少女異世界旅行   作:破壊神クルル

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※今回の話はのんのんびよりとのクロスですが、のんのんびよりの原作の時系列を若干無視した形になっておりますが、ご了承ください。



わたしたちののんのんな夏休み

暁達の学校の先輩、赤城と加賀の二人を連れて津田沼のとある喫茶店へとやって来たチトとユーリ。

そこで、ユーリ、赤城、加賀はその喫茶店の名物と言える超無謀パフェにチャレンジをし、見事三人は超無謀パフェを完食した。

その際、偶然この店に来ていた女子高生達に絡まれて店は一時カオスな空間となった。

それを収めたのはこの店のウェイトレスの松原穂乃花だった。

この喫茶店は彼女の実家であり、更に穂乃花は店に来ていた女子高生達の一人、九条カレンと友人だった。

チトとユーリは赤城、加賀の二人の他に穂乃花やカレン達と連絡先を交わした。

この世界に来てからチトとユーリの交友の輪は着実に広がっていった。

 

 

 

 

ドッ、ドッ、ドッ

 

ドドドドドドドドド‥‥

 

ドドドドドドドドド‥‥

 

トトトトトトトトト‥‥

 

トトトトトトトト‥‥

 

トロロロロ‥‥

 

トトトトトト‥‥

 

トトト‥‥

 

 

雪と廃墟の町にケッテンクラートのエンジン音が響き渡る。

 

「上まではまだ結構ありそうだね」

 

ケッテンクラートの荷台からユーリが上を見て、ゴールである上層部の町までまだまだ道のりは遠い事を呟く。

上層部へ続く雪道をチトが運転するケッテンクラートが走っていると、

 

ガッ

 

「!?」

 

ガガガガガガガガ‥‥

 

バキン

 

「あっ」

 

雪道の中に埋まっていた鉄パイプがケッテンクラートの履帯に絡まり履帯が破損してしまった。

チトはケッテンクラートを止めて、損害状況を確認する。

 

「履帯が切れたの‥‥?」

 

「うん‥それだけならいいんだけど‥‥」

 

「?」

 

「嫌な予感がする‥‥」

 

ここ最近、ケッテンクラートのエンジンのかかりがどうも悪かった。

当初は寒さの影響かと思っていたチトであったが、今回履帯が切れた事も重なって嫌な予感がした。

チトはキーを差し込んでエンジンを再始動させるが、鈍い音と共にエンジンはかからない。

 

「やっぱり‥エンジンもかからない」

 

「え?直せるの‥‥?」

 

「わからん‥まず、エンジンを見てみないと‥‥」

 

以前にもエンジン内のシリンダーが割れてケッテンクラートが壊れた事があった。

あの時、チトは最初一人で修理に取り掛かったが、結局直す事が出来ず、たまたま近くの空軍基地で飛行機を製作していたイシイに出会い、その基地にあった部品とイシイの手を借りてケッテンクラートを直す事が出来た。

しかし、この場に居るのはチトとユーリの二人だけ‥‥

しかもあの時と違い、周りには修理に役立ちそうな部品もない。

あの時とは状況が全く違う。

 

「私に何か手伝えることある?」

 

「ない」

 

「‥‥」

 

手伝いを買って出てくれたユーリの行為をバッサリと切るチト。

チトのそんな態度にユーリは少なからずショックを受けた様子。

イシイと出会った時は雪も降っておらず短い春の季節だったので、あの時ユーリは、「絶望と仲良くなろう」と言って板金をしゃぶっていたが、今は冬で一刻も早くこの場から移動しなければ、生命の危険にもつながる。

その為、今回はユーリもケッテンクラートの修理を買って出たのだ。

 

「‥冗談だよ。じゃあ、カバー外すから手伝って」

 

ショックを受けたユーリを見て、チトは彼女にも出来そうなことを言ってそれをやってもらう。

 

「私に出来る事なら何でも言ってね」

 

カバーを外した後もユーリにしては珍しく積極的に手伝いを買って出ていた。

 

(‥‥とは言ったけど‥‥蓋を外したらもうやる事が無くなった‥‥)

 

(見守ろう‥‥)

 

射撃は上手くてもこうした機械の修理には全く知識がないユーリは何もやる事がなく、ユーリが出来たのはチトを見守る事だけだった。

 

