横島堂へようこそ   作:スターゲイザー

12 / 16
第十二話 ネギの日記④

 

 

 

 この日記を書いている時、僕はとても清々しい気持ちになっていた。

 ヘルマンが襲来した翌日に横島堂で目覚めた僕は、横島さん達に少し恥ずかしい姿を見せてしまった。あんなに泣いたのは初めてかもしれない。

 あの後、何らかの方法で僕達の会話が明日菜さん達にも聞かれていたみたいで、そろそろ一度帰ろうかと思っていたところに横島堂にやってきて抱き付かれてしまった。

 みんな泣きながら謝って来て、僕もつられて泣いてしまった。

 その後は謝って泣いて謝って泣いての繰り返しで、五月蠅かったろうに横島さん達は文句一つ言うことなく笑って許してくれた。

 

 この出来事から心機一転していく決意を固めた。

 迫る麻帆良祭に向けて難航していた出し物も決まり、やることも多い。

 そういえばと横島さんに麻帆良祭にどういう形で参加するのか気になって聞いてみた。

 

「雪姫も生まれたばかりだから今年は止めておくよ」

「え、そうなんですか?」

「まあ、もう十年もこの街にいるから一回くらいサボってもいいだろ」

 

 独特の言い回しではあるが実に横島さんらしい言い方ではある。

 

「そんな寂しそうな顔すんな。俺だけでもお前らの出し物には顔を出すよ」

 

 そう言って頭を撫でられて苦笑されると自分が本当にただの子供のように思えて面映ゆかった。

 

 横島さんが見に来てくれるならと邁進していたら学園長に世界樹広場前に呼ばれた。

 なんだろうと思って小太郎君や刹那さんと行ってみると、麻帆良にいる魔法先生や魔法生徒さんを全員ではないが紹介してもらい、学園長より神木・蟠桃の効果で呪いの域で成就してしまう告白を阻止してほしいと頼まれた。

 

「横島さんは見回りとかするんですか?」

「いいや、彼は魔法先生ではないからの」

 

 後で個人的に学園長に聞いてみたら、それはそうだと納得してしまった。

 横島さん達の立場は所謂、外部協力員らしい。要は関東魔法協会の会員ではないが有事の際には協力する立場にあるようで、この告白阻止レベルでは動くことはないようだ。

 

「でも、なんで世界樹広場前で皆さん集まってるんでしょう? 普通に学園長室でも、どこかの空き教室でも良かったのでは?」

 

 なんで世界樹広場前なんていう外で、しかも多くいる魔法先生や魔法生徒さんを紹介してそんな説明を受けたのか、全く謎だったが学園長の返答に窮している雰囲気を察するに僕を驚かせようという空気を作ろうとしていたのかもしれない。

 常識的な観点から言って公共の場である世界樹広場前を占拠するのはどうかと思う。

 

 その後、魔法先生としての仕事も入ったので、小太郎君に揶揄われながら厳しくなった麻帆良祭のスケジュールに頭を悩ませていると、クラスの超鈴音さんが上から落ちて来た。

 

「悪い魔法使いに追われてるネ。ネギ先生に助けてほしいヨ」

 

 落ちた超さんがそう言って助けを求めてきた。

 実際、白い仮面を付けた見るからに怪しい黒装束の人達が直ぐに現れたので、刹那さんが超さんを抱えて小太郎君が先導して逃げることになった。

 

「悪い魔法使いなら学園長に連絡しないと」

「そんな暇があるかいな!」

 

 屋根を転々として飛び回っているのに追いかけて来る黒装束を見て確かに魔力を感じ取ったので携帯を取り出そうとしたら何時の間にか前方に先回りされていた。

 刹那さんが迎撃してくれたが小太郎君の言うように携帯を取り出して連絡している暇はなさそうだ。

 

「迎え撃ちます!」

「こいつら俺の狗神みたいなモンや! 殺ってええやろ?」

「駄目です! ここは人目に付き過ぎる。せめて人のいない場所へ」

 

 どうにも刹那さんと小太郎君は考えることを面倒がっている節がある。

 幾ら屋根の上で見え難いとはいえ、人型をしたものに攻撃を加えて万が一でも見られたら警察に通報されかねない。

 

