11話
年が明け、2026年になった。正月休みの3日間も過ぎた1月4日
香蓮が東京に戻ってきたこともあり、また、年末年始の帰省ラッシュを避けて帰省する詩乃が、香蓮と入れ替わるように次の日に東京を発つこともあり、ブラックアローのメンバーは夜にGGOで会っていた
「今年もよろしくお願いします」
「よろしくね」
「ことよろ」
「今年も儲けさしてくれよ」
4人がそれぞれ挨拶をしつつ、適当に世間話に興じ始めた
そんな中、店主が『あっ!』っと何か思い出したように、手をポンと打った
「そういえば、お前さんら、スクワッドジャムって知ってるか?」
「知らん」「知らないわ」「わかんない」
「お前ら、最近俺に冷たくね?」
店主の問いかけに、3人は考える素振りすら見せず即答で返し、聞いた店主は涙目になる
「おっと、先に言っておくが、イカのジャムじゃないからな?」
「そんなボケ、誰がするかよ」
((そういえば、猫ってイカを食べさせたらダメって聞くけど、キャーティアはどうなんだろう・・・?あれ?そもそもこの前一緒に食べたもんじゃに、切りイカが入ってたような・・・))
店主とラッシュのやり取りを余所に、レンとシノンの思考は脱線していた
「簡単に言えば、BoBのチーム戦バージョンだ。どこぞの誰かが個人スポンサーでザ・スカーに開催を要望したらしい」
「個人スポンサーって、ザ・スカー金儲けに貪欲すぎだろ。他VRゲーより高い接続料に、公式RMT、グロッケン内に現実の企業の広告出したり・・・その上個人スポンサーの大会開催とか」
「ま、デスガン事件で報道されたから、焦ってるのもあるんだろうな。どれもプレイヤーがいなきゃ話にならないシステムだし。プレイヤーを繋ぎ止めるのに苦労してんだろうさ。他にも、対物ライフルがアップデートで大量に増えるって話があるしな」
デスガン事件の報道で、ガンゲイルオンラインの名前は悪い意味で世間に広まってしまっている。その影響はプレイヤーのみならず、広告を出してる企業にも及び、ザ・スカーは苦境に立たされていると言えた
「っで?俺らもそれに出ようぜ、と?」
「ま、お前さんらは第3回BoBの本戦の1位から3位なわけだし、個人スポンサーの小さな大会じゃ余裕で優勝だろうが、話題作りくらいにはなるだろうさ。日々稼がせてもらってるこのGGOに、ちょっとくらい恩返しするのも、悪くないだろう?」
「なるほどな」
店主の言葉に、ラッシュは頷きを返す
「っで、本音は?」
「お前がALOに行くようになって刺激が無くて寂しいんです」
「キモッ!俺、男同士の絡みは現実、仮想問わずNGなんで」
店主が泣きながら本音を口にするが、ラッシュはそれに対し距離を大きく取りながら返した
「ハッ、俺だってBLはゴメンだよ。だが、お前がドッサリとドロップ品を持ってくる、あの滾る感覚が、もっとほしいだよ」
「それ単純に、もっとコレクション増やしたいとかお金稼ぎたいってだけじゃ・・・」
「そうとも言う」
レンのツッコミに、店主はケロリと表情を変えた
「とりあえず日程はいつなの?」
「2月1日だとよ」
「まぁ、私は特にリアルの予定に影響は無いわね。ラッシュやレンが出るなら私も出るわ」
ただし・・・っとシノンは店主に向く
「弾薬運搬係は任せたわよ。私、ストレージにはヘカートⅡとグロッグ18のマガジンが1つずつしか入らないから」
「おいおい、マジかよ。そんなの聞いてねぇぞ・・・通りで前の戦争のとき、ハンヴィーの中に実体化させたままでマガジン置いてると思ったらそういうことかよ」
シノンのビルドは通常のスナイパービルドよりSTRを多めに振っている、対物ライフル用スナイパービルドというものである。STRが多い分ストレージの容量も大きくなっているが、肝心の対物ライフルがその容量のほとんどを占めており、予備弾薬の携行数が大幅に制限されてしまっているのである
「私は一応実体化、ストレージ合わせて50発入りマガジン18本だからP90はなんとかなるかも。だけどハンドグレネードは2個だけだし、あとラッシュさんにもらったサブのビームナイフ壊しちゃったから・・・」
「チーム戦なら1回の戦闘の時間も長くなるだろうな。前の戦争で浮き彫りになったが、俺の武装は戦闘が長期化すると、1マガジン当たりの装弾数が少ないからリロードが増えて面倒臭い。そもそもの話が、俺のやってるドロップ漁りのMOB狩りが1マガジンで1グループの敵集団を殺しきる短期決戦だからな・・・」