「ここが‥‥」

 

工具を使いチトはエンジンをバラしながら故障の原因を探る。

その間、ユーリはチトを見守るのが飽きたのか、近くのパイプに座り、歌を歌いだす。

 

「これでどうだ!」

 

故障の箇所と思った所を弄ってみるがやはりケッテンクラートのエンジンは動かない。

その間、ユーリは歌を歌い続けている。

そんなユーリに対してチトは、

 

「歌ってんじゃね―――――!」

 

声を荒げユーリにスパナを投げつける。

チトの投げたスパナはユーリの頭に当たるが、ヘルメットをかぶっていたおかげで怪我をしなくて済んだ。

もし、ヘルメットを被っていなかったら大怪我をしていたかもしれない。

 

「ごめん‥私何もできないから‥せめて歌を‥‥」

 

ユーリはユーリなりにチトを励まそうとしていたのだが、それが裏目に出てしまった。

 

 

チトがケッテンクラートの修理を続けていると段々と日が傾いて来て辺りは暗くなり始めた。

 

(暗くなってきたな‥‥)

 

出来れば日がある内に直したかったが此処で止める訳にはいかない。

そんな中、突然、チトの手元が明るくなる。

 

「灯りがあったので、持ってきました」

 

ユーリがどこからかスタンドを調達してきた。

 

「ありがとう」

 

(一度エンジンを外に出すか‥‥)

 

ユーリが調達してきたスタンドの明かりを頼りにチトはケッテンクラートの修理を続けた。

そして、辺りが再び日の光に包まれた頃‥‥

 

「‥‥」

 

顔をエンジンオイル塗れにしたチトはエンジンが剥き出しになったケッテンクラートをジッと見つめていたが突然、

 

「ねぇ‥‥お風呂に入りたくない?」

 

ユーリに風呂に入りたくないかと尋ねた。

 

「えっ?‥‥入りたいけど‥‥」

 

「こうしてみるとお風呂みたいだよね」

 

「‥‥」

 

チトの言動の意味をユーリは何となくだが、察した。

 

「これをお風呂にしようと思って」

 

「えっ?‥‥エンジンはいいの?」

 

「‥‥」

 

ユーリは自分の考えが正しいのかそれとも取り越し苦労だったのかチトに尋ねる。

すると、

 

「シリンダーはひび割れてシャフトはぐにゃぐにゃ。あっちを直してもこっちが壊れる‥‥もう、寿命だよ」

 

チトの嫌な予感、そしてユーリが思っていた通り、一晩中チトが修理を行ったが、ケッテンクラートは結局直らなかった。

自分達を此処まで連れてきてくれたもう一人の仲間とも言えるケッテンクラートは今日、此処で、死んだ‥‥

 

「‥‥分かった。どうすればいい?」

 

「じゃあ、ユーはまずこの中に雪を集めて‥‥」

 

チトはユーリにシャベルを手渡し、ユーリはチトの指示通り、ケッテンクラートの荷台に周辺の雪を入れ始めた。

 

「燃料はもうほとんどないから抜いて‥‥いらない布に染み込ませる」

 

燃料が染み込んだ布をケッテンクラートの下に置き、其処に火をかける。

 

「穴を塞ぐ接着剤も板もあるし‥‥」

 

ユーリがシャベルを使って荷台に雪を乗せている間、チトはお湯が漏れないように穴を金属板と接着剤で埋める。

やがてケッテンクラートが火で温まり、荷台の雪が解けてお湯となる。

 

「‥‥あったまってきた」

 

「おおーすごい」

 

「この板を沈めて入るんだよ」

 

直接火を通しているケッテンクラートの荷台の床に足をつけると火傷をするかもしれないので、余った金属板を浮かべてソレを足場にして入る様に言うチト。

日本で言う五右衛門風呂と同じ形式である。

 

「は~」

 

チトとユーリは服を脱いでケッテンクラート風呂に入る。

 

「やっぱ、ちーちゃんは天才だね‥‥」

 

「‥‥」

 

「ちーちゃん?」

 

ユーリがチラッとチトの様子を窺うと、

 

ポチャ‥‥

 

