八物語   作:Maverick

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なんかあっという間に書き上がってしまったため投稿。

あ、今回からオリキャラ&ちょっとオリ展開入ります。


ひたぎクラブ《其の弍》

一度戦場ヶ原と別れ、俺は阿良々木と自転車置き場まで歩いていた。

 

「で、どういう事だ」

 

これくらい聞いたってバチはないはずだろう。今までされたことを文字に起こしたら『教室から出たら突然意味不明なことで大声出され、腕引っ張られ引きずり回された挙句、今まで喋ったこともない女子と勝手に喋りだし、かと思ったらそいつにいきなり馬鹿にされて、半ば無理やり状況が分からないまま協力するようお願いされた』、だ。

…思ったより長くなってしまった。というか、改めて振り返るとひどい扱いを受けてないか、やっぱり。

 

「ああ、悪かった…実は」

 

そこで阿良々木は大体のことを話してくれた。今朝こいつが受け止めた少女が戦場ヶ原で、彼女の肢体におよそ重さと呼べるものが存在してなかった。怪異絡みだと考えたこいつはなんとか二人きりになれる状況を期待したが、彼女は教室か保健室にしかいない、薄氷のように儚く脆い設定の戦場ヶ原を連れ回すのも悪目立ちすると、下手に手を出せずに放課後へ。ひとまず諦め血を吸われに行こうと教室を出た時、彼女が襲ってきた…って。

 

「襲ってきた?」

 

「ああ、ホッチキスを口の中に。ぶすっとかちっと」

 

「ブスットカチット?」

 

阿良々木は、『ぶすっと』で手を前に突き出し、『かちっと』でその手でエアホッチキスを押す。

なんとまあ、物騒な。今からあいつと話す時には言動に気をつけよう。阿良々木は話を続けた。

 

「ちなみにさっきのバナナの皮がどうとかは、あいつが階段で転んだ理由だ」

 

「なるほど」

 

色々納得出来なくもなくなくないが、それにしたってあの意味プーさんな発言は頂けないものだ。あ、これ死語?

 

「それ俺行く必要ある?」

 

「戦闘はお前に任せる」

 

「…嫌だなぁ」

 

こいつの後遺症は治癒能力に90/100くらい振られているが、俺の場合運動能力と治癒能力が半々くらいなのだ。だからまあ、腹に風穴空いたら普通に死んだりするが、代わりに瞬間的に十メートルぐらいはジャンプ出来る。ソースは春休み。おかげで体力テストはとても大変だった。変に抑えすぎて総合評価がBからCになった。

脱線しまくったが、とどのつまり単純な白兵戦なら阿良々木より俺の方が強いってことになる。

ひと通り聞いて納得、あるいは理解した俺は意地悪そうな笑みを浮かべ言った。

 

「まあ、そういう契り、だしな」

 

「…春休みの黒歴史を抉るのはやめてくれないか、比企谷」

 

「くっ…ち、契りって…お前平安かよ…ぷはっ」

 

今でも笑える、俺とこいつとの契り(笑)。簡単にまとめると、ウィン・ウィンの関係だ。お互いに怪異絡みで困った時には無償で助力を頼める…というものだ。そのうちここにこいつの主兼眷属と俺の主様が入る。俺はあいつを眷属だとは思ってないしなー。主とも思ってないけど。

 

「まあ、そういう事なら。しかし俺は極力関与するつもりは無いぞ、そもそもまだ困ってすらないんだからよ」

 

「ああ、分かってるさ。だから、もしもの時、頼むぜ」

 

ため息を吐き項垂れ、手首をひらひらさせることで俺の心境を伝えた。

面倒だが仕方ない、手伝ってやろう…と。

 

 

 

 

 

戦場ヶ原は校門の前で本当に待っていた。あの態度なら帰ってても特に驚かなかったよ、つーか帰っとけよ。それなら仕事減ったのに。

 

「こっから遠いから、お前は僕の後ろだ。ちゃんと掴んでないと落ちるだろうから、気をつけろ」

 

