マクロスSympathy   作:紅 奈々

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Mission1 玻璃色のプロローグ
風の大地


西暦2067年、銀河中である奇病が猛威を振るっていた。名を「ヴァールシンドローム」。

感染者の精神に異常を来たし肉体は突然肥大化、暴徒と化するこの奇病は、増加の一途を辿っていた。

 

そのヴァールシンドロームに対抗すべく、5人の女神が可変戦闘機(バルキリー)を伴い、戦場を駆け抜けていた。

彼女たちの歌声によりヴァールは沈静化されていく。

 

そんな惑星の片隅。誰にも周知されていない辺境の惑星があった。

当然、ヴァールシンドロームは、そんな辺鄙な惑星(ほし)にも容赦なく襲い掛かる。

そんな奇病に立ち向かう一人の少女と少女を守護する青年の姿があった。

 

彼女と銀河を守護する女神・ワルキューレ。

その両者には決定的な違いがあった。

 

フォールド・レセプターを保有し、生体フォールド波を放つ事でヴァールを沈静化するワルキューレ。

フォールド・レセプターを保有しておらず、生体フォールド波を放つことができない、少女。

しかし、何故か少女の歌声はヴァールを鎮圧することができていたのだ・・・・・・。

 

 一人の少女と、銀河を震わせる女神の出会が銀河を震わせる歌を奏でる――。

 

 

―― ―― ――

 

《ギリギリ愛 いけないボーダーライン

難易度Gでもすべて壊してみせる――》

 

音楽プレイヤーから漏れ聞こえる歌を、少女は無情に聴いていた。

超時空ヴィーナス、と称されている戦術音楽ユニット“ワルキューレ”。

歌声で銀河に蔓延している奇病“ヴァールシンドローム”を鎮圧する事のできる唯一の存在。

その存在は、全宇宙で知られている。

 

もちろん、この銀河の隅の辺境の惑星“アーリア”でも、その存在は周知されていた。

少女が今聴いている歌こそ、ワルキューレの楽曲。

 

「ちっ」

 

少女は音楽プレイヤーを消して、それを投げた。

小さなそれは河川敷の芝生を転がり、川へと落ちていった。

 

「あー、もう時間だなぁ」

 

「よいしょ」と言いながら、少女は赤褐色の髪を風に揺らしながら起き上がる。

 

「ここにいたのか、ルカ」

「リオン・・・・・・」

 

ルカ、と呼ばれた少女は自分を呼んだ長髪の青年を見上げ、その名前を呟く。

その顔は何処か嬉しそうであった。

 

「今日は何処に行くんだ?」

「・・・・・・ヴェント地方、南の方――アーリア・カンツォーネ村」

 

青年の質問に少女――琉歌(ルカ)は風に身を任せるように目を閉じた後、日長石(サンストーン)の目をゆっくりと開いて、短く言った。

 

Va(ヴァ) bene(ベーネ)

「今日は何だか風がいつもと違う・・・・・・

気を付けて」

「あぁ」

 

短い言葉だけの会話。

琉歌と青年との会話に不要な言葉は要らないのだ。

 

風を読み取ることで相手の感情を読み取る琉歌に、無意識に人の深層心理を読み込んでしまえる青年。

そんな二人だから、幼い頃よりずっと二人で生きていた。

 

 

―― ――

O.C.001(オーシーワン)“ヴァルキュリア”。

深い青を基調とした可変戦闘機が、主人の帰りを待ちわびているかのように佇んでいる。

外見は可変戦闘機“VF”シリーズと何ら変わりがない。

しかし、それに使われている素材と性能が異なる。

 

青年はヴァルキュリアのコクピットの中、琉歌はコクピットの縁に腰かけていた。

 

「もう大丈夫みたいだな、この子」

「あぁ。チェックも済んでる、問題ない」

「よかった」

 

先日、ヴァールの暴徒を止めるために出撃した琉歌と青年だったが、彼らはヴァール鎮圧の最中(さなか)に撃墜されていた。

それは、戦闘に割り込んできた戦闘機の所為だったのだが――。

 

「あれは、ウィンダミアの戦闘機だった。

何故、こんな所に・・・・・・」

 

装甲に描かれた騎士の模様。

それは、ウィンダミアの白騎士のマークだった。

 

琉歌は考え込むように膝に顎を乗せる。

すると、青年が突然、琉歌の頭に手を乗せた。

 

「今は考えるな。

お前の歌は、乱れると意味がなくなる」

「解ってる」

 

青年の言葉に頷いて、琉歌はコクピットの後ろに乗り込んだ。

 

―― ――

 

銀河系外縁部に位置する球状星団“ブリージンガル球状星団”の惑星の一つ、惑星“ラグナ”。

そこは、青い海に覆われた海洋惑星である。

首のえら、肘のひれや指のあいだの水掻き、浅黒い肌と縮れた頭髪という身体的特徴を持つ原住民であるラグナ人が地球人と共生している。

 

 

「惑星“アーリア”?」

 

その惑星“ラグナ”の都市のひとつ、港湾都市“バレッタシティ”を根城にしている星間複合企業体“ケイオス”のブリーフィングルームにて、数人の人物が作戦会議をしていた。

