「「‥‥」」
その日、チトとユーリは緊張した面持ちで冷蔵庫の中からガラス製の密封瓶を取り出す。
其処には金色のはちみつにどっぷりと漬けられた桃の果肉がぎっしりと詰められていた。
事の発端は約一ヶ月ほど前に遡る。
ユーリがとあるアニメの話の中に登場した桃のはちみつ漬けを食べてみたいと言う発言から始まり、チトが作り方を調べたのだが、肝心の材料が手に入らなかった。
そんな時、ユーリの友達の一人、琴吹紬が材料を揃えてくれると言う事になり、それからすぐに紬はねこやに桃のはちみつ漬けに必要な材料と密封瓶を送ってくれた。
しかし、チトにとっての誤算は紬が大量の材料を送って来た事だった。
だが、紬の行為はユーリに関しては、これは嬉しい誤算だった。
何しろたくさんの桃のはちみつ漬けを食べる事が出来るのだから‥‥
季節感を無視したこの大量の桃の山‥‥
一体何処から手に入れてきたのだろうか?
まぁ、今更そんな事を考えても仕方がない。
折角こうして紬が材料を揃えてくれたのだ。
ちゃんと作らなければ食材を用意してくれた紬にも用意された食材にも失礼だ。
「さて、それじゃあ、やるか」
「おおー!!」
チトはユーリにも手伝ってもらい、桃のはちみつ漬けの製作に取り掛かった。
「ユー、大鍋に水を入れて沸かして」
「ん?いいけど、お湯なんて何に使うの?」
「桃と蜂蜜を入れる密封瓶を消毒する為に使うんだよ」
「消毒?お湯で?」
「そう、はちみつに漬けるとはいえ、れっきとした漬物だからね、このあと数週間の間、冷蔵庫の中に桃を漬けるんだ。もし、瓶の中に細菌が入っていたら、瓶の中の桃が腐って食べられなくなるぞ」
「そ、それは大変だ」
チトの説明を聞いてユーリは大鍋に水をはって火にかける。
折角楽しみにしていた桃のはちみつ漬けが食べる事無く腐るのはユーリにとっては死活問題だった。
お湯が沸く間、チトは具材の準備に入る。
まず、水洗いをした桃の割れ目に包丁の刃を入れて、桃の実を回しながら切る。
切り込みを入れたら、両側をねじると簡単に二つに分ける事が出来た。
種はスプーンでほじくって取り出す。
そして、手で桃の皮を剥く。
桃の皮を剥いた後、食べやすい大きさに桃をスライスする。
そんな中、チトはスライスした桃を一切れ味見する。
季節外れとは言え、桃の味は嚙みしめると口の中には甘い果肉、そして「こんなにも」と思うくらいの甘い桃の果汁が、口一杯に広がり、桃独特の甘い香りが鼻腔に抜ける。
「はむっ‥‥モグモグ‥‥うむ、美味い」
「ああっー!!ちーちゃん、ズルイよ!!」
チトが桃を味見したのを見たユーリが自分も食べたと言う。
「ぬー‥仕方がないな‥‥でも、あまり食べ過ぎるなよ」
「大丈夫、大丈夫」
「いや、お前の大丈夫はあまりあてにならないんだが‥‥」
そう言ってチトはユーリに桃を手渡す。
チトはユーリにあまり桃を食べるなと言ったが、ユーリはその後、桃を三つまるまる食べた。
だが、これだけの沢山の桃‥三つぐらい大した影響はなかった。
続いて桃と一緒に漬けるイチジクの皮を剥きスライスする。
勿論、イチジクもスライスした後、チトとユーリは味見をした。
桃同様、イチジクも口の中に入れると、とろりとしたジューシーな果肉と果汁がした。
ただ、イチジクは桃よりも数が少なかったので、ユーリに食べさせるのは一つまでにさせた。
桃とイチジクの準備が出来、次は風味を際立たせる為の生姜の皮を剥いて、摩り下ろす。
「ちーちゃん」
「ん?」
「生姜は味見しないの?」
「‥‥いや、そこまではしなくてもいいだろう」
辛味のある生の生姜は流石のチトも食べる気にはなれなかった。
「‥‥もしかして、ちーちゃん。辛いの苦手?」
「‥‥」
ユーリの指摘にチトはプイっと視線を逸らす。
