~チトSide~
繁栄と栄華を極めた人間達の文明が崩壊してから長い年月が過ぎた。
生き物のほとんどが死に絶え、全てが終わってしまった世界。
残されたのは廃墟となった巨大都市と朽ち果てた機械だけ‥‥。
いつ世界は終わってしまったのか?
なぜ世界は終わってしまったのか?
そんなことを疑問にさえ思わなくなった私達は、雪が降りしきる終わりの世界を――延々と続く廃墟の中をあてもなく今日もただ彷徨う。
空に近い上層部の街を目指して‥‥
此処まで私達を運んでくれたケッテンクラートはもう無い。
私達は必要最低限の荷物だけを持って上を目指して歩いている。
此処まで一緒に旅をして来たユーも銃を捨てた。
最近は眠ってもまったく夢を見ない。
多分身体が疲れ果てて夢を見る暇さえもないのだろう。
一日中歩いて疲れているからすぐ眠り、次の瞬間、寒さで目が覚める毎日をここ最近は送っている。
意識が無い間、私達は本当に生きているんだろうか?
一瞬、死んだりしているんじゃないだろうか?
そんな事を考えると、生と死の境がぼんやりして行くようで‥‥
少し怖い‥‥
車両も銃も既になく、遂には此処まで大事にしていた本も今は私達の暖を取る為の燃料になっている。
そして、これまで私が書いてきた日記も‥‥
今の私達に必要なのは本の中身よりもそれを燃やして温めたお湯。
そして寒さを少しでも和らげてくれる火だ。
多分、私は忘れるのが怖かったのだろう。
まるで夢の無い深い眠りみたいに‥‥
自分の記憶にぽっかり穴が開いてしまうのが‥‥
だけど大丈夫‥‥
毎日ちゃんと目は覚めるから‥‥
私達はまだ生きている‥‥
でも、それはあとどれくらいだろう?
燃やす為の本も食べ物も残り少ない。
本と食べ物が尽きる前に上層へ辿り着けるだろうか?
例え上層に辿り着いたとしてもそこに食べ物はあるだろうか?
そんな不安が常につき纏うが私は決してそれを口にしない。
したら、ユーも不安がるだろうし、私自身、理性が持つか分からないからだ。
下層を旅した時、数多くの建物や壊れたり止まった機械を見てきた。
それを見る限り沢山の人が居た形跡があった。
でも、その数多くいた人達はどこかへと消えた。
その人達は今は上層にいるのだろうか?
でも、居るとしたらどうして下層に人が残っているのかを確かめないのだろうか?
助けに来ない、確かめに来ないという事は上層でも人は‥‥
ヌコは、
『この都市での活動は殆ど終えた。やがて都市はゆっくりと停止していくだろう』
と言っていた。
つまり、下層の都市は既にその役割を終え、死のうとしている。
そして、ユーはヌコに下層の都市にはもう人が居ないかと言う質問をした。
その質問に対してヌコは、
『最上層以外の殆どの場所を観測しているが、現在生きている人間は君達二人しかしらない』
と、言っていた。
私達二人だけ‥‥
と言う事は、カナザワもイシイも私達と別れた後‥‥
いずれは私達も‥‥
魚を育てていたあの機械も何時かは『死ぬ』と言っていた‥‥
いつか終わりが来るのは分かっている。
もし、上層に人がおらず、この地球で生きている人間が私達だけだったら‥‥
死を迎える時、あの墓地で自分が生きていた証を残せた人と違って私達は生きた証を残せるだろうか?
私達が生きてきた証である日記帳は私達を生かす為の燃料になっている‥‥
でも、それもこれが最後だ。
「どう?最後の日記を燃やして飲むコーヒーの味は?」
「おいしいよ」
「‥‥」
私は火の中で燃えている日記帳だったものをジッと見る。
「きっと大丈夫だよ。ちーちゃんは記憶力がいいから」
「そうだね」
私達が生きていた事を証明する証はこうして火の中へと消えた。
もう、私達が生きていた事を証明するものは何もない‥‥。
私達は誰にも知られずただ寂しく死んでいくしかないのだろうか?
