魔王は1000年後の未来に転生しました。   作:かり~む

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16話:命の価値

 世界は終わりに向かっていた。

 

 海からは魚が消え、大地は荒廃し、空は灰色に染まった。

 少ない食料と僅かに残ったまともな土地をめぐって、人々は戦乱に明け暮れる。

 

 そんな、破滅が忍び寄る世界の片隅で。

 クラウディア・レインダースは産まれた。

 

 はじめ、彼女は何の力も持たない、無垢な少女だった。

 貧しくも優しい両親に育てられた少女は、そして当然のように死んだ。食料を求め、家を襲った4人の野党に殺されて、当たり前のようにこの世をさった。

 

 そして気づく。

 己が神に与えられた『祝福(のろい)』に。

 

 心臓が血液を循環させるのを止め、脳がその機能を停止した次の瞬間、クラウディアの目の前に広がっていたのは無限の世界だった。クラウディアの幸せな過去がそこにはあった。両親との暖かな生活の風景が、彼女の前に幾つも並んでいたのだ。

 

 「選べ」と、誰かに言われているような気がした。

 少女が選んだのは、3か月前の自分の誕生日。ケーキも蝋燭もない。けれど両親の祝福があれば十分だった、世界で一番幸せだった確信を持って言えるあの日。

 

 気づくと、少女はその場面にいた。

 3か月前から、人生をやり直していた。

 

 ----それが少女の『祝福(スキル)』。

 自身の死の後に、任意の地点から人生をやり直す、人の理を超えた力。

 

 

 『再挑戦(リスタート)』。

 

 

 

 

 ----人の命は平等だ。

 

 数えるのも億劫になるくらいの無数の死を超えた果てに、クラウディアが出した答えがそれだった。

 

 結局、皆必死に生きているだけだった。

 優しい両親も、かつて自分を殺した野党も、必死に自分の人生を全うしようとしていただけ。この狂った世界で、生きようとしただけ。それを少女は理解した。

 

 死の後に、無限に繰り返される人生。

 その中で、人間の様々な側面を見た。罪を見た。だけど、王も貴族も平民も誰もが罪に塗れながら、おびえながら、必死に生きようとしていた。それだけだった。

 

 クラウディアだけが違った。

 彼女だけが、そんな地獄の外にいる。外から人々の営みを眺め、足掻くその手を自由につかむ権利を持つ。本来なら生きる筈の者を殺し、死ぬ筈の者を生かす事ができる。

 

 だから。

 誰かを救い、誰かを見捨て、助けられなかった誰かを救い、助けた筈の誰かを見捨て、延々それと繰り返した果て。

 

 クラウディアは答えを出した。

 

 ----人の命は平等だ。

 

 だから、その数にだけ価値がある。

 救った数にだけ価値がある。

 

 少女はまず、両親を見捨てた。

 その結果、親を病で亡くして野党に落ちるしかなかった哀れな四人の兄弟は救われた。

 

 

 

 彼女は殺した。

 効率的に必要最低限の人数を殺し、その先で最大数の人々を救った。資源と土地には限りがある。富は全員には配分できない。よって、少数派には迅速に滅んでもらい、その富を明け渡してもらった。犠牲の後に人々は救われる。

 

 そんな血に濡れた道の先にて。

 彼女は出会った。

 

 

 人とは異なる容姿を持つ『魔族』と呼ばれる存在。

 人は己を襲った不幸に理由を求める。それが正しいかどうかなんて関係ない。だから、体の良い不満のはけ口として利用させてもらった筈の少数派の中に。

 

 その少年はいた。

 

 魔族の王。

 魔道の王。

 

 ----人は彼を『魔王』と呼んだ。

 

「君が『狂聖女』?それとも『勇者』って呼んだ方が良いかな?」

「戦乙女でも預言者でも幽霊女でも、お好きなのをどうぞ。どうせ、呼び方なんかに何か意味はないよ。お前はここで死ぬからね」

「じゃあ、クラウディアで」

 