「しょうがないなぁ~じゃあ、代わりに私が‥‥」
そう言ってユーリは生の摩り下ろした生姜を一つまみして口の中へ入れる。
「っ!?」
生の生姜のすり身を口に入れた途端、ユーリは水道へと走り、水を大量に飲んでいる。
「‥‥」
ユーリでも生の生姜はきつかったみたいだ。
次に桃を漬ける為のはちみつの味見をするチト。
紬が用意したはちみつは、琴吹家の経営する養蜂場で取れた上質なはちみつで、癖がなく上品なコクがありソフトでまろやかな舌ざわり、ほんのりと酸味があり、フローラルな香りがした。
そして、あと味がスッキリして喉がやける様なハチミツ特有のドロッとした甘さは感じさせなかった。
先程、生の生姜をダイレクトに食べたユーリは、はちみつを食べて生姜の辛さを中和させた。
そして沸いた鍋のお湯の中に密封瓶を入れて瓶を煮沸消毒して瓶を清潔にする。
消毒した密封瓶にスライスした桃を入れ、次にイチジクを入れ、その次に少量のアーモンド、その順番を繰り返して瓶が一杯になるまで詰めていく。
最後に生姜を入れた後、はちみつをたっぷりと上からかけて密封瓶をはちみつで満たし、蓋をする。
「さあ、これで後は冷蔵庫に入れるだけだ」
「おおおぉ‥‥」
出来上がった桃のはちみつ漬けを見てユーリは感嘆の声をあげる。
でも、これはあくまで最初の一つ‥‥
まだまだ桃やイチジクは沢山残っている‥‥
「さて、次を作ろう」
「おおー!!」
こうしてチトとユーリは二つ目の作業に取り掛かった。
そして時間は流れ‥‥
「こ、これで‥‥」
「最後‥‥」
あれだけ沢山あった桃のはちみつ漬けの材料をすべてはちみつ漬けにしたのは始めてから三時間経ってからだった。
「ぬー‥‥手がいってぇ‥‥」
桃とイチジクを沢山切ったチトの手はプルプルと痙攣していた。
そりゃ、三時間ぶっ通しで果実を切っていたら痙攣を起こすのも当然だ。
「うぉ、なんだ?こりゃ?」
そこへねこやの店主が厨房に所狭しと並べられた桃のはちみつ漬けの量に驚く。
「あっ、テンチョー」
「聞いてはいたが、凄い量だな」
ねこやの店主は、チトとユーリが桃のはちみつ漬けを作ると聞いていたが、まさか此処までの量を作るとは予想外だった。
「アニメでは二ヶ月漬けるって言っていたけど、念の為、一ヶ月にしてみよう」
チトが桃のはちみつ漬けの熟成期間を一ヶ月と決めた。
ねこやは料理屋なので、冷蔵庫は大きなモノがあるので、この大量の桃のはちみつ漬けを保存するには問題はなかった。
それから一ヶ月の月日が過ぎ‥‥
「ねぇ、ちーちゃん」
「ん?なんだ?ユーリ」
「そろそろ、アレ出来たんじゃない?」
「アレ?」
チトはユーリの言う「アレ」について心当たりがなく首を傾げる。
「忘れたの?ほら、桃のはちみつ漬けだよ」
「ああ~」
チトは忘れかけていたが、食べ物に関しては覚えの良いユーリは忘れておらず、そろそろ漬けて一ヶ月になる桃のはちみつ漬けの様子を見てみようと言うのだ。
そして、場面は冒頭に移る。
「「‥‥」」
そしてチトとユーリは緊張した面持ちで冷蔵庫の中からガラス製の密封瓶を取り出す。
「出来ているかな?」
「ぬー‥どうだろう?」
瓶を一つ取り出して、恐る恐る蓋を開けてみる。
煮沸消毒が行き届いている為、中身は無事な様で腐ったような臭いはしなかった。
「「‥‥」」
瓶の中に入っている桃は切る前の薄黄白色だった果肉は、はちみつで一ヶ月漬けたことにより、桃の実は全体が金色に染まっていた。
皿の上に、はちみつに一ヶ月どっぷりと漬かった桃を一切れ乗せる。
「それじゃあ‥‥」
「あ、ああ‥‥」
いよいよ桃のはちみつ漬けの試食をする事になった。
フォークで刺して、桃を恐る恐る口へと運ぶ。
「あーむ‥‥」
まずはユーリが桃のはちみつ漬けを口の中に入れる。
「モグモグ‥‥」