この日は螺旋階段のある建物の中で過ごした。
建物の中と言う事で少しは寒さを凌げる為、外よりはマシだった。
「ん?」
その時、ユーが何かを見つけたのか、急に立ち上がり床に落ちている何かを拾った。
「ねぇ、ちーちゃん。見てみて!!」
「なんだ?」
「これ、キラキラ光る何かを見つけた」
ユーの手には金色で円形の金属質のモノがあった。
「それは多分、金貨だ」
「きんか?」
「そう‥昔の人はそれを引き換えに食べ物や生きていく中で必要な物を交換していたって本に書いてあった」
「ふうん‥これが食べ物にねぇ‥‥」
ユーは金貨を見ながら呟く。
「‥‥尤も今となっちゃ、何の価値もないゴミ同然だよ」
「でも、何か綺麗じゃない?丸くてキラキラしてまるで月みたいだよ」
ランタンの光を浴びてキラキラと輝く金貨を見つめるユー。
「ユー‥‥もう、寝よう」
いつまでも起きていて無駄に体力を消耗するわけにはいかない。
私はユーに寝るように促し、寝袋を広げて横になる。
ユーも駈け寄って来て寝袋の中に飛び込む。
横になっていると、普段ならすぐに眠ってしまう筈なのに、今日に限って中々寝付けない。
「ねぇ、ちーちゃんは死ぬのは怖い‥‥?」
ユーが突然そんな質問をしてきた。
私の答えは勿論、
「‥‥怖いよ」
「私も」
「‥‥」
ランタンの燃料があとどれくらい持つか分からないから明かりは消している。
火もなく、建物の中と言う事で寒さは凌げるけど、電気が通っていないから辺りは真っ暗闇‥‥
そんな時、死について語るなよ‥‥縁起でもない‥‥
でも、こんな状況だからこそ、そう思ってしまうのかもしれない。
普段は能天気で食べ物にしか興味が無いユーもヒタヒタと自分達に近づいている『死』を薄々予感しているのかもしれない。
「‥‥私‥暗い所って苦手‥‥」
またユーが突然口を開いた。
「そんなの初めて聞いたぞ」
前にユーが「この穴に入ってみよう」と言って何日も暗い工場のような所を彷徨ったことがある。
暗いのは苦手ならば何故、入ろうと言ったのだろうか?
でも、その時も、魚を育てている機械と出会った工場の時もユーは「くらーい、くらーい」と言って必死にそれを誤魔化そうとしていた‥そしてランタンを点けようとしていた‥あの時は「うるせぇ」と言って黙らせたが、ユーにそんな弱点があったなんて知らなかった。
もし、知っていたら、もう少し違う態度を取っていただろうか?
いや、無理だな。
そう言えば、寺院に居た時もユーの声は少し震えていたような気がする。
「あれ?言っていなかったっけ?」
「ああ」
「ずっと、昔‥‥どこか暗くて狭い場所に一人でいて‥‥それがすごく怖かった気がする」
「昔?」
「ずーっと昔‥‥まだ生まれてすぐの頃‥‥いや、生まれる前かも‥‥」
「‥‥そんな昔の事覚えていないだろう?」
「覚えていないよ‥‥気がするだけ」
「ふうん‥‥」
「ねぇ、ちーちゃん」
「なんだ?」
「今日は手繋いで寝よう」
「‥‥しょうがないな」
私はユーの手を握る。
光もなく、どこまでも続く暗闇の世界‥‥
暗闇から来て暗闇へと還って逝く‥‥
これが生きるということなんだろうか?
握っているユーの手が時々震えるのが分かる。
少し強めに握り返すと、また握り返してくる。
大丈夫‥‥私達はまだ生きている。
生きているから‥‥
私は‥いや、私達は明日の朝も再び目を覚ます事が出来るようにと祈りながら瞼を閉じた‥‥
二人が眠りにつき、それから一体何時間が経っただろうか?
