plastic memories/:Reboot _   作:fulldrive

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File 02

File 02 未視夢(jamais vu)

 

 

 

誰かが言った。

“悪事”という行為は、行うものによって意味を変えると。

 

誰かが言った。

殺人が大義の為によるものだったら、誰も咎めないと。

 

誰かが言った。

どんなに悪い事だって、それを大衆が認めれば当たり前(・・・・)になってしまうと。

 

 

 

誰かが言った。

人の意志の統一など出来やしないと。

神になど、届きやしないのだと。

 

 

 

 

 

 

 

死臭がした。

男は臭いを嗅いでしまい、思わず顔を顰める。

此処は正しく死屍累々と表現できるような殺人現場だった。とはいえ彼は目撃者(ウィットネス)ではなく、加害者(パペトレイター)のほうなのだが。

彼は回収業者である。主に表沙汰にできないような人形(ギフティア)や、それらを消す役割を与えられている。

無論、彼はSAI社の人間ではない。故に彼らは“闇”回収業者、と呼ばれる人間である。世間で言う“悪党”の一種であるが5年も経ち、彼らの仕事も前述したように既存のものとは大きく変化した。

少なくとも今の彼らには依頼者(ニーズ)がある。SAI社が更に力を伸ばして以降、ただ単に密売のために回収を繰り返すだけでは経営が保たなくなってきたのだろう。

だが、やり方は変わらなかった。部下を見やると、彼は背後からギフティアを羽交い締めにして拘束している。見ての通り、実略行使が彼らの基本的な方針(スタイル)であり、世間から疎まれる原因でもあるのだが、そんなことを気にしていてはこんな仕事やっていけない。

仕事は順調だった。後はこのままこのギフティアを昏睡させ、買い物カゴ(クルマ)決算(輸送)すれば終わりだった。

が、

「がっ!?」

ギフティアを拘束していたはずの部下の右腕から鮮血が迸る。それどころかそのまま彼はくるくる回りながら吹き飛ばされた。

狙撃...!?

気づくと周囲には殺意が充満している。油断した、と歯噛みした彼は、腰から拳銃を取り出そうとした。

と、いきなり目の前に何かが転がってきた。

グレネードかと思い、男は腰からすぐに拳銃を取り出したが、どうやら旧型の携帯電話のようだった。だが警戒を怠る必要性も感じない。警戒を怠らず、彼はゆっくり携帯電話に近づく。

『...―...。あー、あー。聞こえますか?』

聞こえたのは男の声、それもかなり若い。

『...返事が無い。まあ、聞こえてるのはわかってるんで話し続けますね』

「お、おい」

『わかってると思いますが、企業を名乗ってギフティアを無断に回収するのは違法(・・)ですよ。だからさっきのは警告です。今すぐ彼女を解放してください』

青年は業者の男を無視しながら警告を続けた。

「あぁん!?てめぇ、調子ぶっこいてんじゃねーぞ!?」

そのことが間に触ったのか、若い衆が喚き始める。

男が、待てと言う前に状況が動いた。

色んな方角から鉄の暴力が若者達を襲う。どれも掠る程度のものではあったが、それでも彼らは数メートルは吹き飛ばされた。

『...警告はしました。次は殺しますよ』

冷酷に言い放つ青年。男は覚悟を決めた。

「わかった、解放する。若いのの命だけは奪わないでくれ」

『話がわかる人で有難いです。もうすぐしたら突入部隊が着くと思うんで待っててください』

男は落ちていた携帯電話の電源を切ると、大きくため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある廃ビルの屋上

 

 

光学サイトで見ると、闇回収業者達が大人しく突入部隊に拘束されているのが見えた。

「本当に、あれでよかったんですか?隊長」

「いいんだよ。俺は無駄な殺しはしたくない」

先ほどの携帯電話の声の主、水柿 ツカサは構えていた狙撃銃を畳み始めた。

彼の肩のエンブレムには『Rセキュリティ』の刺繍が施されており、そして下につく星は彼が隊長(リーダー)であることを示していた。

勿論、ツカサは現在もSAI社の人間である。そして同時にRセキュリティの特殊執行部隊の隊長も兼任していた。

特殊執行部隊(Special Operation Force)とはつい二年前に新設された部隊であり、ワンダラーや凶悪な闇回収業者の取り締まり、場合によれば殺害もこなす、そんな部隊である。