「どう?」
「モグモグ‥‥ゴクン‥‥」
咀嚼した後、ユーリは桃を胃袋へと落とす。
「ぬーん‥‥あまーい‥‥それに美味しい~」
ユーリは顔の筋肉を緩めて桃のはちみつ漬けが美味かった事をチトに伝える。
「‥‥」
ユーリの感想を聞いてチトも桃のはちみつ漬けを口の中へと運ぶ。
はちみつに漬けていただけあって味はかなり甘めであったが、桃の風味をしっかり残し、後からはちみつの味と甘さがやってくる。
「うーん‥‥確かに美味しいけど、ちょっと甘すぎるな‥‥」
チトは桃のはちみつ漬け単品だけでは甘すぎると感じ、冷蔵庫からプレーンヨーグルトを持って来た。
元々ヨーグルトとはちみつの相性は良かったので、はちみつに漬けたこの桃もヨーグルトに合うのではないかと思ったのだ。
ヨーグルトの甘酸っぱい酸味とはちみつに漬けた桃との相性はやはり抜群だった。
「はぁ~美味しい~」
「‥はぁ~」
桃のはちみつ漬けヨーグルトを堪能したチトとユーリ。
その後、二人はねこやの店主にも桃のはちみつ漬けの味を見てもらい、お墨付きをもらった。
桃のはちみつ漬けを取り出してから初めての異世界食堂となりアレッタとクロが来た時も二人に桃のはちみつ漬けを出した。
アレッタは桃を食べるのは、これが初めてなのか、大変桃を気に入り、ユーリ並みに食べていた。
反対にクロは甘いものがちょっと苦手なのかユーリやアレッタほど食べはしなかった。
ユーリは別の日にけいおん部のメンバーを呼んで出来上がったばかりの桃のはちみつ漬けを提供した。
桃のはちみつ漬けを楽しみにしていた唯や律は満面の笑みで桃のはちみつ漬けを食べた。
「うめぇ!!」
「うん、美味しい!!」
「桃のはちみつ漬け‥初めて食べましたけど、美味しいですね」
「うむ、そのままで食べてもいいし、ヨーグルトに混ぜても美味いな」
「ホント、美味しいわ。それに紅茶ともよく合うわね」
けいおん部のメンバーにも桃のはちみつ漬けは好評であり、作った数が多いので一人一瓶お土産として持って帰ってもらった。
その他にもチトは暁の所とチノの所にもクール宅急便で桃のはちみつ漬けを送った。
~木組みの家と石畳の街 ラビットハウスSide~
「ありがとうございました」
「ご苦労様です」
その日、チノは宅急便の業者から荷物を受け取った。
「宅急便?」
「どこからだ?」
「えっと‥‥チトさんからです」
伝票の送り主はチトからだった。
「えっ!?チトちゃんから!?」
意外な人からの宅配便にちょっと驚いているココア。
「はい」
「何を送って来たんだ?」
リゼはチトが何を送って来たのかを尋ねる。
「えっと‥‥伝票では、漬物って書かれています」
「漬物?」
「チトの居る店は確か洋食のお店だから、ピクルスでも送ってきたのかな?」
伝票に『漬物』と書かれていた事、
チトが洋食屋で働いている事から彼女が送って来た漬物がピクルスかと思ったチノ達。
しかし箱を開けてみると、そこには予想に反して密封瓶に入った何かが入っていた。
形状から言っても瓶の中身はどうみてもピクルスではなかった。
「なんだ?それは‥‥?」
「ピクルスじゃないね」
今まで見た事もない形状の漬物に首を傾げるリゼとココア。
「手紙には『桃のはちみつ漬け』って書いてあります」
「桃の!?」
「はちみつ漬け!?」
聞いた事の無い漬物に驚くリゼとココア。
「ねぇ、ねぇ、早速食べてみようよ!!」
「そうだな、どんな味がするのか気になる」
「そうですね。手紙にはヨーグルトと一緒に食べるといいって書いてあります」
「じゃあ、早速ヨーグルトを持って来るね」
「では、私は皿とスプーンを用意しよう」
リゼが皿とスプーンを用意し、ココアが皿の中にヨーグルトを入れる。
そしてチノが桃のはちみつ漬けを瓶から出してヨーグルトの上に乗せる。
