なお、登場人物は全員“極めて屈強な”ものとする。

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6周年という節目を迎えたのに俺は何をやってるんですかね。
爆音伝説カブラギは不良漫画の中でも一、二を争うくらい好きです。それと法律は守ろう!
誤字報告有難いですが、パーカーはパトカーの俗称らしいです。カブラギの方にもある表現なのでこのままいかせてもらいます。


特攻の拓海

 

 海岸沿いをトバして、もう十分程になる。法定速度も信号もブッチぎって気の赴くままに走り続ける。そうしていると、気分が晴れる。愛車の爆音をBGMに、轟々と風を切り裂きながらひた走る。

 こうして、わざわざ神奈川くんだりまで来て誰もいない海岸沿いの県道を何もかもを無視して飛ばすのが俺の毎週の楽しみだった。パーカーに追われても悠々と逃げ切り、俺だけのセカイを走り切る。これが俺の唯一の楽しみだったのだ。

 

 

 

 人が飛び出してきた。それに気が付いたのは夏でまだ日が沈みきっていないからで、人影の判別くらいは付くからだ。心の中で舌打ちをした。ホーンを鳴らしつつスピードを落とすことなくその人影をすり抜けようとする。軽くフカシてやれば傍に退くだろうと思ったが、人影は動くことなく横断歩道の四分の一くらいのところでかがんで何かを拾い上げた。

 

 真ん中に車体を寄せて後数十メートル。ここで漸く輪郭が見えてきた。ジョシコーセーだ。セーラー服を着た若い女。ここらの高校の制服は知らないが、地元のお嬢ちゃんだろう。ビビって動けないようだ。

 

 !?

 

 何を考えたのか、そのガキは真ん中に寄った俺を見て一歩踏み出して後十数メートル。当然直撃コース。こんな真面目なナリして当たり屋かと隠さずに舌打ちをしてハンドルを切った。俺のテクは大したものでは無いが、それでも単車は中坊の頃から何年も何年も乗ってきた。暴れる相棒を抑え付けてなんとかコースをズラす。

 

 そのガキが拳を振り上げて後数メートル。なんだ、何をする気だ。すれ違う寸前、漸くそいつの顔がハッキリと見えた。長い黒髪、鋭いツリ目で俺を睨む。美少女だ。何年かに1人の逸材だとも言っていいし、今の俺がもう100km/hくらい遅かったら絶対に声をかけていただろう。だが、その端正な顔を彩るのは憤怒。

 

 

 そのガキの拳が俺のメットに当たるまで後数センチ。どういう────

 

「────こんのはた迷惑野郎がァっ!!!」

 

 ゴシャッ

 

 ────ことだよ。

 トラックと正面衝突したみたいなエグい音が聞こえて俺に残されたのは浮遊感だけ。そのまま面白いくらいに吹っ飛んで地面に突き刺さるまで後数メートル。ヒビ割れたメットの向こうにぶち模様の猫を抱えた女子高生を見て、俺の意識は暗転した。

 

 

 

 その日の夢は巨大な豆腐の中で動けなくなる夢だった。それ以来、豆腐は食べてない。

 

 

 

 

 

 赤い車体がガードレールにその半身を埋め、カラカラと虚しく前輪を空回りさせる。その持ち主は堤防を飛び越えて砂浜に突き刺さって居るのがそうだ。位置的に、もう数時間もすれば波に呑み込まれるだろう。

 

「ったくよォ、バカの一つ覚えみたいにフカシやがって」

 

 カッコイイ系だが存外に可愛らしい声で少女は吐き捨てた。その豊満な胸元にはぶち模様の仔猫が抱えられており、どうやら足を怪我しているようだった。ふるふると体を震わせている。

 バイクごと殴り飛ばしたとは思えない華奢な腕、細長く傷一つない指先で震える仔猫を優しく撫でる。

 

「危ねぇよなぁ? ブッチ」

 

 まるで聖母のように微笑み、少女────向井拓海はもう一度優しい手つきで仔猫の頭を撫でた。ブッチとは、恐らくその仔猫の事だろう。

 

 ────にしても。

 拓海はフロントからめちゃくちゃになってしまったそれを見つめる。

 

ホンダCB400four(真紅のフォア)…………あいつがバクオンコゾー、ってわけじゃねえよな?」

 

 もしそうなら、マズったかなと頬を掻く。

 一応、帰ったら銀時さんに確認しておこうと拓海は充電の切れた携帯をパカパカとなんかの拍子に付かないものかと開閉する。無論、彼が動き出すことはない。

 

 

 

 ファンファン、と遠くからサイレンの音が聞こえる。それを聞くや否や、やべェと呟いて歩道に放り出していたカバンをひっ掴み、仔猫を抱えて逃げる。

 ここで起きたのは単独事故。なに、“極めて屈強な”若者はこの程度では死にやしないだろう。記憶もうまいことぶっ飛ぶようにと祈りを込めて殴ったし、彼が病人で目覚めた頃には綺麗さっぱり──恐怖だけは残るかもしれないが──忘れ去っていることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────でさァ、銀時サン。もう一つ話があんだ」

