マクロスSympathy   作:紅 奈々

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玻璃の民

マモンとか言うフードを被った人物に着いて行き、ワルキューレとデルタ小隊の面々はカンツォーネ村へ向かう。

途中、ちらほらと人とすれ違うのを見て、フレイアやハヤテ、ミラージュは不思議そうな顔をしていた。

 

「あの、この星には色んな星の人が住んでいるのですか?」

 

遂に、好奇心に負けてしまったミラージュはマモンに声をかけた。

マモンは彼女に目もくれずただまっすぐ前を向きながら答える。

 

「そうだよ。

一番多い種族はゾラ人と地球人かな。

稀にウィンダミア人が来ることもあるし、ここから更に2万光年くらい離れた太陽系から冥王人(プルトーニア)何かも居たりするけど……種族をあまり気にしない星だからね。」

 

特に聞いてはいないが詳しく説明してくれる、マモン。

成程、だから先程から、ゾラ人っぽいのに頭にルンが付いている人や、地球人やゾラ人とすれ違うわけだ。

 

「あ、マモン!

やっと来てくれた!」

「あれ、マモンが人を連れてるの珍しいね?その人たちは?」

 

歩いていると、前方から来た二人の少女に声を掛けられる。

一人は、猫耳を頭に生やしている小柄な少女。もう一人は耳が尖ったゾラ人の少女だ。

彼女たちが近づいてきた。すると――。

 

「ぶえっくしょんっ!」

 

ハヤテが突然、盛大にくしゃみをした。

その後からずっと、クシュンクシュンと小さくくしゃみをして、鼻を啜っている。

 

「何だい、君。

猫アレルギーかい?」

「あぁ……ネコ科の亜種にも反応するから……ズズッ、結構困る……はっくしゅんッ!」

「じゃあ君はもっと離れることをお勧めするよ。

ここにはヴォルドール人やネコの遠類であるガット人も居るからね」

「それを早くいってくれよ……」

「まったく、情けない。もっとしゃんとしてください」

 

マモンとハヤテの会話に、ミラージュが呆れたように溜息を吐く。

「アレルギーなんだから仕方ないじゃないか、不可抗力だ」とは、ハヤテの言葉である。

 

「えっと……私の所為なの?

えぇっと、お父さんとお母さんはアーリア人とゾラ人だけど、お母さんがゾラ人とガット人の血が少し入ってるって……だから、えっと……」

「あたしたちはクォーターガットなの。

何か文句ある?」

 

おろおろと涙目でハヤテを見る猫耳の少女に、ハヤテを睨みつける様に見てくるゾラ人の少女。

「私たち」と言う事はこの二人は姉妹なのだろうか。

牙を剥き出して直ぐにでも襲い掛かってきそうな少女にマモンが言った。

 

琉那(るな)、落ち着いて。

彼らはケイオスの戦術音楽ユニットの皆さんだよ。

怪しい人じゃないから、大丈夫」

「マモンがそういうなら……」

 

先程まで触れれば爆発しそうなほどに警戒して殺気立っていた少女が、マモンに諭されて牙をしまい込んだ。

すると、マモンは「いい子だね」と彼女の頭を撫でる。少女は嬉しそうにその手に頭を摺り寄せた。

 

「さて、琉衣様は居るかな?

カルネヴァーレの事で来たんだけど」

「琉衣様?お婆様なら、飲んだくれ爺と一緒に居る筈だよ」

 

マモンにくっ付いてデレている少女――琉那は、マモンの問いに答える。

「何この態度の差?」とハヤテが呟くと、琉那はハヤテを睨みつける。

 

「将来のお婿さんとアンタたちを一緒にするんじゃないよ。

マモンに冷たい態度とるワケないじゃない、バカ?」

「琉那、勝手言わない」

「えっ、将来の婿ッ!?」

 

琉那の言葉を否定するマモンの言葉に被せる様にハヤテが驚いた声を上げる。

マモンと琉那ってそういう関係なのか?

