少女異世界旅行   作:破壊神クルル

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わたしたちののんのんな夏休み 3

 

~越谷小鞠side~

 

その日、ラジオ体操が終わって家に帰って、朝ご飯を食べていたらお母さんが、

 

「ああ、そうだ」

 

何かを思い出したかのように声をあげた。

 

「なに?お母さん」

 

「なんかあったの?」

 

「今日、東京から私の知り合いの家に居る子らが来るんだよ」

 

「東京!?」

 

東京と言う単語に思わず声が出てしまった。

 

「へぇ~ほたるんの古巣から~」

 

「それで、少しの間、家に泊まっていくからアンタ達、仲良くしてあげてね」

 

「そう言えば、お母さんこの前からお布団とか用意していたもんね」

 

「それで、どんな子が来るの?」

 

「富士宮さんの所のこのみちゃんより一つか二つ年下の女の子達だって」

 

「達って事は一人じゃないの?」

 

「二人だってさ」

 

「どんな子なの?」

 

「金髪で背の高い子と黒い髪で背の小さな子だって」

 

「へぇ~背が小さいねぇ~」

 

背が小さいと言う特徴を聞いて妹の夏海が私を見てくる。

なんだ?その目は!?

 

「な、なによ。夏海」

 

「いや、小さいって言ってもこまちゃんほどではないかな~と思って」

 

「なっ!?」

 

夏海の発言に思わず絶句してしまう。

お兄ちゃんも夏海も私と互いに一年、生まれが違うだけなのにどうしてこうも身長差が出てしまったのだろう?

やっぱり小さい頃、ミルクを飲んでいない事、お昼寝をしていなかった事が影響しているのか!?

それでもこの差は酷い!!

 

「私はお前の姉だぞ!!少しは敬え!!」

 

夏海の発言に対して私は思わず朝から声を荒げてしまった。

それから昼過ぎに東京からのお客さんが家にやってきた。

途中、駅から家までの道で迷ってしまったらしく、れんげが案内してきた。

 

「あっ、姉ちゃん。ほら朝、母ちゃんが言ってた東京からのお客さん」

 

「あっ、どうも。越谷小鞠です」

 

やっぱり初対面の人なんだから挨拶はちゃんとしないとね。

 

「ん?もう一人の方はもしかして外国人?」

 

私は二人のお客さんの内、身長が大きな方のお客さんの髪の毛と目の色が日本人の様な黒髪、黒い目ではない事から外国人の人だと思った。

もう一人の小さいほうのお客さんは黒髪に黒い目をしている。

確かに小さいけど、私よりも少しだけ身長が大きい‥‥

くっ、ま、負けた‥‥

私が心の中で敗北感を感じているともう一人の外国人さんの人は英語でペラペラと何かを喋ってきた。

英語は学校でやっているけど、こうして本物の外国人さんと出会ったのはコレが初めてだからなんて言ったのか上手く聞き取れなかった。

金髪の人って聞いた時、私はてっきり駄菓子屋みたいに髪の毛を金色に染めている人だと思ったのだが、地毛でしかも外国人さんなんて思ってもみなかった。

 

「ね、姉ちゃん、英語だ‥‥やっぱりこの人、外国の人だ」

 

「う、うん‥そうみたいだね」

 

「ほら、姉ちゃん、英語で挨拶しないと」

 

夏海も初めて見た外国人さんに慌てている。

そして、私に英語で話せと言ってきた。

しかし、これは姉としての威厳を見せるチャンス!!

此処で、この外国人さんと英語で話せれば夏海も私の事を偉大な姉として見るだろう。

 

「う、うん‥‥ハ、ハロー!」

 

私はまず英語で挨拶をしてみた。

 

「コマちゃんすごいのん! 英語話せるのんなー」

 

「あ、あったりまえでしょう!」

 

れんげも英語を話せる私の姿を見て目を輝かせている。

これが姉の‥上級生の威厳なのだ。

そう思っていたら、

 

「でも、ユーリは日本語も話せるん」

 

と、れんげはユーリが日本語を話せることを言ってきた。

 

「えええー!そうなの!?」

 

「さっきまで、ウチと話してたん」

 

「本当に日本語を話せるの?」

 

私がユーリさんに日本語が話せるのかを聞いてみると、

 

「話せるよ」

 

ユーリさんは普通に日本語を話して来た。

日本語が話せるなら、最初から話してよね!!