「撤収だ。皆帰ろう」

「了解です」

ツカサの一声で隊員達は安堵の息を漏らした。今回の任務は極めて困難の高いものだったからだ。

あの男が所属する闇回収業を営んでいる会社は表向きは大手企業であって、中々尻尾が掴む事が出来ず、一時は雪隠詰めになったこともある件だったからだ。

だが、隊員達の粘り強さのおかげで今に至る。

彼らの安堵の息はそんな苦労を多く孕んでいた。ツカサもほっ、と息をつく。

任務は終わった。明日からまた日常に戻る。 いつも通りの決められた日々を演じ続けるのだ。

だが、今日は帰る前に一つ、やることがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

カナデはツカサに渡された指示書(マニュアル)に目を通していた。

記されているのは、ギフティアの回収方法であったり、非常時の発射器の使用方法。利用者のアフターケアなど、様々だ。

だが、どこか肝心なところが抜けていることにカナデは気づいた。

「...ツカサさん、これ―」

「気づいた?」

見ると彼はにっこり笑ってこちらを見ていた。

「実際の回収はそんな紙切れ(マニュアル)通りには進まない。常に不測の事態(イレギュラー)や最悪の可能性を考慮したうえで行う必要がある。勿論、そんなものは実際やってみない限りわからないものだ。だから敢えて(・・・)書かなかった」