阿良々木が到着早々告げた。きゃー、自然と二人乗りへ移行する男前さ。そこに痺れる憧れるー(棒)

そう、ならお願いするわ、と冷酷にして冷静にして冷淡なJK、戦場ヶ原ひたぎは淡々と返し、特に悪びれることも照れることもなく阿良々木の後ろに収まった。

やっぱこれ俺いらないやつ〜。まあ、一日繰り上げで血を吸ってもらうついでだと考えるか。そうでもしないと、傍から見れば付き合ってるようにしか見えないこいつらの相手は出来ん…とか思ってたらあいつらいつの間にかいなくなってた。

おい。

 

「あれ、比企谷くん」

 

「…よう、羽川。また会ったな」

 

半ば行こうか行くまいか本気で考えつつ茫然自失としていると、校門の方から俺を呼ぶ声がして、振り返れば羽川がいた。

職員室に鍵と仕事の成果を出しに行ったから、ここまで遅くなったのかもしれない。

 

「さっきバイバイ出来なかったからかな?」

 

「っ…かもな」

 

ニコリと清楚に微笑む羽川に少し見蕩れながらも言葉を返す。どうやら羽川は少しロマンチストらしい。

見蕩れてたのバレてないよな、顔赤くないよな。…大丈夫だよね?

 

「んじゃ、また明日な」

 

「あっ…ううん、何でもない。またね」

 

何か言いたげだったが、無理に詮索するつもりもない。

彼女は、どこまでも正しいはずなのだから。

彼女の行動言葉仕草全ては正当で正答なのだ。

そこにたとえどんな不当な理由があろうとも。

再度、じゃ、と小さく返しペダルを踏む。

実数倍された推進力が俺を前へ前へと急かす。阿良々木に追いつくつもりはない、あのアロハが説明を始めるより前に着ければ御の字だろう。いつもよりかは少し速く、あの廃墟へ向かった。この顔の熱を冷やすためにも。

 

 

 

 

 

暫く漕いでいると、いつの間にか着いていた。

入り口近くには阿良々木の自転車がある。やはり先に着いていたか。

自転車を停め、四階へ上がろうと歩いている道すがら、足元一面に千差万別の文房具が転がっていた。

ホッチキス、カッター、シャーペン、鉛筆、三角定規、コンパス、ハサミとまあ凶器にできそうなものばかりで、逆に消しゴムとか安全そうなものは何一つなかった。

文房具で身の危険を感じるとか、普通おかしい。

適当にそれらを一瞥しながらも、ある程度無視と言える態度で通り過ぎる。

階段を上がっていると踊り場に、阿良々木の方の吸血鬼が、体育座りをして、いた。

長い金髪にそぐわない色とデザインのヘルメットとゴーグル。服もみすぼらしいと言える。しかしそれらを纏ってなお可憐に思わせる容貌は、流石吸血鬼だった。

そのまま素通りするのも癪だと思い、一言かける。

 

「よう」

 

こいつが喋らないのは、あいつからよく聞いてた。俺の方は、まあ普通に喋るんだがな。

踊り場を過ぎ階段を踏もうとした時───

 

「おい腐り目」

 

「…ん?」

 

どこからか声がした。セリフ的に多分俺を呼んでいる。つーか腐り目言うな。

 

「お前か…喋れんのか?」

 

「以前の儂を知っておるだろうに。元々お喋りさんじゃ」

 

喋っていたのはその吸血鬼だった。先程より少し顔を上げこちらを向かんとしている。

 

「…だったな。ならなぜあいつら相手には喋らない」

 

「面倒なのじゃ。二人とも変に騒ぎそうなのでな」

 

そんなことは無い、と言う前にその様子の想像が難くない事で言葉が詰まる。

苦笑を返し納得を伝える。未だ彼女は無表情だ。喋り方に凄みというか、貫禄がある。

 

「ところで、あやつ様の隣にいた女子は何者なのじゃ」

 

「…気になるなら本人に、いや何でもない」

 

言いかけたところでキッと睨まれたのは錯覚ではないと思う。

あやつ様ってのは、まず間違いなく阿良々木で、その隣にいた女子だから戦場ヶ原だろう。

 

