ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

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クラウ「主人公に絶対なるぞ!」

最初は軽いノリにしようと思ってました(小並感)


IF 主人公の座を取り戻せ?

主人公は誰かと問われた時、彼等(読者と作者自身)はこう答えた――――

 

マーレ(真)、シン、ヅラ(ヅラじゃない、ザラだ!)、ハイネ、議長、キラ etc.

 

 

Q.……クラウは?

 

A.え?主役(笑)か主役(偽)でしょ。或いは脇役。

割りきれよ、でないと死ぬぞ

 

 

この物語は主人公である筈だったクラウが自身の存在感をちょっとだけ濃くするために改変していく物語である。

 

 

 

 

 

 

本来、クラウの物語はオーブが滅び、ザフトへと逃げたことから始まった。では、もしクラウがザフトではなく、別の場所へと逃げる結果となったなら?

 

「いや、だから確かにコーディネーターだしオーブにいたけどスーパーコーディネーターの事なんて知らないって」

 

「嘘をつくな!貴様は何か知っているのだろう!俺を見た瞬間に出た言葉からそれは明らかだ!!」

 

時はまだC.E.71年――――たまたまザフトではなく地球圏内に逃げ、たまたま逃げた先でコーディネーターとバレて、たまたまユーラシア連邦につかまり、たまたまカナード・パルスと出会い、運悪く口が滑ってスーパーコーディネーターなどと呟いてしまったが為に、拘束されて尋問を受けていた。

 

「……交渉しようじゃないか。俺の拘束を解いてくれて命を保障してくれるというのなら協力する。知っている情報についても答えれることは答える」

 

「……なに?」

 

「今のままじゃ互いに不毛でしょ?俺はコーディネーターなのに連合に捕まった以上、ろくな未来が見えない。なら、生きるためには、アンタが望むものを渡す。アンタに情報をあげるし、自分の証明の為に戦う、その手伝いをしようって言うんだ」

 

「フン、貴様に何ができる?」

 

「ハイペリオンに装備されたモノフェーズ光波シールド『アルミューレ・リュミエール』――――その最大の欠点であるエネルギーの問題を解決できる、といったら?」

 

何故オーブにいた全く関係ないと言い張る一般人がハイペリオンの事を知っている?カナードはそんな事を思うが、だからこそよりキラ・ヤマトに関する情報も持っているのではないかと思い、更にはハイペリオンの唯一の弱点が克服できるかもしれないという事を聞いて、こいつは利用できると考えた。

 

「――――――――フ、フハハハハッ、良いだろう!貴様を俺の部下にしてやる!」

 

こうして、彼の戦いの幕が開ける。

 

 

 

 

 

 

当然の様にカナードの部下になって色々と問題が発生したものの、アルミューレ・リュミエールの改良、MSの性能及びコストパフォーマンスの向上、そして何よりこれはクラウとカナードしか知らぬことだが核動力をハイペリオンに搭載していた。

 

「これで、キラ・ヤマトを殺すことが出来る……!」

 

カナードとクラウが所属する特務部隊Xは破竹の勢いでガルシアから出された任務をこなし(ジャンク屋?傭兵?ドレッドノート?知らない任務ですね)、ヤキン・ドゥーエ攻防戦に参加した彼らは悲願であるキラ・ヤマトとの決着をつけるべく戦いに乱入する。

 

『フフフ、君の噂は聞いていたが、まさかここまで来るとはな、カナード・パルス!』

 

「その声、お前はあの時の!」

 

自分がキラ・ヤマトを狙うきっかけとなった謎の男性の声。それがプロヴィデンスから聞こえた。

 

『私に感謝する必要はないが、君は私のおかげで今日まで生きる意味を得ることが出来たのだからな!少しはその借りを返してもらおうじゃないか!』

 

『連合の機体?この感覚は……君は、一体何者なんだ!』

 

プロヴィデンス、フリーダム、ハイペリオン――――各陣営の最優と言えるエースがぶつかり合う。

 

「キラ・ヤマト!お前を超えて、俺こそが最強だという事を!!」

 

ハイペリオンはアルミューレ・リュミエールを起動し、絶対無敵の防御を展開することでキラに勝負を挑む。

 

『この憎しみの光、奔流、止める術などありはしない!誰もが己が存在を肯定するために相争う!キラ・ヤマト、君はその憎愛の象徴なのだよ!!』

 

プロヴィデンスは高みの見物へと移行し、隙あらば世界を滅ぼす為に殺そうとドラグーンを展開させる。

 