その後、ユーリさんとチトさんが東京の空港で買ってきたお土産のお菓子を食べた。

二人が買ってきたお菓子の内、その中にはケーキがあった。

まさか、誕生日でもない普通の日にケーキを食べられるなんて思わなかった。

やっぱり東京のケーキだ‥味はとっても美味しかった。

そして、その日の夕食はチトさんが作る事になった。

チトさんは東京でコックさんの見習いをしているらしく、料理が上手だと言う。

お母さんが一度、台所を見に行ったら、

 

「母ちゃん、どうだった?」

 

「心配ないみたい」

 

「へぇ~それなら今日の晩御飯は期待できるかもねぇ~」

 

「まったく、殆ど年齢が変わらないのに、あの子達と比べて家の子はねぇ~」

 

「ちょっ、なんで、ウチだけなのさっ!?」

 

夏海は声をあげるが、それはきっと日頃の行いだと思うぞ。

 

「わ、私もちょっと見てこようかな?」

 

私もちょっと気になったので台所へ様子を見に行った。

台所のコンロの前ではチトさんが鶏肉を油に入れている。

ジュッ、という音を立て、鶏肉が油の中に沈められる。

小気味の良い音が台所に響く。

それと同時に台所に良い匂いがする。

油で鶏肉を揚げるこの音と香り、たまに油の爆ぜる音‥これを見て嗅いでいるだけでお腹が空いてくる。

チトさんは鶏肉を油から取り出し始めたけど、お皿に盛らない。

何だろうと見ていると、もう一度油に入れ始めた。

 

「あれ?どうして戻すの?揚げたりなかったの?」

 

「ん?ああ、これは二度揚げっていう調理法で、一度目よりも高い温度で揚げることで外側がサクッと揚がるんだよ」

 

「?」

 

二度揚げ‥‥聞いた事の無い方法だ。

お母さんも唐揚げを作る時にはやっているのかな?

 

「あ、あの‥‥?」

 

「ん?」

 

「私も何か手伝おうか?」

 

なんだか見ているだけだと悪い気がしてきたので、私はチトさんを手伝う事にした。

 

「それじゃあ、其処にゆで卵があるから殻を剥いて貰ってもいいかな?」

 

「えっ?あ、うん。分かった」

 

チトさんに言われた通り、私は茹で卵の殻を取る。

そして、チトさんは殻を剥き終わった茹で卵を包丁で細かく切り始めた。

 

「そんなに細かく斬っちゃって食べにくくない?」

 

「このゆで卵はソースに使うんだよ」

 

「ソース?」

 

茹で卵をソースに?

一体どんなソースを作るんだろう?

チトさんは茹で卵とマヨネーズを混ぜてタルタルソースを作った。

へぇ~タルタルソースってあんな風に作るんだ‥‥

そして出来上がった唐揚げとユーリさんが作った甘酢あんとタルタルソースを混ぜてチキン南蛮が出来上がった。

出来上がった唐揚げにチキン南蛮、棒棒鶏風サラダ、鶏肉のお吸い物が今日の夕飯のメニューだ。

箸で唐揚げを摘まむと、カラリと揚がった衣からジワリと肉汁が溢れ出てきた。

私はそのまま唐揚げを口へと運ぶ。

 

サクッ

 

一口齧った瞬間、外はサクッと、中はふんわりと溢れ出て来る肉汁は濃厚で、鶏の旨みを余すことなく含んでいる。

美味しい‥‥

学校の給食やお母さんが作る料理も美味しいけど、チトさんが作った料理も美味しかった。

流石、東京でコックさんの見習いをやっているだけの事はある。

夕食後のデザートはチトさんが空港で買ってきたチョコレート菓子を食べた。

あのプリンのロールケーキも美味しかったけど、このチョコレート菓子も美味しかった。

チトさんとユーリさんはその後、一緒にお風呂に入っていった。

あの二人は本当に仲がよさそうだ。

 

