ポイントの話が終わった後、いつの間にか畑はいなくなっていたが、クラスの人々はそれどころではなく、彼女がいなくなっている事に気がついたのは綾小路だけだった。
この学校のプールのプールサイドで畑はカメラのセッティングをしていた。
「さぁ、今日は売れる写真を沢山撮りましょ~!」
腕を突き上げ、握り拳を作る。当然、親指は人差し指と中指に挟まれている。
絵面的には、手だけにモザイクがかかることだろう。
今日はプール開きの日であり、無駄に顔がいい女子達や、イケメンが何人もいる男子の写真が取り放題である。
Dクラスのプールは午後のはずだが、何故か彼女は朝からいなかった。そして、その事について茶柱は何も言っていなく、Dクラスが授業をサボり始めたのは彼女が原因だろう。
そして、当の本人は何処にいるのかと言うと、やはりプールにいた。今はAクラスが使用中である。
プールにて、Aクラスの場合。
「おぉ、おぉ!素晴らしい!ブラボー!可憐な女子たちが下着とそう変わらない格好でくんつほぐれつの状態に!」
パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ
盗撮である。
「あら?貴方はこのクラスの子?見たこと無いわ」
「おお、これは一部のロリコンと呼ばれるマニアにはたまらんボデー!」
パシャパシャ
リクライニングチェアで寝ていた白い髪の毛に白い肌、さらに白いワンピースのような水着を着た女の子がカメラを握る畑に声をかける。近くのテーブルには杖が置いてあり、彼女の物だろう。
「いえ、私は1年D組の生徒です」
それを聞いていたAクラスの男子生徒が畑を馬鹿にする。
「Dクラスの不良品が何故ここにいる!」
「そんな!私を不良品だなんて...!下の口はまだ未使用なのに!」
「真顔で何とんでもないこと言ってんだてめぇ!」
「山盛君、下品です。口を謹んで下さい」
「え、俺が悪い事になってるの?」
その後彼は連行された。ハゲに。
「すみません。うちのクラスの生徒が迷惑をかけました」
先程の女性が謝ってくる。
「いえ、許しません。体で払って下さい」
「「何言ってんのあの子!?」」
「それでしたら喜んで」
「「坂柳さん!?」」
Aクラスのツッコミの時の団結力は素晴らしい物だった。
「それはさて置き、貴方の名前は?」
「畑です。畑ランコです」
「私の名前は「坂柳有栖さんですよね。知ってます」へぇ...」
「どうして、知っているんですか?」
「私、新聞部なんで!と言うか、先程坂柳さんって呼ばれてたでしょう?」
「この学校にそんな部活ありましたっけ?」
「作ります」
「そう。貴方面白そうだから、連絡先交換しましょう?はい、これ」
それから、畑を見る坂柳の目は玩具を見る目であった。
ちなみに、更衣室に仕掛けたカメラは坂柳に回収されて、後で気付いた畑が泣いていた。
プールにて、Bクラスの場合。
「おぉ!これは逸材だ!我がクラスの櫛田(おっぱい)に匹敵する程の武器(おっぱい)を持っている...!これは万人受けするに違いない!うぉおおお!間違いない!櫛田さんが言っていた一之瀬(おっぱい)さんだ!」
パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ
「君は櫛田ちゃんの友達なの?」
「いえ、主従の関係です。私が主」
櫛田という単語に反応する一之瀬が質問するが、聞いてから聞かない方が良かったと後悔する事になった。ちなみに彼女とは連絡先を交換していないが、この学園で畑の知らない連絡先は無い。
プールにて、Cクラスの場合。
「っしゃー!張り切って写真撮りましょう!!」
Cクラスの女子も中々美形が多く色々撮りたかった畑だが、龍園は他人が自分らのクラスを見に来るのが気に食わないのか、山田に命令する。
「アルベルト、連れ出せ」