「‥っ‥‥ぅっ‥‥ゔゔ‥っ‥‥っ‥‥あ“あ”――――」

 

チトは声をあげて泣いた。

これまでの旅の中でチトが涙を流す事は何度かあった。

ユーリが廃材と間違えてチトの大切な本を焚火の中に入れてしまった時、

チトが突然変な事を言ったので、ユーリはチトが可笑しくなったのかと思って銃床でチトの頭を叩いた時、

地下鉄の駅から地上に上がるエレベーターに乗った時、物凄いスピードで地上に放り出されて肘を擦りむいた時、

これまでの旅の中で何度かチトが涙を流したことはあったが、ユーリが声をあげて大泣きしたチトの姿を見たのはこれが初めてだった。

 

「ひっく‥‥う‥‥っ‥ゔゔ‥‥」

 

涙を流すチトをユーリは後ろからそっと抱きしめる。

 

「‥‥そうだ、アレを飲もうと思っていたんだった」

 

ユーリはカバンの中から一本のガラス瓶を取り出す。

 

「これ、残りの一本」

 

それはいつぞやの廃墟の中で見つけた『びう』の入った瓶だった。

 

「ねぇ、ユー‥アレ歌ってよ。さっきの歌」

 

「歌?いいけど」

 

「おいしい」

 

ユーリの歌を聞きながらびうをそのままラッパ飲みするチト。

 

「今までありがとう‥‥」

 

此処まで自分達を運んでくれたケッテンクラートにチトは別れを告げた。

最後にその感触を確かめ、忘れないように味わうかのように運転席にある速度メーターに手を添え、目を閉じて頬ずりをした‥‥

 

 

 

 

「っ!?」

 

次にチトが目を開けた時、彼女の目に映っていたのは雪景色の廃墟の町でも、ケッテンクラートの運転席でもなく、自分達がお世話になっているねこやの自分達の部屋の天井だった。

隣の布団の中にはユーリが大口を開け、ヨダレを垂らしながら眠っていた。

 

(どうして今になってあの時の夢を‥‥)

 

チトは何故、今になってケッテンクラートを失った日の出来事を夢に見たのか分からなかったが、やはりあの日の、あの時の出来事はチトにとって悲しい出来事であり、目には涙が浮かんでいた。

ケッテンクラートがこの世界でも昔に存在し、一部の外国では今でも農業用の機械として使用されていることは本やテレビで見た事がある。

でも、今の生活の中でケッテンクラートの必要性はない‥‥その筈なのに‥‥

それなのになんで今になって‥‥

今でも自分はケッテンクラートに対する未練があるのだろうか?

それとも自分達だけこうして暖かな日常を送っている事に対するケッテンクラートからの恨みなのだろうか?

 

兎も角、チトは自分が泣き寝入りしていた事をユーリに知られないために急いで洗面所で顔を洗った。

 

朝食の席でテレビではニュースのお天気キャスターがある地方のロケで辺り一面山と田んぼが広がるのどかな田園風景の田舎から中継していた。

季節は夏真っ盛りで、世間では夏休みの時期となり、外からはやかましい程に自己主張しているセミの声も聞こえ出して来た。

チトとユーリにとっては初めてセミの声を聞いた夏となった。

また、この夏と言う季節も二人にとっては初めての経験となる。

このジメっと湿気を帯びている日本特有の夏は二人にとって少々堪える季節である。

 

「山か‥‥」

 

テレビを見ていたユーリはポツリと呟いた。

前の世界では自然なんて雪ぐらいで海や山なんて見た事もなかった。

この世界に来てユーリはねこやの店主と一緒に海に釣りに出かけに行ったが、山にはまだ行った事がなかった。

 

「ん?なんだ?ユーリ、お前さん、山に行ってみたいのか?」

 

「ぬー‥前の世界じゃ、山って言ってもコンクリートや建物で出来た山ばかりで、テレビみたいな自然の山って行ったことがないんだよね~」

 

「チトも‥‥そうだよな?」

 

「は、はい」

 

ユーリとほとんど行動を共にしていたチトも当然、自然の山と言うのを見た事があるわけがなかった。

 

「それじゃあ、俺の知り合いで田舎に住んでいる人の所に行くのはどうだ?あそこは田舎だが、自然豊かな場所で空気もうまいぞ」

 