「あっちの公園へ! 人払いの結界も張れば対処できる!」

 

 咄嗟に周囲に目を走らせて、人のいない公園ならば結界を張れば対処できると僕は考えた。

 

「刹那さんは超さんを、小太郎君は先導して! 後ろは僕が守る!」

 

 奇襲にあっても咄嗟の判断力は小太郎君の方が勝っているだろう。体格的に超さんを抱えるのは刹那さんにしか出来ないので、僕は後方でいた方が本領を発揮できる。

 幸いにも影法師達にこちらを殺傷しようという気は感じられない。

 妨害の手は激しさを増したが、僕達は公園へと辿り着いて。

 

「え」

 

 影法師の主が魔法使いならば人目が無い方が仕掛けてきやすいだろうと考え、決戦の場を公園と考えたのが到着してみると見覚えのある人たちが待ち構えていた。

 

「あ」

 

 スーツを着た黒人男性と見覚えのあるウルスラ女学園の制服、そして麻帆良女子中等部を着た二人の少女の顔に見覚えがあった。

 

「つまりは誤解だったわけですね」

 

 襲った方も襲われた方も当の超さん以外は誤解していたわけである。

 

「我々魔法使いが現代社会と平和裏に共存するためにはその存在を公に秘密にしていることは分かってるね。超君は事情から多少のリークを許されているが、全てを教えて良いわけではない。今回、また彼女は通常では侵入不可能な会合の場を科学技術を使って覗き見していた」

 

 所謂、襲っていた方のリーダーであるガンドルフィーニ先生の言うことは、魔法学校で習って来た通りなので僕も頷かざるをえないが、最後に関してだけは疑問だった。

 

「校則を破れば普通の生徒も罰則を受ける。君が警告を無視したのはこれで三度目だ。そうだね?」

「ア、アイ……」

「警告を三度も無視したからには、見つかれば罰を受けるのは覚悟していたということだ」

「待って下さい」

 

 ガンドルフィーニ先生が言っていることは真っ当なことで反論の余地はないだけに僕は待ったをかけた。

 

「今回の会合の場というのは世界樹広場前ではないんですか? あんな場所で会合をやった以上、幾ら結界を張っていても人に見られたり聞かれたりする可能性は十分に考慮の上のはずです」

「む、それはだな」

「それに幾ら再三に渡って警告しているとしても、記憶を消さなければいけないほどのことをしているとは思えません」

 

 麻帆良に来たばかりのネギは魔法がバレた明日菜の記憶を消そうとしたが上手くはいかなかった。

 しかし後になって、例えば僕が横島さんに両親の写真を貰った時の記憶を誰かに消されたらと考えた時、とても恐ろしくなった。

 正当な理由があれば記憶を消しても良いというわけではないが、もっと熟考して然るべき領域のはずである。

 

「超君は危険人物だよ。あの凶悪犯エヴァンジェリンにも力を貸しているんだ。油断は出来ない」

 

 そう言うガンドルフィーニ先生に僕はカチンと来たが、直ぐにそれが普通ならば当たり前の考えなのだと自覚する。

 幾ら僕らが生まれる前のことで、今はとても穏やかになっているといっても良く知りもしない人にとってみればエヴァンジェリンさんの為したことの染みついた先入観が消えることはない。

 

「それではその凶悪犯に弟子入りした僕は未来の凶悪犯ですか?」

「む」

「仮にも先生が生徒を勝手に凶悪犯や危険人物と一概に決めつけるのは良くないと思います」

 

 揚げ足をとって、詭弁を言っている自覚はある。

 

「超さんは僕の生徒です。僕からも良く言って、次はないようにさせますのでどうかこの場は」

 

 粗を突く様に卑怯な言い方の上に、つまりはこの場を見逃して欲しいと言っているようなものだ。

 頭を下げて頼み込む姿は決して格好いいものではないし、僕に出来るのは相手の情けに縋ることだけだ。

 ガンドルフィーニ先生は考えるように手を顎に当てる。直ぐに手を離した。考えは纏まったようだ。

 

「分かった。学園長も深追いは良いと言っていた。所在が分かっている以上、無理に捕まえる必要もない。今日の所は君に任せよう」

「ありがとうございます」

 