山田アルベルト。身長は2mを超えているんじゃないかと疑う程高いガチマッチョな黒人であり、一応生徒だ。
「bad girl」
「おや?」
山田に制服の襟を掴まれて、畑はプールの外に放り出された。
「あーれー」
「だが、私はフェイクだぜ!」
プールの側にある連絡用のスピーカーの下の小さな黒いカメラに気づいた者はいなかった。
そして戻ってきて、Dクラス。
「畑さん!?今までどこ行ってたの?」
「おや、櫛田さん。おっぱいをさらけ出してどうしたんですか?」
「さ、さらけ出してないよ!?これは制服がキツいから仕方なく...」
その言葉に顔を赤くしながら聞き耳を立てる馬鹿な男子が2人いて、それを他の女子が白い目で見ていた。
「私は他クラスの生徒と仲良く(一方的に写真撮っていただけ)していただけです」
「あ、畑さんも私と同じ目標なんだね!でも授業抜けてやるのは良くないよ?」
「大丈夫です、先生の授業は録画済みですので」
「へぇ、今度私にも見せてね。復習に使えるから」
「え、えぇ(不味いぃ!あの中には確かに授業の内容を撮ったのもあるが、先生のお尻の動きを撮ったものと、胸の動きを撮った物が混ざっている!...仕方ない、今日中に編集して、そちらの録画は別のSDカードに移しますか)」
Dクラスのプール授業の時間がやってきた。
綾小路は現在、楽しそうに遊んでいる女子達を遠くで眺めるボッチに過ぎない。揺れ動く乳、それを見て鼻の下を伸ばす男子、そんな男子が嫌だからプールに入らない女子、そして...ボッチの横に来るボッチ。
「あんな事があったのに、呑気な物ね」
堀北はこのクラスの異常性を説いている。
「気を紛らわせたいだけなんじゃないのか?」
「そういう物かしら?」
「まぁでも、確かに全く影響受けてない人も数人いるがな」
綾小路が目線を向ける相手は、自分の体を眺めて絶好調と言う高円寺と、可愛らしい水着に身を包んだ女の子達...を撮りまくる変態、が今まさに女子から止めてと言われている所であった。
先生に与えられた自由時間を好機と思ってか、平田が全員に呼びかける。
「みんな、真剣に聞いて欲しい。今日僕達はポイントを貰えなかった。だから、来月は絶対にポイントを獲得しなくてはならない」
正論かもしれないが、この男にとってそれは正論では無い。
お前が何やろうが勝手だが、俺を巻き込むなと言って出ていった。
そんな様子を難しい顔で見ていたのは何もDクラスの連中だけではない。
とある部屋のカーテンの影からプールを覗いている者がいた。
生徒会長、堀北学である。彼は窓から視線を外し、部屋に呼んでいる二人の生徒と会話を始める。
「おめでとう、1年A組坂柳、葛城、おめでとう。今月お前たちのクラスに与えられたポイントは940。これは誇るべきs「すみませ~ん!」なんだ?」
「ちょ、貴方何しているんですか!?この部屋は今会長が使っているんですよ!?」
「おや、会長がいたんですか」
ガチャ
「え、ここ鍵しまってたはず...え?」
橘の話を無視して入って来た者は、畑ランコである。彼女は突然入ってきた自分に何の用だと問い詰める会長にお辞儀して窓の所まで歩いて行き、カメラの3脚を立てて録画モードを選択し録画開始と同時にそこを去っていった。
「な、なんだあの女は!?」
「会長がそこまで動揺する所は中々見られませんね、レアでs「トゥォア!スクープの予感!!」またですか...」
パシャ。
その後会長に腕を締め上げられ、無理やり彼女の撮った写真を消去されたが、それはフェイクであると畑は語る。
ちなみにこの後みんなの水泳の実力を知るために先生にタイムを競い合うトーナメントをしたが、畑はありえない程速かった。具体的に言うと、女子の1位を横から水中カメラ(大きいやつ)を撮影しながら同じスピードで泳いでいた。
彼女はいい物が撮れたと嬉しそうであった。無表情であるが。
