八物語   作:Maverick

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皆さん自分のこと覚えてくれてますかね。そんな不安はあります。

だいぶ前に受験があると言ったっきり音沙汰なしでしたね。自分でもそんなに勉強してないのが分かっていながらも俺ガイル13巻は間違いなく自分の部屋にあるのだから浪人待ったなしですね。4月になっても更新すスピードが上がらなければ察してください。

そんな中ちまちま書いてた続きをそろそろ野に放とうかなと思いましてね。ええ決して今日同級生が小説書いてるって聞いたのに感化された訳ではありません。ええ全く!

こちらも原作?知ったこっちゃねえ!で進めるつもりです、八九寺よりは原作に関わっていきますが。

それではするがモンキー開演です。


するがモンキー《其ノ壱》

スーパースター。

広くは俳優やスポーツ選手、狭くは部活のエースにそれが良く付けられる。

出鱈目に活躍してはそれによる優越感や驕りを見せず、まさにみんなのために頑張っているような人たち。

今回の事件は、そんな奴らも根本的なところは人間で、ある一面では一般的な人より人間的な営みをしていることを感じさせる一件だった。

 

 

 

 

 

蝸牛の一件から数日経った頃、この学校に何やらとある噂が流れ始めていた。

なんでも、腕に包帯を巻いた二年生括弧美少女括弧閉じがやたら三年生の不良括弧普通男子括弧閉じにやたら話しかけているらしい。なにそのラノベ展開。

俺としてはそんなことあるのか珍しいで終わるのだが、世の男子諸君はそうはいかないらしくなんだとこの野郎そいつは誰だ追えー!と銭形警部ばりの張り切りようを見せていた。もしこれが全校で起こっていたらきっとその三年生も身がもたなそうだ。

 

「──という訳なんだが、説明してくれるか?阿良々木」

 

まあ、当の本人は人並み以上の回復チート持ちだから問題ないだろうけど。

 

「普段ならなんで僕にと言いたいところだが、僕の記憶と参照した結果確かにその噂の三年生とやらは僕に間違いないと思うからなんとも言えない」

 

「やっぱりか」

 

今朝前方の遠くの阿良々木らしき物体に、人間とは思えないスピードで接近していた女生徒らしき物体を見たことはどうやら幻じゃないらしい。

そして今は昼休み、外は一面灰色で今にもシャワーしそうだったので仕方なく教室で食べようとしていたところに阿良々木が来たので聞いてみた。この場にはもう二人、戦場ヶ原と羽川もいる。羽川は困ったような顔を浮かべ、戦場ヶ原はなけなしの表情筋で不機嫌を…いや、表現できてなかった。なんとなく雰囲気で腹を立てているのは分かる。

ならそれは何故か、簡単だ。阿良々木と戦場ヶ原が付き合っているからである。数日噂になったなあ。病弱美少女が不良に脅されていやいや付き合ってる…なんて内容で。哀れ阿良々木。

戦場ヶ原も年頃の恋人的反応をできるのだと感心しつつやはり表情はないのかと呆れてしまう。

俺でもわかるイライラが、彼氏である阿良々木に届いてないことにまたも不服そうにする戦場ヶ原を傍目に阿良々木の話を聞く。

 

「最近一つ下のやたら足が速いやつに追いかけ回されていてな…一時は何とかしようと躍起になったが呆気なく敗北を期した」

 

「なるほどわからん。何でそんなことになったんだ?」

 

「僕が聞きたいくらいだよ、水曜の放課後からだったかな」

 

水曜日ね。

阿良々木に心当たりがないのなら何かしらの伝聞による情報が原因で間違いない。

その話が広まる時間も考えると前日の火曜日までにあったことが原因と見て問題なさそうだ。つーかここまで来ると最早原因はひとつに絞られたと言っても過言じゃなくないか?

とりあえず阿良々木に気づかれないように、情報収集は続けることにした。

 

「それで、その後輩の名前は知ってるのか?」

 

「あ、ああ──そこそこ有名だから、お前も知ってるかもな」

 

続けて阿良々木は空気を震わせる。空気が届けてくれた七音は、俺でも確かに聞き覚えがある名前だった。

神原駿河。

確かバスケ部でワンマンプレイをしてうちの部を全国まで連れてった強者だっけか?…改めてこう言うと、異常さが一層分かる。なんで五対一みたいな状況を一日に何回もやってスタミナ切れたりしないのとか、そもそも四十分フルで出て無事なのかとか。

けどまあそれくらいでなければこの世界では生きていけないのだろう…いろんな意味で。それくらい個性がないときっと忘れられるからなあ。

 

「阿良々木くん、あなた今神原駿河と言ったのかしら」

 

俺たち三人ともある程度の反応を見せたが、殊更過敏に反応したのは戦場ヶ原だった。

無理もない、付き合いたての彼氏が下級生で有名人と仲睦まじいと噂されていればいい気持ちはしないだろう。

有名度で言えば戦場ヶ原も負けず劣らずな気がするけれども。それはそれ、これはこれである。女心とか知らないがな。

 

「ああ、そうだ。僕は確かに神原駿河と言ったぞ」

 

この阿呆はただの事実確認だと思ったらしい、ちゃんと彼女のこと見てあげて?ポスターの斜め読みに気づけるくらいには注視してあげて?