「つまり...自分で見つけろ...、ってことですか?」

「そういうこと」

ツカサ更に笑みを深くした。

「というわけで早速、カナデには相棒(パートナー)となる。ギフティアと会ってもらう。...どうぞ」

ガチャリ、と右後ろのドアのノブが動く音がし、こげ茶色のショートボブの快活そうな少女が入ってきた。

「今日からこの娘が君のパートナーだ。...おっと、もう時間か。悪いけど自己紹介は二人でやっといてくれ」

ツカサは腕時計を見るなり、大急ぎで部屋を後にした。

見知らぬ者とふたりきり、悲しいことにカナデはこういう状況に慣れていなかった。先に言うべきか、相手が言うまで待つべきか悩んでいると、少女の方が先に口を開いた。

「初めまして。私が今日からあなたのパートナーになるギフティアです。マリアって言います。よろしくね、カナデ」

「あ、こちらこそどうもよろしくお願いします。マリアさん」

余りにも彼女の物言いがハキハキしていたものだから彼の返答は酷くしどろもどろになってしまった。

その様子が余りにもおかしかったのか、彼女はくすくす笑っていた。

「そんなに型苦しくしなくてもいいから。キミより私の方が圧倒的に若いんだし。マリアでいいよ」

「ああ、うん。わかったよ、マリア」

うん、と彼女は元気よく頷いた。しかしすぐに彼女は少し頬を紅く染める。

「な、何か擽ったいな...。名前で呼ばれるのって...」

「そうなの?」

イマイチ共感できないカナデはつい反射的にそう返す。すると彼女は何か奇妙な物を見るような目をした。

「え?普通するんじゃない?」

「ぼくはしないけど」

「そ、そうなの...。なんかごめん」

酷く申し訳なさそうに彼女は顔を伏せる。カナデはなぜ彼女が申し訳なさそうなのか分からなかった。

「ちょっと待ってくれ。何で君が謝る必要がある?」

「だって...キミを決めつけてるような気がして」

「ぼくを...決めつける...?」

「あー...、なんて言えば伝わるかな?」

うーん、うーんと頭を抱え始めるマリア。すると彼女は困ったように照れ笑いをした。

「ごめん...いい言葉が思い浮かばないや」

「そ、そう...」

しかし彼女が気を落としていたのも束の間、彼女はカナデの掌をガッチリ掴んだ。

「カナデ!改めてこれからよろしくね!」

カナデはますます不安になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

私は夢を見ていた。

とうの昔に忘れてしまった、消えてしまった光景が目の前に広がっている。

『私は大丈夫なので』

過去の私がそう彼に言う。そんなわけあるか、と私は私を非難する。

そう言って自分は彼らの好意に甘えていただけなのではないだろうか、と自問する。

そうやって自分を誤魔化すことで本当の己の気持ちからのらりくらりと逃げていただけではないだろうか、と自分を糾弾する。

私は一人、蚊帳の外で顔を覆う。

口から嗚咽が漏れてきた。

私は未練は無い、と彼に言った。清々しいほどはっきりと断言した。だが、それは嘘だ、大嘘だ。

私はただ彼が悲しまないようにという口実の元で自分を騙し続けたのだ。

彼の泣き顔を初めて見た時、それを改めて突きつけられた気がした。結局、自分は彼に私の『しあわせ』を押し付けただけなのではないだろうか。

こころが更に冷たくなる。

自分は一生この凍てついた冷たい、後悔しかできない悲しみに満ちた世界で消え失せるのだろうか。

でも、それでいい気がした。そうだ、アイラよ。お前は十分人生を堪能した。もういいだろう、と。

私は腕に顔を埋める。消えるまでの時間がわからないから、寝て時間を忘れようと思ったからだ。

こころが更に冷たくなる。

 

 

 

「......会いたいよ、ツカサ」

 

 

 

 

 

 

 

誰かに名前を呼ばれた気がして、ツカサは顔を上げる。

そこはいつしかの観覧車だった。

目の前には記憶通りの位置に記憶通りの座り方をした彼女が記憶とは違う笑みを浮かべている。

「また会ったわね。ツカサ」

皮肉でも言ってやろうか、と思ったがやはり声は出なかった。

(アイラ)のこと、まだ悩んでるの?」

フフ、と目の前の少女は妖艶な微笑みを浮かべる。

「あの娘が助けを求めてるのよ?行かないの?...それとも、今更後悔してるの?」

声が出ない。口の中に何か乾いた何かが詰め込まれているような感覚に襲われる。

「そもそも、(アイラ)と貴方はお互い未練を残さない、ということで最後まで一緒にいたんでしょ?何でこんなこと続けるの?」

「―――...――...」

「何て?聞こえないわ」

ギリ、と奥歯を噛み締める。

渾身の力で喉から“音”を絞り出す。

「約束...したからな...」

息を荒らげながら少女を睨む。

「『大切な人といつかまた巡り会えますように』ってな」

すると目の前の少女は柔らかい笑みを浮かべた。

「そう、それでいいの」

「...っ...ぁ...!?」

また声が出ない。

少女は続ける。

「貴方は原点に辿り着いた。本来の目的を貴方は五年経って、ようやく思い出した。なら、私はもう不要。あとは(アイラ)が何とかしてくれるでしょう」

いつの間にか観覧車は無くなっており、黒いだだっ広い空間で少女は踵をかえす。

「ツカサ。あの娘と仲良くね」

それは消えゆく者の微笑だった。あの時と同じ感覚を彼は感じた。

 

(『夢』の時間はもう終わりなので)

 

何処かで彼女の声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと、目の前が朝焼けの様に明るかった。

あまりの眩しさに思わず私は目を細める。そして自分の四肢に、意識に“私”が存在していることに気がついた。

“アイラ”というギフティアは既に消えている筈なのに、何故か其処には確かに自分がいた。

消える時、記憶も人格も消去されるはずなのに、想い出の数々を思い出す。

生きている。私は、まだ生きている。

その事実をまだ受け止められずに居ると、懐かしい人の気配を感じた。

 

あの時より伸びた背丈。

目に軽くかかるほど伸びた前髪。

大きな優しさを孕んだ、少し鋭い目。

多少、彼女が知るものとは異なるがそれは間違いなく彼女が最も強く想っていた彼であった。

目が合い、彼は少し驚いた様だったが、すぐに柔らかい慈愛に満ちた笑みに変わる。

「おかえり、―――アイラ」

終わった筈の時が再び動き出した。

思わず彼に抱きつき、彼の温もりを貪るように感じようとする。

彼はそんな彼女(恋人)を優しく抱き返した。

 

 

輪廻は巡る。

有り得なかった結末が、未来が。

落ちきってしまった筈の砂時計が再びひっくり返される。

彼女は一生離れまい、と彼を抱きしめる。

彼は一生手放すまい、と彼女を抱き返す。

 

 

『大切な人といつかまた巡り会えますように』

 

二人の耳元でいつかの言葉が聞こえた気がした。

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