一通り二日目の予定を終了し、浴場へ入浴するネギ。
傍らには勝手について来たカモもいた。
「聴いたっすよ兄貴ー、告られたんだって?」
「んー、……言っておくけど、
「くっ、先読みは過ぎるとダメだぜ兄貴」
「カモ君の言いそうなことだからね……というかあまり喋らないでよカモ君?」
「今は人気ないんだから大丈夫だって」
「何処でばれるか分かったもんじゃないでしょ。秘匿って言うのは徹底してやるから効果があるの」
「兄貴は固すぎだぜー」
「……そう、かもね」
生徒の告白にすぐ応えることも出来ず、そもそもその答えも見つけられないとは、頭でっかちと言われても仕方ないかもしれない。
今まで鍛えることに集中しすぎて、人と触れ合うことを避けていたのかも。
(考えれば
A組と仲良くなっていたと思っていたが、もしかしたら気のせいなのかもしれない、なんて。
(考え過ぎちゃダメだ………今は、この旅行を無事乗り切らないと)
頭を切り替え今日あったことを思い出し………告白以外特に何もなかったと思い頭を再度抱えた。
(呪術協会……なにしたいんだろ?)
絶好の機会が転がっていたと思うのだが、もしかして今日は仕込みで三日目が本番なのかもしれない。となると、こちらも少し準備が必要だろう。
携帯に眼鏡の調子の確認、それと魔法銃……旅行という事もあって持ちこめた量に限りはあるが、幾らかの魔法薬。
(いざとなったら……)
ギュッと腕を握りしめる。
その両腕には、渦の様な黒い紋様が滲み浮かんでいた。
*
次の日、三日目は隠形で陰から見守りつつ何もない様なら書物を届けようと考えていたのだが……。
「やっほー、ネギ先生♪」
「え……?」
準備をし終わり部屋を出た瞬間に5班の面々が待ち構えていた。
木乃香の隣には刹那がおり、その腕をホールドされて困っているようだ。
なるほど、幾ら彼女でもこうして部屋の前に待機されてはどうしようもなかったのだろう……着替えもせず制服のままなんて、木乃香の本気度が窺える。
この旅行で是が非でも仲良くなるつもりらしい。
「今日も一緒に回りましょ?」
「えぇと……皆さん自由行動の予定はないんですね?」
「ないです」
「ネ、ネギ先生のご予定は……?」
「ぁ」
不安そうにのどかに見つめられ、言葉に詰まるネギ。
未だ答えは出していないというか、それ以前に昨日の今日で気まずい。
気まずいが、無視するわけにもいかないだろう。今のネギは先生なのだから。
「……昼から予定がありますけど、それまでなら」
「やったー!」
「んじゃいこいこー!」
元気な面々に囲まれ、ネギも一緒に歩きだした。
(兄貴、親書どうするんだ?昼からで間に合うのかよ?)
(夜じゃないなら多分ね……あまり遅くなっても失礼だし、せめて今日の夕方には届けないと)
こそこそと付いてきたカモと話す。
書物は旅行中にどうにか渡さないといけない。向こうはこっちの理由なんてお構いなしだ。初日に届けなかった時点で失礼と考えられても仕方ないのだ。
「ネギ先生はやくー!」
「あ、はい」
そこから暫くは彼女達と共に遊びや軽食に付き合った。
ゲームをしたりプリクラを撮ったりと愉しい時間を過ごしたのだが……。
(………
(はい……2人、3人?)
(式神も混ざってますから、正確な数まではッと!)