 何度も何度も戦った。

 何度も何度もやり直し、魔王本人ですらしらない彼の側面を垣間見た。

 

 

「君は少数派を切り捨てて、より多くの人を助けるんだね」

「命の価値は平等だからね」

「そこには同意する。だからこそ、僕は歴史の影に消えてしまうはずの、報われない人々を救いたい。そして、出来れば『皆』を救いたいと思ってるんだ」

「甘いね」

「分かってる。だけど。本当は、誰だってそうしたい筈だろう?」

 

 そして。

 繰り返される世界の中では魔王はこんな事を言い出したのだ。

 

「----ねえ。僕と手を組まないかい?」

 

 狂ってるとしか思えない戯言だった。

 実際、魔王は狂っていた。そして、おかしいのは自分もかとクラウディアは自省した。

 

 

「思ったんだよ。君は世界の大勢の人を救おうとしてる。だけど、どうしてその中に入れない人は出る。そもそも、君は皆を救えるなんて思っちゃいないだろうしね。犠牲も織り込み済みなんだろう。………だから、君が犠牲にするであろう人は、僕が助ける。そうすれば、『皆』救えるはずさ」

「絵空事だよ、それは。子供の夢想よりなおひどい」

「だけど、試してみる価値はあるだろう?」

 

 クラウディアは、結局その手をとった。

 どうせいくらでもやり直せる人生だ、たまには馬鹿をやってみるにも悪くないかもしれない。そんな気軽な調子だったのかもしれないけど。

 

 確かに、彼女たちは誓い合った。

 

 荒廃していく灰色の世界を2人で守ろうと。

 世界の端で消えていく、不変なる価値持つ命を必ず救おうと。

 

 

 だけど。

 

 

 本当の災厄が訪れた。

 国を覆うほどの巨大な漆黒の龍。人々はそれに飲まれて消えていった。

 魔王ですらも勝てなかった。人生をやり直すたびに、彼は龍の咢に消えていった。

 

 

 

 1000年後、幽霊となったクラウディアはローランに淡々と語った。己の半生、『再挑戦』という『祝福』の事。そして、勇者と魔王が友誼を結んだの後に現れた巨大な龍、『シャガナル』について。

 

「………この世界はさ。失敗作なんだよ。生物が産まれる度に、『世界の活力』ってやつが減っていくんだ。これは基本的に回復することはない。世界の寿命みたいなもんかな。その寿命を迎えた瞬間がーーーー」

「僕らの生きた1000年前………か」

 

 期せずして、かつて世界を襲った荒廃の理由が明かされる。

 

「邪龍はいわば神様が応急処置として作ったシステムだね。そりゃ、勝てないよ。いわば私たちの造物主の分身だもん。『シャガナル』は世界が限界を迎えた頃になると現れて、生物を根こそぎ食らって大地の底で眠りに着く。食らった命を燃料にして、『世界の活力』を生み出すんだ。そして、それを大地に浸透させる。また世界が荒廃したら同じことを繰り返す。何度もでも」

 

 クラウディアは笑った。

 背筋がぞっとするような冷たい笑みだった。

 

「この世界は何度目の世界なんだろうね?」

 

 それを知るのは神とやらだけだろう。

 

「そして、何度も挑戦するうちに私は気づいた。……『シャガナル』が食らう命の数は一定じゃない。魔力を多く持ってたり、『祝福』をその身に宿す人間は、そうでない人間数十人分の価値を持つ。きっと『世界の活力』ってやつを、多く持って生まれてきたんだろうね。そういった存在を多く食らった時、『シャガナル』はいつもより早くその活動を停止させた」

 

 ああ、成程とローランは呟いた。

 

「僕が邪魔だったわけか」

 

 つまり彼女はいつもと同じことを繰り返しただけだったのだ。

 より多くの人間を救う。その過程で、犠牲がでても仕方ないと割り切る。

 

