問題児達は黒うさぎを弄り倒す話と一巻の後書きに書いてあったので。

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黒うさぎと戯れる

 五月晴れだった。

 現実世界と変わらない恵まれた日差しが降り注いでいるが、ここは異世界だ。

 異世界にある町はずれの草原で逆廻十六夜は黒うさぎを弄って遊んでいた。

 

「何をするんですか! 十六夜さん!」

「何って、黒うさぎを弄っているんだが」

 

 うさぎと言ってもただのうさぎじゃない。黒うさぎを自称するうさぎ耳の少女だ。

 彼女とはこの異世界に来たばかりの時に知り合った。今ではお互いのことをよく知る仲だ。

 その少女を十六夜はロープで縛り上げて草原に転がし、拾った棒で突いて遊んでいた。

 黒うさぎを自称する少女は頬に当たる棒にもめげず、顔を上げて叫んだ。

 

「何でこんなことをするんですか! わたしを弄って楽しいんですか!」

「俺もつまんねえことしてんなとは思うんだが、問題児の後書きに書いてあったんだよな。この物語は黒うさぎを弄り倒す物語ですって」

「弄り倒さないでくださいよ! ロープほどいてくださいよー!」

 

 黒うさぎはジタバタともがく。もがいても十六夜のくくったロープはしっかりとして緩まない。

 十六夜はため息をついて棒を下ろした。

 

「やれやれだな。面白くないし、この辺にしとくか」

 

 十六夜がこの異世界に来たのは面白いことをするためだった。面白くないことには興味が無かった。

 ロープを解くのも面倒なのでそのまま立ち去ろうとすると、そこに久遠飛鳥がやってきた。

 彼女は真面目ぶった優等生の顔をして言った。

 

「面白くないと思うのはあなたのやり方が間違っているからよ」

「と言うと?」

 

 飛鳥はお嬢様だ。真面目そうに見えるが彼女も面白いことをするためにこの異世界にやってきていた。

 黒うさぎは救世主を迎える者の瞳をして彼女に訴えた。

 

「飛鳥さんだー! 助けてください! 十六夜さんが酷いんです!」

「酷いのは俺を楽しませないお前の方だろ」

「絶対楽しんでた! 楽しんでましたー!」

「はいこれ」

 

 十六夜に向かってわめく黒うさぎの鼻先の地面に飛鳥は何かを置いた。うさぎは目をパチクリさせてそれを見た。

 

「これは……?」

 

 食べ物が皿に盛られている。知っているその物の名前を飛鳥は口にした。

 

「スパゲティよ。あなたはこれを今から鼻で食べるの」

「いやいや、何でですか。何でなんですか」

 

 皿の上にたんまりと盛られたスパゲティを前に文句を並べ立てる黒うさぎに、飛鳥はにっこりとした雅なお嬢様の笑みを向けて言った。

 

「だって、問題児達ってそういう話なんでしょ? 後書きに書いてあったんだけど。黒うさぎを弄り倒す話だって」

「ヲーイ! 原作者出てこーい! ヲーイ!」

 

 天に向かって何事かを叫び出す黒うさぎ。それを一瞥して十六夜は飛鳥に言った。

 

「でも、こいつを弄っても面白くないぜ」

「だから、あなたは甘いのよ。わたし達にはギフトがあるのよ。それを使わないと」

 

 ギフトとは様々な者達から与えられた特別な恩恵だ。

 十六夜も飛鳥もそれぞれ特別な能力を使うことが出来た。

 飛鳥は手を差し出して、天に向かって叫んでいた黒うさぎの顎を掴んだ。

 それを自分の方に引き寄せる。

 

「ぐぎっ」

 

 何だか黒うさぎの首元で小気味のいい音が鳴って、彼女は涙目になった。

 飛鳥はうっすらとした笑みを浮かべて黒うさぎの目を覗き込む。

 

「能力を使わない能力者の物語なんてつまらなくて当然よ。さあ、うさぎさん。わたしの目を見なさい」

「ほ、ほい~」

 

 飛鳥は目を合わせた者を操ることが出来る能力を持っている。その能力を行使し、命令する。

 

「鼻からスパゲティ、食べなさい」

「お……ふおおおお!」

 

 命令を受けた黒うさぎは猛烈な勢いでスパゲティを食べ始めた。

 十六夜がロープを解く必要もなかった。黒うさぎはバキュームカーのように鼻からスパゲティをどんどんと吸い上げていく。

 スパゲティがどんどんと彼女の鼻の中へと消えていく。

 その勢いに十六夜も、命令をした張本人の飛鳥も驚いていた。

 