「それじゃあ‥‥」
「「「いただきます」」」
桃のはちみつ漬けをヨーグルトに混ぜて食べるチノ達。
「美味しい!!」
「はい‥桃にはちみつ‥ヨーグルトの味がマッチしてこれは‥美味しいです」
「うむ、確かにうまいな」
「ねぇ、チノちゃん。今度、チトちゃんにコレの作り方を教わろうか?」
「そうですね」
チノ達は桃のはちみつ漬けヨーグルトを堪能した。
桃のはちみつ漬けヨーグルトを食べ終えた後、チノは何かを思い出した様子で、顎に手を当てて考え込む。
「うーん‥‥」
「どうしたの?チノちゃん」
ココアが気になって声をかけると、
「あっ、いえ‥‥」
「どうした?何か悩み事か?」
「そうではなく‥チトさんの事で思い出した事があって‥‥」
チノはチトからの贈り物でチトの事を思い出した。
「なになに?」
「チトさん‥毎日、日記を書いていて、私が聞いたら、日記を書く理由が、『自分が生きた証を残す為』って言っていました」
「「‥‥」」
チノから聞いたチトが日記を書く理由に対して固まるココアとリゼ。
「ココアさん、リゼさん」
「なに?チノちゃん」
「なんだ?チノ」
「人は何故生きるんでしょうね?」
「「‥‥」」
「‥‥」
チノの疑問に答える事が出来ないココアとリゼだった。
チノ達ラビットハウスの他にチトは暁の下にも送り、物はちゃんと暁達が居る学生寮に届いた。
「チトから宅配便ですって」
「それで、チトは何を送って来たんだい?」
「伝票には漬物って書いてあるわね」
「漬物‥なのです?」
「あまり臭いがきついのはちょっと勘弁してほしいわね」
チノ達は最初、チトが送ってきた漬物をピクルスだと思っていたが、暁達は漬物と聞いて、よく和食の膳に添えられている野菜の塩漬けや酢漬けの漬物かと思っていた。
そして、箱を開けてみると其処に入っていたのは、密封瓶に入ったはちみつに漬かった黄金色の果実だった。
「ん?何かしらコレ?」
「チトからの手紙には桃のはちみつ漬けと書いてある」
「桃の!?」
「はちみつ漬けなのです!?」
漬物と言うと真っ先に思いつくのが野菜の塩漬け、酢漬けの印象が強かった暁達にとって果実‥しかもはちみつで漬けるなんて前代未聞の代物であった。
「美味しそうなのです」
「そうね、夕食の後のデザートで食べましょう」
「手紙にはヨーグルトに混ぜると美味しいって書いてある」
「ヨーグルトあったかしら?」
雷が食堂の冷蔵庫に行き、ヨーグルトの在庫があるかを確認する。
「大丈夫、あったわ、ヨーグルト」
「じゃあ、今日の夕食のデザートに食べましょう」
暁達はチトから送られた桃のはちみつ漬けをその日の夕食のデザートに食べることにした。
そして、夕食を食べ、いよいよ桃のはちみつ漬けを食べる時間となり、チトの手紙に書いてある通り、ヨーグルトに混ぜて桃のはちみつ漬けを食べた。
勿論、最初はヨーグルトに混ぜる前に桃のはちみつ漬けを食べてみた。
「「「「甘―い(なのです)」」」」
はちみちと桃の甘さに思わず声をあげる暁達。
そして、次にチトの手紙の通りヨーグルトに混ぜて食べてみる。
「そのままでも美味しいけど、ヨーグルトをかけて食べるとより一層美味しいわね」
「Вкусно(ワクゥースナ)!」
「これなら何杯もいけちゃうわ!!」
「なのです!!」
ヨーグルトの酸味と桃とはちみつの甘みが混ざった桃とはちみつヨーグルトは、とてもおいしく、暁達は次々とおかわりを繰り返した。
一瓶あった桃のはちみつ漬けはあっという間に無くなった。
「はぁ~美味しかった」
「なのです~」
桃のはちみつ漬けヨーグルトを食べ終え余韻に浸っている暁達。
そこへ、
「あら?暁さん達」
「いつも四人一緒で仲良しさんですね」
食堂に誰か来た。
「あら?赤城さんに加賀さん」