「あっ、明日の朝、ラジオ体操があるんだけど、二人も一緒にどう?」

 

私は二人を明日の朝のラジオ体操に誘った。

 

「そうそう、その後、海に行くんだけど、二人も来ない?」

 

夏海が二人を海に誘う。

 

「いいわね。二人とも一緒に行こう」

 

「えっ?ああ、うん‥‥」

 

「勿論行くよ!!そう言えばちーちゃん、海初めてだったよね?」

 

「う、うん」

 

二人も明日の海水浴に参加する事になった。

へぇ~チトさん海に行ったことがないんだ‥‥

このみちゃんとほとんど同じ年なのに珍しい。

夜、寝る前にチトさんは何かを書いていた。

 

「あれ?チトさん、それ何を書いているんですか?」

 

「これ?これは、日記だよ」

 

「日記?学校の宿題で書いているの?」

 

私はチトさんが日記を書いているのは学校の夏休みの宿題かと思った。

 

「いや、違うよ。これは私の趣味で書いているんだ」

 

「へぇ~」

 

宿題でもないのに日記を趣味で書くなんてチトさんはやっぱり大人だな‥‥

 

 

 

 

そして翌朝、

 

「ユー!!ほら、起きろ!!」

 

「うぅ~あと五時間‥‥」

 

「ラジオ体操に行くんだろう!?ホラ、起きろ!!」

 

チトとユーリの泊っている部屋からはチトの大声が響き、

 

「夏海!!ほら、起きなよ!!ラジオ体操に遅れるよ!!」

 

「う~ん‥‥ねむ~い~ねぇちゃん、代わりに行ってきてよぉ~」

 

「何言っているの?どうせ、かず姉は今日も寝坊で来ないからハンコを押すのはお母さんでしょう?行かないと怒られるよ」

 

「あぁ~そうだった~‥‥いいなぁ~かず姉は~」

 

寝ぼけ眼を手で擦りながら、ふらつく足取りで小鞠が手を引いて洗面所へと夏海を連れて行く。

その途中で、チトとユーリの二人に出会う。

ユーリも夏海同様、寝ぼけ眼で足取りがおぼつかない。

そんなユーリをチトは手を引いていた。

 

「「‥‥」」

 

チトと小鞠の目線が合う。

そこで二人はシンパシーを感じた。

身長もさることながら、お互いに手のかかる者が近くに居ると苦労する。

 

「おはよう、チトさん、ユーリさん。昨日はよく眠れた?」

 

人によっては枕が変わると眠れない人も居るので、心配になった。

 

「大丈夫だよ。私もユーリも大抵の所で眠れるから」

 

前の世界での経験上、二人は枕が変わる程度で眠れなくなると言う事はなかった。

そしてラジオ体操の会場である村の神社には昨日、自分達を案内してくれたれんげの他にもう一人、背の高い女の子が居た。

 

「おっ、れんちょう。おはよう」

 

「にゃんぱすー」

 

「おはようございます。小鞠先輩‥‥えっと‥‥後ろの人は一体‥‥」

 

小鞠の後ろに居るチトとユーリに気づいたその子は小鞠に誰なのかを訊ねる。

 

「あっ、この二人は昨日、東京から来たチトさんとユーリさん」

 

「どうも、チトです」

 

「ユーリです」

 

「一条蛍です。よろしくお願いします」

 

れんげの近くの女の子、一条蛍はペコッと一礼し、チトとユーリに自己紹介をする。

 

((あれ?この人の声、何処かで聞いた事が有るような気がする))

 

蛍の声を聞いて、昨日夏海の声を聞いた時と同じように彼女の声も何処かで聞いた覚えがあるチトとユーリだった。

 

「‥‥」

 

すると、チトと蛍をジッと見ていた夏海が、

 

