マクロスSympathy   作:紅 奈々

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玻璃の歌声

―― ――

 

「ギリギリ愛 いけないボーダーレス

非常識だね まだ加速していくよ――」

 

ワルキューレのメンバーは、ヴァールが起こった村の南西で歌っていた。

しかし、歌いだしてから5分は過ぎて2曲目に入っても、まだヴァールは沈静できていなかった。

 

「フォールド波に異常なし。やっぱり、効いてない……」

「そんな……」

「私たちの歌がここまで効かないなんて……」

 

レイナの言葉に絶望的に呟く、マキナ。カナメは苦虫を噛みつぶしたような顔で未だに暴徒と化して破壊活動をしている見たこともない機体を睨んだ。

 

皆疲弊している。そんな時だった。

 

「Ah――Ah――Ah――……Fh――Ah――」

 

何処からか、歌声が聞こえてきた。

 

「何、この歌!?」

「痛いくらいチクチクする……」

 

マキナとレイナがそれぞれ、身を寄せ合って言った。

 

その時、頭上を一機の群青色の機体が過る。すると、その期待から何かが射出された。

それは、空を仰ぐように背中から落ちてくる人だった。

 

「Ah――Ha――……」

 

その人は、頭を下にした状態で尚も落下し続けている。

 

D.C.(ダ・カーポ) さぁ奏でよう、終わりなき鎮魂歌(レクイエム)を!」

 

中性的な声に聞き覚えがあった。

決め台詞と思われる言葉を言ったのと同時に、デルタ小隊、ワルキューレの周りを囲むように小さなリング状の何かが四つ飛んできた。

それは、彼らの四方を囲い、バリアーの様なモノを張る。

 

〈死にたくなくば、そこから動くな〉

「誰!?」

 

正体不明の機体から男性の声が聞こえた。カナメが思わず機体に向かって叫ぶ。

 

風の巫女を守護する者(アーリア・パラディーノ)のリオンだ。

死にたくない奴は、O.C.(オーシー)キャンセラーから一歩たりと出るな〉

 

冷たい声で命令してくる彼の機体を見上げるが、彼女たちは何も言えなかった。

 

「Let's lay two stars

It's far away Requiem to ring」

 

暗い曲調の歌が、夕闇の空を震わせるように響く。その歌声は何処か冷たく聞こえた。

いつの間にか落下していた人物は先程の機体に受け止められ、その掌の上で歌っている。

 

「At the end of the torn two stars world

In my dream of seeing you again

I closed the red eyes」

「凄い……こんな歌、今まで聞いたことないわ……」

 

歌を聴いていたカナメが感嘆の声を漏らす。それに同意するかのように、ワルキューレとデルタ小隊のメンバーは大人しく現状を見守った。

 

「The notebook that marks the beginning of the trip is already abandoned

Only songs that do not know anything that remained in this hand」

 

歌の中盤辺りになると、ヴァールは沈静化していた。その時、一人のゼントランが突然、口から血を吐き出す。

 

「ごふっ!」

「ガハ……ッ!」

「I will sing from now Let's forbid songs」

 

次々とヴァールに侵された人たちが口から血を吐き出して、その場に頽れてしまった。

それでも、歌は止むことなく続けられる。

 

「Let's lay two stars

It is far away Requiem to ring」

「何が起きているの!?」

「異常なフォールド波が発生してるワケじゃない……寧ろ、フォールド波すら発生してない」

「えっ!?」

 

カナメが声を上げると、レイナが静かに分析する。

しかし、歌っている人物の歌からはフォールド波が検出されなかった。

その事に驚きの声を上げる、フレイア。

 

普通フォールド波がなければヴァールは沈静されない。

 

漸く、琉衣と呼ばれた老婆の言った言葉の意味を、カナメたちは知った。

この歌声は、()()()()()()()()()()()なのだと。

そして、おそらく自分たちを囲んでいるこの“O.C.キャンセラー”という機械は彼女――おそらく、あの人物こそが風の巫女なのだろう――の歌声を遮断するための装置なのだろう。

