μ'sのファイナルライブから一ヶ月後⋯⋯。
「八幡、そろそろ出番よ」
「ああ、大丈夫だ。あいつら、会場には無事着いたのか?」
「ええ、今さっきメッセージきたわ。もう席に座ってるそうよ」
「⋯⋯じゃあよかった」
「でも意外ね。八幡、前までなら絶対知り合い呼びたくなさそうだったのに」
「まあ、あれだ。知り合いの前で演奏するのに慣れといたほうがいいと思ってな。この前みたいにいきなり遭遇するかもしれんし」
「ふふっ、あの時の表情を写真に撮っとけばよかったわ」
「やめてくれ⋯⋯」
今俺と真姫は秋葉原のホールにて自分達の出番を前に、落ち着かない気持ちでいた。
色んなジャンルの音楽が披露されるイベントだが、今回は真姫母から頼まれたわけではなく、偶然楽器店で告知を見つけたイベントだった。
俺からイベント参加を提案したことが真姫はひたすら意外だったらしく、何度も具合を確認されてしまった。
ちなみに彼女は今でもスクールアイドルを続けている。もちろん新しいグループとして。グループ名は今度発表するらしい。μ'sのメンバーの新しいグループということで、注目度がかなり高まっている。
ただ、今日はμ'sのメンバーとして得た知名度に頼る気はないということで、カモフラージュに伊達メガネとボンネットニットを装着している⋯⋯うん、まあこれはこれで悪くないですね。とりあえず後で記念にツーショット撮っておこう。
「はいはい、ライブ前に変な事考えないの」
「いや、断じて考えてない。何?心読めるの?スピリチュアルかよ」
「顔に書いてあるのよ。ていうか当たってるんじゃない。ったく、もう⋯⋯」
「最後にもう一度合わせておくか」
「もうそんな時間ないわよ。とりあえず落ち着きなさい。μ'sの皆も見守ってるから」
「え、マジ?全員来たの?緊張通り越して帰りたいんだけど」
「いや、知り合いの前での演奏に慣れておきたいって言ったの自分じゃない」
「⋯⋯それもそうか」
急な展開に緊張が高まり、うっかり帰宅まで頭にチラついていると手がひんやりとした感触に包まれていた。
視線を落とすと真姫が両手で俺の両手を包み込むように握っていた。
「大丈夫よ。私が隣にいるんだから⋯⋯これからもずっと」
「⋯⋯頼む。何つーか、お前がミスったら全力でフォローするわ⋯⋯ずっと」
「⋯⋯何それ。私を誰だと思ってんのよ。さあ、行くわよ」
いつものように微笑む真姫から引き起こされ、俺はギターを抱えてついていく。
すると、彼女は舞台袖の暗がりで身を寄せてきて、小さく囁いた。
「⋯⋯今さっきの、信じてるから。約束よ」
俺はなるたけ力強く頷き、一緒にステージへと足を踏み出した。