イグドラシルシティの中央広場。そこで2人の決闘が行われようとしていた。周囲には100人以上の観戦客が集っていた
「観客多すぎね?」
「僕が呼んだんだー。ちょっと事情があって、僕はこの決闘に勝って強さを証明しなきゃいけないから」
「はぁ、強さねぇ・・・」
自己嫌悪+色ボケ中のラッシュは決闘にやる気なさげな態度で、対戦相手のインプの少女に向き合う。2人の間には立会人としてキリトが所在なさげに立っている
「ルールはなしありの羽有りでいいのか?それで一撃決着」
「んー、そうだね。なんでもいいよ。僕はこの剣だけだから、なしなしでもありありでもいいし、地上戦も空中戦も僕は問わないよ」
対戦相手は腰の提げた剣の柄に手を当て、やや挑発気味にラッシュを見詰めて言う
「ただ、できれば全損決着でやりたいんだけどなぁー」
「自分が先に一撃もらうことは確定してるってことか?」
「そういうわけじゃないけどさー。むしろなんで一撃決着?」
対戦相手のHP全損ルールのリクエストを、ラッシュは拒否するために煽る。しかし対戦相手は煽り言葉を受け流して理由を問いかけてきた
「別に?強いモン同士なら、1合でもやり合えば、どっちが上かわかるだろうって思ってな?それに、こっちは斬り合うには刀の耐久値も不安だしな。修理代払ってくれるわけじゃねーだろうし」
それに・・・っとラッシュは言葉を続ける
「ぶっちゃけ俺、SAO生還者なんだわ。その俺にHP全損の勝負をさせる意味、わかるか?」
ラッシュの、自身がSAO生還者であるという暴露に、キリトは驚きの表情をする。観客とした集ったプレイヤーたちも、その発言に口々に驚きの言葉を発している
ALOはSAO生還者が多く接続しているVRMMOではあるが、偏見やトラブルを避けるため、SAO生還者は自身がそうであると公言することはまず無い。キリトやアスナなどSAOで有名だったプレイヤーは、公言しなくても人伝にそれが知られているが、自らが簡単にそれを言えるような、軽い内容では決して無いものなのである
「命賭けて戦って、お前さんを殺せってか?冗談キツイぜお嬢ちゃん。俺に君みたいな可愛い女の子を斬り殺せって?」
「おいラッシュ・・・」
流石に発言にマズイものを感じたキリトが止めに入る
「・・・すまない。ラッシュの言い方はともかく、SAO生還者の中には、まだHP全損の意味を重く捉えているプレイヤーが少なからずいるんだ」
「・・・わかった。それなら仕方が無いね。じゃあ半減決着でやろう。それならいいよね?」
キリトがフォローしてその場を納め、対戦相手も事情を聞いて、無理を通すべきでないと悟って引いた
「ラッシュも、半減ならいいだろ?」
「はいはい、わーったよ。それで、賭け金はいくらにする?最近だと10万は賭けてるが、半減決着だから上乗せして・・・30万くらいか?」
「えっと・・・お金はちょっと勘弁してほしいかなー・・・」
「はぁ?」
ラッシュが決闘で賭けるお金について聞くと、今度は対戦相手がそれを拒否し始める
「いやーその、お金はちょっと別に使う当てが・・・」
「いや、ちょっ待てよ・・・金賭けずになに賭けるんだよ・・・?」
バツが悪そうに顔を逸らして言う対戦相手
「最強の座、とか?」
「最強の座がほしいなら、サラマンダー領に行ってユージーン将軍とやるか、そこにいるキリトとでもやれよ。俺は別に最強なんて称号持ってねーよ」
コテンっと首を傾げながら言った対戦相手に、ラッシュは話にならないといった態度である。観客はラッシュが賭けデュエルで成り上がったことを知っているので、野次が飛ぶことも無い
「・・・わかった。ただ、今30万ユルドなんて持ってないから、出世払いで!」
「言ったな?マジで取り立てるから覚悟しろよ?」
「か、勝てば逆に30万ユルドもらえるんだし!」
「声震えてるぞ?あと、そっちから決闘申し込め」
対戦相手がラッシュに決闘を申請し、ラッシュが半減決着でそれを受けた。決闘開始のカウントダウンが始まり、対戦相手が剣を抜く。ラッシュはお決まりのスタイルである抜刀術の構えを取った
「そういえば、名前を聞いてなかったな」
「デュエルの申請に載ってたけど?」
「周りの客は知らないだろう?」
ラッシュの言葉に、対戦相手はあぁそうか・・・っといった表情をする
「そうだね。ギルド『スリーピングナイツ』リーダー、ユウキ」
「ギルド無所属、そうだな・・・13連撃のラッシュ、とでも言っておくか」