『違う!僕はそんなんじゃない!』

 

「違わはしない!お前がスーパーコーディネーターである以上、キラ・ヤマト、お前は完璧でなくてはならない!でなければ、俺がいる意味も、生きている価値もなくなる!それを乗り越えてこそ、俺は、俺自身の存在の証明となる!!」

 

そしてフリーダムはハイペリオンの猛攻を受け、傷つけあう。キラはSEEDを覚醒させるが、ハイペリオンのビームサブマシンガンによる攻撃は着実にフリーダムを傷つける。しかし、キラのフリーダムもシールドによって直撃は避け、ハイペリオンの最大火力であるビームキャノンの攻撃は躱してしまう。

そこを突く様にラウのプロヴィデンスはドラグーンで追撃するが、所詮は連合とザフト。連携などと言うものではなく、あくまでも敵同士として撃ち合い互いに隙を狙う。

 

「邪魔をするな!こいつは俺の獲物だ!!」

 

『フン、貴様も同類だろう。憎しみの矛先を向けるのは良いが、私は君の存在も赦しはしない!君とて同じさ!私と同類でありながらも、思い上がり、憎しみに銃を委ね、欲望と悪意を撒き散らす!所詮、君は不出来な人形にすぎない!!』

 

そう言ってドラグーンはアルミューレ・リュミエールの発生装置の部分を撃ち抜こうとする。カナードはそれを動かして回避する。

 

「違う、命は何にだって一つだ!君だって違う一人の人間なんだ!!」

 

『よりにもよって貴様が、貴様がそんな事を口にするなァァァ!!!』

 

ハイペリオンのアルミューレ・リュミエールもフリーダムの火力を前にした状況では完全無欠というわけではない。レール砲ですらランチャーストライクの主砲アグニの4倍の威力を誇るフリーダムの砲撃は、連合側が予想して構築した防御力を上回っていた。無論、その防御力にゆとりがないわけではないが、既にSEEDを覚醒させているキラは連続して一点を狙う事で突破を図る。

 

『当たれェェ――――!!』

 

「何だと!?」

 

一点集中の攻撃によりアルミューレ・リュミエールを貫かれ、驚愕するカナード。ハイペリオンは傷つき、左側を肩から失う。だが、その瞬間、ハイペリオンのデュアルアイが突如赤く染まり暴走した。

 

「な、何故だ!こちらの操作を何故受け付けない!!」

 

勝手に起動し始めたハイペリオンはカナードの操作を受け付けず、無茶な機動をしながらフリーダムとプロヴィデンスを攻撃する。だが、それはまるで自ら死へと向かうかのような自殺者志願者の動きであり、尚且つフリーダムやプロヴィデンスに特攻を仕掛けるように攻撃する。

 

『聞こえているかいカナード。聞こえていたら君の生まれの不幸を呪うがいい……』

 

そこへ突如流れるノイズまじりの声。

 

「クラウか!生まれの不幸だと!?貴様――――一体俺のハイペリオンに何をした!!」

 

その声の正体はクラウ。クラウはダガータイプの機体で共に戦場に出ており、途中はぐれてからは死んだかと思い、目的の相手を見つけたことで完全に忘れていた存在だった。しかし、この通信、ハイペリオンの暴走。明らかに原因はクラウにるとカナードは思い叫ぶ。

 

『短い間でしかなかったが、君は良い友人だった。だが、君のその存在がいけないんだよ』

 

その言葉と共にアラートとタイマーが画面上に現れる。そこには1分も残されていない時間と爆破するという警告文が流れていた。この瞬間、カナードは自分が利用されていただけだったという事に漸く気付いた。

 

「貴様ァ、クラウ!謀ったな!!」

 

核動力の暴走――――これこそクラウが狙った秘策。MS一機分の小規模な核の爆発とはいえ、至近距離で受ければ例えそれはフリーダムやプロヴィデンスであっても耐えることはできない。

 

『……恨んでくれていい』

 

「クラウ・ハーケンッ!!絶対に許さないぞ!!」

 

そう叫びながらも結末は変わることなく、核爆発が起こり、ハイペリオンはもとよりフリーダムとプロヴィデンスも巻き込まれ、戦場であったジェネシスも爆発の余波によって損壊し、巨大さゆえの脆さからか、そこを起点に崩壊していった。

 

「カナード・パルスとキラ・ヤマト……まずは二人。後は――――」

 

彼の悲願成就の為に犠牲者は増え続ける事となる。

 

 