「怪異絡みだ。あいつにはどうやら重さというものがないらしい」

 

「重さがない…そしてあの雰囲気。なるほど、少々面倒なものに絡まれたの」

 

「お前、分かんの?」

 

ずっと振り返った体勢はきつかった。折角なのでこいつと対談しようと、階段に座り込む。

少し驚かれた(といっても少し目を見開いただけで無表情なのは変わらない)が、オーラで話を促す。

 

「あくまで推測とあのアロハ小僧の話の統合じゃぞ」

 

「いいから、話してみろ」

 

「うむ、そちがそう言うなら、話してやろう」

 

別にあいつらのところまで行くのが面倒とかではない、ただ妹がいたことによる年上スキルが、遥か年上のこの吸血鬼に働いたのみだ。こいつの年齢五世紀とかじゃなかったか?

 

「やつに憑いとるのは、おもし蟹という怪異じゃ」

 

「おもし蟹…ね」

 

鬼、猫と来て次は蟹ですか。やはり一度怪異を知ってしまうと、自然と目がいってしまうようだ。この数十日でもう三回目だぞ。

知らなかっただけで、そこにあるしいる。知らなければそこにないしいない。

認知するまでそこにはいないし、認知する前からそこにいる。

確かそんな話をあのアロハから聞いたことがある。

 

「まあ、怪異と言っていいものか困る部類ではあるらしいがの」

 

「どういう事だ」

 

「おもし蟹は別名思いし蟹とか、おもいし神とか言われとるらしい」

 

「思いと神ね…」

 

漢字が違うだけで取れる意味合いが変わる。なんで分かるのかとか野暮なことは聞くな。

なるほど確かに、感情に関与するほどの大物を怪異なんて括りにしたり、神と名がつくものを怪異なんて括りにするのは、祟りに会いそうだ。

 

「まあなんじゃ。結局あやつ様たちが何とかするのじゃろう、儂はここにおるわ」

 

「そうかい…んじゃ俺は行く。ついでに血を吸われに来たから、そっちを果たす」

 

「分かっとるじゃろうが、わしが喋ったことを喋るなよ」

 

「おうよ」

 

その返事に満足したか上げていた顔を再び沈めた。

こうして見ると小動物みたいで可愛らしいな。

今度こそと階段を上がり四階へたどり着く。話し声がするのは…あの部屋か。

 

「いいよ。わかった。体重を取り戻したいというのなら、力になるさ。阿良々木くんの紹介だしね」

 

アロハの声に釣られるかのようなタイミングで俺は部屋に現れた。

内心非常に気まずい。

 

「あれ、比企谷くんじゃあないか」

 

アロハのおっさんがこちらを見る。本当に驚いている様子だ。

忍野メメ。

怪異の専門家。

俺たちにとっては、命の恩人だ。

世間一般にとって、どう見ても変人だ。

 

「…戦闘はなさそうだし、帰っていいか」

 

「いいやまだだ比企谷。まだ何も始まってすらないからな、今から僕達が何をするかって話だったんだが…」

 

「いや、いい。怪異の正体についてはお前が後でメールしてくれれば」

 

まあほぼあの吸血鬼に聞いたんだが。

違うかもしれないし、ここで知ってるって言ったら、あの吸血鬼との約束破っちゃいそうだし。

知らないふりをする事にした。

 

「そうか、なら後で…それで忍野。僕たちは、戦場ヶ原はどうすればいいんだ」

 

「そうだね…うん。まだ日も出ているし、一旦家に帰りなさい───」

 

そこから儀式における準備とかお金のお話をしたりしたあと、どうやら二人は戦場ヶ原の家に行くらしい。

もちろん着いていかず、俺の主様を探す。

 

「ところで、忍野」

 

「なんだい、比企谷くん」

 

「俺の主様はどこだ?」

 

無精髭を右手で擦りながらなにやら考えている体を装う忍野。

まあ、その変にニヤついてる顔から場所を知っているのは分かる。

 

「…」

 

忍野のでも、俺のでも三点リーダーが現れた。と、なるとこの空間にいる。

部屋中を隈無く見渡す。

すると俺の背後、右手の天井隅にいた。

まるで忍者のように。

脇の壁に手と足を押し付けて。

甲賀流ですかね?