建物の中は窓が一切無い為、外が朝なのかまだ夜なのか判断がつかない中、何処からともなくいい匂いがしてきた。
その匂いはユーリの鼻腔を優しく刺激する。
「ん~?」
匂いに釣られてユーリは身体をよじりながら起き上がる。
「ちーちゃん、ちーちゃん、起きて!!起きて!!ちーちゃん!!」
隣で眠っていたチトの身体を揺すって起こす。
「なんだよ?ユー」
チトは目を擦りながら、起きる。
そして、心の中で目を覚ます事が出来た事を喜んでいた。
(良かった‥‥今日も無事に目を覚ます事が出来た‥‥)
(それにユーも生きていた‥‥)
それと同時に相方が生きている事にもホッとしていた。
「ねぇ、ちーちゃん。何かいい匂いがしない?」
「匂い?」
「うん」
ユーリに促されてチトは鼻をひくひくさせて辺りの匂いを嗅ぐ。
すると確かにユーリの言うように何かいい匂いがする。
チトが辺りを確かめる為にランタンを点けると、そこには昨日、寝る前まではなかった扉が出現していた。
「あれ?あんな扉あったっけ?」
「いや、無かったと思う‥‥」
二人はランタンの明かりを頼りに扉へと近づいた。
扉には二人が見た事のない奇妙な生き物を模した看板と、これまた二人には見慣れない文字が書かれていた。
「ちーちゃん、これなんて書いてあるの?」
ユーリがチトに扉に書かれている文字について尋ねる。
「な、なんだろう?」
これまで沢山の本を読んできたチトにも扉に書かれている文字が分からない。
「‥‥入ってみようか?」
ユーリは扉を開けてみようかと言う。
「危険じゃないか?何があるか分からないんだぞ」
既に身を守るための銃は捨てている。
扉の向こう側にはどんなモノがあるのか分からない。
「でも、この扉からいい匂いがするし、もしかしたら食べ物があるかもよ」
「で、でも‥‥」
ユーリは扉の向こう側へ行く気満々であるが、チトは決断をなかなか下せない。
確かにユーリの言うようにこの扉からいい匂いがしており、この扉の向こう側には食べ物があるかもしれない。
それでも危険が無いとは言い切れない。
ここ最近の状況で死について考えるあまりに慎重‥と言うより臆病になっているチト。
「いいから行くよ」
「ちょっ、ユー!!」
ユーリはチトの手を握り、もう片方の手で扉のノブに手をやり、扉を開ける。
すると、扉についていたベルがチリン、チリンと鳴る。
それに合わせ「いらっしゃいませ!」と叫ぶ元気な声。
目の前の空間にユーリとチトは唖然とした。
扉の向こう側は温かく、そして電気が通っており明るい。
そして、二人の目の前には山羊の様な角を頭に生やした少女と黒髪で耳の長い少女が居た。
(いらっしゃいませ)
「「っ!?」」
突如、二人の頭の中に声がした。
その声を聞いてびっくりしながら二人は辺りを見回す。
やがて、奥の方から、
「らっしゃい」
と白い服に白い帽子を被った男の人が出てきた。
(カナザワと同じ男の人‥‥)
(ヌコはもう、この都市には私達以外の人間は居ないって言っていたけど、まだ人が居たんだ‥‥)
二人は白い服を着た男の人をジッと見つめる。
「えっと‥‥」
男の人は何だか気まずそうな感じだ。
「すみません‥あの‥‥ここは‥‥一体何なんですか?」
チトが恐る恐る男の人に此処が何なのかを尋ねる。
「ここは『ねこや』っていう洋食‥‥いや、料理屋ですよ」
すると、チトの質問に男の人は此処がどんな場所なのかを教える。
「料理!?」
料理と言う言葉に反応したのはユーリだった。
「料理ってことは食べ物を食べられるの!?」
ユーリは男の人に詰め寄るかのように近寄って顔を近づけて質問する。
「あ、ああ‥‥お客さんそう言えば初めて見るけど、何処から来たんだ?」
「私達は‥‥」
チトは男の人に自分達がどんな世界から来たのかを話した。
「世界が終わった世界‥‥」
「そんな世界があるなんてな‥‥でも、同じ地球って‥‥あっいや、でも、今日、この日にこの扉から来たって事は‥‥」
山羊の角を生やした少女は信じられないと言う様子で男の人は何かブツブツと呟いている。
黒髪に長い耳の少女はジッと様子を窺っている。
でも、何か思う事があるのか、複雑そうな顔をしていた。
「お嬢ちゃん、この店も地球にあるんだ」
「えっ?」
「地球に?」
「ああ‥地球の日本って国にあるんだが‥‥」
