少女異世界旅行   作:破壊神クルル

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わたしたちののんのんな夏休み 2

山に行ってみたいと言う事で、ねこやの店主の知り合いが居る田舎へとやって来たチトとユーリ。

飛行機と地方のローカル線を乗り継いでやっと目的地に着いた二人。

しかし、そこからお世話になる越谷家の場所が分からず、途方に暮れていると、この田舎に住む一人の女の子と出会う。

その子は出会い頭に、

 

「にゃんぱすー」

 

と変わった挨拶をしてきた。

 

「「えっ?」」

 

その挨拶を聞いた後、二人は固まる。

 

((えっ?ええええー))

 

(ち、ちーちゃん、にゃんぱすーってなに?)

 

(わ、分からん、この地方独特の挨拶なのかもしれん)

 

聞き慣れない挨拶に戸惑う二人。

 

(私達もした方がいいのかな?)

 

(郷に入っては郷に従えって言葉があるからな、そうしたほうがいいかもしれない)

 

(それってどう言う意味?)

 

(その土地やその環境に入ったならば、そこでの習慣ややり方に従うのが賢い生き方って意味だよ)

 

(?)

 

チトが『郷に入っては郷に従え』の言葉の意味をユーリに教えたが、彼女はいまいち意味が分からないのか首を傾げた。

 

(とりあえず、同じように挨拶すればいいんだね)

 

(まぁ、そうなるな)

 

とりあえず、この地方では先程の『にゃんぱすー』が地方独特の挨拶なのかもしれないと思った二人は、

 

「にゃ、にゃんぱすー」

 

「にゃんぱすー」

 

と、女の子に挨拶をした。

 

「おお、まさか、にゃんぱすと言ってくれるとは思わなかったん」

 

にゃんぱすーと返されて何だが嬉しそうな様子の女の子。

 

「ふぅ~それにしても暑いや~」

 

ユーリが野球帽を脱ぎ、手で額の汗を拭う。

すると、

 

「あれ?駄菓子屋だったん?」

 

女の子はユーリの姿を見て意外そうに言う。

 

「駄菓子屋?いや、私は料理屋のウェイトレスなのだが‥‥」

 

「そう言われてみれば、ちょっと駄菓子屋と比べると小さいなん」

 

女の子はユーリと駄菓子屋と呼ばれる人物と間違えた様だ。

 

「それで、二人はどちらさまなん?」

 

「私達は東京から来たんだけど‥‥」

 

「トウキョウ!?ひか姉とほたるんが居たところなん!?」

 

女の子の言う『ひか姉』と『ほたるん』が何を意味しているのかは不明だが、一人は『姉』がついているので、この子のお姉ちゃんでもう一人も恐らく知り合いなのだろう。

 

「それで、越谷さんの家に行きたいんだけど、道に迷っちゃって‥‥」

 

「知っているなら教えてくれるかな?」

 

「こしがや?‥‥こしがや‥‥どこかで聞いた事のある言葉なん‥‥ん~‥‥此処まで出かかっているんですけど、なかなか思い出せないん‥‥う~ん‥‥」

 

そう言いながら女の子は額に手をやる。

 

「いや、そこだともう口を越えているじゃん」

 

珍しくユーリがツッコミを入れる。

 

「う~ん‥‥あっ、思い出したん!!」

 

女の子は手をポンと叩いて声をあげる。

どうやら越谷家を思い出したみたいだ。

 

((まさか、この子の家でしたなんてオチはないよな‥‥))

 

女の子の言動からちょっと不安になるチトとユーリ。

 

「こしがやと言えばなっつんとこまちゃんの家だったん」

 

『私の家』と言わない所を見ると、越谷家はこの子の家ではなく、知り合いの家みたいだ。

 

「こまちゃんの家に何か用なん?」

 

「私達、暫くその家にお泊りするんだよ」

 

「お泊り‥随分と苦労されたんな‥‥」

 

「「?」」

 

越谷家に泊まるだけなのに何故、苦労したのか意味が分からず首を傾げる。

 

「それで、その越谷さんの家、知っているなら案内して欲しいんだけど」

 