 

「The altar where the heartless heart sings

Like a sacrifice you are trapped」

 

歌が終わる頃には暴徒は鎮圧され、その場は地獄絵図さながらの血の池地獄状態だった。

 

「巫女様だ!」

「巫女様が来てくださったぞ!」

 

ヴァールの恐怖から解放された村の人たちは、目の前の死屍累々とした状況を無視して彼女に向けて黄色い声を上げている。

ハヤテたちは腑に落ちない感情を抱く。それは、彼らは歌によってヴァールに侵された人々を救っているからこそ感じてしまうものなのだ。

 

そう思っていたハヤテたちの耳に、別の曲が流れた。

 

「貴方の事を探してる 瞳はもう何も映さない

貴方を想う事で 息してるの」

 

前奏もそこそこに再び彼女の歌が始まる。

一同は信じられない、と耳を疑った。

彼女の歌は余計に人を殺すのではないか?そう思ったハヤテはO.C.キャンセラーから飛び出した。

 

「やめろぉぉぉぉぉぉおお!」

 

謎の機体に向かって全力でバーニアを吹かす、ハヤテ。

しかし、歌は止められない。

 

「ふとした時近くなり 願うほど遠ざかる

知れば迷い しなければ迷わぬ恋の道」

「邪魔をするな!」

 

向かってくるハヤテに少女を守る様にリオン、と名乗った正体不明の機体が剣先を向ける。

ハヤテはその切っ先に当たるか当たらないかの所で止まった。

 

「何も知らないなら、黙って見ていろ。

彼女の歌の邪魔をする者は聖なる風に掛けて排除する!」

「クソッ!」

 

リオンの言葉にハヤテは毒づいた。

 

「視えない糸を信じるより 手に入れたいと主張する方が

僕らしいでしょ?

ほら、恋の炎 メラメラ燃えているよ!」

 

歌が盛り上がったところで、異変が起きた。

 

「デカルチャー!」

「うおおおおお!」

「琉歌様ぁぁぁぁぁぁぁああ!」

 

死んでしまったと思われたヴァールに感染した人たちが突然起き上がり、雄たけびを叫んだのだ。その光景に呆気にとられる、デルタ小隊・ワルキューレの面々。

どうなっている?

そう聞いたところで、あの男は何も言わないだろう。

 

「いつかは愛 羽搏(はばた)いていけ!

貴方へ届く様にと まだまだ加速していくよ

叶えてLove 喩え傍に

僕以外が居るのならば 咲き誇る前に

僕が摘み取る」

 

O.C.キャンセラーは画像をリアルタイムで映しているらしく、バリアーの部分に茶髪の少女が映っている。

彼女は無表情に淡々と踊り、淡々と歌っていた。

それでも、その声は何処か楽しそうに感じる。

 

「恋とは不思議なモノで 少しの仕草で感傷する

恋焦がれる度に ハマってくの」

 

二番に入った辺りで、フレイアはドクン、と鼓動が波打つのを感じた。

体に何かが刺さるような痛みが出てくる。それは次第に強くなっていく。

 

「恋は盲目だとか 愛は力だなんて言うけど

それだけじゃダメ

そう、恋は焔嵐(えんらん) 荒々しく咲き誇れ!」

「う……っ、あぁあ……っ!」

「フレイア!?」

 

歌に聞き入っていたカナメだが、突然頽れたフレイアの異変を感じて、彼女に駆け寄る。

フレイアのルンは蒼くなっていて、顔も血の気が引いたかのように青ざめていた。

フレイアはガタガタと震えている。

 

〈Deepな愛 狂い咲いていけ!