どうやら相手も本腰で狙って来たらしく、刹那は自分を狙ってきた鉄矢をささっと受け止めた。
「拙い、お嬢様走りますよ!」
「え、せ、せっちゃん!?」
「ちょ、どこ行くのよ?!」
「えっと、皆さん桜咲さんが急遽行かなきゃいけない場所があるそうなので、急ぎましょう!」
「な、なにごとー!?」
前方を木乃香の手を握った刹那が、最後尾をネギが走って殿を務めた。
とはいえ、何処に行けばいいだろうか。
(今向かってる方向にあるのは……シネマ村、人混みの多い場所か……)
人が多ければ相手も少し行動を変える必要があるだろう。
人気のない場所の方がこちらも戦える、が5班の皆を護らなければいけないことを考えると人気のない場所で囲まれるのは色々拙い。
「っすいません、先に行きます!お嬢様、失礼!」
「ふぇ?――ひゃ!?」
刹那は木乃香を抱えてシネマ村へ跳びこんでいった。
「ど、どーゆーことです?」
「うーん??」
「えっと……刹那さんはやることがあるんです。で、木乃香さんには丁度頼みたいことがあるとかなんとか」
「そ、そうなんですか……」
「さ、二人の分は僕が払いますから入りましょう」
5班を引き連れシネマ村へと入場する。
思った通り、敵の動きも人混みのお蔭で鈍った……もしかしたら、シネマ村に居れば問題ないかもしれない。
「さて、口八丁で入ったけどもどうしたら……?」
視線の先に何やら人混みが……見れば、シネマ村で衣装を借りた二人が写真を撮られまくっていた。
傍から見ればお姫様と其れを護る剣士様といった感じで、普通にお似合いだった。
(…………楽しそうだし、うん)
それを見て、話しかけるのは止めにした。
その代り少し隠形を使い、人ごみに紛れて少し離れた位置で待機する。
身代わりというか、餌にするようで悪いがはぐれたことにして敵が狙うのを待つことにする。
何時も後手後手に回っているし、今回もそうだがどうしてもこうなってしまう。
ならば、もう先手は諦め後手に徹底し、準備万端にして迎え撃った方がいい。
「どうもー、神鳴流ですぅ……じゃなかった、そこの東の洋館のお金持ちの貴婦人にございます~~。そこな剣士はん、今日こそ借金のカタにお嬢様を貰い受けに来ましたえ~~」
待ちに徹していると、思った以上にノリノリで一人の少女が現れた。
眼鏡をかけた薄い金髪の少女だが、その小さな体で放つ殺気は尋常なものではなかった。
30分後に日本橋に、といっていたが逃げたらA組どころかシネマ村に居る人間全員殺すつもりだろう。
(とはいえ、30分あれば問題ない……日本橋、あっちか)
ネギは携帯を握りしめ、走り出した。
*
時間になると、彼女とその連れだと思われる執事服を着た少年が現れた。
「何で俺がこないな格好……」
「まーまーええやないですか。にしても、おもったよりぎょーさん連れて来てくれはったようですなー♪」
刹那の後ろには木乃香以外にもシネマ村に来たA組の面々や、一般客を引き連れていた。
どうやらお祭りだと思っていらしいが、決闘の舞台となる橋には誰も近づこうとしない。
「ほな、始めましょうかー。木乃香さまも刹那センパイも、ウチのモノにしてみせますえー♡」
にこやかにしているが、まるで殺気を隠そうとしていない。
素人や一般人には分からないだろうが、隠れているネギですらピリピリとした感覚を覚えた。
そしてそれは刹那の陰に隠れていた木乃香も同様らしい。標的の一人だけあり、向けられた氣に過敏に反応したのだろう。
「せっちゃん、あの人……なんかこわい。気ぃつけてな?」
「………大丈夫です、お嬢様。何があっても、私がお嬢様をお守りします」
「……せっちゃん」
「アハハ、桜咲さんカッコいい」
「はい、安心しますね」
刹那の笑顔に安心する木乃香や明日菜達だが、ネギは聴いてて不安しかなかった。
彼女は本当に木乃香の為ならば、
「さてさて、では
彼女が式神を使って召喚したのは、大量の……デフォルメされた木端妖怪たちだった。
こちらは特に殺気立っていない。足止め用というか、言った通りお遊び用なのだろう。
「んじゃ、俺はささっとお嬢様さらいますかー女殴るんは趣味やないし」
「そうしてくださいな~、そもそも刹那センパイはうちの獲物です~横取りは許しませんえ~」