 ガンドルフィーニ先生の采配に、僕はもう一度深く頭を下げて感謝を示した。

 

「だが、学園長が君の意見を認めなかった場合は分かるね?」

 

 麻帆良学園都市の表と裏のトップである学園長の意見は、時に他の意見を凌駕する。その学園長が僕の意見を否と言えば従わざるをえない。

 

「それと気をつけたまえ。君が思っている以上にこの件の責任は重い。そして次がないことも」

「承知しています」

「ならいい。では、後は任せたよ」

 

 念を押すことだけは忘れず、ガンドルフィーニ先生は二人を連れて戻って行った。

 

「いやー、ホントに助かったヨ。ネギ坊主は私の命の恩人ネ」

 

 ガンドルフィーニ先生達が去った後、超さんは安堵で笑顔を浮かべてはいるがどこか本心が読めないような気もする。

 単に僕の考え過ぎなのかもしれないが、頭の良い超さんが再三の警告を受けてまで魔法使いにとって危険と思われる行為をした理由はなんなのか。

 

「これは命の恩人に対する細やかなお礼ヨ。では、再見」

 

 事態の張本人であるはずなのにそんな雰囲気を全く感じさせなかった超さんは僕に懐中時計のような物を渡して去って行った。

 ガンドルフィーニ先生の言うことではないけど、普通ならば三度も警告を受ければ行動はしない。

 それでも行動に移したとなれば、超さんには何らかの目的があるということなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園祭当日は、よく晴れた。

 

 『生徒の皆さん、午前10時を過ぎました。只今より、第78回麻帆良祭を開催します!!』

 

 アナウンスが流れて麻帆良祭が始まる前から僕は動き始めていた。

 まずはクラスの出し物であるお化け屋敷に参加して――――――

 

 ちょっと書けなかったのでこの項目に関してはこのまましておこう。

 その後は個人のクラブや委員会などの出し物に顔を出して、空き時間にアトラクションを楽しむ。その時々で同行する人も変わる。

 途中で超さんに会って、貰った懐中時計が時計型タイムマシンなのだと説明を受けた。

 嵩張るのもあって部屋に置きっぱなしだったので、その通りに言ったらガビーンとショックを受けていた。

 超さんは自分を火星から来た火星人って言っていたけど、吸血鬼にロボに忍者に幽霊に半妖に完全魔法無効化能力者がいたりするクラスだから宇宙人がいても驚く理由にもならない。

 タイムマシンであるというのは超さんの言葉を信じるにしても、最初の起動が二年半前でそれから一度も試してない物を人に渡すのは止めてほしい。

 説明書を貰ったけど、多分引き出しの中に仕舞ったまま使うことはないだろう。

 

 超さんと別れた後は龍宮さんと合流して告白阻止に動くことになったのだが。

 

「なに狙撃してるんですか、龍宮さん!?」

「私の仕事は学際中、あのエリアで告白が起きるのを阻止することだ。この方が手っ取り早いだろ。安心しろ、麻酔弾だ」

 

 10分で目を覚ますと言っても安心できる要素が欠片も無い。

 確かに効率を考えるなら、これから告白しようとしている人を狙撃で眠らせてエリア外に運ばれるように仕向ける方が楽なのは事実だが、やり方に問題があり過ぎである。

 

「要はエリア外に誘導してしまえばいいんです」

 

 結論としては龍宮さんと同じになってしまうが大事な過程である。

 

「ふむ、10歳とは思えない手際の良さだな。感心したよ」

 

 小学生ぐらいの女の子が男の子に告白しようている現場では女の子が被っている帽子をエリア外に飛ばすことで誘導し、意識を逸らす魔法を使ったり、穏便に済ます方法を行っていると龍宮さんが感心した口調で漏らした。

 

「ネギ君、私の仕事を手伝う気はあるかい?」

 

 傭兵のような仕事をしていると聞いたので、その仕事かと聞いてみたら違うらしい。

 

「紛争を止める、無くしていけるような組織を作ろうと思っているんだ」

 

 そこまで言って少し面映ゆそうに笑った龍宮さんの姿はとても自信に満ち溢れていて綺麗だった。

 