どんなビルドにも一長一短があり、プレイヤースキルで長所を伸ばしつつ短所を補うことが必要になるのである
「レンはともかく、ラッシュとシノンはよく2位3位になれたな・・・」
「レンが他を倒したから、俺らの順位が上がっただけだ。俺らのキル数は上位陣の中じゃ少ないほうだ。俺とシノン、あと4位のキリトを足してもレンのキル数には届かない」
店主は知らないが、ラッシュたちはデスガン討伐の裏ミッションを遂行していたので、戦闘は可能な限り避けていた。その結果のそれぞれの順位であった。あまり褒められた戦略ではないが、ラッシュもシノンも予選で実力をしっかりと見せているので、観客から批判されることはなかった
「どっちにしろ、そのスクワッドジャムに出るなら、粗を潰しておかないと、案外簡単に負けもありえるかもな。お前も商人ロールだからレベル上げないと頭数にもならんし」
「うっ・・・戦闘は苦手なんだよなぁ」
「最悪、俺のドロップ漁りに連れてってパワーレベリングするからな。出るつもりなら時間は空けとけよ」
「わかったよ・・・」
店主は肩を竦めた
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次の日、帰省する詩乃を東京駅まで見送りに来たラッシュと香蓮
「そういえば、2人に言っておくことがある」
新幹線の待ち時間を潰していた3人に、ラッシュが話を切り出した
「年が明けて無事にウチと先方との交渉は始まった。それで、2人は一般人だけど俺らの現地協力者ということにしてある。特になにかやってもらうことがあるわけじゃない。今までどおり口は固めで頼む」
「わかったわ」
「はい」
周りの人に聞こえないよう、やや声を抑えて2人に連絡事項を伝えた。こういうことは直接会って伝える。自分たちが突破できたアミュスフィアやザ・シードのセキュリティはもちろん。スマホなどの通信機器すらキャーティアにとっては信用できないものなのである
「基本、何か連絡事項があるときは、俺か母さんが伝達役になってる。2人からも俺や母さんに連絡くれれば、優先して時間を作れるようになってるから。何度も言うが俺は下っ端で、そう重要な仕事をしてるわけじゃないから、気楽に連絡してくれて構わない」
「自慢になってないわよ」
「アハハ・・・」
ラッシュの軽い言い方に、詩乃と香蓮は乾いた笑みを浮かべた
「緊急時は別の人が行くかもしれないが、そのときは
「・・・わかりました」
「わかったわ・・・」
緩んだ雰囲気から一転して、真面目な警告をするラッシュ。振り幅のギャップがより警告の重さを彼女たちに印象付けることになったのだった・・・
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詩乃を見送り、東京駅に残されたラッシュと香蓮。香蓮が帰省から戻ってきた移動疲れも残っているので、ラッシュが車で真っ直ぐ送っていくことになった
「わざわざ送ってもらわなくてもいいのに・・・豊洲とは方向逆だから」
「そう言いなさんなって。最近ALOに入ってるから、香蓮との付き合いが薄くなってる気がしてるしな。GGOでもブラックアローで会えるときもあれば、会えないときもあるし」
「そういえば、リアルで2人きりって初めてかも・・・?」
車内で男性と2人きり。恋愛経験の無い香蓮は少しラッシュを意識するように頬を赤らめた
「あ、あの・・・詩乃から聞いたんだけど・・・私たち地球人と、キャーティアが結婚できるって・・・色々問題はあるみたいだけど」
「あぁ、聞いたか・・・本当は俺が話さないといけなかったんだけどな」
一旦意識しだすとそのことばかりが頭を占領し、恥ずかしさがあるのに香蓮は話題を振る
「ラッシュさんは私や、詩乃のこと、どう思ってるの?」
「直球で来るなぁ・・・」
「ジェーンさんに言われたから、それだけで真面目に私たちにそういうことを説明しようってのは、少し理由としては弱い気がしたんです。私たちのこと、少しもそういう目で見てないなら、『ありえない』で終わる話だと思いますし」
「確かに母さんに言われたこと、あれが単に母親として言ってたことなら、少なくともまだ、2人には言わなかっただろうな。早いタイミングで話したのは、あれは母親としてじゃなく、外交団の医務官の1人として告知してきた事項だったからだ」
ラッシュとジェーンは親子であるが、仕事上の上下関係もある、複雑な間柄である。親としての注意したことが、仕事の遵守事項にもなることもあるのだ
―命令だから話したの?