「えっ?で、でもお店の方は!?」

 

「まぁ、この時期平日は学生を短期バイトで雇えばいいし、土曜の日もアレッタさんとクロの二人でなんとかなるだろう。行くなら、その人に電話をして二人を泊めてもらえるように頼んでみるぞ」

 

「ちーちゃん、折角だから行こうよ」

 

「で、でも‥‥」

 

「まぁ、俺の事や店の事は気にするな。あっちの世界では見る事の出来なかったモノをこっち世界で見てくるのも社会勉強の一環だ。それにこの暑さだ‥二人にとっては初めての夏で大変だろう?」

 

「確かにこの夏って季節は初めての経験だから色々と疲れるよぉ~‥‥物凄く暑いし‥‥」

 

「向こうの方は少し涼しいだろうから、避暑がてら行ってこい、身体を壊されちゃ、それこそ大変だからな」

 

「は、はい」

 

こうしてねこやの店主の勧めでチトとユーリは店主の知り合いがいる田舎に行くことにした。

後は、その知り合いの人が二人を泊めてくれればいいのだが‥‥

お店が始まる少し前に店主はその知り合いの家に電話をかけた。

 

「はい、越谷でございます」

 

「あっ、雪子さん?お久しぶりです」

 

「その声はマコちゃん!?いやぁ~本当に久しぶり~元気してたぁ?」

 

「はい‥‥あの、実は雪子さんにお願いがありまして‥‥」

 

「ん?なんだい?」

 

ねこやの店主は知り合いである越谷雪子にチトとユーリの二人を暫く泊めてくれないかと頼んだ。

 

「あら?そんな事?いいわよ。それでいつからいつまで来るんだい?」

 

「そうですね‥‥」

 

雪子とねこやの店主はそれぞれ都合のいい日程を相談しあった。

そして、日程が決まった。

ねこやの店主はその事をチトとユーリの二人に伝えた。

ユーリは山に行けると言う事に喜んでいたが、チトの方はあの夢やお店の事が気になる様子でちょっと乗り気ではなかった。

それは、ユーリと共に山へ行く日もチトの気分はあまり優れなかった。

それでも折角ねこやの店主が頼んでくれたので、チトはユーリと共に山へ出かけることにした。

実際、チト自身も自然に囲まれた山と言うのに全く興味が無いと言えば、それは嘘になるからだ。

そして、山へと出かける当日、二人の姿は空港にあった。

ねこやの店主の知り合いの居る町は飛行機か新幹線で行き、その後は地方のローカル線でいかなければならない程遠い町にある。

 

「おおー飛んでいる」

 

「‥‥」

 

窓の外で空へと飛び立っていく飛行機を見てユーリは興奮しているが、チトは顔色が悪い。

 

「ん?どうしたの?ちーちゃん」

 

「い、いや‥別に‥‥」

 

チトはユーリに顔色が悪いのを悟られないようにプイッとユーリから顔を背ける。

 

「そう‥‥あっ、そうだ。向こうの人にお世話になる訳だし、何かお土産でも買って行く?」

 

飛行機の搭乗時間までまだ時間があるのでユーリはこれからお世話になる家の人の為に空港土産を買って行こうと言う。

 

「お前も少しはこの世界の常識を身に着けてきた様だな?」

 

「ちょっ、ちーちゃん、それは酷いよ」

 

と言う訳で、空港内の土産物店へとやって来たチトとユーリ。

やはり東京の空の玄関口だけあって、土産物店には色々な土産物が売っている。

 

「何を買って行こうか?」

 

「やっぱり、食べ物がいいんじゃない?食べ物なら貰って嬉しいだろうし」

 

「それはお前だろう?」

 

とは言え、これからお世話になる家の家族は多いとねこやの店主から聞いており、置き物とかよりもユーリの言う食べ物系の方が喜ばれるだろうと思ったチトとユーリは食べ物系のお土産に焦点を絞った。

だが、食べ物系のお土産もかなりの種類がある。

大きく分けて洋菓子、和菓子。

そのどちらも細かいジャンルも数が多い。

そこで、チトとユーリは待ち合わせ場所を決めた後、二手に別れてそれぞれ一つずつ買うことにした。

 

(お菓子としても結構種類があるな‥‥なにが喜ばれるかな‥‥?)