次の日から、クラスの様子が一変したと感じる綾小路であった。
ポイントで買ったゲーム機を友達に無理やり買わせようとする者、返せるかわからない借金を増やしていく者、そして...普段冷たい堀北が何故か食事に誘ってきたこと。
「え?」
「だから、お昼よ。聞こえなかったの?奢るわよ」
結果的に赤点を取った者を救済する為の勉強会の進行役を無理やり任された。
「俺を巻き込むな」
「食べたわよね。豪華なスペシャル定食。嘘で私を誤魔化して櫛田さんと会わせた事を私が恨んでいないとでも?」
「汚ぇー」
「来たねー!スクープのチャンス!あの孤高の雰囲気を漂わせる堀北鈴音がまさかの男とお食事デート!?これは売れるぅのか?まぁ、色々捏造するとしましょう」
「堀北...こいつを呼んだのもお前か?」
「呼ぶわけ無いでしょう?いつからいたの...。まぁいいわ。貴方も勉強会への参加メンバーの1人なんだから。それと、綾小路君。赤点のメンバーを集める算段がついたら私に連絡して、これが私の連絡先ね。畑さんにも渡しておくわ。最後に、こいつとデートなんて身の毛もよだつ程の気持ちの悪い行為を私がする訳ないでしょう」
3人を誘いに行った綾小路だったが、見事に撃沈したため自分の部屋に戻ってきた。
「やっぱりダメかぁ...」
「仕方ない、櫛田に頼むか...あ、携帯番号知らなかった...」
「そうと来たら、任せてくだされ!」
「え、畑...。何処から入ってきたんだ。鍵も掛かってたし」
「あっちです」
ベランダの窓を指す畑。
「えぇ......」
「まぁまぁ、私も堀北さんに頼まれた身ですし」
「で、本音は?」
「勉強会密着取材!」
「はぁ...」
「櫛田さんの電話番号ならば、私が教えましょう」
「おぉ、助かる」
無表情な2人のトークは端から見れば不思議な光景だろう。
プルプルプル
「もしもし!」
「お、櫛田か。綾小路だ」
「あれ?綾小路君?どうして私の電話番号知ってるの?」
「畑が教えてくれたんだ」
「畑さんってプライバシーの権利知らないの!?」
「記者ですから」
電話から漏れた僅かな声を拾う畑の高スペックにやや驚く綾小路であった。
「記者だからと言っているぞ」
「え、綾小路君の所に畑さんいるの!?あ、私お邪魔だったかな...ごめんね?」
「櫛田、流石に冗談がキツいぞ」
「そうかな?畑さん見た目は可愛いじゃん?」
「それはさて置き...」
その後、綾小路の言った勉強会に自分も参加するという条件を提示され、それについて堀北を説得するのに時間がかかったが何とか無事収まった。
「畑はいつまでいるんだ?」
「終わりましたか。私としてはこのまま一緒に夜を過ごすのも構いませんよ?」
「遠慮しておきます。失礼だが、畑の携帯の中見せて貰っていいか?」
「まだ付き合ってもいないのに束縛するつもりですか。束縛するのは縄と決まっています!緊縛プレイ!」
「いや、見せたくないならいいんです」
「まぁ、減るものでもありませんし」
☆☆☆☆☆☆☆☆
1年D組 綾小路清隆
1年D組 堀北鈴音
1年D組 櫛田桔梗
1年D組佐倉愛里
1年D組軽井沢恵
1年D組平田洋介
1年D組須藤健
1年D組山内春樹
1年D組池寛治
1年D組高円寺六助
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1年C組龍園翔
1年C組伊吹澪
1年C組椎名ひより
1年C組山田アルベルト
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1年B組一之瀬帆波
1年B組神崎隆二
1年B組白波千尋
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1年A組坂柳有栖
1年A組葛城康平
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3年A組堀北学