詩乃に話したあの内容が、仕事上の命令で行われたことに、香蓮はショックを受けた
「じゃあ・・・」
私や詩乃とは、仕事だから関わってるだけ?っと香蓮が問いかけようとした
次の瞬間だった
「ありえないわけないだろう」
「っ!」
ラッシュは香蓮の言葉を遮って言い放つ
「ありえないなら、2人の前に現れるかよ。マンションに呼んで、秘密晒すかよ。その後アシストロイド送って安全確保したり、現地協力者として外交団が緊急時に保護できるようにするかよ。現にデスガン事件の関係でハッキングして個人情報得たプレイヤーたちに、謝罪なんてしてないし、協力関係だったキリトには何の情報も渡してなんかないからな」
少し自棄が入りつつラッシュが胸の内を語りだした
「ぶっちゃけ見てるよ、そういう目でさ。だってGGO内だけの付き合いで終わるかと思ったら、色んな巡り会わせで現実で会えるチャンスが転がってきたんだぜ?内面や本音が出やすいVRゲーで、気軽にモノを言い合える仲の女性を、好きにならないわけ無いだろう」
「・・・っ」
『好き』の言葉がはっきりと出てきたことで、香蓮の顔は真っ赤になった
「日本の感覚なら、香蓮は19歳で、詩乃は16歳だし相手として若すぎるのかもしれんが、キャーティアは大体16歳で最初の発情期が来る。感覚の違いとしか言えないが、キャーティアの中じゃなんの問題もない。ま、学生ってのは少々問題だが、地球人より長生きの俺らは、社会人になる5,6年後まで待つのも苦じゃない」
「ぁぅぁぅ・・・ちょ、ちょっとタイム・・・」
あまりにも直球に語られるラッシュの言葉に、香蓮はとうとう根を上げる。ラッシュも我に返り、自分の言った内容の恥ずかしさに、居たたまれない表情をしている
お互い落ち着くために、しばし無言の時間が過ぎていく
「・・・まぁ正直、この問題は俺の気持ちどうこうじゃなく、女性の側である2人の気持ちが一番重要になる。越えるハードルは女性のほうが多いし、1つ1つも大きいからな」
「そう、ですね・・・」
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「だってさ>
<だってさ、じゃない」
<香蓮さんのその肝の座り方は」
<いったいどこから・・・?」
その日の夜、香蓮はトークアプリで詩乃に、車内での会話の内容を伝えていた。返ってきた詩乃の文面には、呆れが表れていた
「私も聞くべきか迷ったんだけど>
「やっぱ気になったから・・・>
「男女比1対30の中で、違う種族の私たちをどう思ってるか?>
<それは・・・」
<そうなんだけど」
<ここの文章で見てるだけで」
<顔から火が出そう」
―だよねー・・・私はそれを直接言われたんだよ
詩乃の返信を見て、香蓮は一旦スマホから目を離して、寝転がっていたベッドからボーっと天井を見る
―一応私はラッシュさんのことを、好きではあると思ってる。けど、それがラッシュさんの言ってるハードルを越える覚悟を持てるほどかと言われると・・・ラッシュさんの言ってるハードルを越えてでも、ラッシュさんの傍にいる覚悟・・・難しいな。わかんないよ・・・
小比類巻香蓮、19歳。初めての恋の悩みは、かなり難題なものであった
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一方その頃ラッシュはというと・・・
「なぁユイちゃんや・・・お前さんのパパは、実は凄いヤツだったんだな・・・」
「?」
「あれだけ周りの女性陣とキャッキャウフフな展開を経験しても、アスナ一筋なんて・・・」
「おいラッシュ、ユイに変なこと教えんな」
自己嫌悪の真っ只中であった。ALOにログインし、偶々見つけたキリトと一緒にいるAIのユイに、悩み相談をしていた
「なんだよ。レンかシノンに惚れでもしたのか?」
「あぁ、そうだよ。悪いか・・・でも俺は社会人で、あいつらは学生。さらに俺は日本人じゃない。こっちからアクション掛けることもできん。このもどかしさがわかるか?」
「わかんねーよ。ってかあいつ
「うっせーよ。わかってんだよ・・・」
キリトに言い返す言葉にも気力が無いラッシュであった
「どうでもいいけど、あたしの店で暗い空気漂わせないでくれる?客足が悪くなるわ」
「元から俺ら以外に客なんて来ないくせに」
「あ゛?」
ラッシュたちが駄弁っていた場所の主であるリズベット。ラッシュの言葉に、今まで鉄叩いていたハンマーを投げ付けようと振りかぶった
そのとき、ドアベルが来客を告げた
「あのー・・・お取り込み中、だったり?」
「いえいえ、とんでもない!いらっしゃいませ、リズベット武具店へようこそ!片手剣から戦斧まで、なんでも揃えております!」
来客にリズベットが表情と態度を一変させて対応し始めた
しかし、その来客はリズベットではなく、なぜかラッシュのほうに視線を向け、ラッシュに近付いていく
「わぁー、ホントにいたー!この店に来れば、噂の13連撃の人に会えるって聞いたから来たんだ!」
「俺?」
来客の用事がラッシュであったことに、リズベットは再び表情を一変させ、来客者の背後からラッシュを睨みつける
「ねぇ、ちょっと、僕とバトってくれない?」
とりま、SJ1まで書き溜めが終わり、賢者モードに入ったので投稿開始
年始のブラックアロー。ラッシュがALOに行って、店主は刺激(ドロップ品)が足りない
東京駅でのやりとり、ラッシュが言ってる緊急時は起こる予定なし。もう現実側で面倒な事件はこの作品ではありません
帰りの車内。ラッシュ→香蓮や詩乃
訳)好きに決まってんだろ。言わせんな恥ずかしい
香蓮の恋の悩み
解決するまでこの作品は続かないと思う
ALO内
キリトがアスナ一筋なのかは疑問。ゲームでは他ヒロインのルートもあるし
賢者モードで読み直すとあとがきが少ないな・・・