 

 

 

 

「ダンテ・ゴルディジャーニ、アンタとは同じような境遇さ」

 

「……なるほど、コーディネーターということか?」

 

戦争が終わり、地球圏に降りたクラウがすぐに向かった先は戦闘用コーディネーター作成の為に軍に雇われていたダンテ・ゴルディジャーニの所だった。

 

「誰、あなたは?何の用かしら?」

 

エルザ・ヴァイスが誰何をクラウに問う。

 

「ハハ、傭兵の所に来る人種は二種類さ。敵か――――」

 

「――――客ってわけか」

 

敵と言った瞬間にエルザは一瞬構えを取ろうとしたが、クラウの様子を見てそれはないと判断し、ダンテがそれを手で制した。

 

「そのとおり。依頼は一つ――――ターゲットは叢雲劾。時期が来れば勝手に手を出すんだろうが、どうもアンタじゃ勝てそうにない。故に僅かばかりの手助けと共に依頼を請けてほしいと思ったわけだ」

 

「は?何それ。ダンテがそんな奴に負けると思ってるの?」

 

馬鹿にされたと思い(事実、クラウは『DESTINY ASTRAY B』を最後まで読む前に転生したので時系列的に劾が生きているからダンテが敗北したんだろうな、という情報位しか知らない。その為、彼らが劾に勝るとも劣らない実力を持っていることを知らず過小評価している)、エルザが怒るが、ダンテはそうは思わなかったようだ。

 

「手助けの内容とやらが気になるが、それなりに確信に至る理由があるようだ。いいだろう、こちらの求める物を用意できるのであれば、その依頼を受けるとしよう」

 

そうして用意されたのはソードピストルを装備したストライクノワールのカスタムタイプが二機。ダンテの分だけでなく、エルザの分まで用意していた。機動力の要望を強くしていたダンテの要求はクラウが想像していた以上に高かったものの、ハイペリオンの頃の経験も活き、当初予定していた軽量なことで機動力を得たアストレイノワールの性能を大きく上回る完成度を誇るストライクノワールとなった。

 

「フッ、やるじゃないか。ここまでのものを造れるとは思いもしなかったぜ」

 

かくして、想定よりも一年以上早い時期にダンテは劾に挑みに行く事となる。

そして、結果だけ見れば、ダンテ達の勝利だった。紆余曲折はあったものの、エルザが劾を下し、ダンテもまたその実力を示した。だが、勝利したにもかかわらず、重傷を負わせただけで終わり、劾を殺しはしなかった。()の情だったのか、別の理由からか、クラウは話が違うと思ったが、依頼内容はあくまで劾を倒すこと。殺せとは書いてなかったと言われてしまい、叢雲劾の殺害は失敗に終わる。

 

「失敗したことに、ホッとしてる、俺が?いや、そんなはずがあるか……変えなきゃ変えていかなくちゃならないんだ」

 

 

 

 

 

 

ユーラシア連邦に所属してからしばらく、彼はそれなりの立場と役職を得てロゴスと通じていた。結果、自身の専用機ゲルググを開発し、連合の切札とも言える大型機ザムザザーやデストロイの改良にも取り掛かる。

彼の予想通り、ロウもジェスも彼が知る限りは行方不明となり、アメノミハシラを手に入れるために連合が派遣した部隊を予定より多くしたことによってサハク家も潰えたはずだ。

 

「目的は着々と果たしている。後、残ってるのは療養中の叢雲劾……ロウが火星に行けなかったなら火星人も技術的に問題は無いし、ライブラリアンは『一族』のデータは全部奪うか破壊したから結成すらされないはず。あとはシン・アスカとアスラン・ザラだけどシン・アスカに限っては問題ない」

 

「シン・アスカ」と名前が書かれている手紙を読みながら、中に一緒に入っていたアスカ一家の集合写真を見て微笑む。

自分が成り上がる為だけにアスカ一家の被害を見過ごすわけにはいかないと思ったクラウは、オーブで戦争に巻き込まれる前にクラウが手を打ってアメノミハシラへと移動できるよう手配していた。勿論、戦後は連合がアメノミハシラを制圧する前に復興中のオーブへと帰国できるよう手配もしている。

そうすることで、シン・アスカは憎しみを抱えてザフトへと行く事もなくなり、戦後復興のオーブで家族と一緒に一市民として過ごしていることだろう。

 

「幸せになれるなら、そうであるべきなんだ。はじめから巻き込まれなければ不幸は生まれない」

 