食堂に来たのは暁達の先輩で弓道部に所属する赤城と加賀だった。
「なんだか、甘い匂いがします」
「あら?そうね」
加賀が食堂からほのかに漂う桃のはちみつ漬けの甘い匂いを感じとる。
「暁さん達の方から匂いますけど‥‥」
「今日のデザートですか?」
「いえ、これは私達の友達からの贈り物です」
「美味しそうな匂いです」
「それは何なんですか?」
「桃のはちみつ漬けなのです」
「桃の!?」
「はちみつ漬け!?」
電からこの甘い匂いの正体を聞いて衝撃を受ける赤城と加賀。
「あの‥それってまだ残っていますか!?」
赤城が暁達にズイッと顔を寄せてまだ桃のはちみつ漬けが残っているかを尋ねる。
暁達に頼んで桃のはちみつ漬けを食べたいみたいだ。
赤城の他に加賀も食べたいのだろう。
表情は変わらないがうずうずとちょっと落ち着かない様子だ。
しかし、彼女達の希望は打ち砕かれる事になる。
「す、すみません」
「もう残っていないのです」
「「ガーン!!」」
既に桃のはちみつ漬けが売り切れと言う事実に大きなショックを受ける赤城と加賀。
よほどショックだったのか、二人とも後輩の目の前にも関わらず、床にorzの姿勢で項垂れている。
「え、えっと‥‥」
「ど、どうしよう‥‥」
「先輩達、元気を出すのです」
項垂れている先輩達の姿を見てどうしたものかとオロオロする暁達。
赤城と加賀はこれでも学校では『頼れる先輩』 『学園のお姉様』と言うイメージで通っていたのだが、目の前で桃のはちみつ漬けを食べられなかった事でショックを受けて項垂れている赤城と加賀の姿を見て狼狽えない方がおかしい。
「先輩、必ず貰える保証はないけど、桃のはちみつ漬けを作った友人にまた送ってくれるように頼んでみるよ」
響が赤城と加賀の二人にチトに追加の桃のはちみつ漬けを送ってくれるように頼んでみると言うと、二人はバッと顔をあげて、
「本当ですか!?」
「ぜひお願いします!!」
響の手を握りしめ、お願いした。
「Д、Да(ダー)」
赤城と加賀のあまりの食いつきぶりに普段は冷静沈着な響もこの時ばかりはちょっと引いた。
流石に夜の時間帯に電話を入れるのも気が引けたので、響は次の日に早速チトの居るねこやに電話を入れた。
「それで、学校の先輩がチトの作った桃のはちみつ漬けを食べたがっていて、よければ、追加で送ってくれないかい?」
「まぁ、まだ沢山あるから構わないけど‥‥」
チトは響にまだ桃のはちみつ漬けは沢山あるので追加で送っても構わないと答える。
「Спасибо! (スパシーバ)」
(響は時々ロシア語が混ざる時があるんだけど、何を言っているのかわらない)
チトが響きと電話をし終えると、
「ん?ちーちゃん、誰かと電話していたの?」
そこにユーリがやって来た。
「この前一緒にカレーを作った私の友達」
「へぇ~ちーちゃんに友達がいたのか‥‥」
「悪いか?」
「いやいや、ちーちゃんが私以外に友人が出来た事は実に喜ばしい事だよ」
ニヤニヤした顔でチトを褒めるユーリ。
「何か、その顔ムカつく‥‥」
「それで、何の話をしているの?」
「ああ、友人の学校の先輩が桃のはちみつ漬けを食べたいみたいだから、追加で送ってくれってさ」
「えええーっ、そんな!?私の食べる分が減るじゃん!!」
「あれだけ沢山あるし、いいだろう。早く食べちゃわないと腐るから勿体ないし」
「ぬー‥‥それでその先輩さんってよく食べる人なの?」
「まぁ、響が言うには見かけによらず食べる方らしい‥お前や以前お店に来たあのセイバーさんみたいに」
「へー‥‥あっ、それなら、私がその人に良いお店を紹介してあげよう」
「いいお店?」
「うん。ちーちゃん、もう一回さっきの人に電話して」
ユーリに促されるまま、チトは響に折り返し電話を入れた。