「くっ」
三者が構えたところで、ネギは魔法を発動させた。
(戒めの風矢っ)
「な、なんや?!」
「西洋魔法……?」
少年は驚きながら弾き、少女は斬り裂いた。
呆気なく処理されるも、それは時間稼ぎの囮。
Pipi―【設定魔法発動ヲ確認:範囲指定:ビーコン起動:範囲固定:強制転移魔法起動】
橋を中心に埋め込まれた魔石が反応し、ネギの魔力で携帯から連鎖発動する。
辺りを閃光が包み込み、晴れた時には――橋に居た人間は忽然と消えていた。
*
「う、此処は……?」
「山ん中ですなぁ……時間と場所を指定したのは間違いやったかなぁ」
人払いと認識疎外を掛けた山中。
そこには橋を中心に居た半径数メートルの人間が揃っていた。
まずは敵である二人と木端妖怪が数体。目の前には相対していた刹那、木乃香。
そして、彼女たちの近くには術を発動する際橋の下に居たネギと……。
「な、なにここ!?」
「え、えぇ!?」
怯える木乃香の近くに居た明日菜とのどかだった。
どうやら、ギリギリ転移の範囲内にいたらしい。
「っ二人とも、下がって身を伏せてください!」
「え、ネギ先生?!なんで!?」
「あ、あわわ」
「早く!!」
二人が怒鳴られ伏せた瞬間、刹那は少女の斬撃を弾き、ネギは少年の拳を受け止めていた。
「おぉ、アンタ思ってたよりやるやんか!」
「ネギ先生!?」
「刹那さんはそっちに集中してッ!!」
こうして、木乃香たち三人を護りながらの戦闘が始まった。
(敵が二人だけとは思えない、多分本来この二人は護衛役の僕らを惹きつける役だったんだろう……これ見よがしに5班と一緒に行動し続けたから、こっちの護衛が僕らだけって判定された……となると、後何人かいるはず。此処の結界も遠距離から適当に張ったから、長時間は期待しない方がいい)
となると、勿論結論はこうなる。
「速攻で行きます」
「ハ、やれるもんならやってみい!!」
少年の拳は氣で強化してあるのだろう、重く早く強い。
だがこちらも魔力で身体強化してある上に、日頃三対一で鍛えられているのだ。
この程度なら、どうとでもなる。
「フッ!」
「おぉ!?」
少年の動きに合わせ、彼を放り投げる。
チラッと刹那の方を見ると、斬り合って互角の勝負を繰り広げていた。
「痛たたた、やるなぁ――だったら、これでどうや!!」
「獣化ですか」
白い毛並になり、気が身体に満ちて少し体が大きくなったように思える。狼男の様な風貌になった少年は、さっきとは桁が違う速度で拳を繰り出してきた。
(速――)
既に思考が追いつかなくなりはじめ、ほぼ反射で彼の拳を受け流す。
肉体強化、思考速度強化、魔力の効率を無視し彼の動きに対応するために魔力の動きを速めていく。
「は、ハハハハ!!!やるなぁ!この姿でこうまで粘られるんは初めてや!!」
「この、バカスカとっ」
余波が凄まじく、木乃香達が傷つかない様に防壁で包み込む。
その分、少しこちらの魔力の動きが落ち、少年との殴り合いへともつれこんでしまった。
人間のネギと獣人の彼では素の体力が違う。このままでは押し切られる。
「ネギ先生っ!!」
「おっと、センパイの相手はうちですえ~」
「邪魔するな!!」
刹那が気づくが、少女の相手で手一杯になっていた。
実力はほぼ互角、木乃香の護りを任せてしまって全力を注げるというのに、手古摺って申し訳なく思いつつもどうにも出来ない現状に悔しさが表情に滲んだ。
「終わりや!」
ついに白浪の少年の拳がネギを捉えた。
木乃香達が思わず目を背けるが、張本人のネギは拳を真っ直ぐ見据えたまま――。
「起動――
淡い黒の光を纏ったネギの腕が、少年の拳を抑えた。
「な、なんやそれ……」
「悪いけど、話してる暇はないんで」
ボッと少年の比ではない速度で腕が振るわれた。
ギリギリ反応し両腕で防ぐが、獣化した彼の腕が痺れるほどの威力。幾ら魔力で強化されたとしても、これはオカシイ。
「とっとと終わらせる」
「ハハ、おもしれぇ!!」
腕だけではなく両の眼の色までもが反転したネギに対し、少年も本格的に獣化を開始した。
もはや人間の領域から逸脱する争いが始まろうとしていた。
短編なのに、続きます。ごめんなさい。