「なんか、チトとほたるんの二人ってウチとこまちゃんみたいに姉妹みたいだね。身長で言うとほたるんがお姉さんかな?」

 

と、チトと蛍の二人が姉妹の様だと言う。

それは蛍とチトの身長さと黒髪、黒い目と言う共通点から姉妹に見えた。

すると、

 

「あら、聞きました?姉様。おかしなことを言っていますわ」

 

「ええ、聞いたわよ、チト。頭が残念な発言が出ているわね」

 

「ほ、ほたるん?」

 

「ちーちゃん、どうしたの?まだ寝ぼけているの?」

 

急に態度と言葉遣いが豹変した蛍とチト。

 

「大変ですわ。今、皆さんの頭の中でひわいな辱めを受けています、姉様が‥‥」

 

「大変だわ。今、皆の頭の中で恥辱の限りを受けているのよ。チトが‥‥」

 

「ちーちゃん、いい加減に戻ってきなよ」

 

「ほたるんも何言っているのさ?」

 

ユーリがチトの頭にチョップを入れ、小鞠が蛍の頬をペチペチと叩くと二人は何か腫物が取れたかのように正気に戻った。

 

「っ!?私達は‥‥」

 

「一体何を‥‥?」

 

二人は先程自分達が何を言っていたのかを覚えていない様だ。

 

「それにしてもほたるん‥‥だっけ?」

 

「えっ?あっ、はい」

 

「小鞠を先輩って呼ぶって事は、蛍は中学一年なの?」

 

「いえ、小学五年です」

 

「えっ?うそっ!?」

 

蛍が中学生ではなくまだ小学生と言う事実にチトは驚く。

そしてユーリが蛍をジッと見ると、

 

「小学生?オオッ、ホントにでけぇな!オオッ、ホントにでけぇな!」

 

ユーリは蛍の身長が大きな事に思わず声をあげる。

 

「なんで二度も言うんだよ?」

 

「言ってないよ。二度目は木霊だよ。ほら、私達は山に居るんだから」

 

「ああ、そう‥‥」

 

こんなやり取りをしている間にラジオ体操の時間となり、皆はラジオ体操を始める。

今回、ラジオ体操初体験のチトとユーリは小鞠達の動きを見様見真似でやり、れんげは独創的なダンスをしていた。

ラジオ体操が終わり、出欠のハンコを押す事になる。

ハンコを押すのは卓、小鞠、夏海の母親の雪子だった。

本当ならば、ハンコを押すのはれんげの姉の一穂の仕事なのだが、彼女は今も自分の家の布団の中で高いびきを書いてまだ眠っていた。

 

「そう言えば、れんげちゃんの所、御両親は朝から畑仕事だったっけ?かずちゃんは寝ているから家で朝ご飯、家で食べていくかい?」

 

「食べるん」

 

雪子がれんげを朝ご飯に誘う。

すると、れんげは雪子のお誘いを受ける。

 

「蛍ちゃんも食べていく?」

 

「えっ?いいんですか?」

 

「いいよ、人が多い方が楽しいしね」

 

雪子はれんげの他に蛍も誘った。

帰り道、小鞠と蛍は無人販売所へミニトマトを買いに行き、他の皆は越谷家に戻り朝食の準備をした。

準備をしている間、ミニトマトを買いに行った小鞠と蛍が戻ってくると、雪子は小鞠達が買ってきたミニトマトを味噌汁の具材として味噌汁の中に入れた。

 

「「‥‥」」

 

ミニトマトを味噌汁の具材にした雪子の姿を見たチトとユーリはギョッとする。

 

「ちーちゃん、トマトって味噌汁の具材になるの?」

 

「わ、分からない‥‥でも、店長は味噌汁の具材は各家庭それぞれだって言っていたから、多分トマトも‥‥」

 

「美味しいのかな?」

 

「それは食べてみないと分からない」

 

そして朝食の準備が整い朝食となる。

蛍は自分の家以外の家でご飯を食べるのは初めてらしくソワソワしている。

朝食が進む中、蛍が味噌汁の中に入っているミニトマトを見つけた。

 