「あっ、響?ゴメンね、ついさっき電話貰ったばかりなのに」
「いや、気にしていないよ。それで、どうしたんだい?」
「私の…友達?でユーリってヤツが居るんだけど、そのユーがさっき言っていた先輩さん達に紹介したいお店があるって言うんだけど、その先輩さん達の予定で都合のいい日とかを聞いておいてくれる?」
「わかった」
「あっ、あと、その先輩さん達は食べ物で何か嫌いなモノとかってある?」
「いや、先輩達は基本なんでも食べるよ」
「わかった。それじゃあ、日程の方は任せるよ」
「うん」
チトと電話を終えた響は早速赤城と加賀の下に向かい、桃のはちみつ漬けが貰える事を伝えると、二人は物凄く喜んでいた。
そしてもう一つ‥‥
「あっ、先輩達」
「なんですか?」
「なんでしょう?」
「それで、桃のはちみつ漬けをくれる人の友達が先輩達に紹介したいお店があるって言うんだけど、都合のいい日を教えてもらえませんか?」
「それなら‥‥」
赤城は響に部活の休みの日を伝えた。
響はチトに赤城達の所属する弓道部の休みの日を伝え、その日を迎えた。
「はじめまして、ユーリです」
「チトです」
「お話は響さんから聞いています。赤城です。よろしく」
「加賀です」
ユーリとチトは千葉県の津田沼駅で赤城と加賀の二人と出会い、以前ユーリが超無謀パフェに挑戦したあの喫茶店に向かった。
その喫茶店では、
「うっ‥‥だ、だめ‥‥ギブアップ‥‥」
あの時、超無謀パフェに挑戦した女子高生がおり、また超無謀パフェに挑戦してまたもや敗北した。
「まったく、毎度、毎度、懲りずによく挑戦するわね」
リゼ?に似た女子高生が呆れた様子で言う。
「だってぇ~この前、目の前ですんなりとクリアーされたんだぞ~それなら、自分もいけるって思うじゃん!!」
「はぁ~あの時は、あの金髪の子達に声をかけたかったです~」
こけしのような少女はあの時、ユーリと紬に声をかける事が出来なかった事を残念がっている。
「もう、シノったら、金髪なら私がいるじゃない!!」
「そ、そうですね、アリス~!!」
「シノ~!!」
アリスと呼ばれた小柄な金髪とシノと呼ばれたこけしのような少女は和気あいあいと抱き合って百合百合しい空気を出している。
その時、お店の来客を知らせる扉に設置されたベルが鳴る。
「此処がこの前、唯達と来た喫茶店」
入ってきたのは先日、このお店で超無謀パフェに挑戦して見事クリアーしたあの金髪の少女だった。
「あっ、あの人は‥‥」
金髪の少女を見てシノが目を輝かせる。
「むぅ~」
そんな、シノの様子を見て面白くないのか頬を膨らませるアリス。
店員の案内の下、テーブル席に案内されてメニュー表を見る。
「超無謀パフェ‥‥チャレンジさせていただきます」
「負ける気がしません」
赤城と加賀はやる気満々だった。
「すみませーん」
ユーリが店員を呼ぶ。
「はーい」
ユーリに呼ばれ店員がユーリ達の居るテーブル席にやって来る。
「お待たせしました。ご注文はお決まりでしょうか?」
「この、超無謀パフェを三つ下さい」
「はい」
「それとホットコーヒーを一つ」
「はい」
赤城、加賀、ユーリの三人組は超無謀パフェを注文し、チトはホットコーヒーを注文した。
赤城と加賀の二人はメニュー表を見た超無謀パフェの実物が来るのをワクワクしながら待っていた。
やがて、
「お待たせいました。超無謀パフェです」
「うぉっ!?なんだ!?その化け物パフェは!?」
チトはねこやでも提供していない程の大きさを誇る超無謀パフェを見てその大きさと圧倒感に思わず声をあげる。
「美味しそう」
「負けません」
「いただきます」
前回同様、タイマーのカウントダウンが始まり、三人は匙を手にして超無謀パフェへと挑んでいた。
(本当に食べきれるのか?)
