ですが多分、このまよいマイマイ、非常に残念なことに終盤まで八幡と八九寺は絡まないでしょう。期待されてた方、ごめんなさい。
その代わりと言ってはなんですが、閑話としてあとがきに頑張って一端を書いてみました。
では新章始まります。
母の日。
GWが終わった次の週の日曜日に、その日はよく該当する。
普段は伝えようと思わないありがとうや、伝えたくもないごめんなさいを敬愛すべき母に伝える日。
だが、うちの妹は言葉だけじゃ足りないと言うためその妹とプレゼントを、当日に買いに出かけた。当日ってあたりが個人的に好ましいポイントだ。気合が入りすぎずかつ相手に感謝が伝わりそう。
いい感じのプレゼントを買えたつもりで帰宅していた途中、ブランコとベンチだけの貧相な、広く見える公園があった。
小町が俺の服の裾を引く。
「お兄ちゃん、小町ちょーっと喉が渇いちゃった」
小町の方を向くも、その彼女は俺の方を向いておらず、目線の先を追えばぽつんと佇む自動販売機があった。
……まあ、半ば無理矢理に連れ出されたとは言え、感謝してなくもないし、幸い今はスカラシップ錬金術で懐も厚いわけだが。
しかし甘やかしていいものか、こいつももう中学3年生。受験生だぞ、受験生。今は関係ないか。
三年前の俺は中学のやつが誰も行かなそうな直江津を目指していたから、必死こいて勉強していた訳だが。
小町はどうするのだろう?
「お願いっ」
瞬間その場から消えるように高速移動し最愛の妹のために日々妹を観察し好みを完全に把握しているという大層きもい理由で本人に何も聞かずに最適解を弾き出し飲み物を買う兄がいた。
というか俺だ。
「ほれ」
「お兄ちゃん早っ!?吸血鬼って凄いね」
「これは鬼の血というより兄の血、血縁のせいだがな」
ドヤ顔決まった。鬼と兄を掛けつつ妹への愛を伝えた。完璧。
しかし小町から帰ってきた言葉は辛辣だった。
「流石にきもい」
がはっ……。八幡は毒状態になった。
小町には俺が関わった怪異をすべてつまびらかに話している。というか、隠し事が出来ない。八幡は五のダメージを受けた。嘘ついたりしてもすぐバレる。…なんで?
疑問に思いつつ首を捻って視点が変わった視界には日ごろ見慣れた阿良々木がいた。…なんで?八幡は五のダメージを受けた。
ここで八幡の古語講座、日ごろっていうのは数日を意味するぞ。月ごろだと数ヶ月、年ごろは数年だ。特に年ごろが間違えやすいので注意!八幡は五のダメージを受けた。
「阿良々木!」
とりあえず呼びかけてみる。横の小町はびっくりしている。八幡は解毒薬を使った。
それは突然の大声か、それとも俺が人を呼んだことについてかは分からない。
「あ、ああ…比企谷か」
こちらに振り向きなんとも無気力に返事をする阿暦々木。女子じゃなくて残念でしたかね。と思っていれば、阿良々木の隣に誰かいる。
「あれ?比企谷くん」
そこにいたのは、休日でもなお制服を纏う少女。
委員長になるべくして生まれたかのような少女。
羽川翼その人だった。
ひとまず小町と一緒に阿良々木のもとへ歩き出す。近づいてわかったこととしては、モノの影で見えなかったところに小学生がいることくらいか。
そこについて、ひとまず俺の妹をふたりに紹介する。
「小町、男の方が阿良々木で、女の方が羽川な。お前ら二人で何してんの?」
「よろしく、比企谷妹。こいつについて、少しな」
こいつとは、十中八九小学生のことだろう。
「よろしくね、小町ちゃん。私はまだ来たばかりなんだ」
どうやら羽川がここにいるのは偶然らしい。
「はい!よろしくです…兄がご迷惑をおかけしてませんか?」
開口一番が普段の俺の心配とは、お兄ちゃん的にポイント付け難い。
俺を心配してくれるのはポイント高いけど、信頼されてないと取るとポイント低いし…判断出来ねえ。
この事実に打ちひしがれるのもまた一興だが、個人的には友人が犯罪者になりかけているのかの方が気になるところ。
「で、だ。阿良々木よ、お前はついに小学生に手を出すような変態に成り下がってしまったのか?」
小町が『いきなり何言ってんだこのごみいちゃん』って顔で見てくる。そりゃまあ、兄が突如友人と思しき人に向かってこんなこと言うのはあまり良くないかもしれないが。まあ、俺と阿良々木だからこんなもんだな。