 

(向こうの家の人は女性が多いと聞いたから、やっぱり甘いものかな‥‥洋菓子、和菓子、どちらの方がいいかな?)

 

チトとユーリがそれぞれ分かれてお土産を探している中、ユーリの目にとまったのは、空港限定のまるごとプリンのロールケーキだった。

 

(ケーキとプリン‥‥これだ!!)

 

ケーキとプリンのロールケーキ‥‥ケーキとプリンと言う二大スイーツの融合とも言えるこのスイーツにビビッと来るもの感じたユーリはこのプリンのロールケーキをお土産の品として購入を考えた。

プリンと言う生ものを使っているので、此処から目的地の田舎まで悪くならないかとおもったが、保冷バッグと保冷剤のおかげで何とかなる事をお店の人から聞いたので、購入した。

 

一方、チトの方は‥‥

 

(甘いものと言えばチョコだけど‥‥)

 

チトは甘いお菓子でまっさきに思いついたのが、チョコレートだった。

 

(それとケーキ‥‥だけど、生クリームとかを使っていると長旅にはあまり不向きかな?)

 

チトはユーリと違いケーキ系などのお土産は長旅には不向きだと思った。

そんな中、チトの目に飛び込んできたのは、しょこらミルフィユと言う香り高い焼きショコラを、サクサクのチョコレートパイでサンドのチョコレート菓子だった。

 

(これなら‥‥)

 

チョコレートとサクサクのパイ生地のお菓子なら、長旅でも大丈夫だろうと判断したチトはこのお菓子を買った。

やはり、チトにとってチョコレートは特別なお菓子だったのだ。

そして、待ち合わせ場所で合流した。

 

「あっ、ちーちゃん」

 

「ユー。早いな」

 

先に待ち合わせ場所に居たのはユーリだった。

チトとユーリが合流すると丁度二人が乗る飛行機の搭乗手続きが始まったので、二人は搭乗口へと向かった。

その途中で、

 

「ところで、ユーは何を買ったの?」

 

「私はプリンのロールケーキ」

 

「ちょっ、プリンって、生モノだろう!?大丈夫なのか!?」

 

「お店の人に聞いたら、この保冷バッグと保冷剤があれば大丈夫だって」

 

「保冷剤‥‥そうか、その手があったか‥‥」

 

ユーリに保冷剤の存在を言われてその存在を見落としていたチト。

 

「それで、ちーちゃんは、何を買ったの?」

 

「私はチョコレートのお菓子」

 

「チョコ?ちーちゃんこそ、そんなのを買って大丈夫なの?途中で溶けない?」

 

「‥‥」

 

「私の保冷バックに入れていく?」

 

「そうしてくれ」

 

チトは万が一の事を考えて自分の買ったしょこらミルフィユをユーリの保冷バッグの中に入れた。

そして、二人は飛行機の搭乗口へと向かうのだが、この時チトの足は僅かに震えていた。

 

 

此処で時系列は今朝まで巻き戻し、視点もチトとユーリがこれからお世話になる某地方の田舎にある越谷家へと移る。

 

夏休みの為、学校は休みであるが、夏休みと言えば定番と言える朝一でのラジオ体操がある。

神社にはこの田舎の分校に通う学生たちが集まりラジオ体操をする。

ラジオのスピーカーからはラジオ体操の音声が流れる。

 

「カラダを横に曲げる運動ー いっちー、にー、さん、しー、ごー、ろく、しっち、はちー」

 

「次にカラダを前後ろに曲げる運動ー」

 

皆がラジオ体操をしている中、一人だけ独特な動きをしている子が居た。

やがて、ラジオ体操が終わると、

 

「どうですか?ウチのダンスはー」

 

と、これまでの謎の動きはダンスだった様で、その感想を尋ねる。

 

「これダンスじゃなくて体操だけどね」

 

とツッコミ返されてしまった。

 

「ハンコ押すからこっちおいで」

 

ラジオ体操の後は、体操に参加しましたと言う証明になるハンコを押してもらうのだが、

 

「こういうのはかずちゃんの役目だと思うんだけどねぇ」

 

「ねぇねぇは今日も寝てるのん」

 