「りょーかい。ウチにまかせるん!!」

 

チトとユーリの二人は女の子の案内の下、お世話になる越谷家へと向かう事になった。

 

「そういえば、まだ名前言ってなかったん、ウチ、れんげっていうのん。おふたりはなんて名前なん?」

 

「私はユーリ」

 

「私はチト」

 

女の子‥もとい、れんげが自己紹介してきたので、こちらも自己紹介をするチトとユーリ。

この田舎で少しの間、世話になるのだからこの先、れんげとも顔を合わせる事もあるだろう。

 

 

「るったん♪~るったん♪~」

 

れんげは木の枝を手に鼻歌を歌いながらチトとユーリの二人を越谷家へと案内する。

すると、道端の雑草の中で何かを見つける。

 

「「?」」

 

「こんなところにいたんな‥‥ウチの因縁の敵‥‥いつもウチの服についてくるオナモミぃ!!」

 

「「オナモミ?」」

 

そこにはトゲトゲした実の様なモノをつけている植物があった。

 

「今日こそは思い通りにさせないん!!覚悟!!」

 

そう言ってれんげは手にした木の枝でオナモミを叩く。

そして、オナモミの実をとると、

 

「これあげますん。お近づきのしるしなん」

 

「えっ?あ、ありがとう‥‥」

 

「ありがとう」

 

れんげからオナモミの実をもらいそれを手に取るチトとユーリ。

二人はオナモミの実の感触を確かめるように触る。

 

「棘がいっぱいあるけど、触ってもそんなに痛くはないね」

 

「そうだな」

 

「それ、服に着くから気を付けてなん」

 

「えっ?服に?」

 

れんげから注意を受けるとユーリは早速オナモミの実をチトの服につける。

 

「おおー本当に服にくっついたよ!!ちーちゃん!!」

 

オナモミの実が本当に服についた事に興奮するユーリ。

そんなユーリに対してチトは、

 

「自分の服でやれよ」

 

ツッコミを入れて自分が持つオナモミの実をユーリの服にくっつけた。

そして再び越谷家を目指し歩く三人。

 

「るるん♪~るんたっ♪~」

 

れんげは相変わらず変な鼻歌を歌いながら歩いている。

すると、再び何かを見つけ歩みを止め、しゃがみ込む。

 

「ん?どうかしたの?」

 

ユーリがれんげに訊ねると、

 

「カエルー」

 

れんげが答える。

どうやられんげは、カエルを見つけようだ。

チトとユーリはオナモミの実はさっき初めて見たが、カエルはテレビの動物や自然を特集する番組、本などで知っていた。

ただし、二人が知っているのはアマガエルなどの体が小さなカエルであり、れんげが見つけたのは‥‥

 

「ん」

 

両手でがっしりとつかんだウシガエルだった。

初めて大きなカエルを見たチトとユーリのリアクションはと言うと‥‥

 

「うわぁぁー!!」

 

チトはウシガエルを見て大声をあげて後ずさりをして、

 

「おおー!!でけぇ!!」

 

反対にユーリは興味津々と言った様子でウシガエルをジッと見る。

そしてウシガエルの体ををツンツンと指で突っつく。

 

「おおぉ、ヌコみたいにプニプニしている。ちーちゃんも触ってみなよ」

 

「い、いいよ。私は‥‥」

 

チトは初めて見るウシガエルにすっかりビビり気味だ。

 

「大丈夫だよ。コイツ、大人しいし」

 

「うぅ~」

 

ユーリにそう言われ、恐る恐るチトはウシガエルへ手を伸ばす。

ただ、ビビっている為か、チトの指は小刻みにプルプルと震えている。

そして、チトの指がウシガエルへ触れようとしたその時、

 

カプっ

 

チトの指をウシガエルが口へと入れた。

 

「くぁwせdrftgyふじこlp―!!」

 