「?‥‥あの‥‥お味噌汁にトマトが‥‥」

 

蛍の家でも味噌汁の中にトマトを入れるのは珍しい様だったが、

 

「?入っているよ」

 

「蛍ちゃんのとこは入れないのかい?」

 

越谷家では味噌汁にトマトを入れるのは当たり前の様だった。

 

「チトさんの所も入れないの?」

 

「え、ええ‥家もトマトを味噌汁の具材にはしないかな‥‥ねぇ」

 

「うん」

 

「まぁ、独特かもしれないけど、少し酸っぱいだけでおいしいよ」

 

小鞠に言われ、蛍、チト、ユーリはトマト入りの味噌汁を飲んでみる。

確かに小鞠の言う通り、トマト入りの味噌汁には独特の酸味があった。

朝食が終わった後、この後海へ行く為、れんげと蛍は荷物を取りに戻り、駅で待合わせをする事になった。

そして、駅に着くと今日の海水浴の引率者でありれんげの姉、この村の唯一の学校の教師をしている宮内一穂と出会った。

 

「ど~も~、今日の引率をします、宮内一穂です。二人は東京から来たお客さんだね。話はれんちょんや雪子さんから聞いているよ。今日はよろしく」

 

「はじめまして、チトです。今日はよろしくお願いします」

 

「ユーリです。よろしく」

 

一穂を見た二人の印象はと言うと‥‥

 

(大丈夫かな?ちょっと頼りなさそう‥‥)

 

(ボォ~としてそうな所がイシイに似ているなぁ‥‥)

 

であった。

 

互いに自己紹介を終えて一行は海へと出かける。

だが、此処は山の中の田舎、海への道のりは遠く、電車を乗り継いでやっとこさ、田舎ではあるが、海水浴へと到着した。

山へ行くが一応泳げる川もあると言う事でチトとユーリは今回の旅行前に唯達と共に水着を買いに出ていた。

当初、チトはシンプルなデザインと言う事でスク水を買おうとしていたが、唯達に止められて、白いワンピースタイプの水着を購入した。

更衣室で着替え海へと行くのだが、蛍とユーリの二人が着替えに手間取る。

二人は他の皆に先に行ってと言ったので、皆は先に海へと行った。

 

「これが‥‥海‥‥」

 

チトにとっては初めての海‥‥

釣りに海へ行ったことのあるユーリやねこやの店主の話では潮の香りがすると言っていたが、砂浜に立つと波の音と共に潮の香りがした。

チャプッと波間に立つと程よい冷たさの海水がチトの足を濡らす。

 

「つめたっ」

 

「おーい、チト!!海来たんだから泳ごうぜ~!!」

 

「えっ?あっ、ちょっ…」

 

夏海がチトの手を引いて海へと入るが、足がつかなくなると‥‥

 

「あぷっ‥‥がぷっ‥‥おっぷ‥‥」

 

チトは溺れた。

ユーリはあの魚と小さなロボットと出会った時、養殖用の水槽ですぐに泳げたが、チトはあの水槽で溺れた。

それ以降、泳ぐほどの大きな水のある環境に接しなかったので、チトのカナヅチは未だに直っていなかった。

溺れたチトを卓がライフセーバーの如く助けた。

 

「あ、ありがとうございました」

 

「‥‥」

 

「にーちゃんすげぇな!!」

 

卓はチトにサムズアップをして去って行く。

その後、夏海とれんげはビーチバレーをして、チト、小鞠、一穂はビーチパラソルの下で海を眺めていた。

一穂が持って来たクーラーボックスの中には飲み物ではなく大量のきゅうりとトマトが入っていた。

一穂と小鞠はきゅうりを齧り、チトはトマトを食べながら海を見ている。

 

「海‥‥だね‥‥」

 

「海‥ですね‥‥」

 

「海‥‥」

 

「てか、田舎だってのになんで海はこんなに人多いの?」

 

「確かに多いですね」

 

(多いかな?)