ザフトにシン・アスカが所属していない。それだけでクラウの今後の憂いは一つ消えたと言える。結果的に、彼の中で残っている直接的な障害はあと一人――――アスラン・ザラのみとなった。

 

そして、時代は移り変わる。

 

 

 

 

 

 

連合とザフトの本格的衝突。薄氷の平和は、たった二年という短い期間でしかなかった。

戦局は大型機を大量に投入することで戦略的には連合有利に進んでいた。元々数で劣るザフトは一機あたりで数機以上のMSを撃墜しなくてはならないにもかかわらず、連合の大型機が量産されたことでキルレシオが逆転している状態となっていた。

しかし、ザフトも甘んじてそれを受け入れていたわけではない。キルレシオでは劣っていても、デストロイ一機当たりのコストとザクウォーリア一機当たりのコストでは大きく差が出ることも影響し、防衛戦においてはザフト側が有利に進んでいた。

 

「ネオ隊長。スティング、ステラ、アウル――――全員準備が整ったみたいですよ」

 

「そうか、本当はあいつ等にも休みをあげたいんだけどな」

 

そしてクラウは特務部隊Xにいた経歴を評価されて(一方でコーディネーターであることから嫌厭されて)、ファントムペインの中隊長となっていた。

 

「……こういう時代ですから。戦争が終われば、彼らにだって幸せがつかめる筈です。彼らと一緒に先に出ます」

 

「おう、俺も機体の調整が終わったらすぐに向かうさ」

 

「ゆっくりしていってください。それまでに終わらせますよ」

 

ロゴスの私兵であるファントムペインは、戦場を選ぶことはできない。だからこそ、奪取した3機は中隊長クラウの指揮する中で次々と派遣される戦場を駆け、活躍していった。

だが、強化人間(エクステンデッド)の戦闘能力は高いとは言っても元はナチュラルだ。優秀なコーディネーターには地力で劣り、連携の練度が高いパイロットを相手にするには戦略眼が足らず、切羽詰まった状況や突発的な事態には弱く、故に逆境を乗り越える力はない――――故に、彼らが窮地に立たされるのは必然だった。

 

『クソッ、何だってんだ!こいつら!!』

 

『墜ちろォ、墜ちろよ!!』

 

『沈めェ!』

 

クラウと三人の強化人間(エクステンデッド)が分断され、同じセカンドシリーズのセイバーや最新鋭の量産機である、グフイグナイテッドによって彼らは追い詰められていた。

連携した数に圧され、同性能のMSを相手にし、補給もままならない彼らは追い詰められる。オレンジカラーのグフがガイアを抑え接近戦で圧倒し、アビスを白いグフと黒いザクファントムが追い詰め、カオスをセイバーが打ち破る。

 

『嫌ぁ、死ぬのは、いやっァ!?』

 

分断されていたクラウが辿り着いたころには既にカオスは落とされ、アビスはコックピットを破壊された状態で確保されていた。唯一残っていたガイアも既にフェイズシフトがダウンしており、銃も盾も持っていなかった。

 

「やらせるか!!」

 

クラウが割り込んでオレンジカラーのグフイグナイテッドを背面から横薙ぎに一閃する。

 

『ハイネェェェ――――!!』

 

「ステラ、もう大丈夫だ!ネオ隊長もすぐに来る。それまで何とか持たせて――――」

 

スティングとアウルはやられたが、せめてステラだけでも救わねばなるまい。

だが、そう思った矢先、ガイアは無残にも複数方向から同時にビームを撃たれ、呆気なく爆発した。

 

「ステラッ!!」

 

ザフトにとってガイアは確保できると思ったからすぐに落とされなかったのだ。元々自分たちザフトの機体だったのだから確保できる状況であればすべきだと。しかし、味方がやられた以上、確保を諦め、撃墜した。

戦争をしているのだ。自分の甘い見通しがそれを許してしまった。反応できなかった自分が悪い。クラウ自身、そう思った。しかし、頭では理解しても感情が許せるわけではない。

 

「貴様らは……そんなにも手柄が欲しいのか!そんなにも殺し足りないのか!彼等だって、なりたくて兵士になったんじゃないんだぞ!!」

 

自分勝手な理屈を振りかざして、撃ち抜いた一機であるセイバーに斬りかかり、一対多の戦いが巻き起こった。

 

 

 

 

 

 

その後、ネオが戦場に辿り着いたころには既に敵は全滅しており、セイバーに至っては念入りにコックピットに居たであろうパイロットを焼き尽くしていた。

 