「『世界の活力』を持った人間を、より効率よく『シャガナル』の胃袋に捧げるのに」

 

 ローランの推測は当たりだったらしくクラウディアは、にっこりと笑った。

 

「正解。最初は世界の7割くらいの人が死んたけど、最終的には見事4割程度に抑えることができたよ。……人間同士の争いで死んだ人も、大勢いたからね。いつだって怖いのは人間だ。そこを気をつければ、まあ難しくなかったよ」

 

 言うほど簡単ではなかった筈だ。そして、余りにもスケールが大きな話だった。

 ローランのちっぽけな頭では想像できそうもない。

 

「なんで言わなかった、と聞かないでよ。言ったよ何度も。その度に反対されたけど」

 

 きっと、自分は彼女の考えを認められなかったのだろう。

 当たり前のように2人の関係には亀裂が入り、クラウディアは説得を諦めた。また、より効率的に龍も元に人々を送り届けるためには、魔王を倒し戦乱を終わらせた『勇者』という肩書が必要だったのかもしれない。

 

 2人の間には大きな隔絶した力の差があるが、クラウディアは何度でも挑戦できる。全盛期の自分とはいえ、100回も不意を突けば1回くらいは殺せるはずだ。

 

「で、ホワイトちゃんの話だけどね」

「ホワイト?ここでどうして、その名前が出てくる?」

「あの子はいわば『シャガナル』を目覚めさせるための鍵、だね。世界に存在し続けて、『世界の活力』の枯渇具合を、本体に送信する役割を持ってる。『不死女王』として人類に存在を確認される遥か昔から、それこそ天地開闢から、ずっとアレは世界を監視し続けているんだよ」

 

 神とやらが造った世界のシステム。

 世界が寿命を迎えそうな瞬間に、再生の使命を負った龍を目覚めさせる破滅の巫女。世界は救われるだろう。その時代に暮らしていた人々の犠牲の上に。その始まりを告げる存在こそがホワイトだった。

 

「だから、アレを弄れば『シャガナル』を無理やり目覚めさせることも不可能じゃない。というか、研究所の親玉はそれを狙ってる訳だけど」

「……ッッ!!それって不味いんじゃないか!?………いや、まさか。その為のラケンハイルかッッ!!まさかお前、そこまでして、人を救おうしているのか!?」

 

 ローランはうめき声を上げた。

 目の前の少女の怪物性を、漸く正しい形で認識したのだ。

 そして、彼女が『誰』を救おうとしているのかも、理解した。

 

 クラウディアはその薄い唇を三日月に割いて笑う。

 

「正解。このラケンハイルは『魔法都市』だ。魔法に秀でた人間が集まっている。そうなるように私が基礎をつくり、整えた。そして、活動を止めた『シャガナル』の身体もここに眠っている……!そうだよ!1000年前と同じことを、ここではより効率的に行える……!!ここで適当に捧げれば、『世界の活力』の寿命はまた延びる!!」

「何千年後の人間を救おうって言うんだッ!?」

 

 ローランの指摘をクラウディアは冷ややかに受け流した。

 

「人の命は平等だよ。だから、その数にだけ価値がある。救った数にだけ価値がある。未来でも、過去でも、それは変わらない。命の価値に貴賤はない」

 

 ここにはいない誰か。

 まだ産まれてもない筈の誰か。

 

 

 それをクラウディアは救おうとしている。何千人後の人々の為に、今生きている人間を犠牲にしようと考えている。少なくともその考えの元、ラケンハイルを創った。

 

 

「………………ははっ」

 

 ローランは笑った。

 目の前の少女が、『死ぬまで』、或いは『死んだ程度』では変わらなかった事が分かったからだ。それが憎らしくもあり、嬉しくもあった。

 

「ああ、お前はやっぱり僕の敵だな」

「うん、知ってる」

 

 

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