さて受験だ受験だほざいていた作者ですが、なんか一足先に大学決まったのでぼちぼち更新再開したいと思います。
と言ってもなんか書けないんですよね、俺ガイル書きすぎたかな、ほかの作品もやってみようかななんて思ってます。
とりあえず今はするがモンキー其の弐、お楽しみくださいませ。
夕影が作り出す影を三つ、並べながら歩く。太陽は俺たちの後ろに有りやたら影が長いのを面白く感じつつ、決して達することのない頭の先を見て感傷に浸りそうになる。
しかし今はやるべきことがある、それをするのは一人で家路についた時だけでいい。
今までの情報を統合した限り、まず噂になっている二年女子と三年男子は神原と阿良々木で間違いない。
「比企谷先輩!」
頭をフルドライブさせていた時に話しかけられてしまい、脳内の電気パルスが散り散りになる。
「ん?」
「私が聞きたいという噂というのは、他でもない。戦場ヶ原先輩と阿良々木先輩についてだ」
「ああ、だと思った」
言い当てた俺を無駄に褒め立てる神原の言の葉を集めずに、散った思考のピースを集める。
ただ戦場ヶ原に憧れているだけではあそこまで『阿良々木に話しかけること』に躍起になる必要が無いように思える。それこそ戦場ヶ原に心酔でもしていれば話は別かもしれないが。
「そ、それで…阿良々木先輩と戦場ヶ原先輩は──」
「付き合ってるぞ。母の日から、な」
「──っ」
神原の息が詰まる音が聞こえた。
ここで俺の少々腹黒い思考を開示しようと思う。
恐らく神原は今までに感じたことのない絶望を受けたはずだ。ここは正直賭けだったが今の彼女の表情が、その衝撃がいかに巨大だったかを物語る。
そしてそういう心が不安定な時ほど秘密を吐露しやすい傾向がある。今揺さぶりをかけたら若しかしたら神原は誕生日や血液型、スリーサイズさえ言ってくれるかもしれない。
しかしそんな情報はどうでもいいのだ。いや、どうでも良くないな、うん。聞きたいことが聞けたらぜひとも聞こう。
ただ、俺が今最も知りたいのは後々俺が楽になるための情報だ。
「で、お前があんなに阿良々木に話しかけていたのは、それを知りたかったからか?」
「いや──正直言うと、薄々気づいたはいたんだ。だからこそ認めたくなかったからこうして比企谷先輩に聞いたのだが…逆効果だったようだな」
「神原さん…」
隣を歩く羽川が憂う声を出した。
「ふう──私は戦場ヶ原先輩のことが好きなのだ」
その言葉の重みに、微かな違和感を感じつつも気のせいだろうと流した。
「噂を聞いてすぐに戦場ヶ原先輩のところへ行ってみたら、確かにそこには彼氏らしき人と楽しげに話している先輩がいてな…正直絶望の淵からすら落ちそうなくらいショックだった」
彼女の受けた衝撃は絶望という言葉さえ重みが足りないと、そう言うのだ。
これは思っていた以上に深刻だ。割と本気であの可能性を──怪異絡みだという可能性を考えなくてはならないらしい。
かつて怪異と絡んでから軽く調べてみたところ、怪異と人の心というのは関係があるらしい。神原のその強い負の感情が怪異を呼ぶ、あるいは生んでもなんら不思議ではなかった。
「それで…神原さんはどうしたの?」
「お二人も知っているとおり阿良々木先輩に接触した。碌でもない人なら私から一言申してやろうとな。だが話してみたらどうだ、あまりにもいい人ではないか!」
驚いた、こいつは阿良々木をなんの曇りもない視点から見ていた、大抵の人は噂に流されマイナスに見がちだと言うのに。
エクステンションマークに付随する感情は驚愕か歓喜か、はたまたさらなる絶望か。それは──彼女の顔の覇気と顔色の悪さが口ほどに、否、口以上に物語っている。行き通りできない憤りが、そこにはあった。
「だから私のこの感情は行き場を失ってしまった…逃げ道なんて元から幻想だったが、その夢も泡沫に消えた──」
「神原さん…」
羽川はもはや同情を超えて感情移入までしている。まあいいことだと思うぞ、人の痛みが分かるのは生きていく上で大事だ。無痛症は長生きできないのと同じ。
痛みは所詮電気信号でしかない、そしてそれを感じる心すら現代では電気信号の組み合わせやそれによる体内現象の名前でしかないとされている。あの哲学の時代はいづこへ。
まあそんなこと当の本人からすれば知ったことか馬鹿野郎だ。この世には未だに科学が証明できていないことが富士山くらいはある。エベレストだと言いすぎな気がする。そして個人が知り得ないことは、宇宙高度くらいにある。エベレストでは、スケールが小さい。