突然ウシガエルに指を咥えられたチトは軽いパニックを起こす。

カエルは普段、ジッとしてエサとなる獲物を待つ習性がある。

動く昆虫などをエサとして判断し、舌を伸ばして捕食している。

反対に動かない者は獲物として判断しない習性がある。

カエルを飼育している中で、例えばエサをあげようとして指先にのせて動かすと、指をエサと一緒に間違えて噛む習性がある。

この時、チトは指をプルプルと震わせていた為、カエルはチトの指をエサと間違えてチトの指を噛んだのだ。

慌ててチトはカエルの口から指を出す。

 

「ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥」

 

「大丈夫?ちーちゃん」

 

「だ、大丈夫に見えるのか?お前は?」

 

「このウシガエルもいりますか?」

 

れんげはチトにウシガエルをいるかと訊ねる。

 

「いらない、いらない!そのカエル下に置いて!!」

 

チトがカエルを置くようにれんげに言うと、

 

「じゃあ、下に置いてこのままあんよは上手ごっこするん。あるくーん」

 

れんげはウシガエルの両手を握り、足を地面につかせてカエルを歩かせようとする。

 

「待って、待って!歩かせないで!向こうに逃がして!」

 

チトは迫りくるウシガエルにパニック状態となる。

 

「わわわ!そのままこっちに来ないで!!ストップ、ストップ!!」

 

「こいつの名前はウシダミンなん」

 

「名前なんかいいよ~!!」

 

ウシガエルを手にしたれんげに追いかけまわされるチトだった。

 

 

「ぜぇ‥‥ぜぇ‥‥ぜぇ‥‥」

 

ただでさえ、暑いのに追いかけまわされて更に体が暑くなるわ、汗をかいて体中がベタベタと気持ち悪くなるわ、体力を奪われるチト。

息も荒く、汗びっしょりとなる。

 

「ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥」

 

「ちーちゃん、大丈夫?」

 

「む、無駄に体力を消耗した‥‥汗もかいて体中がベタベタだ‥‥」

 

体力を消耗して更にこの暑さで今にもぶっ倒れそうなチト。

 

「流石に暑いのんな‥‥」

 

れんげも少々この暑さにバテてきた様子。

 

「そうだね、どこかで休憩した方がいいかもね」

 

ユーリは顔には出さないけど、彼女も汗をかきまくっている。

そんな中、三人の耳に、

 

ザァー‥ジョボジョボジョボ‥‥

 

水の流れる音がした。

三人の目の前には山の湧水をパイプで引いた水飲み場があった。

 

「おお、パイプから水が‥‥」

 

「山の上から水を引いているのか‥‥」

 

「此処の水、飲めるん」

 

れんげは手で湧水を掬って飲む。

 

「おお冷たくて美味しいん」

 

「どれどれ‥‥冷たっ!?」

 

恐る恐るパイプから流れる水に手を伸ばすと、水はとても冷たかった。

ユーリもパイプから流れ出ている水に口をつける。

そして、チトは‥‥

 

ゴシゴシ‥‥

 

先程指をウシガエルに咥えられたので、手を念入りに洗う。

 

「ユー、お前もさっきカエルを触ったんだから、手を洗っておけよ」

 

ユーリに手を洗うように言うと、ユーリは帽子を脱いでパイプから出ている水に頭から突っ込む。

 

「あーつめてー」

 

「なにやってんの‥‥」

 

「‥‥」

 

ユーリは首を振って濡れた髪についた水を弾き飛ばす。

 

「つめて」

 

ユーリが弾いた水をモロに浴びるチト。

 

「ちーちゃんもやってみなよ。冷たくて気持ちいよ」

 

「‥‥」

 

この暑さからの回避と言う現実逃避の誘惑に勝てずチトも被っていた麦わら帽子を脱いでパイプから流れ出ている水に頭を突っ込む。

 

「はぁ~‥‥気持ちいい~‥‥」

 

火照った頭に冷たい水は気持ち良かった。

 

「‥‥今の二人、ほたるんと同じ都会っ子のかけらがないん」

 

れんげがちょっと呆れた感じで二人を見る。

 

「まぁ、私達は東京から来たと言っても東京で生まれた訳じゃないからね」

 

「東京から来たのに東京で生まれたんじゃないん?それってどう言う事なん?」

 