チトは三人が挑んでいる超無謀パフェの量に制限時間内に食べきれるのかと懐疑的だった。
しかし、
「「「ごちそうさまでした」」」
制限時間内に三人は超無謀パフェを食べてしまった。
「あの人、また完食しちゃった‥‥」
「凄いデース!」
「流石金髪です」
「だから金髪は関係ないじゃん」
「他の二人の人も完食しちゃっている」
「完食出来ない私が変なの?」
「いえ、普通は逆だから」
「はぁ~‥‥今日もまた罰金かぁ~」
超無謀パフェに挑戦し、敗北した女子高生が項垂れる。
そこへ、
「あ、あの‥‥」
「あ、完食した人!」
女子高生らのテーブルに先程、超無謀パフェを完食した黒髪の女性が声をかける。
「ちょっ、陽子、失礼でしょう!」
「いえいえ、あの、よろしければそれもいただいてもよろしいですか?」
「えっ、いいの!?」
「でもさっき食べたばかりでは‥‥?」
「大丈夫ですよ」
そう言って彼女は二個目の超無謀パフェに挑戦し、
数分後‥‥
「ごちそうさまでした」
少し減っていたとはいえ、二個目の超無謀パフェを完食してしまった。
「ホ、ホントに食べちゃった‥‥」
「まさにブラックホールネ!!」
「あ、ありがとうございました!」
「あのまま残すのは勿体なかったので」
「本当に助かったよ!ありがとう!」
「申し遅れました、私は赤城といいます」
「私、猪熊陽子!よろしく!」
「小路綾です。この度はどうも‥‥」
(やっぱり、リゼじゃなかったのか‥‥)
「私は大宮忍です。」
「あ、アリス・カータレットです」
「ハイ!九条カレンデース!ヨロシクデース!」
(金剛さんではありませんでしたか‥‥)
女子高生らの自己紹介の中でユーリは綾と名乗る女子高生がリゼでは無かった事、赤城はカレンが自分の学校に居る同級生と違っていた事にちょっと驚いていた。
何しろリゼと綾は外見も声も似ており、カレンと赤城の同級生は片言の日本語発音と声が物凄く似ていたからだ。
「赤城さん」
「あっ、加賀さん」
「お友達?‥‥ですか?」
「はい、私の学校の同級生の加賀さんです」
「どうも」
「ヨロシクデース!」
(物静かな人‥でも、この人も赤城さんと同じく超無謀パフェを完食した人よね)
「赤城さん、ズルイな~もう一個食べちゃうなんて」
そこへ、ユーリが赤城に声をかける。
「っ!?」
すると、こけしのような少女、しのこと、忍は徐に席を立つと、
「シ、シノ?」
「ん?どうしたの?」
「行けまセーン!!逃げてくだサイ!」
「えっ?」
「うきゃー!!!!」
「うわっ!?」
忍はユーリに抱き付いた。
「ユー!?」
「ああ~‥‥何という抱き心地‥‥」
ギュウウ‥‥
「ちょっ‥‥何だ?コイツ‥‥苦しい‥‥」
「ああ~シノの持病が発動シテしまいマシタか‥‥」
カレンは『あちゃ~』といった仕草で忍とユーリのやり取りを見る。
(シノォ~‥‥)
アリスは自分以外の金髪の女の子に抱き付いている忍に対して嫉妬心を露わにしている。
「アリスも何かヤバくなってマス!」
「いやーそれにしても御三方、見事な食べっぷりでした!師匠と呼ばせてください!」
「えっ?」
「師匠‥ですか‥‥?」
「ちーちゃん、私にも弟子が出来たよ」
「いや、違うだろう。あっ、申し遅れました。私はチトと言います」
(もう、何よ。陽子ったら‥‥初対面の人にあんなに‥‥)
(なんか、リゼっぽい人が怒っている様な気もする‥‥)
「あ、アヤヤどうかしましたか?」
カレンが声をかけるが、綾にはその声は届いておらず、
(いやいや待て‥‥大丈夫よ‥‥一緒にいる時間はこっちの方が上なんだから、それをアドバンテージにして‥‥)
「ちょっと陽子!赤城さんも加賀さんもユーリさんも困って‥‥」
「ん?」
「はい?」
「えっ?」
ポヨ~ン
(完全に負けたー!)