 

東京に住んでいるチトにとってこの海水浴場に居る人は多い部類には入らない。

しかし、あの村の人口から考えると確かに今、海水浴に居る人は多いかもしれない。

 

「こんな田舎の海に来ても何にもないのにねぇ‥‥」

 

「里帰りの人とかじゃないんですか」

 

「‥‥そういや、こまちゃん。泳がんの?」

 

一穂は小鞠に泳がないのかを問う。

小鞠は水着に着替えていない。

反対にチトは海で溺れたのでもう泳がないかもしれない。

 

「まだいいです」

 

「水着忘れたとか?」

 

「こうして海を眺めているのが好きなんです」

 

「チトちゃんは泳がないの?」

 

「もう十分海は堪能しましたから‥‥」

 

「まぁ、あんなことがあれば海に入りたがらないのも分かるか‥‥でも、こまちゃんは水着着ると中学生に見えないから嫌なんでしょう?」

 

一穂が小鞠に海に入りたがらない訳を聞くと、

 

ガリッ

 

小鞠がきゅうりを力強く噛む。

そして、

 

「そうですよ!!せっかく海満喫して忘れようとしていたのにぃ~!!」

 

きゅうりをやけ食いする小鞠。

一穂の問いは小鞠にとって地雷だったらしい。

 

「あっ…ごめんね…ってか、こまちゃんって身長幾つだっけ?」

 

「140無いくらいです…」

 

小鞠はしょんぼりとした感じで自分の身長を答える。

身長に関して、チトも他人事ではないので、やや意気消沈している。

 

「まあまあ、周りに同い年がいないだけで、みんなそんなもんじゃないの?たしか、14歳の平均身長はだいたい140センチって聞いたことあるし‥‥」

 

「っ!!本当ですか!?」

 

「そうなのか!?」

 

一穂の一言で目を輝かせる小鞠とチト。

しかし、

 

「う、うん‥‥ヤバッ、流石にこれは明治時代のデータだとは言えないな‥‥」

 

この一言で二人はさらなる絶望へと落とされた。

 

「「明治!?」」

 

「あっ、口に出していた?」

 

「私って明治の人よりちっちゃいんですか!?140でもかなりサバ読んでいたのに!!」

 

「私は平成ではなく明治時代の女子の平均身長なの!?」

 

そこへ二人に追い打ちをかけるかのように、

 

「すいませ~ん、水着着るの手間取って遅くなりました~!」

 

「いや~着慣れないとなかなか手間取るもんだね~」

 

着替えが終わった蛍とユーリがやって来た。

蛍の水着は、胸元をリング状の金具で繋いだとても大胆なデザインの青いビキニの水着でユーリも大人っぽいデザインの黒いビキニの水着を着ていた。

一穂は咄嗟に小鞠の目を両手で覆ったが、チトは蛍とユーリの水着姿を直視した。

 

(ユーの奴、前々から胸が大きいと思っていたけど、まさか小学生の蛍に負けるなんて‥‥)

 

「どう?ちーちゃん?似合う?」

 

ユーリはポージングをして水着が似合っているかを問う。

すると、チトは、

 

「ふん、ふん、ふん、ふん、」

 

「ちょっ、ちーちゃん。ソフトに腹パンはやめて~」

 

ユーリのお腹に拳をぶつけていた。

一方、蛍は小鞠の目を隠している一穂の行動に首を傾げ、

 

「?何しているんですか?」

 

「いや、ちょっとしたゲームと言うか‥‥ハハハハ‥‥いない、いなーい‥‥」

 

そう言いながらゆっくり小鞠の目を隠していた手をどける一穂。

そして、小鞠の視界に水着姿の蛍が入る。

 

「ヴァァァァァァ~」

 

蛍の水着姿を見て改めて格差社会を目の当たりにした小鞠は、「ジュース買って来る」と言ってとぼとぼと歩いていった。

 

「私も‥‥」

 

チトもユーリのお腹に散々腹パンをやったチトも小鞠の後を追ってジュースを買いに行った。

 

「二人とも…どうしたんでしょうか?」

 

蛍は何故チトと小鞠がどうして元気がないのか分からず、首を傾げて二人の背中を見ていた。

 