「別の場所で生まれたって事。その後で東京に住んでいるんだよ」

 

「なるほど」

 

チトがれんげの疑問に答える。

そしてチトとユーリはようやく目的地である越谷家へと到着した。

 

「此処が、なっつんとこまちゃんのお家なん」

 

「やっと着いた‥‥」

 

「な、長かった‥‥」

 

朝早くねこやを出て目的地である越谷家に到着したのはお昼をちょっと過ぎていた。

 

「ごめんください」

 

「はーい」

 

チトが玄関口で声をかけると奥の方から一人の女性が玄関口へと歩いてきた。

 

「あら?」

 

「どうも、東京のねこやから来ましたチトです」

 

「ユーリです」

 

「いらっしゃい。話はマコちゃんから聞いているわ。大変だったでしょう?東京から此処まで来るのは」

 

「は、はい」

 

玄関口でチトとユーリを出迎えたのは越谷家の肝っ玉母さん、越谷雪子だった。

 

「かあーちゃん、誰か来たの?」

 

そこへ越谷家の次女、越谷夏海が通りかかった。

 

「ほら、朝言ったでしょう?東京からのお客さんだよ。挨拶しなさい」

 

「へーい、どうも~ウチ、越谷夏海―よろしくー」

 

(家の姉ちゃんと同じくらいに小さい人だな‥‥)

 

夏海はチトを見て自らの姉並みに身長が低い人だと心の中で思った。

また、一方で、

 

((この人の声、どこかで聞いた事が有るような気がする‥‥))

 

と、チトとユーリは夏海の声をどこかで聞いた事のあるような声だと思った。

チトとユーリが夏海の声をどこかで聞いた事があるなぁ~と思っていたその頃、木組みの家と石畳の街にあるラビットハウスでは、

 

「クシュン!!」

 

「ココアさん、風邪ですか?」

 

「ううん、私は元気だよ」

 

「そうですか」

 

「きっと誰かが私の噂をしているんだよぉ~」

 

と、ココアとチノの間でこのようなやりとりがあった。

 

 

「ん?夏海、何をしているの?」

 

更に越谷家の長女、越谷小鞠も来た。

 

「あっ、姉ちゃん。ほら朝、母ちゃんが言ってた東京からのお客さん」

 

「あっ、どうも。越谷小鞠です」

 

小鞠はチトとユーリに挨拶をする。

 

「ん?もう一人の方はもしかして外国人?」

 

小鞠はユーリの青い瞳、金髪を見て彼女が日本人ではなく、外国人だと思った。

それを聞いたユーリは口元を小さくニヤッとして、

 

『はじめまして、私の名前はユーリです。どうぞよろしくお願いします』

 

と流暢な英語で話し始めた。

 

「「っ!?」」

 

突然の英語にビクッと体を震わせる越谷姉妹。

 

「ね、姉ちゃん、英語だ‥‥やっぱりこの人、外国の人だ」

 

「う、うん‥そうみたいだね」

 

「ほら、姉ちゃん、英語で挨拶しないと」

 

「う、うん‥‥ハ、ハロー!」

 

「コマちゃんすごいのん! 英語話せるのんなー」

 

「あ、あったりまえでしょう!」

 

小鞠はれんげから『すごい』と言われてご満悦の様子。

しかし、

 

「でも、ユーリは日本語も話せるん」

 

と、ユーリが日本語を話せる事をあっさりとバラした。

 

「えええー!そうなの!?」

 

「さっきまで、ウチと話してたん」

 

「本当に日本語を話せるの?」

 

「話せるよ」

 

小鞠がユーリに日本語が話せるのかと問うとユーリは日本語で返答する。

 

「なぁ~んだ、日本語、普通に話せるんじゃん、焦って損した」

 

「ま、まぁ私は英語も話せるから大丈夫だけどね」

 

(発音はダメダメだったけどね‥‥)

 

ユーリが日本語を話せると言う事で一安心した様子の越谷姉妹。

一方、ユーリは小鞠の英語の発音が駄目な事を口にせずに心の中で思った。

 