「俺の責任です。俺が彼らと離れなければ……」

 

「気にするな、とは言わんさ。だが、気負いすぎるなよ。それが原因でお前さんが死んだんじゃあいつらも報われねえ」

 

ネオはそう言って、慰めの言葉を投げかけた。

しかし、戦局はそんな彼らの心境を顧みず動き続ける。ザフト相手に消耗し始めた連合は世界安全保障条約を利用し、条約上は味方国となっている中立国や元親プラント圏の国家にも出兵を命じる。この強制的な連合の命令に反発し始め、海軍の派遣をオーブが断ったのを皮切りに南アメリカや赤道連合を中心に反発運動が巻き起こった。

その為、見せしめの為にファントムペインを中心とした部隊で最初に反発したオーブを制圧するようロゴスから命令が下された。

 

「俺は……もう戻れないんだ。進まなきゃいけないんだ……」

 

何を目的として、どうして戦い始めたのか。セイバーに乗っていたであろうアスランも殺し、主人公を全員舞台から下ろしたクラウは、苦悩しながらも、ここまで来ては引き下がれないと悲願達成の為に動き続ける――――それが、故郷を焼くことだとしても。

 

 

 

 

 

 

オーブ鎮圧作戦――――地球連合の足並みを乱し、独立気運を高めた国家元首の暴走を鎮圧するという命令の元ファントムペインを中心とした艦隊はオーブを制圧するために戦い始めた。だが、そこでクラウは予想もしなかった相手とぶつかる事となる。

 

『クラウ!?何でアンタがそこにいるんだ!何でオーブを、俺達を攻めるんだ!』

 

「シン、お前こそ、何でそこにいる!」

 

シン・アスカがオーブ軍に所属して、MSムラサメのパイロットとなっていた。平時であれば、或いは敵同士にならなければ。違いに悲痛なまでの叫び声を上げながらぶつかり合う。互いに気付かなければ躊躇いなく引き金を引けただろうに、撃てたであろうに――――どちらも相応に実力があったからこそ、気付いてしまった。

 

「お前が……お前がそっち側に立ってなければ…………」

 

堪らず、クラウの動きが鈍る。その様子をみてシンは説得しようと通信を繋げて声をかける。

 

『クラウ!止めてくれよ!アンタがオーブを撃つ理由なんてないだろう!何で……争いなんてアンタは嫌いなんじゃなかったのかよ!!』

 

争いは好きじゃない。戦争が好きな人なんてそうそういない。だが――――

 

「仕方ないだろう!やらざる得ないだろう!!世界をただ静観して見過ごさないで済むだけの力が、ここに、俺の掌にあったから!!」

 

今更そんな理由で立ち止まれるほど、覚悟を決めていないわけがない。

 

「見過ごしてしまえば、お前の家族だって死んだんだ!放っておいたら犠牲が増え続けるんだ!」

 

だから、敵になるなら容赦しない――――そう言って武器を振り下ろす。

 

「悪意に曝された人は何人もいた。この世界には悪意が多すぎる!自己満足の結果(キラ・ヤマト)その犠牲者(カナード)強化人間(ステラ)クローン(ラウ・ル・クルーゼ)戦闘マシーン(エルザと劾)!!他にもいたさ!?散々見てきた!」

 

彼等を殺してきたのは、彼らに注目したのは、全て自分が主役になる為だ。だが、主役になるのが目的じゃない――――主役になるのはそれが一番手堅い手段だったから。

 

「だったら、これ以上の犠牲を出す前に変えなくちゃならない!正すしかないだろう!それだけの力と才能を俺が持っているというのなら、導いていくしかないだろうがァ!!」

 

世界の流れを変えられるのは、一握りの人間だけ。そして、クラウは、クラウだけが知っている。彼等では救えないと――――

 

「原作で誰が、救えた!誰が救われたって言うんだァァ!!」

 

皆死んでいった――――救われなかった。強化人間も戦闘用コーディネーターもスーパーコーディネーターも必要だと思われれば、これから先も作られ続ける。キラ達にそれを止める術はきっとない。だから、だからと、変えることが出来るのは自分だけだと、自分自身だと、そう言って全部背負って変えようと努力している。

 

「お前も、今更前に立たなければ―――――幸せなままにッ!!」

 

そう言って、クラウはシンの乗るムラサメを切り裂いた。コックピットを避けたのは、単に殺しきれなかっただけなのか、彼の最後の私情だったのか、それとも――――

 