「やめろ比企谷。僕はこの街一番で人畜無害な設定だ」
「自分で設定とか言っちゃ世話ないですね、阿良々木さん」
小学生が茶々を入れる。ジト目をしていてあまり印象良くないが、まあ顔は整っている方なのだろう。長い髪はツインテール、背にはフィクションかと思うほどでかいリュックを背負っている。あ、リュックに名前が…八九寺真宵、ね。
まあ、フィクションなんですけど。
ハッとした阿良々木が八九寺相手に仰け反る。
「しまった、誘導尋問か!?」
「阿良々木くんが勝手に一人で引っかかっただけじゃないかな」
羽川意外に辛辣だな。
にしても、改めて見ても、制服だ。紛うことぞなき。
でも勿体ない…どうせなら私服が見たかった、と思ったところで留まる。こいつの家の事情はGWに聞いたんだったな。
ここで、隣の小町の顔色が悪いことに気づいた。悪いというか、それを通り越して蒼白色になっている。
「小町、どうかしたか?」
羽川と阿良々木は、八九寺との会話に忙しそうなので、邪魔にならないよう小声で聞いた。
とてもぎこちない挙動で横──つまりは俺を向いた小町。さながらゾンビである。俺のアイデンティティが盗まれた気がした。
とても不名誉な気分である。なんとも言えない。
「お、お兄ちゃん?そこに…誰かいるの?」
そう小声で言って小さく指を指した先は、まさしく八九寺がいるところだった。
…どういう事だ?ともかく状況を把握しなければならない。小町には害はないから安心しろと告げて、情報収集にかかった。
「それで、白昼堂々お前は何しようとしていたんだ?」
「比企谷、お前は僕を人畜有害に仕立てあげたいようだな…別に、なんてことない。この子もまた、怪異に行き遭ってしまったってだけだ」
なるほど、怪異の被害者なの…か?
一度冷静になってみる。
様子からして羽川には見えているはず、こんなことで嘘ついてまで話を合わせることは、こいつはしないはず。羽川でさえ見えてるのだ。いわんや阿良々木をや。
そして俺も見えている、残った小町だけ、何も見えていないのか。
まだ情報が足りないな。
「それで、具体的にはどんな怪異なんだ?」
「それが、まだ詳しくはわかんないんだよ。こいつがとある場所に行こうとすると、必ず迷ってここに戻ってきてしまうらしい」
その説明に一拍おいて阿良々木は公園の入口のひとつを指差す。
「あそこで地図とにらめっこしてたこいつに話しかけた」
「やっぱりぺドフィリアじゃねえか」
「やっぱりってなんだよ!」
「いやだって、忍だってあんな姿だし…」
「あれは僕の趣味じゃない!」
ちなみに俺的には完全体一歩手前のあの辺りが直球ど真ん中ストライクだったり。
まあそれはどうでもいい。
阿良々木がぎゃんぎゃん言ってるのを無視して、八九寺の方を見て聞く。
「おい、八九寺。お前どこに行くつもりだったんだ?」
「母の家です」
こんな腐った目の年上のあんちゃんに話しかけられて即答するとは、そこそこ肝が座ってるな。
母の家、と表現する意味合いはふたつある。
ひとつは単に、そこが所謂母方の実家ということだが、小さい頃に『元ママの家』的な覚え方をしていてそれがどこで齟齬が生じてしまった表現。つまりは、ただの祖父母の家。
もうひとつは、親の離婚によって父に引き取られた少女の、母親が現在住んでいる家。
このご時世、有力なのは後者か。そう結論づけてしまった為に、深追いすることが出来なかった。
「そうか」
「ええ──詳しく聞かないんですね。そこの人畜さんとは違います」
「また言ったな!」
八九寺に迫って慟哭する阿良々木を一瞥して口を開く。
「当たり前だ。そんなデリカシーないことはしない、人畜さんと違って」
「お前もか、比企谷!」
そのまま勢いで八九寺とハイタッチする。
阿良々木はツッコミで忙しそうで気づかなかったが、羽川と小町はこう思っているだろう。
俺ってこんなキャラだっけ、と。
もちろん違うし、なんなら小町以外とハイタッチなんて初めてなまである。なら何故か、確かめたいことがあったからだ。
それは、質感。俺は、こいつ本人が怪異ではないかと疑いかけている。そもそも小町が見えないと言ってからそういう可能性も考えていた。後付けじゃないよ?