「あっ、これ、お土産です。空港土産ですけど‥‥」

 

チトとユーリが空港で買ったお土産を雪子に手渡す。

 

「お土産!?何々?」

 

お土産と言う言葉に食いついた夏海。

 

「こ、こら、夏海」

 

グイグイと食いつく夏海を窘める雪子。

 

「えっと私はチョコレートのパイ菓子を‥‥」

 

「私はプリンのロールケーキ」

 

「「「チョコレートパイにケーキ!!」」」

 

チトとユーリが買って来た土産の内容に思わず声をあげる越谷姉妹とれんげ。

 

「ケーキなんて誰かの誕生日でなければ食べられないご馳走だよ!!」

 

「しかも東京のケーキ!!」

 

「ご馳走なーん!!」

 

あまりのありがたみにお土産の箱を拝んでいる三人。

 

「それじゃあ、折角だし、食べようか?れんげちゃんも食べていく?」

 

「食べるのーん!!」

 

チトとユーリも自分らで買ったけれど、土産のプリンのロールケーキとチョコレートのパイ菓子の味が気になってはいたので、ご相伴預かることにした。

その前に荷物を置かなければならないので、まずは部屋に案内された。

 

「この部屋を使ってね、お布団とかも用意してあるから」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「どうも」

 

荷物を置いた後、居間へと向かうチトとユーリ。

越谷姉妹とれんげも居り、お土産のお菓子が来るのを待っていた。

 

「‥‥」

 

「あ、あの‥‥」

 

「ん?なに?」

 

チトは小鞠に恐る恐る声をかける。

 

「あそこに居る人は‥‥?」

 

上座には眼鏡をかけた少年がまるで置き物の様にジッと座っていた。

 

「お兄ちゃんだけど」

 

「へ、へぇ~」

 

(ちょっと雰囲気がカナザワに似ているな‥‥)

 

そこに居たのは越谷家の長男、越谷卓だった。

 

「あっれー。言ってなかったっけー」

 

「まぁ、あの時玄関に居なかったからね」

 

「ほら、お兄ちゃん、挨拶、挨拶」

 

小鞠に促され、卓はチトとユーリに一礼しながら、

 

「…………」ボソッ

 

と挨拶をした。

 

「えっ今、あの人喋ったの?」

 

「よく聞こえんかった‥‥」

 

卓は一応自己紹介をしたのだが、チトとユーリには聞こえず、小鞠が卓の名前をチトとユーリに教えた。

 

「おまたせ」

 

そこへ、雪子がケーキを切り分け居間に持って来た。

ケーキの他にグラスに入った麦茶もある。

 

「おおーっ美味そう」

 

夏海が皿の上に鎮座しているケーキを見て思わず興奮気味の声を出す。

 

「それじゃあ‥‥」

 

「「「「「「いただきます」」」」」」

 

皆はフォークでプリンのロールケーキを食べ始める。

プリンのロールケーキはソフトな口当たりにふわふわのスポンジとクリームと相性がよく、表面のキャラメリゼの香りとパリパリっとした食感が絶妙なハーモニーを醸し出す。

 

「うめぇ!!」

 

「ほんと、美味しい」

 

「グルメのウチも納得なのん!」

 

「‥‥」

 

越谷姉妹、れんげは満面の笑みでプリンのロールケーキを食べ、卓は無表情、無言のまま食べている。

でもその食べているスピードが速い事から彼もこのプリンのロールケーキは気に入っている様だ。

 

「はぁ~美味しかった」

 

「満足なん」

 

プリンのロールケーキを堪能した夏海とれんげはお腹をさすりながら満足そうだ。

チトの買ってきたチョコレートのパイは夕食のあとのデザートで食べることにした。

沢山あるので、れんげにもいくつか分けてあげるつもりだ。

 

おやつの時間がおわり、雪子はおやつに使用した食器を洗いに行き、チトと小鞠は麦茶を飲みながら談笑し、夏海とれんげはテレビゲームを興じている。

卓はいつの間にか部屋から消えていた。

みんなで待ったりとしている中、ユーリは越谷家にある池が気になって見てみた。

池はそれなりの広さがあるのだが、その池に居るのは大きな鯉が一匹だけだった。

れんげ曰く、この鯉の名前は『ひかりもの親方』らしい。

 