一緒に居る時間は長くても綾と赤城、加賀、ユーリの三人に比べて女性の象徴の部分は完全に敗北している綾だった。
(な、何よ、アレ‥‥下手すると陽子より大きいかも‥‥やっぱりよく食べる方がいいのかしら‥‥?)
「あ、綾?」
「私もあのパフェ挑戦しようかな‥‥?」
「どういう心境の変化だよ?」
綾の言動に戸惑う陽子だった。
一方、忍に抱き付かれていたユーリは何とか開放してもらった。
「す、すみません。つい興奮してしまって‥‥」
忍は申し訳なさそうにユーリに頭を下げる。
「ハハハハ‥‥まったく、シノはしょうがないデスねー」
「‥‥」
カレンは忍の癖を笑いながら言うが、アリスはユーリの事をジッと睨んでいる。
「ん?どうしたの?お腹でも減ったの?」
ユーリは何故アリスが自分の事を睨むのか見当もつかなかったので、彼女に空腹なのかと問う。
すると、
『初めまして、私はアリスといいます、あなたの名前は?』
アリスは英語でユーリに自己紹介をして尚且つ、ユーリの名前を尋ねる。
『私の名前はユーリだよ』
すると、ユーリは英語で返答した。
「っ!?」
「ユー、お前、英語が分かるのか!?」
ユーリの返答にアリスも驚いたが、一番驚いたのは彼女と一緒に居る時間が長いチトだった。
「ぬーん‥英語の歌を覚える為、ラジオの英会話教室や洋楽を沢山聞いて、洋画をたくさん見ていたら自然に覚えた」
相変わらず自分が興味を持ったものに関しては覚えが良いユーリ。
「ガーン‥‥ゆ、ユーに‥ユーに知識で負けた‥‥」
「ちーちゃん、さりげに酷いことを言うね」
チトでさえ、まだ英語は完全にマスターしていないのに、自分よりも先にユーリに英語で負けた事実にチトは少なからずショックを受ける。
「むぅ~」
予想外のユーリの英語の知識に出鼻をくじかれたアリスはますます頬を膨らませる。
「ユーリさん、凄いです!」
再び忍がユーリに抱き付く。
「これからは是非、師匠と呼ばせてください!」
「ちーちゃん、また弟子が増えた」
「だから、違うだろう」
「さぁ、これから私に英語のご教授を‥‥」
「い、いや、私、ちーちゃんと違って人に教えるのはちょっと苦手で‥‥」
「そう言わずに~」
「ぬいー、は、離せ~」
「ま、またシノに‥‥」
忍に抱き付かれているユーリに対しまた嫉妬の炎を燃やすアリス。
「師匠~」
「えっと‥‥」
「何故この様な事に‥‥」
陽子に抱き付かれている赤城と加賀は困惑する。
もし、この場に赤城の後輩の一人である、吹雪が居たら、きっと彼女もアリスの様に嫉妬の炎に身を焦がしていたに違いない。
「ユー師匠~」
「ぬー‥‥困った‥‥」
「どうすればイイデスかー!?」
「「はぁ~」」
一方、ユーリは忍に抱き付かれ、アリスからにらまれ続けられる。
カレンは事態の収拾がつかずにオロオロ。
綾とチトは溜息をつく。
チトはユーリに英語の知識で負けた事、
綾は赤城、加賀、ユーリの三人に胸の大きさで負けた事がショックだった。
店の中がカオスな空気となり、この混乱を沈めるにはもう少し時間が必要となった。