となると不可解なのは、なぜ羽川は見えて小町は見えないのか。この一点のみになる。
俺と阿良々木は半分怪異と言っても過言じゃない存在だから、見えるのはある意味当たり前である。しかし羽川──今の状態の羽川は、あくまで人間だ。
そこで問題となるのは、八九寺が特定の人に見えないのか、特定の人にしか見えないのかという点。
文字二つ加わるだけで意味は正反対だ。
質感は人間と変わらない。けど改めて考えてみれば、忍や小愛だって人間と変わらなかったな…あまり参考にならなかった。骨折り損である。
まだ少し、情報が足りないか。もう少し待って欲しいと、小町の頭を撫で伝える。伝わったかな?伝わるといいな。
ところで、羽川さんはどうしてそんな羨ましそうにこちらを見てるの?だめ、小町の頭を撫でるの、俺の特権。
「ところで、そもそもなんでお前はこの公園に?」
「あ、僕か──あまり言いたくないが──」
「妹さんとつまらない言い合いをしたそうです」
「八九寺!」
「はっ、馬鹿げて…」
そう言いかけた時、閃く。
まるで、俺の掴んだ情報たちが手を伸ばして共有結合して、ひとつの分子という名の答えが出たようだった。
流石に理系が苦手でもこれくらいは知っている。
もしかしたら。
この仮説が正しければ、すべての説明がつく。
立証すべく、阿良々木に少し酷な質問を、まあこいつだしいいやと思いながら、する。
「なあ、阿良々木。お前いま帰りたくないだろ?」
この質問の瞬間。
八九寺の表情が強ばったのが目に見えた。尤も、気づいたのは俺だけらしい。羽川も阿良々木も、俺の方を見ていた。当然ながら、見えない小町は八九寺の表情なんぞ分からない。
阿良々木は言葉に詰まるも、半ばやけくそに言い放った。
「ああ、そうだよ。帰りたくないね、それがどうかしたのか?」
もはや開き直っていた。
しかし、これでこの仮説はもはや正しいと言われたようなものだ。
そうとなればこれ以上ここにいる意味は無い。小町も怖がってるからな。
「そうか…じゃあな、阿良々木」
「あ、ああ。また明日」
突然帰ると言い出した俺にしどろもどろに言葉を返す阿良々木。
最後に八九寺を呼ぶ。
「おう…八九寺」
「…なんでしょう?」
俺だって鬼じゃない。いや、四捨五入したらもしかしたら鬼かもしんないけど、それは言葉の綾で。
だから、八九寺を責める気はさらさらないが、それでも阿良々木は俺の友人だ。こいつから関わったことはさっき聞いたが、それでも。
「落とし前は自分でつけろよ──それと、またな」
「っ──はい。また、何処かで」
そう言って回れ右して帰ろうとする。
「待って比企谷くん。私も帰る!」
「ああ、そう。それじゃ」
「…一緒に帰るって意味なんだけどなあ?」
俺の隣に並ぶ羽川…まあいいか。
再度さよならを告げて公園を出てから、小町の様子を伺う。顔色はいい、害はなかったし、離れたから安心したんだろう。
そのせいか、道にへたりこんでしまったが。
「ごめん、お兄ちゃん。腰抜けちゃった、おんぶ」
「…仕方ないな」
同級生らしいメガネの胸部の圧がすごいお下げの女の子に温かく見守られながら、中学生であるだろう子をおんぶして、そのメガネちゃんと並行して歩いている腐った目の男子高校生が、そこにはいた。
恥ずかしながら、それは俺だった。
けれど、羽川の視線からはほかの感情も感じたんだがなんだったんだろうか。
次回、説明編。お楽しみに。
《閑話》※台本形式
後日のこと…
真宵「あ、どん比企谷さん」
八幡「人を奇妙なものを見た時の若者の習性みたいにいうな、どんがいらん」
真宵「そうですか、なら牛丼のどんもいりませんね」
八幡「牛丼屋で牛を注文する馬鹿はいねえよ!」
真宵「そんなことは置いといてですね」
八幡「俺の社会のあり方をそんなこととされた」
真宵「そんなビッグストームな話はしてません」
八幡「スケールだスケール。なんで竜巻起こしてんだよ、お前は」
真宵「また、会えましたね」
八幡「…感動的にしようとしてるとこ悪いが、既に五回目だ」
真宵「ばらさないでくださいよ!読者が少し感動してたのに!」
八幡「妄想甚だしいわ!」
という自分の妄想が一番甚だしいと思う作者でした。
では、まよいマイマイ《其の弍》でお会いしましょう。