この、人には全く興味ありません!みたいな奴にそう言う娘がッ!?

人は見かけによらないんだな、と思うハヤテ。

 

「誤解してるみたいだけど、僕はロリコンじゃないんだ。

最近まで迷子鈴を付けてた子供には興味ないよ。

あれは、琉那が勝手に言ってるだけ」

「あぁ……迷子鈴って何だ?」

 

マモンの弁明に頷きながら、ハヤテは疑問を口にする。

 

「ガット人に生まれた時から首に付いている鈴だよ。

大体、12歳13歳くらいになると自然的に首から剥離する。

鈴から特殊な音波が流れるから、子供が迷子になってもその音波を頼りに親が子供を見付けることができるから、「迷子鈴」。

クォーターガットにも表れる事があるみたいで、琉那はゾラ人の外見をしているけど体の機能的にガット人の遺伝を継いでるね」

「へぇ」

「琉那姉は、今年やっと取れたんだよね……13歳なのに」

「琉美は勝手に余計なこと言わない!」

 

マモンの説明に感心したように頷いているハヤテの横で、琉美、と呼ばれた少女がポツリと言う。その言葉に琉那が牙を剥いて凄んだ。

確かにマモンの言う通り、彼女にもガット人の特徴がある事を一同は確認した。

 

―― ――

話していたら、遠目に茅葺屋根の家屋が見えてきた。あそこが彼の言っていた、アーリア・カンツォーネ村なのだろう。

近付いていくと村の境界線なのか、木でできた柵が村を囲むように建っている。

マモンは手慣れたように柵と柵を繋ぐ扉を開けると、村に入っていく。ハヤテたちもそれに続いて行った。

村は和気藹々としていて、まるでこれから祭りが始まるような雰囲気だ。

 

「何か始まるのか?」

「今日から一週間、始祖アリアの御霊を迎え入れる祭り、“カルネヴァーレ”が行われるんだ」

「シソアリアって何なん?」

 

ハヤテが村の様子を見て、マモンに尋ねる。マモンがハヤテの質問に答えたら、次はフレイアが質問してきた。

 

「始祖・アリア。

プロトカルチャーと共にこの惑星“アーリア”に初めて到達し、アーリアに繁栄を(もたら)したとされる、初めてのアーリア人だよ。

ほら、そこに彼女を模った銅像があるだろ?」

 

マモンが指した方をケイオスの一同は見た。そこには、一人の長髪の女性を模った銅像が祀られている。

かなり年季の入っている銅像で、所々に小さな傷が入っている。それでも、中々よくできている銅像だった。

 

「惑星“アーリア”の住民は、世界創造の神と彼女を称え神格化し、今でも強い信仰心を持って崇めている。

始祖・アーリアの命日とされる今日から一週間は彼女の魂が降りてくる日とされ、その魂を迎え入れる為の祭りを行うんだ」

「へぇ、何か凄そうやねぇ」

 

マモンの説明に興味津々とフレイアが物珍しそうに周りを見ながら呟く。

 

村の中心にはキャンプファイアーでもするのか、丸太が組み上げられてる。

その周りでは、村人が忙しなく動き回っていて、大掛かりな祭りであることが見て取れた。

 

「あ、居た。琉翁(るう)(じい)

 

マモンは呟くと、白髪を頭頂部で纏め上げた老人に声を掛ける。

老人は振り向いて、その小さな目をいっぱいに見開いた。

 

「おぉ……マモンか。待って居ったぞ。

ささ、こっちへ来て(わし)の酒盛りの相手をせぇ」

「祭りだからって飲んだくれるなよ。仕事があるだろう?

で、琉衣様は何処に居るんだい?」

 

しわがれた声で言った老人――琉翁の言葉に、マモンは毒舌で返しながら辺りを見回す。

しかし、辺りを見回してもマモンのお目当ての人物はいない。

琉衣様、とその名を聞いた琉翁は、次第に赤い顔を更に真っ赤にした。

 

「知るか、あの(ばばあ)の事なんざ!