そう、とこぼした後戦場ヶ原は黙々と弁当を食べ始めた。チラリ羽川の方を見ると何か知っていそうだった。特に考え込むような顔をしていないということは、知ってるから考える必要が無いということだ。というかこいつはやっぱりなんでも知ってそうだ。

 

「まあ仲のいい後輩が出来るだけなら、問題ない」

 

疑問は残るが、些細なことだしまさか物騒なことにはならないだろう。そうタカをくくっていたのだが…まさにこの考えこそがフラグであったと、後に俺は知ることとなる。

 

 

 

 

 

放課後、何を隠そう俺たちは受験生。曲がりなりにも、ではあるが。

そしてさすがの俺にも目指す大学というのはあるのだ。日本の大学は入るまでが辛いってよく聞くから、いいとこに頑張って入ったあとはだらだら無難に過ごして俺を養ってくれる人を探す予定。完璧な作戦すぎてつらい。

話が紆余曲折したがつまるところ、放課後の今、勉強をしようと場所を探していた。だって俺ほどのぼっちがやる気満々で教室で勉強するとかありえないじゃん?でも毎日家でやってるとふと飽きる時あるじゃん。それが昨日だったから、場所を探しているんだが、なかなか見つからず時間と学力がなかなか結びつかない。

校内中を歩き回ること三十分、たどり着いたゴールは定番中の定番、ひらがな三つの名前の子とかエルフの都市をなんてことない風に滅亡させちゃうルー語が好きな天使とかクラスのことをよく見てる天使とか世界で一番権限を持つ人物の片翼とかがいる図書室だった。つーか最後、多分違う。いや本が沢山あるって点では一緒だけれども、ニュアンスが違う。あれはもはや書庫である。

何はともあれ場所は見つかったのだ。

適度にいる人、その誰もが机の上の紙の束に集中していて身の回りの紙には興味ないらしい。果たしてこの時図書室はどんなことを思うのか。図書室さんに聞いてみたいものだ。そんで返答は『あんたがいるよりマシ』とかそんな感じ。人とかモノとかじゃなくて空間にすら嫌われる俺超高校級の嫌われ者すぎて笑えない。

気を取り直し勉強しようと、空いているスペースに腰を下ろす。二十秒ほど深呼吸して息を整え、下ろしたカバンからノートと参考書を取り出す。

そして景色と同化した。妙に落ち着いた心地でペンを走らせる。

気づけばもう夏至も近いというのに黄昏空が広がっており、ノートが斜陽で照らされていた。

こんなもんかとブツを片付け図書室を後にする。校門まで来ると、そこには一人の少女がいた。

関係ないだろうし、通り過ぎようとする。

こう考えること自体がフラグだと、なぜ気づかないのか俺は。

 

「すまない、貴方が比企谷先輩だろうか」

 

その少女は間違いなくこちらを見て、俺の名前を呼んだ。呼び方からして後輩なのも間違いない。

 

「この学校の三年生という括りなら、その苗字なのは俺しかいないな」

 

「聞いていた通り捻くれた回答をするのだな」

 

聞いていた通り?そうであるならこの後輩は俺の知り合いの知り合いであるのだろう。

問題は羽川の知り合いか阿良々木の知り合いかということ。別に大して変わんねえか。

このままスルーして帰ることもできたのだろう、しかし何故か俺は聞いてしまったのだ。彼女の名前を。

 

「で、おまえの名前は」

 

「ああ私としたことが!尊敬する人を前に少し緊張してしまった。私の名前は…」

 

一度区切り息を吸う少女。

開かれた口は大きく、しかし下品ではない。

力の入った表情筋は元々大きかった目をよりさらに一回り大きくさせる。

ショートカットと全体の雰囲気からしてスポーツ美少女という第一印象の彼女──不躾ながら左腕の包帯に目がいってしまう──が音を放った。

 

「神原駿河だ!」

 

奇しくもその名はつい数時間ほどに聞いたものだった。どうやら阿良々木と俺は面倒事の神様に余程好かれているらしい。

偶然か必然か、そう思って絶句し硬直していた俺を見て、何を思ったか神原は大きく息を吸って先程より少し大きな声で言った。

 

「私は!放置するよりもされる方が興奮してしまうようなJK、神原駿河だ!」

 

「誰も聞いてねえよ」

 

しかもこのタイミングと言い様だとまるで今興奮しているみたいな風に捉えちゃうからやめろ。

そして頬を染めてもじもじするのはもっとやめろ!