名乗りが終わって、カウントダウンが0になって決闘が開始された
「っ!」
対戦相手、ユウキが開始と同時にラッシュに突っ込む。素早い突きと振りの連撃を、ラッシュはキャーティアの動体視力と反応速度、SAOで磨いた見切りで回避する
「っ!速いな」
それまでやる気なしだった表情が変化し、気合を入れ直したラッシュ。そんなラッシュの変化に、ユウキは警戒度を上げる。その直後、ユウキの踏み出そうとした足を、ラッシュが軽く蹴り、ユウキは体勢を崩す
「クッ!」
体勢を崩されながらも、追撃を避けるために大きく後ろに飛んで距離を取ったユウキ。しかしユウキの右腕の内側には切り傷のダメージエフェクトが付いていた
「綺麗に戦いすぎだな。騎士様ロールか?」
「いつの間に・・・」
「抜く、斬る、納める。とことん突き詰めた結果だ。ま、一撃決着なら俺の勝ちだったな」
ユウキがバックステップで飛ぶ瞬間、ラッシュは刀を半分鞘から抜き、ユウキの腕に傷を付けたのだ。小さな傷で、ダメージ自体は微少なものであったが、この攻撃の本質はダメージではない。納刀状態だから、とどこかで油断が生じていたユウキは、ラッシュの刀を扱うテクニックの高さに驚く。そして、攻めの意識が鈍る
「・・・っ」
「どうした?来ないか?お前は挑戦者としてここにいるんじゃないのか?」
決闘開始前のラッシュの言葉通り、1合の打ち合いで彼我の実力差を悟ってしまったユウキ
「ま、折角大金を賭けた決闘だ、こっちから攻めるのも悪くないか」
これまでの賭け試合では徹底して抜刀術でのカウンター戦法を取っていたラッシュが、スッと刀を抜いた
「っ!」
高い敏捷値で一気に距離を詰めユウキに斬りかかる。ユウキは剣で打ち払って防御をしようとする。しかし、ラッシュの狙いはその剣を持つ腕だった。ユウキの右腕にダメージエフェクトがさらに増える
「こんのぉっ!!」
「やっぱ腕じゃダメージ小さいな」
ユウキの剣を回避しながら呟いたラッシュが、刀を鞘に戻す
「頼むから、死んでくれるなよ」
「っ?!」
鞘の隙間から漏れるソードスキルの光りに、ユウキは危険を感じ取り、先にラッシュを倒すべく剣を振るうが、それがラッシュに当たることは無い
13連撃のソードスキルの読み込みが終わり、モーションが開始された。21層フロアボス攻略戦よりも速い振りで、初めの4連撃がユウキに刻まれる
「意外と持つな」
4連撃でのHPの減り具合を見て、残りの9連撃を叩き込めると判断したラッシュは、攻撃を続行しようとする。周りからの意見でモーションを改善して、一旦鞘に収める動作は排除された
「負け、られないんだっ!!」
しかし、ユウキもただそれを待つわけではなかった。ユウキの剣もソードスキルが読み込まれ光る
そしてそこからはソードスキルの斬り合いになる。八芒星を斬り結ぶラッシュと、斜めに十字を刻んでいくユウキ。お互いソードスキルの最後の一撃までモーションをこなし、ソードスキルに付与された魔法が発散することで起こる煙が観客からの視界を遮った
「ったく、だから一撃決着で済ませたかったんだ」
徐々に晴れていく煙の中で、ラッシュが呟いた声が、周りのプレイヤーたちの耳に届いた。煙が晴れ、姿が見えたラッシュの手から、刀が光となって消えていく。立会人のキリトは一瞬、ラッシュの敗北かと思った
「出世払いの30万が入るまで、まーた金欠プレイだ」
次の瞬間、ラッシュの目の前にウィナー表示が出現した
ソードスキルでの斬り合いの中、先にHPが半分以下のイエローゾーンに達したのはユウキであった。ラッシュはユウキのソードスキルを、致命傷となる部位を避けて喰らってダメージを緩和させていたり、ソードスキルのモーションの僅かな
ガックリと膝を付き肩を落としてその場に崩れるユウキ
「負けた・・・あ、あれ?」
やや放心状態だったユウキは、自身の頬を涙が伝っていることに驚く
「お、おかしいな・・・もう、泣かないって決めたのに・・・っ!」
拭っても流れ続けるユウキの涙を隠すように、ラッシュがユウキを抱き寄せた
「ったく、何抱えてんだかしらんけどよ、泣きたきゃ泣けばいいだろ。泣くことはストレス発散に一番いいって、俺のカウンセリングをしてる人が言ってた」
「うっさい・・・」
抱き締めて慰めるラッシュ、ユウキはそんなラッシュの行為に
「ぶっちゃけ、強かったよお前さんは。俺がここにいる奴らと
ラッシュの言葉通り、今回の決闘に勝てたのは、地球人とキャーティアの運動能力の差が全てである