どうせ、アリアの祭壇にでも居るんじゃろ、とっとと行っちまいな!」

「また喧嘩したのか……懲りないね。琉翁爺も」

 

喚く琉翁にマモンは二人が喧嘩したのだと推察した。この二人はカルネヴァーレの時には必ず喧嘩をする。

大抵は琉翁が琉衣にちょっかいを掛けて喧嘩になっているのだが。

マモンは呆れたように肩を落とすと、その場を離れた。

ワルキューレ・デルタ小隊の一同はそれに続く。

 

―― ――

村を出て北の森をまっすぐ進んでいくと、人が5人ほど並んで入れそうな洞窟が目の前に現れる。

マモンはその洞窟へ入っていく。中に入ると外とは打って変わってひんやりとした冷たい空気が肌を撫でる。

 

「わぁ……綺麗やねぇ……」

「凄いキラキラ……」

「きゃわわ~」

 

フレイア、レイナ、マキナが感嘆の声を漏らす。

辺り一面が水晶のような透明な鉱物や寒色系の鉱物で覆われており、まるで幻想的な空間に居るみたいだ。

少し肌寒くはあるが、この光景を見たフレイア達は感動の方が先走って寒さを忘れてしまったらしい。

 

「あの……ここは?」

「クワルツォ洞窟――通称、アリアの祭壇。

ここに始祖アリアが眠っているんだ。

ここでは、“O.C.(オーシー)鉱石”という鉱石が採れるけど……ここでは採掘は禁止されてる」

「“O.C.鉱石”とは?」

 

ミラージュの質問に答えるマモン。次はアラドが質問してきた。

マモンは淡々と答えていく。

 

Onda Cant(オンダ・カント)鉱石――アーリア人の生活に欠かせない資源の一つさ。

アリアの直系が使う事で力を発揮する」

「へぇ、そりゃすげぇな」

 

マモンの説明にハヤテが相槌を打った。

 

暫く歩いて最深部に到着した時、一人の小柄な人物が大きな石碑の前で跪いていた。

腰までありそうな髪は白く、うなじで結われている。

ピクリ、と薄い肩が揺れて、その人物は声を掛けてきた。

 

「マモンかね」

「そうだよ」

 

声からして、老齢の女性だと解る。老婆の問いに頷くマモン。

すると、老婆は振り返った。

 

「余所者を連れているね?彼らが騒がしい風の正体か」

「そうだよ。ケイオスのデルタ小隊とワルキューレの皆さん。

ピアンタ農村地帯に入ろうとしていたから、善意で声を掛けておいたんだ」

「そうかい。余計なことしたね。

どうせ暴徒の病が蔓延したところで、彼らは役に立たないというのに」

「どういう事ですか?」

 

マモンと老婆の会話にアラドが割って入る。

老婆は皺だらけの皮が伸びきった顔をアラドへと向けた。

 

「どうもこうも、儂らアーリア人はアーリアの血筋の者の声しか受け付けん。遺伝子がそうなっとる。

暴徒の病が起きたら、風ノ巫女様に歌っていただかないとダメなのじゃよ」

「風の……巫女?」

「古の昔、アリア様が声に宿されていたという特殊な声を受け継いだ女児の事を“風の巫女”と言うんじゃよ。

風の巫女はその玻璃のような歌声でこの世界に破壊と繁栄を齎すと言われておる。

主らの声とは全く理の違う歌声じゃよ」

 

アラドの質問に答えると、次はミラージュが質問をしてくる。

老婆はその質問にも丁寧に答えた。

 

老婆の話では、アーリア人にはフォールド波が届かない。

風の巫女と呼ばれる人物の歌でヴァールシンドロームを止めるそうだが、その巫女にもフォールド波が流れているのではないのだろうか?