「今度ビシッと言ってやらないかんね」

 

「言ってやって欲しいのん」

 

ラジオ体操が終わり、ハンコを押してもらうと皆はそれぞれの家に帰る。

それはこの越谷家も例外ではなく、ラジオ体操が終わり家に戻ると朝食となる。

その朝食の席にて、

 

「ああ、そうだ」

 

越谷家の肝っ玉母さん、雪子が思い出したかのように朝食の席にて声をあげる。

 

「なに?お母さん」

 

「なんかあったの?」

 

越谷家の長女、越谷小鞠と次女、越谷夏海が反応し、長男、越谷卓は我関さずと言った様子で味噌汁をすすっている。

 

「今日、東京から私の知り合いの家に居る子らが来るんだよ」

 

「東京!?」

 

小鞠は東京と言う言葉に敏感に反応する。

 

「へぇ~ほたるんの古巣から~」

 

「それで、少しの間、家に泊まっていくからアンタ達、仲良くしてあげてね」

 

「そう言えば、お母さんこの前からお布団とか用意していたもんね」

 

「それで、どんな子が来るの?」

 

「富士宮さんの所のこのみちゃんより一つか二つ年下の女の子達だって」

 

「達って事は一人じゃないの?」

 

「二人だってさ」

 

「どんな子なの?」

 

「金髪で背の高い子と黒い髪で背の小さな子だって」

 

「へぇ~背が小さいねぇ~」

 

夏海はチラッと姉である小鞠を見る。

 

「な、なによ。夏海」

 

「いや、小さいって言ってもこまちゃんほどではないかな~と思って」

 

「なっ!?」

 

夏海の一言にショックを受ける小鞠だった。

そんなやり取りが有りながらも越谷家の皆は今日来るお客さんを待つのであった。

 

そして、時系列を戻し、視点も越谷家に向かっているチトとユーリに戻す。

段々と飛行機の搭乗口が近づいてくると、チトの足取りが重くなっていく。

 

「ん?どうしたの?ちーちゃん。トイレにでも行きたいの?」

 

「あっ、いや、なんでもない」

 

「じゃあ、急ごう」

 

「あっ、ちょっと、ユー‥‥」

 

チトの手をとってユーリは飛行機の搭乗口へと向かう。

 

「うぅ~」

 

その間にもチトの顔は青白くなっていく。

やがて、二人を乗せた飛行機は離陸した。

 

「おおー凄い、凄い、雲の上を飛んでいるよ、ちーちゃん」

 

ユーリは飛行機の窓の外の景色に感動している。

前の世界ではスクラップになった飛行機に乗ってそこでチョコレート味のレーションを見つけた事があったが、こうして動いている飛行機に乗ったのはこれが初めてである。

 

「ん?ちーちゃん?」

 

ユーリは何の返答もないチトの様子が気になり、隣の座席に座っているチトを見ると、チトは頭を抱えてガタガタと震えていた。

 

「ちーちゃん、どうしたのさ」

 

「ゆ、ユー‥お前は怖くないのか?」

 

「えっ?」

 

「私達は今、飛行機に乗っているんだぞ」

 

「うん、そうだね」

 

「その飛行機は雲の上を飛んでいるんだぞ」

 

「そうだね」

 

「物凄く高い所なんだぞ」

 

「それぐらいは分かっているよ」

 

「お前はイシイの事を忘れたのか?」

 

「一応、ぼんやりとだけと覚えているよ。あの人でしょう?飛行機を作っていてその飛行機が落っこちた‥‥」

 

「そうだ。あのイシイの飛行機みたく、もしかしてこの飛行機も‥‥私達はパラシュートを身に着けていないんだぞ、もし、落っこちたら‥‥」

 

チトは元々高所恐怖症であった。

ユーリが大きなヌコに食べられた時、チトは自分が高所恐怖症である事を忘れて潜水艦の梯子を登りユーリを助け出そうとしてから少しだけ克服しそこまで怖がることはなくなったが今回は雲の上と言う物凄く高い場所とかつてイシイの造った飛行機が墜落したのを目の当たりにした為、チトはこの飛行機もイシイの造った飛行機同様墜落するのではないかと不安だったのだ。

 

