魔王は1000年後の未来に転生しました。   作:かり~む

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15話:シャガナル

 ブレンサムを牢屋から解放したグレンは、自分の胸元に、正確には首元にぶら下がるペンダントに手を当てて言う。

 

「そういうわけだ、ボス。いや、婆さん。……悪いな、恩を仇で返しちまって」

「………グレン。お主、後悔はないのか?」

 

 その声はグレンにしか聞こえない。

 ブレンサムは首を傾げながら、突然誰かと喋りだしたグレンを見ていた。

 

「はっ。ありまくりだ。俺の人生なんて後悔と失敗の連続だよ。だから、せめてその場その時では友達と姉さんに恥じない選択をしたい」

「はあーーーーーーーー………」

 

 盛大なため息がペンダント越しに聞こえてくる。

 次に発せられた言葉は、グレンの予想を超えていた。

 

「----構わん。よい。ハリンド・レイドモンドを捕縛しろ。そして『不死女王(ノーライフクイーン)』を回収するのじゃ」

「なに?」

「傭兵団として世界に拡散し、その実王国に仇なす輩を監視する『ティルファング傭兵団』としての役割を果たせ。……そう言っておるんじゃよ」

 

 話が予想外の方向に向かっていく。

 グレンは訝し気な表情をつくりながら、ペンダントに魔力を込める。

 傍らのブレンサムにもボスの声が聞こえるようにするためだ。ペンダントの機能が切り替わり、ペンダント自体から音が発生するようになった。

 

「この一年、お主に送って貰った『不死女王』の研究資料の解析がたった今終わった。……あの男は不老不死なんて目指しておらんよ」

「………だったら、何が目的なんだ?」

「邪龍の復活」

「は?」

 

 グレンは思わず、呆けた声を出す。

 しかし、彼らの団長の声は真剣だった。

 それこそ、今まで一度も聞いたことがないくらいに。

 

「冗談ではないぞ。儂は実際に見たことがある。………ラケンハイルの背後には何がある?」

「『シャガナル山』………?」

「そこに眠る邪龍『シャガナル』。それを目覚めさせる鍵こそが、『不死女王』じゃ」

 

 魔王は死の間際に、転生の魔法を使い、後の世により強大になって蘇ることを、勇者に告げたらしい。そして、 魔王が転生した姿こそが、その邪龍。

 その躯が眠ると伝えられる場所こそ、『シャガナル山』。

 

 

 

 

 研究所の廊下を歩くハリンドは上機嫌だった。

 彼の背後にはホワイトが4人の職員に取り囲まれた状態で追従している。

 

「貴女とこうして話すのは、実は初めてではないでしょうか」

「そうだと思う。貴方は私の身体を切り刻んでばかりだったから」

 

 ハリンドは目を丸くした。

 そして口に手を当てて噴き出したように笑う。

 

「いやあ、手痛い返しだ!……ふふ。ブレンサムさんの教育の賜物ですかね。まさか、ここまで人らしくなっていたとは。早くに気づくべきでしたよ。ここしばらくは、部下に実験を任せきりだったのを、激しく後悔中です。ええ、ただの人形には興味ありませんが、今の貴女なら話は別です」

 

 ニコニコと笑いながらハリンドは続ける。

 

「本当の事を言いますとね。ブレンサムさんがいずれ君を連れ出して逃げるであろうことは何となく分かってたんですよ。だけど、私はそれを知りながらも、何もしなかった。どうしてか分かりますか?」

 

 ハリンドが明かした真実に周りの研究員がぎょっとした顔をするが、彼はそれを気に留めた風もなくしゃべり続ける。

 

 

「………………分からない」

「簡単ですよ。僕は彼のファンですからね。なるべく望みを叶えてあげたかった。……私の悪い癖です。特別な人間には、つい特別な待遇をしてしまう。甘くなってしまう。………まあ、おかげでいいものが見れましたよ。あのローランという少年も中々どうして悪くなかった。一般的な意味での才はなくとも、その精神力には特筆すべきものがある」

 