この日、オーブは敗北し軍事拠点を中心としてが被害が出たものの、直後に起こったロゴス糾弾の声明によって連合はオーブの制圧をすることなく連合は引き下がっていった。

 

 

 

 

 

 

そこから彼は精神を摩耗させつつも世界を変え続ける努力を続けた。ロゴスをザフト連合共に煽動させて滅ぼさせた。ギルバート・デュランダル議長の動きを先読みし、世界に混乱を招く前に交渉する。

仮初の平和となった世の中で、彼は少しでも犠牲を無くし続けるように動いていく。非人道的な研究所は全て消し去った。既にこの世に生まれ落ちた彼らの住む場所を作った。戦争が起こる前にその原因を止めて、必死になって駆け巡る。

だが、それは所詮いたちごっこ。いくらかき消しても悪意は生まれるし、戦禍の火種は尽きない。やってる事は『一族』やロゴスの真似事以下。クラウの心が折れるのが先か、クラウがこの世からいなくなるのが先か。どちらだとしても、救いは無い。

だから、今までの成果を全部壊すかのように彼は世界に宣戦布告した。レクイエムやジェネシスαを持つメサイア、同様の大量虐殺兵器をすべてクラウが牛耳り、彼は自身の独裁を宣言した。人々は当然恐怖し、抵抗しようとする。

それを一度だけ力づくで黙らせた。戦略兵器級の砲撃は多くの人の命を一撃で刈り取った。だが同時に彼は世界の敵となり、そして呆気なく敗北した――――

 

「――――クラウ」

 

ある施設の椅子に座っていると、後ろに一人の人が立った。相手はわかっていた。

 

「シン、よく来たな」

 

自分には無理だと、最初から分かっていたのかもしれない。だからこそ、ここにシン・アスカが来れた。

 

「答えてほしい。何であんなものを造ったんだ。何であんなのを撃ったんだ!許せなかったんじゃなかったのかよ!」

 

怒り、戸惑い、悲しみ――――入り乱れた感情をシンがぶつける。

 

「全部、戦時中に出来た余りものさ……俺が造ったわけじゃないって言うのは言い訳だな。戦争が終わって急激に増えた人口は抑制が効かなくなる。そうなればまた戦争に逆戻りだ。だから、それを減らして、悪意を集約させてやった、て言うなら?」

 

「その為にあんなに人を殺したって言うのかよ……」

 

「違うさ。一を捨てて十を救う、なんていう格好つけた話でもない。そんな英雄(バカ)は目指してない。その方法じゃあ最後は破綻するだろう。その内、救った数より殺した数の方が多くなる。

全部自分のためにやったこと。ただ、単純に許せなかったんだよ。悪意によって不幸になった人間が、俺が救いたかった人が死んだのに……死んで然るべき人間がのさばって生きていることが」

 

だからこそ、狙った先はその恨んでいた人がいた場所だった。巻き込まれた人たちには可哀想なことをしたとは思っているが、クラウは既にそれを割り切っている。

シンは涙ながらに銃を構える。許すわけにはいかないだろう。彼を許してしまえば、それは世界の悪意を許すことになる。

 

「俺が、アンタを止める。アンタは俺の兄みたいな人だった。なのに悩んでいたことに気付くことも出来ず、罪に押しつぶされてるのを知らないままだった。だからアンタを、俺が止めてみせる!」

 

「そうか。でもな、シン――――お前には殺されてやらない」

 

そう言って、クラウはシンの構える銃を蹴り飛ばし、シンを押さえつける。

 

「俺が自分勝手にやったことを、他人に責任とらせるわけにはいかないんだよ」

 

そう言って、彼はシンの動きを止めてから居なくなった。

 

「やっぱ、主人公なんて柄じゃないね」

 

その後、彼は消息を絶ち、大量虐殺兵器は全て破壊された。シンはクラウを取り逃がしこそしたものの、施設を取り押さえたことでクラウが活動することが出来なくなったと上層部は判断し、その戦果を褒め称えた。

以来、クラウ・ハーケン生きているのか死んでいるのかすら分からず、世界には再び平穏が訪れた。

 

だがその後、少なくとも数十年間は世界で戦争が起こる事は一切なかったという。

 

 

 




クラウ「主人公にはなれなかったよ……」

多分このクラウは転生回数が本編より少ないクラウ。主人公やったらプレッシャーに潰されちゃうタイプ。え、やってない?まさかー(棒)
あと多分アスランとロウ辺りはちゃっかり生きのびてると思います。

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