをメインに活動しています。
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