 

 拓海は自分の部屋のベッドに胡座をかいてケーブルを繋いだ携帯を耳に当てる。殺風景な部屋だが、隅に置いてある金属バット(呪い付き)とか、机の上の顔中生傷だらけの男とのツーショット(サイン付き)などが女子高生の部屋からあってはならない雰囲気を醸し出している。

 電話の相手からもまた、そんな雰囲気がありありと伝わってくる。

 

『オウ、なんだよ。拓海』

「…………え、あー……その、なんだ。怒らないで聞いて欲しいんだが」

 

 非常に言い出しづらいことではあった。もしかしたらなんだけどおたくのアタマぶっ飛ばしちゃったかもーゴメンねテヘペロ、とか言えるわけない。危うく仔猫を轢くところだった向こうが悪いにしても、私怨込み込みでぶっ飛ばしたのはこっちだし、なんなら逃げ出して上手いこと単独事故で処理されないかなーとか思ってたのも事実。

 

「今日の夕方さ、赤いCB400fourをぶっ飛ばしちまったんだけどさ」

『なにぃ!? どういうことだ拓海ィ!?』

「ちょっ! 落ち着いてくれよ銀時サン! ちげぇんだ、実は────」

 

 かくかくしかじかまるまるうまうまもりくぼですけど。

 そんな風に説明する。相手も元暴走族とはいえ、そこまで直情的な人間ではない。そして精神的にも“極めて屈強な”男である。拓海の話を口を挟むことなく聞いて漸くため息をついた。

 

『大丈夫だろう。そりゃ、アマル(十六代目)じゃねぇ』

「ああ、ならよかったぜ。今、爆音小僧と全面対立、とか笑えない冗談だ」

 

 ははは、とお互いに笑い合う。その笑いが収まったところを見計らったのか、少しだけ声のトーンを落とした。

 

『ところでよぅ、拓海。狂鬼会抜けるって、マジなのか?』

「…………ああ。アタシは狂鬼会を卒業する。アイドル、やるんだ」

 

 いや、もう『卒業した』が正しいのかな。携帯の向こうにも聞こえるかどうかの小さな声でひとりごちた。

 

『……そっか、なら俺はなんも言わねェよ』

「ああ、ありがとな。銀時サン」

『ッカァー! にしても、あの拓海がアイドルか……今のうちにサインでも貰っとくかァ!?』

 

 また、二人して大笑い。電話の向こうの銀時が妹に連れ去られるまでその会話は続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──渋谷──

 

 電光掲示板に映ったのは今をときめく346プロダクションのアイドルだ。俺はダチと共に煙草を吹かしながらそれを見上げた。何人かのアイドルがパッと映り、一人ずつ短い紹介が入る。

 

「俺さぁ……なんか、どっかであのオッパイデカイ子見たことある気がすんだよなぁ……」

「え? あー……向井拓海ちゃんだっけか。お前そんなアイドルとか興味あったか?」

 

 いや、そんなはずは…………テレビも持ってねえし、歌番組とかじゃねぇと思うんだよなぁ。それに確か俺が見たのは仔猫とセーラ──

 

「うぐっ!?」

「なんだ、その頬まだ痛むのか?」

「いや、なんか思い出してはいけないような────イテテ……」

 

 去年の夏、俺は事故った。あまり当時の記憶はないんだが、単独事故で何かを避けようとして吹っ飛んだらしい。相棒とすら呼んでいたホンダCB400fourもスクラップ同然になっちまったし、俺自身も頬や背中を強烈に痛めて二ヶ月ほど入院していたくらいの事故だった。ついでに豆腐がダメになった。

 

「思い出せなくても覚えてるってか? そりゃあお前、アレだ。完全にファンじゃん」

「……うーん、そうなのかなァ」

 

 なんか違うような気もするけど。まあ普通にめちゃくちゃ可愛いし、オッパイデカいし。一回ライブでも見にいけば思い出せるかもしれん。

 俺はもう一度電光掲示板を見上げた。丁度、彼女の紹介が始まったところで、彼女の画像が少し大きくなる。長い黒髪には緩いウェーブがかかり、ツリ目はこちらを睨みつけながらも慣れない笑顔を見せている。だがその端正な顔を彩るのは自信。ほんの少しの羞恥もあるのかもしれないが。

 

『アタシは向井拓海。全開バリバリで行くから、夜露士苦ッ!!』

 

 パッと画面が移り変わり、今度は別のアイドル達が映し出される。一番最初に紹介されたのは神谷奈緒────確かに可愛いが既視感があるわけではない。

 

「向井拓海……か」

 

 そう呟けば、マジでただのファンじゃねーか。とダチからツッコミが入る。確かに、こう何度も引っかかるものがあるのは、もう俺が彼女のファンだからなのかもしれない。

 とりあえず、彼女のライブの日程を調べてみようと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 これは一人の“極めて屈強な”アイドルの物語である────!!

 




グーでファンを増やすアイドル……じゃんけんアイドルかな?

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