そのうちの一人、青い髪の少年が首を捻り、言葉を反芻する。

すると、説明をしたと思われる緑色の肌を持つ巨体のゼントラーディ人の男が深くうなずいた。

 

「惑星“アーリア”は海と大地に覆われた、大気の存在する惑星だ。

銀河系外縁部の更に外側に位置する前人未到の惑星で、つい最近になって人類の存在が確認された惑星だ」

「その惑星でもヴァールシンドロームの発症が確認されたらしいの。

それも、ずっと前から」

 

赤い髪の女性の説明に、一同は驚きを隠せない。

ヴァールを沈静化するには、その惑星に人類が居なくなるか、ワルキューレの歌を聴かせる他に方法がないのだ。

 

しかし、先程の話では、その惑星(ほし)はまだ滅びていない様子。

彼らも今しがたその惑星の存在を知った為、ワルキューレが赴いたなんて有り得ない。

なら、何故滅びていないのか。

 

「それなのに、滅びている様子もない・・・・・・気になるわね」

「えぇ」

 

紫の長髪の少女が考え込むように呟く。 赤い髪の女性は頷いた。

 

「もしかしたら、この星にも私たちみたいにフォールド・レセプターを持ってる人がいる・・・・・・ってことかね?」

 

薄茶色の髪の少女が誰ともなく訊く。

「そういうことになるわね」と、赤い髪の女性。

 

「レディ・Mの方もそこの所が気になっているらしい。

だから今回、この任務が出た」

 

ゼントラーディ男性が口を挟む。

 

レディ・M。それは、戦術音楽ユニット“ワルキューレ”とそれを守護するΔ(デルタ)小隊の創設・運営に関わっている人物であり、その存在については謎とされている。

その人物から命令を下されて行動することも、彼ら――ワルキューレとデルタ小隊の務めであった。

 

「本当にヴァールを鎮められる人が居たとして、その人もワルキューレに入れるの?」

「そこまでは何とも。

ただ、ヴァールが本当に起こっていてそれを問題なく鎮められているのか、という調査をする必要がある。

数万光年先の星だから、もしかしたら今の情報も古いものかもしれないしな」

 

ピンクのツインテールの少女の疑問に、前髪の一部を白く染めた男性が答える。

 

「既に滅びている可能性もある、ってことね」

「そうだ」

 

紫の少女の言葉に男性が頷く。

 

「行った事もない惑星での任務になるわ。

もしかしたら、いつもの倍危険なことになるかもしれない。

気を引き締めていきましょ」

 

赤い髪の女性はそう言って、話を締めた。

 

 

彼らの運命が交わるのは、この一週間後の事。

その時の彼らは惑星“アーリア”で起こることをまだ、想像できていなかった。

 

 

―― ――

 

惑星“アーリア”。

惑星“ラグナ”より1万光年離れた先にある辺境惑星。

大地と海に覆われた大気の存在する惑星であり、周囲には3個の衛星が飛んでいる。

その衛星にもアーリア人の民族が住んでいる。

 

アーリアは多様な環境下で多様な民族が住んでいるが、信仰されているモノは惑星で統一されている。

彼らの絶対的な神は始祖“アリア”。 風を愛し、歌を奏でて人々を導いたとされている。

 

アーリア人は全体的に小柄な体形に白い肌、茶色系統の髪に黒系または茶色系のやや上目がちで大きな目、そして長く尖ったエルフのような耳と言う身体的な特徴を持っている。

稀にウィンダミア人の頭にあるルンという感覚器官が付いているアーリア人も居る事から、ウィンダミアと何かしら血縁関係があるものと思われている。

 

そんな惑星“アーリア”の中心とされている地方“アーリア地方”の中心にある村“アーリア・カンツォーネ村”。

そこが今回のワルキューレの任務地である。

 

カンツォーネの村は中心地方と言う事もあり、海で囲まれた広大な孤島であり、島の内部は大森林と肥沃な大地、そして程よく温暖で湿潤な気候の長閑(のどか)な島だ。

 

「ほぇぇ~、何か凄く綺麗で気持ちいい所やねぇ~」

 

薄茶色の髪の少女――戦術音楽ユニット“ワルキューレ”の新参、フレイア・ヴィオンは、輸送機から降りた途端に骨抜きになった。

 

暖かい風に優しく体を包まれて、微かに香る潮の匂いが鼻腔を擽る。

張り詰めていた緊張が解けてリラックスしてしまう様だ。

 

それを感じていたのはフレイアだけではない。

他のメンバーも強張っていた表情が幾らか緩んでいる。

 

「確かに、ここの気候は長閑でとても――落ち着きます」

 

ケイオスデルタ小隊隊員・ミラージュ・ファリーナ・ジーナスは、緩やかに攫われる自身の赤い長髪を長く尖った耳に掛けながら、フレイアの言葉を肯定した。

 

「マップは手に入りそう?レイナ」

「余裕。これでよし」

 