(池の中に居る一匹だけの魚‥‥)

 

ユーリは池の中を泳いでいる鯉をじっと見ていると、ある事を思い出す。

 

(そう言えばあの魚や小さいヤツ、元気にしているかな‥‥)

 

ユーリは前の世界に居た自分達二人の人間とヌコとその仲間達以外の生き物はもう絶滅したと思ったら、昔の養殖施設に最後の魚が一匹生き残っており、その魚を管理する為のロボットが居た。

ユーリは当初、その最後の魚を食べたがっていたが、その魚と管理ロボットと時間を共にする事で共感を得た。

しかし、その魚の施設を壊そうとした大きな作業ロボをチトとユーリは魚と小さな管理ロボを守る為に破壊した。

大きな作業ロボは小さな管理ロボの仲間であり、その仲間を破壊‥つまり殺したのだが、小さな管理ロボはチトとユーリの事を恨む事はせずに、

 

『私も魚もこれでもう少し長く生きられそうです』

 

と、逆に感謝していた。

ユーリが池の中の鯉をジッと見ていると、

 

「ごめんください」

 

越谷家にまた別の来客者がやって来た。

 

「あら?かずちゃん、いらっしゃい」

 

越谷家にやって来たのはれんげの姉である宮内一穂だった。

 

「どうしたの?」

 

「知り合いから沢山の鶏肉をもらったので、お裾分けに来ました」

 

一穂はビニール袋に入った鶏肉を見せる。

 

「あら、わざわざありがとう」

 

一穂から鶏肉を受け取る雪子。

その後、れんげはチョコレートのパイを持って一穂と一緒に帰って行った。

 

「かずちゃんから沢山の鶏肉をもらったわよ」

 

雪子が先程一穂から貰った鶏肉を見せる。

 

「今日はチトちゃんとユーリちゃんの歓迎も兼ねて鶏肉を使った料理にしましょう」

 

雪子が今日の夕食のおかずを告げると、

 

「あっ、それなら私が今日の夕食を用意します」

 

と、チトが今日の夕食を作ると言う。

 

「えっ?チト、料理できるの?」

 

チトが料理できると言う事実に驚愕する小鞠。

 

「ちーちゃんはコック見習いだから料理の腕はそれなりに出来るよ」

 

「そういえば、マコちゃんの実家は料理屋だったねぇ」

 

「えっ?コックさん!?」

 

「その年でもう働いているの?」

 

「う、うん‥‥」

 

越谷姉妹はチトが見習いとは言え、コックとして働いている事に驚いている。

 

「でも、今日は二人の歓迎も兼ねているし、悪いわよ」

 

雪子は東京から此処までの長旅で疲れている中、お客人であるチトに夕食の準備をさせるのは忍びない様子。

 

「大丈夫です。それに暫くお世話になるので‥‥」

 

チトとしては越谷家にお世話になるほかに大好きな鶏肉を料理したかったと言う点があった。

 

「ユー、お前も手伝え」

 

「えっ!?私もっ!?」

 

「当然だ、お前もお世話になるんだからな」

 

「ぬー、分かったよ」

 

ユーリとしては断りたかったが、流石に家主たちの前で堂々と『やだ』と言えるほど、無神経ではなかった。

 

「そう?それじゃあ、お願いしてもいいかしら?」

 

「ええ、任せてください」

 

こうしてチトとユーリはその日の夕食を作る事になった。

夕方、越谷家の台所にはエプロンを身に着けたチトとユーリの姿があった。

 

「よし、私は鶏肉を捌くから、ユーはご飯の用意をお願い」

 

「ラジャー」

 

チトに言われ、ユーリはご飯の用意をし、チトはメインとなる鶏肉の用意をする。

 

「‥‥いい鶏肉だ」

 

チトは手慣れた手つきで鶏肉を包丁で捌いていく。

 

「へぇ~随分と手慣れているねぇ~」

 