「もう!いつまで抱き締めてるんだ?!」
「おっと、スマン」
いい加減、恥ずかしくなってきたユウキはラッシュを押し退けるように離れる
「うし、泣き止んだな。よかったよかった・・・さて、じゃあ30万ユルドは借金としておいおい返してもらうから、とりあえずフレンド登録しよっか」
「うげっ」
ニッコリと笑顔で告げるラッシュに、キリトを含めた周囲のプレイヤーは、『こいつ鬼だ・・・』っと思ったのだった
次の日、ユウキの辻デュエルには多くのプレイヤーが来た。そもそものラッシュとの決闘の理由が、辻デュエルの告知を出したのにイマイチ人が集らず、その原因が自身が持つ11連撃より強い13連撃をラッシュが編み出していたからであった。ラッシュの13連撃は今のところ誰かに教える予定は無いが、11連撃が手に入るかもという情報はプレイヤーたちをやる気にさせた。しかしそれを鬼のような強さで悉く返り討ちにし、ユウキはあっという間に勝ち星の山を築いた
そんな中・・・
「んー、おねーさんに決ーめた!」
「へ?え?」
ユウキは自身の目的を果たすための、運命の人を決めた
その運命の人、アスナの手を取ると、ユウキは羽を出して空中に舞い上がる
「おーい、アスナー?」
「アスナさーん!」
―まぁ、あの子はラッシュとの契約があるから、滅多なことはできないし大丈夫だろう・・・それにたぶんあの子は・・・
アスナを連れ去っていくユウキの行動に、リズベットたちが戸惑いを見せる中で、キリトは安心して見送る。キリトのそんな様子に、アスナも多少落ち着きを取り戻して、ユウキの誘導に従って飛び始めた
そしてしばらく飛び、2人きりになったところで、ユウキはアスナに向き合う
「あの、僕たちを助けてください!」
「わかった」
ユウキの頼みをアスナは即答で了承した
「え?いいの?っというか何も聞かないの・・・?」
「事情は全部わかってるよ・・・」
「え?」
アスナの言葉に、ユウキは『どうして?』っと戸惑いを見せる。そんなユウキの疑問を余所に、アスナはやや怒りの表情をして続きを口にする
「ラッシュさんへの借金だよね?キリト君から聞いてるよ。まったく・・・ラッシュさんったらこんな子にデュエルで30万ユルドなんて大金賭けさせるなんて・・・ホント大人気ないんだから!!」
「違ーう!いや、それもあるけどー!!」
「え?どっち・・・?」
ユウキの矛盾した言葉に、アスナは混乱する
「だから、僕たちのギルドを、助けてほしいんだよ!」
「ギルドの権利を担保にさせられたのね?なんて酷い・・・」
「ちーがーうーのー!!僕たちのギルド6人にお姉さんを足した7人で、フロアボスを倒したいんだよ!!」
「え?フロアボスの討伐を?7人で?」
ユウキは仕方なく、メンバーに会わせる前に目的を話すことにした
今年の3月で自分のいるギルドが解散すること、その前に記念となること、ゲーム内に名前が残ることを成したい。そこでフロアボス討伐をギルドメンバー6人でやろうとなったこと。だけど1パーティのフルメンバーに満たない6人ではそれが難しく、何度も失敗したから、仕方なく1人メンバーを募集しようということになったこと・・・
「えっと・・・なんで私、なのかな?それこそラッシュさんとか・・・」
「それは絶対嫌!!あんなお金の亡者に頼むなんて・・・あの人とのことはあくまで僕個人の問題だから、ギルドには絶対に持ち込みたくない!!」
―随分な嫌われようですよ、ラッシュさん・・・
心底嫌そうに言うユウキに、アスナは昔の自分を重ねる。アスナ自身も、SAO時代にはラッシュを嫌悪していた時期があった。ラフコフ討伐戦、事前に計画が漏れていて、レッドプレイヤーの奇襲で乱戦になってしまった。そのときラッシュは躊躇なくレッドプレイヤーを殺して排除していった。そんなラッシュを味方の攻略組プレイヤーはレッドプレイヤーを見るような嫌悪の目で見ていたのだ。もちろんアスナもその1人であった
「うん、わかった。微力ながら手伝うよ」
ユウキ登場の12話
ラッシュ対ユウキ
戦うまでが長い。ちなみにアニメのマザーズロザリオ編のアスナ対ユウキのシーンで、半減決着のルールはウィンドウには無かったり・・・
ラッシュの回避力。見切りはレッドプレイヤーとの戦闘経験から得たものなので、キリトやアスナたちのより対人向きという設定
決着。そしてラッシュはまた刀を壊す。ラッシュがまともにダメージを喰らってるのは初かも
アスナお冠
アスナのユウキへの第一印象が『借金少女』へ・・・