そうでなければ、ヴァールシンドロームを止めることなど不可能だ。

 

「何と思っていようと結構。ここじゃあお前さんたちの出番はないよ。

大人しく今夜のカルネヴァーレでも見物してるといい」

 

「ではの」と言って、老婆は先程ハヤテたちが通ってきた道へ歩いて行ってしまった。

彼女が居なくなると、マモンは言った。

 

「さて、琉衣様から滞在の許可が下りたことだし、僕らもここを出ようか。

あまり、ここには長居したくないんだ」

 

そう言ってもと来た道を歩き出すマモンの後をハヤテたちは追いかけた。

 

「なぁ、さっきの婆さんが言ってた「特殊な声」って何だ?」

「あ、それ私も気になってたんよ」

 

ハヤテが前を歩くマモンに質問する。フレイアがその後ろでハヤテに同調した。

 

「さぁ?僕は玻璃の民(クワルツォ・ヴォルゴ)じゃないからね。

風の巫女はアリアの直系である玻璃の民の本家から生まれるからよく解らないけど……もしかしたら、その力をもうすぐ目の当たりにするかもね」

 

意味深な言葉を言ったマモン。その声は何処か冷たく、フードの下からちらりと見えたような気がした日長石(サンストーン)の目が「これ以上は聞くな」と言うかの様に冷たく煌いているのが見えた気がした。

出口からあふれる夕日の逆光で顔はよく見えなかったが。

 

洞窟から出た時、低く響く地鳴りがマモンたちを襲った。

 

「何、地震!?」

「皆、気を付けて!」

 

フレイアが叫び、カナメが全員に注意を促す。ただ一人、マモンだけは村の方角を見て舌打ちをした。

 

「チッ!風が乱れて気配が読めなかった。

暴徒の病――ヴァールが発生したようだ、皆、洞窟へ入って!」

「貴方はどうするの?貴方こそ危険だわ!」

 

遠くから聞こえる喧騒を()()()()()マモンは、全員に避難を促す。すると、カナメが問うてきた。

――どうする?決まってるじゃないか!

 

「僕が風の巫女を呼んでくる」

 

それだけを言うと、マモンは村とは別の方向の森に入っていった。

「ちょっと!」とカナメが止めるが、その時にはマモンの姿はなかった。

 

「どうするんだ、おっさん。

彼奴はああいってたけど、放置もできねぇだろ?」

「あぁ、村の人たちも危なくなる。出撃だ」

 

ハヤテとアラドの会話を聞いたカナメは、ワルキューレのメンバーに声を掛ける。

 

「なら、私たちも行くわよ!」

「ええ!」

「はいな!」

「「うん!」」

 

カナメの呼びかけに、ワルキューレのメンバーは力強く頷いた。

 

―― ――

「it's show time!」

 

美雲の声が聞こえた気がした。

マモンは、村の外れを走っている。――彼奴ら、余計なことを!

 

「死んでも知らないぞ、彼奴ら!」

 

毒づいたマモンは、村の外れを暫く行った所にあるピアンタ農村地帯へと駆けた。

 

村の方から微かに聞こえてくるのは、ワルキューレの歌。

彼女たちが死ぬ前に、早くしなければ!

 

マモンは、ピアンタ農村地帯に入った場所にあるシェルターに滑り込むように入ると、フードを無造作に取り払った。

靡く赤褐色の髪は蛍光灯の光を浴びて所々がワインレッドに見える。目は鋭い眼光を持った日長石(サンストーン)の目。

髪に混ざり、ウィンダミア人の頭についているのと同じ感覚器官――雫型のルンが見受けられた。

 

「リオン!」

 

シェルターの地下に入って奥の格納庫。そこに入ると、マモン――否、琉歌はそこに居るであろう青年に声を掛けた。

リオン、と呼ばれた青年はそれだけで「解っている」と言う様に頷く。

琉歌がヴァルキュリアに乗り込んだのを確認して、リオンは機体を起動させた。

 

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