「にほん?」
「そんな名前の国聞いたことが‥‥あっ、でも海の向こう側の国かも‥‥」
「でも、それ以前にここは、異世界食堂だ」
「「いせかいしょくどう??」」
「ああ、ここは七日に一度、不特定に空間にひずみが生じ、異世界と繋がるという不思議な店なんだ。だから、この世界の地球とお嬢ちゃん達の世界の地球とはきっと別物の地球なんだろうな」
「そんな事が‥‥」
チトには目の前の現実が信じられなかったが、
ぐぅ~
今はこの空腹を満たしたかった。
「ねぇ、食べ物があるなら私達も食べていいの?」
ユーリはすっかり、この変な状況なんて関係なく、今すぐ食べ物を食べたい様子だ。
「ああ、いいぞ」
「わーい!!やった!!」
「ちょっ、ユー!!」
「なにさ、ちーちゃん」
「お前、何を言っているんだよ?こんな訳も分からない所で‥‥それに、食べ物を食べるにしたって、多分、何かと交換しないといけないんだぞ」
今までは人のいない所で食べ物や生きていくのに必要な物を調達してきたが、こうして人と人とのやり取りの場合、等価交換が原則である。
しかし、今の自分達に交換できるようなものは何もない。
すると、ユーリは、
「ああ、それなら~」
ゴソゴソとコートのポケットの中を探ると、昨夜見つけた金貨を取り出す。
「ねぇ、これと食べ物を交換できる?」
ユーリは男の人に金貨を見せて、食べ物と交換できるかを問う。
「ああ、大丈夫だ」
男の人はユーリの金貨と食べ物を交換できると言う。
「ほら、ちーちゃん。交換できるって、折角だから食べて行こうよ」
「お前なぁ~」
ユーリの言動に呆れつつもチトは心の中ではユーリに感謝していた。
「では、お席の方にご案内いたします」
山羊の角を持つ少女がユーリとチトの二人を席に案内する。
二人はリュックを下ろし、頭にかぶっていたヘルメット、コート、手袋を脱いで席に着く。
「メニューですけど、お客さん‥東大陸語は分かりますか?」
「「ひがしたいりくご?」」
山羊の角を持つ少女が言う『東大陸語』と言う言葉に首を傾げる二人。
「あっ、マスターと同じ地球の出身でしたら、普段のメニューの方が良いですか?」
「あっ、うん」
「分かりました」
そして山羊の角を持つ少女は平日、ねこ屋が使用しているメニューとお水、おしぼりを持って二人の下へとやって来て、
「ご注文が決まりましたら、お声かけください」
そう言ってテーブルから離れる。
「ねぇ、ちーちゃん」
「なんだ?」
「あの人、なんで頭にあんなものを着けているんだろう?」
ユーリはあの山羊の角が気になっている様子。
「さあ‥趣味‥じゃないか?」
「ふうん‥じゃあ、あの人‥なんか耳が尖っていない?」
次にユーリは黒髪の少女の耳が普通の人と違っている事を指摘する。
「お前だって金色の髪に青い目をしているじゃないか‥そう言う生まれをしたんだろう」
「そっか‥‥」
何かうやむやにされた様な感じであるが、一応納得した様子のユーリ。
すると、また扉が開き、ベルがチリン、チリンと鳴る。
新しいお客が来た様だ。
「かつ丼大盛り!!」
「「‥‥」」
入ってきたのはどう見ても人間ではなかった。
「ちーちゃん、あの人なんなの?」
「わ、分からない‥顔を見ると、ライオンって動物に似ているけど‥‥」
すると、また扉が開き、ベルがチリン、チリンと鳴る。
入ってきたのは、
「オムライスオオモリ、オムレツサンコモチカエリ」
「「‥‥」」
またもや人には見えないお客が入ってきた。
「ちーちゃん。アレは?」
「‥トカゲ?」
三度目に扉が開くと、人の姿には見えるのだが大きさが物凄く小さく、背中に虫の羽根を生やした人達が入ってきた。
「ちーちゃん、アレはなに?」
「以前、本で見た妖精って種族に見えるけど‥‥」
そして、四度目に入ってきた客は、
「「こんにちは」」
人の姿に似ているのだが、背中には白い鳥の様な翼があり足はそのまま鳥の様な足をした男女が入ってきた。
「ちーちゃん、アレは?」
「な、なんだろう?背中に翼があるって事は天使?でも、頭の上に輪っかがないし、足の形が少し変だし‥‥」
五度目に入ってきた二人の男の人はこれまでの客と違いちゃんと人の姿をしており、長いひげを生やしていたのだが、自分らとあまり変わらない身長の男達だった。
「‥‥なんか、あの人達少し背が小さくない?」