 

「おお、その冷静で突き放すようなツッコミ…阿良々木先輩とは正反対だ!」

 

「…あっそう」

 

別に褒められてもいないし貶されてもいないから、なんともリアクションが取りにくい。何処が問題かって阿良々木と比較されてるとこだよな。これが羽川と比較されていたらいやいやそんなことはとか言えたのに。やっぱり阿良々木が一番悪い。

 

「で、なんか用か?」

 

わざわざこんな場所で待ってくれていた──彼女の都合だったとはいえ待ちぼうけさせたのは事実だ──訳だし、きっと何か用があるのだろう。ましてや彼女は学園のヒーロー、俺みたいなカースト外の存在に話しかけるなんて確率としては限りなくゼロだ。まあ、確率がゼロじゃなければ絶対に遂行する『幽霊』だっているけど。昨日六巻読んで号泣して小町に引かれてショックでした、まる。

とかく用無しなわけが無いのだ。そこでスルーするほど俺は人と関わるのを嫌っているわけでない。春休みから今までの時間に某委員長の教育を受けているだけある。

 

「そうだった!阿良々木先輩と仲がいい比企谷先輩に質問したい事があるんだ!」

 

「そうか」

 

仲がいい…うーん、ここで変に否定するのはなあ。阿良々木も羽川も同じくらいの親密度だからこれを否定すると羽川とも仲良く無くなるからなあ。うん、そのままでいいや。

顔を上げれば、空の水には黒のインクが広がりつつあった。今絶対五月じゃない、日の入り早すぎやしませんか。若しくは怪異。

まあこれが自然現象でも超自然現象でも暗くなることに変わりはないのだ。ならば、男として一肌脱がねばならない。

 

「お前の家はどこだ、送りながら話聞くのでいいか?」

 

「あ、ああ…有難う」

 

俺の申し出に戸惑いつつしっかりお礼を言うことが出来ているあたりしっかり者なのだろう…先程の変態発言を除けば。

こちらだと俺を引率する神原の横に並び数瞬、神原が口を開いた。

 

「阿良々木先輩はそれはそれは私から見ればいい先輩なのだが、しかしあの噂が真なのかを知りたいのだ」

 

「最近の噂と言えばお前が阿良々木に絡みに行ってる事の方になるぞ」

 

「そうなのか!」

 

自覚なしのようだ。

そして俺は神原がどの噂について言いたいかも分かってしまった。

故にそれを答えれば、きっと目の前の少女は悲しむのだろう。嘆くのだろう。ああ、憧れの先輩の彼氏があんな木偶の坊なのか、と。

そして、俺がなぜ神原と戦場ヶ原の関係の一端を握っているのかと問われれば。

 

「それで、神原さんの聞きたい噂って言うのは、どの噂のことかな?」

 

隣で肩を並べるこの少女に聞いたからである。

ここで問おう。我一度でも一人で勉強していると言ったか。確かにモノローグで俺ほどのぼっちがどうこう言ったが、今もひとりとは明言してないし状況説明で俺という一人称単数は使ってないはず。見落としがあったらごめんなさい。

つまり羽川はずっと俺といたのだ。なんでかは知らない、いつの間にか付いてきていた。

そして図書館に辿り着くまでに昼休みの時に気になっていた『羽川の知っていること』を話してもらったのだ。

曰く、神原と戦場ヶ原は同中である。

曰く、神原と戦場ヶ原はそれなりに付き合いのある、お互いに学校のヒロインとして名を馳せた有名人だった。

曰く、神原は戦場ヶ原をひどく慕っていた。

曰く、神原が包帯を巻き始めた理由を詳しく知る人も、原因となった出来事の現場を見た人もいない。

などなど、様々な話──解法のヒントとなりそうなものを貰った。

そう、解法だ。そもそもの話が謎なのだ。

何故神原は阿良々木に話しかけるのか…否、何故神原はあれほどまでに『阿良々木に話しかけること』に固執するのか。

だが正直なところまだ答えが出ない。若しかしたら──阿良々木が絡んでいるし、どこか血が疼く。可能性は十二分にある。

今は絶好のチャンスだ。ここで情報を集めれるだけ集める。

後々必ず楽に繋がると信じている。

こうして俺の腹の探り合い…いいや、一人相撲か…が始まった。


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