「まだまだ構想段階だが、今はこうして必要になるであろう資金を集めている。だが、どうにも傭兵をやっていると解決方法が武力一辺倒になりがちだ。そこで今回見せてくれた柔軟な発想が出て来る頭の持ち主である君が手伝ってくれると嬉しい」

 

 傭兵なんて字面からして「危ない仕事なんて止めて下さい」なんて言える理由ではなかった。

 というか、とても真っ当過ぎて穿った見方をしていた僕の罪悪感がギリギリと胃を痛めつけて来る。

 

「はい、喜んで!」

 

 疑った分も込めて笑顔で頷いた。

 実際、龍宮さんがやろうとしていることは立派な魔法使いの理念に即している。

 僕個人としても紛争はない方がいいと思うし、英雄の息子でもなく魔法使いとしての僕でもなく、僕自身の能力を必要だと言ってくれたのなら出来るだけ応えたいと思う。

 

 

 

 

 

 予想よりも充実した気分で龍宮さんと別れた後はのどかさんとデートの約束がある。

 ここは紳士の嗜みとしてきちんと満足させてあげなければ沽券に関わるが、世界樹の告白阻止もあるので修学旅行の時のこともあるから念の為にエリア外を回ることにしておいた。

 デートの内容については、日記に記すには少し恥ずかし過ぎるの割愛しておく。

 

 

 

 

 

 夜には小太郎君に誘われたまほら武道会は、ある人物が複数の大会をM&Aして一つに大会に纏めたことで賞金が1000万円の大規模な大会に様変わりしていた。

 

『私が、この大会を買収して復活させた理由はただ一つネ。表の世界、裏の世界を問わずこの学園の最強を見たい、それだけネ』

 

 片目を閉じてウインクを入れて、超さんは左手の人差し指を立てながらあっけらかんと楽しそうに言い放った。

 

『二十数年前までこの大会は元々裏の世界の者達が力を競う伝統的大会だたヨ。しかし主に個人用ビデオカメラなど記録機材の発達と普及により、使い手たちは技の使用を自粛、大会自体も形骸化、規模は縮小の一途をたどた……………だが私はここに最盛期の『まほら武道会』を復活させるネ! 飛び道具及び刃物の使用禁止……………そして、呪文詠唱の禁止! この二点を守れば如何なる技を使用してもOKネ!』

 

 これは超さんをガンドルフィーニ先生に引き渡した方が良かったかなと僕は遠い目をしながら思った。

 

『案ずることはないヨ。今のこの時代、映像記録がなければ誰も何も信じない。大会中、この龍宮神社では完全な電子的措置により、携帯カメラを含む一切の記録機器は使用できなくなるなるネ。裏の世界の者はその力を存分に奮うがヨロシ!! 表の世界の者は真の力を目撃して見聞を広めてもらえればこれ幸いネ!! 以上!』

 

 まあ、それなら証拠も残らないから言い逃れは出来なくもないのだが、どうして超さんはここまで怪しい行動を取るのだろうか。

 

『この大会が形骸化する前の事実上最後の大会となった25年前の優勝者は、学園にフラリと現れた異国の子供「ナギ・スプリングフィールド」と名乗る当時10歳の少年だった』

 

 さあ、僕も大会に出るぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なのに、どうしてあなたがいるんですか……」

 

 ネギは目の前に立つバツ印のような模様が書かれた覆面を被った男を前にして唸っていた。

 

「賞金に釣られちゃった、てへっ」

「横島さはぁああああああああああああああああああああああんっっ!!」

 

 予選を勝ち抜き、本選へと名を連ねた中にいた『謎の覆面X』を横島だと看破したネギは、そのあまりにも俗物的な理由に魂の雄叫びを上げた。

 

 

 

 

 

 

 第一試合『ネギ・スプリングフィールドVSタカミチ・T・高畑』

 第二試合『大豪院ポチVS神楽坂明日菜』

 第三試合『クウネル・サンダースVS犬上小太郎』

 第四試合『長瀬楓VS中村達也』

 第五試合『田中VS謎の覆面X』

 第六試合『龍宮真名VS古菲』

 第七試合『横島タマモVS桜咲刹那』

 第八試合『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルVS横島シロ』

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。