気になった雪子はチトの包丁捌きに感心する様に呟く。

 

「日々、包丁を振っていますから」

 

チトは二っと笑みを浮かべ、鶏肉を捌いていく。

チトの様子を見て大丈夫だろうと判断した雪子は居間へと戻って行く。

 

「母ちゃん、どうだった?」

 

夏海が雪子に台所のチト達の様子を訊ねる。

 

「心配ないみたい」

 

「へぇ~それなら今日の晩御飯は期待できるかもねぇ~」

 

「まったく、殆ど年齢が変わらないのに、あの子達と比べて家の子はねぇ~」

 

雪子がやれやれと言った様子で呆れた目で夏海を見る。

 

「ちょっ、なんで、ウチだけなのさっ!?」

 

自分だけ呆れた目で見られた事に不満そうな様子の夏海だった。

 

「わ、私もちょっと見てこようかな?」

 

小鞠も気になった様で台所へと向かった。

彼女が台所へと行くと、チトが鶏肉を油で揚げていた。

どうやら唐揚げを作っている様だ。

チトは鍋の中にある鶏肉を取り出したかと思ったら、再び鍋の中に入れた。

 

「あれ?どうして戻すの?揚げたりなかったの?」

 

「ん?ああ、これは二度揚げっていう調理法で、一度目よりも高い温度で揚げることで外側がサクッと揚がるんだよ」

 

「?」

 

チトは鍋から取り出した鶏肉を再び鍋の中に入れた訳を話す。

 

「あ、あの‥‥?」

 

「ん?」

 

「私も何か手伝おうか?」

 

小鞠はチトに何か手伝う事はないかと訊ねる。

 

「それじゃあ、其処にゆで卵があるから殻を剥いて貰ってもいいかな?」

 

「えっ?あ、うん。分かった」

 

小鞠にゆで卵の殻をむいて貰う。

 

「このゆで卵、どうするの?」

 

小鞠はゆで卵の使い道を訊ねる。

 

「ゆで卵を細かく切って‥‥」

 

チトは次にまな板の上でゆで卵を細かく切る。

 

「そんなに細かく斬っちゃって食べにくくない?」

 

「このゆで卵はソースに使うんだよ」

 

「ソース?」

 

チトは細かく切ったゆで卵をボウルの中に入れ、そこにマヨネーズを入れる。

次にそのボウルに同じく細かく切ったらっきょうを入れる。

 

「小鞠、そのボウルの中身をかき混ぜてくれる?」

 

「う、うん」

 

「ユー、甘酢あんは出来た?」

 

「うん、ばっちりだよ」

 

チトはユーリに頼んでおいた甘酢あんが出来たかを訊ねるとあんは出来たみたいだ。

 

「チト、ボウルの中、これぐらいでいい?」

 

「うん、完璧、あとは‥‥」

 

チトは出来上がった唐揚げの内、半分をユーリが作った甘酢あんをかけ、更にその上に小鞠が作ったボウルの中身‥タルタルソースをかける。

 

「よし、唐揚げとチキン南蛮の完成だ」

 

「「おおーっ、美味しそう」」

 

出来上がった唐揚げとチキン南蛮をみて思わず声を揃えてその出来栄えを漏らすユーリと小鞠。

 

「あと、サラダはこれ、ササミを使った棒棒鶏風サラダ‥‥さっ、持って行こう」

 

「うん」

 

「そうだね」

 

三人は出来上がった料理を居間に持って行く。

今日の越谷家の夕食は、メインは唐揚げとチキン南蛮。

サラダが棒棒鶏風サラダ。

汁物は鶏団子のすまし汁。

 

「「「「「「いただきます」」」」」」

 

夕食が始まった。

 

「おお、この唐揚げ美味しい」

 

「ほんと、外はカリっとして中はジュわっとジューシーで柔らかい」

 

「‥‥」

 

越谷姉妹と雪子は「美味しい」と言って食べているが、相変わらず卓は無表情・無口で食べている。

チトの作った料理は越谷家の舌を満足させるには十分なレベルであった。

こうしてチトとユーリの田舎生活は始まったのだった。

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