「ちーちゃん、あまり大きな声で落ちるとか言わないでよ」

 

チトの声は思ったよりも大きかったのか、周辺の人が不安そうな顔をしていた。

 

「あっ、どうもすみません。この子、飛行機が初めてなんで‥‥」

 

普段とは逆にユーリが周りの人に謝っていた。

やがて、無事にチトとユーリの乗る飛行機は空港に到着した。

飛行機から降りてもチトの顔色はまだ悪く、息遣いも荒かった。

 

「ゆ、ユー‥‥」

 

「なに、ちーちゃん」

 

「帰りは絶対に新幹線で帰るぞ」

 

と、復路は飛行機ではなく新幹線で帰ると決めたチトだった。

その後、空港からバスで駅に行き、そこから電車を乗り継いで目的の地へと向かう。

そしてやっと着いた目的の田舎の地‥‥

 

「あっつぅ~」

 

「ぬ~ん‥‥」

 

二人の額には汗が浮かび、その汗は頬を伝い、顎へと延び、手でその汗を拭う。

一応、チトは縁の広い麦わら帽子、ユーリは野球帽を被っているが、この真夏の暑さの前では帽子など気休め程度にしかならない。

しかも背中には着替えなどを詰めた背嚢を背負っているので、背中が蒸れて汗びっしょりとなり不快な感覚である。

目的地の駅で電車を降り、その後は徒歩でお世話になる越谷家へと向かう。

陽炎が揺らめいている真夏の田舎道を歩いているチトとユーリ。

 

「‥‥静かだね」

 

「そうだな」

 

「それに水も綺麗だね」

 

ねこやの周りは車や大勢の人の声などいろいろな音が聞こえるが、此処は風がそよぐ音と小川のせせらぎ、鳥とセミの声ぐらいしか聞こえない。

近くを流れている小川の水は綺麗で透き通っている。

東京の薄汚れた川と大違いだ。

 

(そう言えば、前の世界でも水だけは綺麗だったな‥‥)

 

文明は滅んで、廃墟が広がるだけで周りには木などの自然は一切なかった世界であったが、水だけは澄んで綺麗だった。

だからこそ、水はその辺の川で汲んだモノを飲めたのだ。

 

「それに人が全然いないね」

 

「ああ、そうだな」

 

周りを見渡しても田んぼと畑だけで人の姿は見えないし、車は一台も通らない。

 

「こうして二人っきりで歩いていると前の世界の旅を思い出すね」

 

「あの時は此処まで暑くはなかったけどな」

 

二人で歩いているとケッテンクラートを失い、ねこやに着いた時までの道中の旅を思い出す。

しかし、あの時は雪が降る程の寒い道のりであったが、今は照りつける太陽の下、暑い道のりとなっている。

 

「お店もないね‥‥コンビニも‥それにねこやみたいな食べ物のお店も‥‥」

 

東京では数百メートルおきに見かけるコンビニも此処では見当たらないし、飲食店も見当たらない。

 

「此処の人達、買い物はどうしているんだろう?」

 

「さあな‥‥ん?あれ?どっちに行けばいいんだろう?」

 

「えっ?もしかして道に迷ったの?」

 

チトは地図を見ながら顔を顰める。

 

「でもまぁ、私達、普段から迷っているようなもんじゃん。前の世界でも‥‥」

 

「一応、お土産もあるし、それにお世話になる家の人も待っているだろうから、あまり迷っている時間はないんだけどな‥‥」

 

いくら保冷剤を入れたとはいえ、半永久的に保つわけではないので、なるべく早く目的地である越谷家に行きたいチトとユーリ。

すると、二人の目の前に銀色の長い髪を黄色いリボンで結び、ツインテールにしている女の子がやってきた。

その子はチトとユーリに気づくと、警戒しているのか二人の事をジッと見ている。

 

「あっ、ちーちゃん。見て、見て、やっと人が居たよ」

 

ユーリは銀髪ツインテールの女の子に気づいた。

 

「おーい、ちょっとそこの人」

 

ユーリが銀髪ツインテールの女の子に声をかけると、その子はユーリと同じ垂れ目をした女の子であった。

そしてその女の子はチトとユーリの二人に対して、

 

「にゃんぱすー」

 

と、一言呟いた。

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