「あまり人の身長について触れてやるな、本人は物凄く気にしているかもしれないだろう」
チトはユーリに男達の身長には触れてやるなと注意した。
だが、これまで入ってきたお客はチトがこれまで本で知り得てきた知識には計り知れないお客ばかりだ。
そんなお客たちを恐れる事無く、接客している山羊の角を持つ少女と黒い髪の少女。
そして、そんなお客たちが注文する料理を作る男の人。
男の人が作る料理はどれも見た事の無い料理だが、見た目は物凄く美味しそうで、しかもいい匂いがする。
料理を食べている人達は皆笑顔で活力が満ちている。
扉から匂ってきた良い匂いはこの男の人が作った料理なのだと悟ったチト。
「ちーちゃん、私は今、お腹が滅茶苦茶空いた‥‥私達も何か頼もうよ」
「そうだな」
周りのお客に唖然としたが、それも慣れてくると二人は今まで忘れていた空腹が押し寄せてきたので、自分達も料理を食べることにした。
しかし、いざメニュー表を見てみると、
「ちーちゃん‥なんて書いてあるか分かる?」
「‥‥わ、分からん」
メニューに書いてある文字が読めなかった。
チトがメニュー表とにらめっこしていると、
「お待たせしました。ビール大ジョッキとシーフードフライです」
山羊の角を持つ少女が身長の小さな男達に金色の泡立つ飲み物が入ったガラスのコップと料理が乗ったお皿をテーブルに置く。
「ちーちゃん、アレ見て、アレ」
「ん?アレは‥‥」
「ねぇ、アレ、『びう』じゃない?」
「この世界にもあったんだ‥‥」
何度か飲んだ事のあるシュワシュワの金色の水‥びう‥‥それが、この扉の向こう側である異世界食堂にも存在していた。
「すみませーん」
ユーリが山羊の角を持つ少女に声をかける。
「はい。ご注文は決まりましたか?」
「あの、びうをください」
ユーリは小柄な男達が飲んでいる大ジョッキを指さしながら早速、びう(ビール)を注文する。
すると、山羊の角を持つ少女は気まずそうな顔をして、
「あの‥‥すみませんが、お客様は二十歳を過ぎていますか?」
山羊の角を持つ少女‥アレッタはこの異世界食堂で働く前の研修で店の店主からビールなどのお酒を出すのは二十歳を過ぎているお客様だけと言われていた。
その為、見た目が二十歳未満っぽい姿のお客がお酒を注文した場合、念の為年齢を聞くように言われていた。
「はたち?」
アレッタの言う『二十歳』の意味が分からず首を傾げるユーリ。
「ああ、二十歳って言うのは、生まれてから二十年経ったかという意味なんですけど‥‥」
「ちーちゃん、私達って生まれてから二十年経った?」
「いや、多分経っていないだろう」
ユーリがチトに自分らが二十歳なのかを尋ねると、チトはまだ二十歳未満だと言う。
「あの‥二十歳未満のお客様にはお酒を提供できない決まりになっておりまして‥‥」
アレッタは申し訳なさそうに二人にびう(ビール)は提供できないと言う。
「ええっー!!そんなぁ~あのシュワシュワが目の前にあるのに飲めないなんてぇ~」
ユーリはびう(ビール)が飲めない事に物凄く残念がっている。
「諦めろ、ユー。規則なら仕方がないだろう」
「規則とは破る為にあるんじゃないのか?」
「あまり店の人に迷惑をかけるな」
「あの‥シュワシュワのある飲み物でしたら、ビール以外にもありますから、代わりにそちらはいかがでしょうか?」
アレッタは、ビールは出せない代わりに炭酸飲料を二人に勧める。
「他にもシュワシュワの飲み物があるの!?」
ユーリはびう(ビール)の他にシュワシュワな飲み物が飲めると言う事でさっきのがっかりから一転し、目を輝かせている。
「はい。えっと‥‥」
アレッタはメニューのページをめくり、ソフトドリンクのページを開き、
「このページにあるクリームソーダ、コーラフロート、レモンスカッシュがお客様の言うシュワシュワのある飲み物です」
「おぉーちーちゃん、見てみて、緑色の水に茶色い水、少し白い水だよ」
「そうだな」
「ねぇ、ちーちゃんはどれを飲む?」
ユーリはチトにソフトドリンクのページを見せ、彼女にどのジュースを飲むかを尋ねる。
「‥‥」
ユーリに訊ねられ、チトはチラッとページを見る。
(緑色の水と白い水は何か、洗剤を思わせる色だな‥‥茶色い水はコーヒーみたいだけど‥‥それに一番上に乗っかっている白いヤツ‥これは雪かな?)