 お気に入りの小説の内容を思い出して微笑むように、ハリンドは胸に手を当ててそっと呟く。

 そして、大きなヘーゼル色の瞳を見開いてホワイトを覗き込んだ。

 

「しかしですね。流石に貴女を連れ去られるのは、看破できない。あの『炎獄』のブレンサムの望みだからといっても」

「それは、不老不死のため?」

「いいや、違いますよ。…………永遠の生……ですか。はははっ、馬鹿らしい」

 

 別にハリンドの纏う雰囲気が変わった訳ではない。

 その内に巣くう狂気を曝け出したわけでもない。

 

 彼は、淡々とまるで明日の天気の話でもするかのような調子で、研究所の設立目的を愚かしいと切って捨てた。仮にも研究所のトップを務めているにも関わらず、だ。

 

 

「ああ、いや。人の未来の為、というのは嘘ではないです。むしろ私はその為だけに行動してます。ええ、きっと世界は良くなる」

「…………所長?どういう事です?」

 

 黙ってホワイトとハリンドの会話を聞いていた職員の一人が我慢ならないといったようにハリンドに詰め寄った。

 

「どういう事、かですか。……私は最初からここを利用するつもりでしかありませんでしたよ」

「………は?お、お前ええ!!」

 

 激昂した職員がハリンドの白衣の首元を掴む。

 

「-----、凡夫が僕に触るなよ」

 

 あくまで穏やかな声だった。

 『魔法式』が瞬いた次の瞬間、職員の首は飛んでいた。一人だけではない、その場にいた全員の首が廊下に転がった。

 

「……仲間じゃなかったのか?」

「まさか」

 

 ホワイトの冷たい声にハリンドは肩を竦めた。

 

「どうして殺した?」

 

 ハリンドは答える代わりに、廊下の奥底を見つめた。

 

「グレンさんとブレンサムさんが、こちらに向かってきています。………貴女を助けに来るんですよ。ですが、それを私は許しません。決して決して許しはしない。………あと少しなのです。あと少しで世界は変わる」

 

 言いながらハリンドは白衣の内側から注射器を取り出す。

 内は真っ赤な液体で満たされていた。

 針を自身が殺した職員の身体に打ち込んでいく。

 

「ホワイト。貴女の細胞には恐るべき再生能力がある。まるで、神が貴女に死ぬことを許していないかのように。そう、貴女は死ねない。役割があるからだ」

 

 ビクンと職員の死体が跳ねた。

 

「かつて世界には国を覆うほどの龍がいた。つまりはね。貴方の事ですよ。ホワイト。この淀み、停滞した世界を真っ白に漂泊する救世の女神よ」

 

 次いでボコボコボコボコォ!!と泡立つように皮膚が盛り上がる。

 切断された首からも、肉が生え醜悪な顔面が形成される。数秒もたたないうちに、5メートルほどの巨人が天井を壊しながらそこに生み出された。

 

 その数は4体。

 巨人はハリンドの指示を待っているかのように、黙したまま微動だにしない。死者を冒涜するような所業だが、ハリンドは意にも留めない。才なき者は才ある者の役に立て、その考えを彼は心の底から疑わない。

 

 

「1000年前と同じように、この停滞した下らない世界を壊してください。そして、勇者に相応しい世界を創って下さいな」

 

 ハリンドはホワイトの頬を撫ぜ、そっと囁きかける。

 

 何を言っているのは分からなかった。

 理解してはいけないと思った。

 

「ホワイトォおおおお!!!」

 

 ブレンサムが吠えながら廊下を駆けてくる。

 

「ちっ。『不死女王』の細胞を利用した怪物か。厄介だぞ、アレは!」

 

 その後ろには忌々しそうに舌打ちするグレンがいた。

 その身体を銀の鎧で覆う、最初から全力だ。

 

 

「さあ、来なさい、勇者たち!私を止めたいのならば、力をもってそれを為せ!」

 

 『不死女王』の細胞を利用して生み出された怪物が、地響きのような雄たけびを上げる。そして、激突があった。

 

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