 

「何やってんだよ…」

 

呆れた声を出したことであちらが動き出す。

特に大きな動作をすることなく手と足を離し、ダンッ、と床に落ちる。

そのままタッタッタッとこちらへ寄ってきた。

 

「やあ、主様。GWぶりだな…となるとたった二、三日ぶりなのか!」

 

「俺はお前の主じゃないって…」

 

そいつが世界一好きだった液体より鮮やかな紅に染まった髪。

その髪は肩より上で毛先はパーマのようにうねっている。

身長は俺の臍にちょうど目線が合うほど。阿良々木の方も大して変わらない。

顔立ちはまず間違いなく美少女。髪色同様、日本人の目鼻では無い。北欧あたりなのかもしれない。

肌は透き通るように白く、それでいて頬はほんのり染まっている。

 

「そうだった!なあ主様。あたしに名をくれ!」

 

「な?なって…名前のことか」

 

「その通り!」

 

どうしてまたそんなことをいきなり…事情を知っていそうな忍野に目を向けた。

俺の視線に即座に気づいたあいつはワハハと笑って説明してくれる。

 

「いやね、阿良々木くんの方の吸血鬼ちゃんには僕が名前をつけてあげたんだけどね。君の方の吸血鬼ちゃんは比企谷くんにつけて欲しいと言って聞かなかったんだよ」

 

照れくさいことを言われた。

というか、あいつにも名前があったのか…名乗らなかったあたり実は気に入ってないのかもしれない。

忍野のセンスについて知る機会はなかったが、今の格好を見る限りでいえばよくは無さそうだ。

 

「因みに阿良々木の方と、こいつの候補教えてくれるか」

 

「いいよー。忍野忍って名前にした、刃の下に心あり。まさにって名前だよ」

 

確かに、彼女の本名を考えればこれ以上ないほどの名前だ。

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。

 

「この子の候補だけど…実はない」

 

「…はいぃ?」

 

「だってだって、名字が忍野ってやだもん!」

 

「とまあ、名前を考える前に拒否されたんだよ」

 

なんと我儘な主様なのだろうか。

そしてこいつ、精神年齢も落ちてないか?忍を見習えよ。あいつめっちゃ貫禄あったぞ、可愛かったけど。

 

「ふーん。まあ後で考えておくさ、また深夜来なきゃ行けねーんだし」

 

やだなぁ。めんどいなぁ。

 

「頼むよ、主様」

 

「だから主様やめろ」

 

「じゃあ八幡」

 

「よろしい」

 

「ねえ八幡」

 

「なんだよ」

 

「血吸う?」

 

「よろしく」

 

どかっとその場で足を伸ばしてリラックスして座った。その太ももに即座に乗ってくる主様。その華奢で細い腕が俺の胴を囲おうとするも後ろで届いてないのがまた可愛らしい。

頑張っていたが諦めたのか立って俺の足を跨ぎ、彼女から見て左腕を肩の上から通し右腕を脇の下から通して俺をホールドする。そのまま俺の首の左側にかぶりついた。

頭がスーッとする。実はこの感覚何気に好きだったりする。

癖になるぜ、あひゃひゃひゃ。とヤク中みたいなことを言ってみる。

 

「ぷはっ…八幡キモいよ」

 

「グサリときたよ、いまの」

 

こいつも何だかんだ四世紀半生きてるらしいけど、見た目ロリだからかなりダメージ大きいよ。まして忍みたいに口調は大人っぽいってこともないし。

 

「んじゃ、また後で」

 

「ちゃんと名前考えといてよ!!」

 

「はいはい」

 

そう言って部屋を出る。

今日の夜は戦闘にならないことだけを願ってます。

とりあえずは家に帰ってアイマイモコ…じゃなくて、愛妹夕飯を食べよう。




また誤字脱字等ありましたらご報告どうかよろしくお願いします。
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