緑色の水と茶色い水の一番には白い雪の様なモノが乗っかっている。
多分、飲み物を冷やす為に乗せているのだろうと判断するチト。
「じゃあ、このコーラフロートってヤツを‥‥」
「私はこのクリームソーダ」
「はい。その他にご注文はありませんか?」
アレッタが追加の注文を尋ねる。
すると、
「ああ、そうだ。私達、此処に書かれている言葉が分からなくて‥‥」
「えっ?ここの文字が‥ですか?」
チトとユーリは店主と同じ地球人なので、普段地球で出しているメニューは読めるモノだと思っていたが、意外にも二人は地球の文字で書かれているメニューが読めないと言う。
その為、アレッタは少し困惑する。
「うん。だから、どんな料理があるのか説明してくれる?」
ユーリはアレッタにこの店にはどんな料理がるのか口で説明してくれと言う。
「は、はい。では、お客様は何か食べたい食材はありますか?」
アレッタはまず、肉、魚、野菜の料理でどんな食材を使用した料理を食べたいかを尋ねる。
「魚!!」
ユーリは即答で魚料理を食べたいと言う。
「魚料理ですと、おすすめはあちらのお客様が食べているシーフードフライか‥‥」
アレッタは小柄な男達‥ドアーフ達が食べているシーフードフライか
「あちらのお客様が食べているカルパッチョがおすすめです」
背中に翼を生やしている男女‥セイレーンが食べているカルパッチョを勧める。
「ふらい?かるぱっちょ?」
聞いた事の無い料理の名前に首を傾げるユーリ。
アレッタがユーリにフライとカルパッチョについてどんな料理なのかを説明する。
これまで聞いた事の無い料理の内容を聞くだけでユーリの口の中には涎が溜まる。
元々食べ物に対する執着が強いユーリが頼んだのは、
「じゃあ、両方」
ユーリはシーフードフライとカルパッチョの二つを注文した。
「ちーちゃんは?」
ユーリは一先ず注文を終えたので、次にチトに何を食べたいかを尋ねる。
「私か?私は‥‥」
チトは読めないながらもメニューと再びにらめっこをしていると、ふと、これまでの旅の中で気になった食べ物の名前が出てきた。
「あの‥‥」
「はい」
「チーズを使った料理はありますか?」
「チーズですか?」
「うん‥それとチョコレート」
「チョコレートですと、こちらのチョコレートパフェか」
アレッタはデザートのページに載っているチョコレートパフェと
「あちらのお客様が食べているチョコバナナクレープがおすすめです」
妖精たちが食べているチョコバナナクレープを勧める。
「どちらもデザートなので、お食事後に食べた方が美味しくいただけますよ」
「わかった。じゃあ、まずはチーズを使った料理を‥‥」
「チーズを使ったお料理ですと‥こちらのチーズチキンカツがおすすめです」
「チーズ‥チキン‥カツ‥‥じゃあ、それで‥‥」
本で得た知識でもチーズチキンカツと言う料理をチトは知らなかった。
チーズチキンカツ‥一体どんな料理なのだろうか?
それに今まで気になったチーズをレーションではない料理として食べる事が出来る。
それにその後はもう一つ気になった食べ物‥チョコレートも食べられる。
先程見たチョコバナナクレープも美味しそうだったが、チョコレートパフェも絵で見る限り美味しそうだった。
「お客様は、鶏肉は大丈夫ですか?」
アレッタはチトに鶏肉は食べても大丈夫かと尋ねる。
種族や宗教によって同じ肉でも食べていいモノと食べてはいけないモノがある。
「とりにく?」
魚でも芋でもレーションでもない食べ物‥肉‥‥
これまでの旅の中で、食べられるものはすべて食べてきた。
そんな生活をして来た自分に食べられない食べ物なんてない。
「大丈夫」
チトはアレッタに鶏肉を食べても大丈夫だと言う。
「分かりました。では、ご注文を確認させてもらいますね。クリームソーダ、コーラフロート、シーフードフライにカルパッチョ、チーズチキンカツですね?」
「うん。チョコレートのデザートは食べ終わった後にまた頼む」
「はい。分かりました。付け合わせはパンとライスがございますが、どちらになさいますか?」
チトとユーリにとってパンは聞き慣れて尚且つ以前に食べた事のある食べ物であったが、ライス‥お米は未知の食べ物だった。
注文した料理も二人にとっては未知の料理であったが、二人は無難にパンを選んだ。
注文を聞いたアレッタは厨房の奥へと姿を消し、
「マスター、オーダーです。クリームソーダ、コーラフロート、シーフードフライにカルパッチョ、チーズチキンカツを一人前ずつ」
店の店主にオーダーを伝える。
「あいよ」
アレッタからオーダーを聞いた店主は早速注文の品の料理を作り始めた。
チトとユーリは胸を躍らせながら注文した料理が来るのを待った。
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