赤い髪の女性――ワルキューレのリーダー、カナメ・バッカニアの言葉に、緑の髪のゾラ人の少女――ワルキューレの電子作戦担当、レイナ・プラウラーが頷いた。

ややあって全員の端末に一つのマップ情報が送信され、表示される。

 

「ここからだと・・・・・・この、ピアンタ農村地帯が近いけど・・・・・・人は居るかしら?」

「そこは廃村になっていて、今ではアーリア自警団が根城にしているよ」

「っ!?」

 

突然背後から聞こえた声に一同全員が振り返り、警戒態勢をとる。

ミラージュとモヒカンのような髪型の男性――デルタ小隊のエースパイロット、メッサー・イーレフェルト、前髪の一部が白髪の男性――デルタ小隊隊長、アラド・メルダース、青い髪の少年――ハヤテ・インメルマン等は銃を構えて警戒する。

 

その視線の先には、黒いマントに身を包み同色のフードで顔を覆った人物が居た。

声は中性的で性別の判断が難しい。

 

自分の現状に目もくれず、突然現れたその人物は言葉を続ける。

 

「自警団はこの星の自衛を目的に組織された団体だから、彼らを刺激したくないならこのまま村の中心部、琉衣(ルイ)様の座敷に行くことをお勧めするよ。

――ケイオスの皆さん?」

「何でそれを!?」

「お前は何だ!?」

 

ミラージュとハヤテの緊迫した声が重なる。

警戒心を剥き出しにされた人物の口から、呆れたようなため息が零れた。

 

「『お前は何だ』・・・・・・って、それはこっちのセリフだよ。

風が騒がしいと思って来てみたら、余所者がうろついてるし。

別に鎖星(させい)してるワケじゃないし、何処からどう見ても怪しい奴が困っているところを助言してやろうと思ったのに何だいその態度。

異星人は礼儀すらなってないみたいだね。

まず、人に名を問う時は自分から名乗るのが筋だろう?」

 

捲し立てる様に言った後で、フードの下から目の前のハヤテを睨み上げる、フードの人物。

すると、生真面目なミラージュは銃を下ろして定型文を口走った。

 

「申し訳ありません!

私は、“ケイオス・ラグナ”第三航空団デルタ小隊所属のミラージュ・ファリーナ・ジーナスです!」

「同じくデルタ小隊隊長のアラド・メルダースだ」

「同じく、デルタ小隊所属、メッサ―・イーレフェルトだ」

「同じく、ハヤテ・インメルマン」

「同じく、チャック・マスタング」

 

デルタ小隊のパイロット達が自己紹介を終えると、フードの人物は少女たちに目をやる。

 

「彼女たちは・・・・・・戦術音楽ユニットの皆さんか。

活躍は耳にしてるよ。

歌でヴァールを沈静化する。

あぁ。君たちはいいや。名前は知ってるからね」

「それで・・・・・・貴方は?」

 

カナメがフードの人物に問いかける。

フードの人物は少し考えた後で口を開いた。

 

瑠璃ノ民(ラピスラッズリ・ヴォルゴ)のマモン。

このカンツォーネ村の隣の村、ホトグルスの村から来たんだ。

カンツォーネの玻璃ノ民(クワルツォ・ヴォルゴ)は警戒心が特別強い好戦的な民族だから、顔見知りが居ないと君ら、死ぬよ?」

 

温度のない声にデルタ小隊、ワルキューレの一同は固唾を飲む。

彼――マモンの棘のある言葉には実感が籠っているようで、彼の言うとおりにした方がいいのかもしれない、と思った。

 

「死にたいならここでサヨナラだね」

 

そう言って立ち去ろうとする、マモン。

 

デルタ小隊の隊長、アラドは考えた。

 

もし、彼の言う事が本当なら。

そして、彼がそのクワルツォ・ヴォルゴの住民と繋がりのある人間なら。

確かに彼と行った方が身の安全は確保できるだろう。

しかし、彼の言葉を全て鵜吞みにしても良いのか。

 

「アラド隊長・・・・・・」

「解っています。

どうするべきか・・・・・・」

 

不安な様子でこちらに目を配るカナメに、アラドは頭を抱えた。

その時、フレイアの髪に付いているハートの形の感覚器官“ルン”が淡く光った。

 

「この人・・・・・・本当に助けようとしてくれてる・・・・・・?」

「フレイア?」

 

フレイアの呟きに、ハヤテが訝し気に首を傾げる。

 

「この人から風は感じんけど、なんや凄く心地いい音がルンを通じてくるんよ。

きっと、大丈夫やと思う」

「君はウィンダミア人だったね。

そうか、僕の内側に流れている感情もお見通しってワケ」

「あ・・・・・・えと・・・・・・私、余計なことしたんかね?

すんませんっ!」

 

マモンの無機質な声に冷気を感じて、フレイアは自分が余計なことをしたみたいだと謝った。

それに一瞥して溜息を吐き、マモンは続ける。

 

「彼女の言う通り、僕には敵意はないさ。あるのは、君たちへの興味だけだよ。

で、どうするんだい?

村長の所なら、僕も用があるからついでに案内するけど?」

 

それを聞いた一同は、彼の言葉を鵜吞みにして彼に着いて行くしかなかった。





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