「こ……これは……異世界人だからなのか……?」

「凄いわね。鼻からスパゲティって本当に食べられるんだ。ここにカメラが無くて残念だわ」

「やるじゃねえか。この俺が驚くなんて最近無かったことだぜ」

「でも……」

 

 うさぎはあっという間にスパゲティを完食してしまった。その顔には満面の笑みがあった。

 

「おいしゅうございました! おかわり!」

「弄り倒せなかったわね……」

 

 問題児達は黒うさぎを弄り倒す物語だ。でも、これではただ餌をやっただけではないか。

 ミッションの失敗に飛鳥は疲れたため息を吐いたのだった。

 

 そこに春日部耀がやってきた。彼女も面白いことをするためにこの異世界にやってきていた。

 

「みんな、何やってるの? 最後の晩餐?」

「何てことを言うんですか! 助けてくださーい!」

 

 うさぎは再び暴れ始めた。ローブでしっかり縛ってあるので少し跳ねただけだったが。

 その動きを耀は手振りで制して言った。

 

「ああ、ちょっと待って。言わなくても分かるから」

 

 耀は耳を澄ませる。

 彼女のギフトは動物の声を聞くことが出来るのだ。

 見ると、いつの間にか十六夜達の周囲には動物達が集まってきていた。

 楽しそうに遊んでいるのを見て何じゃ何じゃと寄ってきたのだろう。

 耀は彼らの声を聞いてうなづいた。

 

「うん、分かった。うさぎを火あぶりにすればいいのね」

「何でそうなったーーー!!」

 

 再びわめく黒うさぎに耀は理由を説明した。

 

「動物達がそうしろって言ったんだけど」

「おのれ、動物達ーーー!!」

 

 黒うさぎがガンを飛ばしても動物達はそよとも動じない。ただ穢れの無い純粋な瞳で見つめているだけだ。

 足元で耀の飼い猫が鳴いた。

 

「ニャー」

 

 耀はその声も聞くことが出来る。彼は渋い声で言っていた。

 

『お嬢、油は撒かなくていいんですかい?』

「うん、臭いの嫌だし、燃え広がると危ないからね」

「今まさに危ないことをしようとしている人が何かを言っていますよー!」

「ほら、ライター貸してやるよ」

「ありがとう」

 

 十六夜から投げ渡されたライターを受け取り、そこに火を灯そうとする耀。

 

「ちゃんと燃えるかなあ」

 

 数回カチカチやって火が付いた。黒うさぎはびくりと身を震わせる。 

 

「冗談ですよね? ね?」

「冗談だと思う?」

「ほええー!」

 

 じたばたともがく黒うさぎ。その鼻先に耀は火を近づけていく。

 

「名無産!」

 

 黒うさぎが覚悟を決めた時だった。

 耀は火を止めて顔を上げて十六夜達に訊ねた。

 

「弄り倒すってこんな感じでいいのかな?」

「いいんじゃないか? あんまり面白くはなかったけどな」

「でも、この物語の主旨には合ってると思うわよ」

「何が主旨ですかー!」

 

 からかわれていたと知って黒うさぎの怒りは爆発した。

 その迫力に耀は驚いて目を丸くした。

 

「だって、問題児達はうさぎを弄り倒す物語だって後書きに……」

「何が後書きですか! あなた達が来たのはこんなことをするためじゃないでしょー!」

「そう怒るなよ。スリルの無い人生は面白くないぜ」

「こんなスリルはいりませんー!」

「またスパゲッティ買ってきてあげるから」

「スパゲッティ♪」

 

 よほどおいしかったのだろう。黒うさぎはすぐに機嫌を直してくれた。

 飛鳥としては改めて苦渋を感じるだけだった。

 

「わたしだけミッション達成出来てないんだけど……」

「また次頑張ろうぜ」

「そうね」

「おーい!」

 

 そこにジンがやってきた。彼は十六夜達の所属するコミュニティをまとめるリーダーだ。

 

「何をやってるんですか。今日は昼からギフトゲームをやる予定だったでしょう」

「お、もうそんな時間だったか」

「うさぎを弄ってる間に思ってたより時間が経ってたのね」

「敵は負けたら黒うさぎを寄越せと要求しています。取られないように頑張りましょう!」

「俺が負けるかよ」

「どんなくだらない物でも取られるのは気分が良くないものね」

「じゃあね、動物達ー」

 

 十六夜達はゲームに向かっていく。

 

「よし、一つ楽しんできてやるか」

 

 この世界を楽しむために。

 

「みなさん、何か忘れてませんか? おーい!」

 

 ぐるぐる巻きに縛られたままの黒うさぎを置いて。


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