せっかくなので哲学の話をしよう。
哲学には『外界』なる存在がある。認識の外にある世界…という定義らしい。
例え話をしよう、あなた達は宇宙の果てがどうなっているか知っているだろうか、またそんなスケールが大きくなくともいい、隣の家の間取りや家具、家族構成を知らないだろう。それは『外界』のものだ。しかし、神が宇宙について高弁したり、隣人がそれらを教えてくれれば、俺たちの意識に宇宙の果てという存在や、隣人の情報が形成される。それは既に『内界』だ。それを俺たちは『知っている』のだから。逆説的に、知らないことは存在しないのも同義なのだ。
つまるところ自分たちが知らないことはこの世に存在しないも、当人にとっては同義なのだ。俺たちからしたら中国人がどんな顔して何人居ようとも、全くもって生活に影響はないし、存在しないとしてもなんら問題はないのだ。
閑話休題を叩きつけ結論を述べるとしたら、感情や心とは本人からすればそれはどうしようもなく湧き上がるものでしかない、ということだ。論理を知らない人にとって、感情はそれ以上でもそれ以下でもない。
聞きたい情報はまだまだあったのにあまりに重苦しい空気に聞くのが憚られたので、無言のまま俺たちは歩いた。
神原の家はなかなかに遠いという事なので先に羽川の家に寄った。羽川が家に入る前に耳元でもにょもにょ喋る。こしょがしいが聞き逃さない。
「神原さんのこと、よろしくね」
それは果たして今からのことか、それともこれからのことか。
羽川を彼女の家に残し二人で歩く。そこに会話はなかった。ないままで良かった。
神原が口を開く。
「比企谷先輩は…私を、止めるか?」
「いいや、止めない」
「何故だ?」
神原との今のやり取りで確信する。一人相撲はどうやらおしまいでいいらしい。
具体的な名前は知らないが、彼女の左腕には怪異が宿っているのだろう…それは恐らく怪異の最上位と言える吸血鬼──阿良々木暦その者を殺せるほどの。少なくとも神原はそう考えている。いや、こいつは阿良々木がそういう存在であることを知らないか。
故に阿良々木の友人である俺はそんな自分を止めるのではないか、それがこいつにとって幸か不幸かは知らないが、知っておきたかったのだろう。
ならば応えよう。最善とは言わない、比較的に相対的に良い選択肢を選んで。
「確かに俺とあいつは客観的に仲がいいんだろうし、事実仲良くしてもらってる。だから俺はあいつが死ねば人並み以上の悲しみを抱くに違いない」
「…何を、言っているんだ?私はそこまで仰々しい話をするつもりはないぞ?」
「嘘を言え──俺とあいつ、そしてお前も同類だ。尤も、お前の方はまだまだ入り口で立ち止まってる程度だからな。まだマシだ」
俯く神原、ぼそっと呟いた気がした。
難聴系主人公でないどころか吸血鬼としてのアビリティが幾分残ってる俺でも聞き取れなかった。のでそれは無視して話を続ける。
「それで、だ。神原、お前は多分阿良々木を殺したいほど憎んでいるんだろうし、自分を殺したいほど後悔しているんだろう。その相反する感情は全て戦場ヶ原から起因するもので、そのどちらも間違いなく戦場ヶ原が嘆く選択だ。だからお前はそれらを選べない──だからこそ俺は安心する」
「──なるほど、全てお見通しというわけか」
「それらを踏まえて──勝手にしろ」
俺が取る選択肢は…放棄だった。
「それにこれは阿良々木と戦場ヶ原、そしてお前の三人の問題だ。俺に関係はない」
「そうか──例え戦場ヶ原先輩が…戦場ヶ原先輩だけが嘆く結果になったとしても、気にしないというのだな」
「……そういうことだ」
ただし、阿良々木は死ねないだろうし、阿良々木は殺せないだろう。
あとはもう阿良々木にすべて任せるとする。
だいたい、俺と阿良々木は数歩譲って友人だとしても、俺と戦場ヶ原との関係はせいぜいが顔見知りでしかないのだ。気にかけるつもりはないし、かけられても戦場ヶ原からすればありがた迷惑だろう。
「話はそれだけか」
「ああ、少なくとも私が話したいことは全て話せた。だから、比企谷先輩は帰ってもらっても…」
「関係ない。たとえお前に異能の力があろうと女子だ、女子には優しくしろと妹に躾られている」
「…比企谷先輩は将来、嫁に尻に敷かれるようになるだろうな」
「…出来たとしたら、そうなるだろうな」
その後はなんてことない会話を続けながら神原を送り届けた。あいつの家やばいでかかったんだが…。