☆☆☆☆☆☆☆
全学年、おまけに職員の携帯番号まで入っていた。
「あ、勘違いしないで下さいね。まずは全員分の名前を書いて、その後教えて貰った物だけ登録しているんです」
「そりゃそうか。別に羨ましいとか思ってないからな」
綾小路の部屋から畑が立ち去った後、綾小路はある結論に至る。
「(櫛田や堀北はともかく、少なくとも俺は電話番号を教えていない。誰かから教えて貰った可能性もあるが、流石に全校生徒の名前を知っているのはおかしい。.....1番警戒しなくてはいけないのがこんなに身近にいたとはな.....女の子の電話番号、これで3つ目か。しっかり登録しよう)」
畑が彼にとって最も警戒する相手になった。
ちなみに、彼女は全校生徒の電話番号どころか、監視カメラや学校のデータベースにまで入り込んで、部屋の場所まで知っている。
理由はいつどこでどんな事件が起きても対応(取材しに行くなど)できるからだ。
勉強会は解散する事になった。
原因は須藤が幾ら教えても身につかないので、堀北が呆れて罵倒を始め、結果須藤が怒り出して出ていき、それにつられ池と山内も出ていき、それを追いかけて櫛田が出ていき、結局残ったのは赤点を取った畑と綾小路と堀北だった。
「そう!実は私赤点だったんです!」
「誰に対して言っているのよ。早く続けなさい。そこのホルモンの名前は教科書にあるやつ全部覚えなさい」
「パラトルモンはPTH、作用は骨吸収...パンツ履いてないと骨抜きになるまで犯されると覚えましょう」
「なんで無駄に長くしたの...」
畑は新聞に載せる材料を探す事に日々を費やしている為に、勉強する時間は皆無である。だが彼女の中学での成績はかなり上位であった。周りが頭悪いのか、それとも単純に彼女が凄いのかはさて置き、彼女はやればできるの子、YDKなのである。
「なに言ってるんですか、大抵の女子はヤればできる子です」
「いいから下ネタ言ってないで暗記を続けなさい」
「そこはもう全部覚えましたよ?」
「え?」
堀北が確認の為に問題を幾つか出すが、彼女は完璧に答えて見せた。
「私数年前に物凄い凡ミスをしたのです。なんと!取材しに行ったのにメモ帳が無いではありませんか!ですがここでパンツを脱いで書くにも、パンツは書くには生地が柔らかすぎます。そこで私はその場の出来事を全て記憶したんです。意外とうまく行きますなぁ」
「貴方意外と凄かったのね...」
「それより!...約束は覚えてますよね...?」
ここに来て今まで小説を読んでいた綾小路が会話に混ざってくる。気になったのだろう。
「約束...?」
「なんでもないわ、貴方には関係無いもの」
「実は、今度のテストで彼女の望む通りの点数を取れれば、スクール水着の被写体になってもらう約束なんですよ」
「へぇ...」
「全く、そんなのプール授業で見れるのに...何を考えているのか」
「いえ、あの時更衣室にあったカメラを壊されてまして.......あ」
そう、実は盗撮用の小型カメラが更衣室にあったのだが、回収しに行った時には既に壊されていてゴミ箱に入っていた。
だが、そんな事は"どうでもいい"。
「畑さん、貴方今なんて言ったの?」
「ふー、ふー」
吹けない口笛を頑張って吹く畑の口の形は「3」のような感じだった。彼女だけ作画が違う。
「もしかして、私が見つけたカメラって畑さんのじゃあないわよね?」
ジョジ〇の奇妙な冒険みたいな言い方で聞いてくる堀北。その様子は明らかに怒っていて、本当に後ろにスタンドが見えそうな勢いであった。
「ふー、ふー、ふー」
汗をダラダラかき、必死に口笛を吹きながら明後日の方向を向く畑。堀北に首を掴まれてどこかへ連れてかれる畑に、綾小路は静かに骨は拾ってやると言った。
それ後、彼女の姿を見たものはいないという。
まぁ、最後のは嘘です。