動き出した想いは 永遠に制御不能〉

 

「まるで……ガラスみたいな……チクチクって刺さってくるみたいな、色のない歌声……っ」

「フレイア、しっかり!」

 

フレイアは苦し紛れに彼女の歌声の感想を言う。カナメがフレイアを抱き起した。

 

その様子を機体の中で横目に見ていたリオンは、彼女たちに声を掛ける。

 

〈体感したい 恋の熱量

身を焦がすほど熱く 意識は融けて

また生まれ変わる〉

 

「どうした?」

「解らないの!突然、フレイアが震えだして……!」

「フレイア……?」

 

カナメの言った名前に聞き覚えがあったのか、リオンは顎に指を当てて考える。

軈て、リオンは思い出したかのように言った。

 

「フレイア・ヴィオンか。ウィンダミア人の。

そうか、どうやらウィンダミア人はO.C.波に感応しやすいみたいだな……。

少し待て、今、キャンセラーの数値を調整してやる」

 

ブツブツと呟いた後、リオンはフレイアに向かって言った。それと同時に指は計器類を操作している。

O.C.キャンセラーの輪が少し大きくなったような気がした。

すると、フレイアの体の痛みが消え、楽になる。

フレイアはフラフラと立ち上がった。

 

「あ……あんがとございますっ!」

「お前、彼奴の事を怖がっていただろ」

「へぇっ!?いや、そんなことは……」

 

礼を言うフレイアにリオンは質問した。するとフレイアは素っ頓狂な声で否定しようとする。

 

〈愛するのは 命がけで良い

死ぬ気で求め合うことで 強くなれる〉

 

「気にする必要はない。O.C.波に中っただけの中毒症状だ。

慣れれば問題なくなる。

ウィンダミア人はどうも、O.C.波に感応しやすいみたいだな」

「ほえ……?」

 

リオンの言った意味がよく解らず、フレイアは首を傾げる。そんな彼女にリオンは言った。

 

「まぁ、何も考えずに彼女の歌を満喫してろ」

「はいな?」

 

琉歌の歌声に中らないようにするためには、何も考えない事が一番いい。

それは、リオンが一番よく知っていた。

 

〈ほら、恋は革命 撃ち落とせその心〉

 

「何か、謎の機体、すごく偉そう」

「ちょっとあのメカメカ気になるな~」

 

歌を聴きながら、レイナとマキナは別の話題で盛り上がっていた。

 

〈絶対愛 止め()ない蒼穹(そら)

無意識に蒼を乗せて 何処までも飛び出すよ

もっと飛べる この空は

全て僕のものだから 意識を同化して

咲き誇ってみせる〉

 

「なんて楽しそうな声なのかしら。

余程、歌が好きなのね」

「でも何だか、すっごく冷たい感じの声で……こう、ゴリゴリ削られるみたいな……」

「フレイア、何言ってるか解らない」

「うぅ……」

 

美雲の言葉に同調しながらフレイアは感じたことをそのまま言う。しかし、効果音みたいな言葉しか言わないので、レイナに突っ込まれて項垂れた。

 

「何やろ、すっごく綺麗でカッコいい歌なんだけど……色がなくて、突き刺さる感じで……ガラス……?

そう、ガラスみたいな歌声!」

玻璃(はり)の歌声……って所かしら?」

「玻璃……ですか?」

 

フレイアの言葉をカナメが訳す。その単語にフレイアは首を傾げた。

 

「ガラスの事よ。水晶を指すこともあるわね」

「玻璃……玻璃色の歌声……!」

 

カナメの言葉に、フレイアは歌声に聞き入る様に目を閉じた。

 

〈For ever love 燃え尽きながら

貴方の元へ堕ちていくよ 想いを抱いたまま

抱き止めて 喩え傍に

この身体がなくてもせめて 残った想いだけは

掬い上げてほしい〉

 

〈貴方の蒼穹(そら) 飛びたいよ

僕の鼓動 闇に融けても

またいつか 生まれ変わって

同じ夢を見る……〉

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