「それは自分の胸に聞きなよ…しかし君は本当に小五かね?」

 

一穂にしては珍しく蛍にツッコミをいれた。

なお、砂浜でその様な出来事があった頃、夏海とれんげは卓を浜辺に横たえて顔を砂で埋めて遊んでいた。

シュノーケルのおかげで呼吸は出来たので、卓は窒息を免れた。

小鞠とチトがジュースを買いに行った後、ユーリは一穂が持って来たきゅうりとトマトを食べて二人が買って来るジュースを待っていた。

しかし、何時まで待っても二人は戻ってこない。

ジュースのある自販機は目と鼻の先のはず、迷うことはまず無い。

 

「まさか誘拐されていたりして~」

 

夏海が冗談を言った。瞬間、蛍の顔が凍りついた。

 

「ゆ…誘拐…?」

 

「や、やだなぁ、冗談だって‥あはは‥‥」

 

「でも、ありえなくはないじゃないですか!!先輩可愛いですし!!ちっちゃいですし!!持ち運びやすいですし!!」

 

「た、確かにちーちゃんも小さいし持ち運びやすいし‥‥」

 

ユーリも夏海の冗談を真に受け始めた。

 

「うわぁぁぁあん!!先輩が誘拐されちゃったぁぁ!!」

 

「ちーちゃんが!!どうしよう~テンチョーになんて言おう~!!」

 

「やばい…すごい心配になって来た……」

 

誘拐と冗談をほのめかした夏海自身もとうとう本当に心配になって来た。

 

「お、落ち着いて、まずは状況を整理しよう」

 

一穂がみんなをなだめ始めた。

 

「こほん、あのね?私はね、今日は友達として来ているから、あなた達を見守る責任は無くてね…だからその…ね?」

 

一穂は大人として、教師としての責任を放棄した。

 

((((だめだこりゃ、(私/ウチ)たちがなんとかしないと…」」」」

 

「と、とにかく二手に分かれて探そう!!れんちょんはウチと、ユーリはほたるんと探して!!」

 

こうして行方不明になった小鞠とチトの捜索が始まった。

 

 

「先輩~~どこですか~!?」

 

「ちーちゃん!!」

 

ユーリと蛍は一緒にチトと小鞠を探した。

トイレ近くや売店、ゴミ箱の中から自販機の中まで‥‥

 

(蛍、流石にそんな所には居ないと思うけど‥‥)

 

後半における蛍の行動を見てユーリは半ば呆れていた。

 

「ほたる~ん、ユーリ」

 

そして、別の方面を探していた夏海達と合流する。

 

「そっちはどうだった?」

 

「だめ、どこにもいない…」

 

これだけ探しても見つからない。

夏海たちに焦りの色が見え始め、蛍も今にも泣きそうになった。

その時、

 

ピーンポーンパーンポ――ン

 

『迷子センターからのお知らせです。身長130センチ程度、ロングの髪の毛、お名前越谷 小鞠ちゃんというお子様を『お子様じゃないって言ってんじゃん!!』』

 

迷子センターからの放送のバックから小鞠の怒声が聞こえてきた。

チトの名前は呼ばれなかったが、小鞠と行動を共にしている筈なのできっとチトも小鞠と一緒に迷子センターに居る筈だ。

一行は一穂と共に迷子センターへと向かった。

 

「迷子じゃないのに迷子センターに連れていかれた‥‥」

 

チトは不機嫌オーラ全開で連れて行かれた経緯を説明する。

 

「『お母さんどこ?』って聞かれた!!なんだ!?これ!?」

 

一方、小鞠は大号泣しながら迷子に間違われた事に怒りをあらわにしていた。

 

「いやぁ~無事に見つかってよかったねぇ~迷子ちゃん」

 

「迷子じゃない!!」

 

「ちーちゃん、いくら私達が普段から迷っているからってなにも海に来てまで迷うことないじゃん」

 

「だから、今回のは違うって」

 

夏海とユーリが小鞠とチトをからかい、二人の不機嫌さのボルテージは更に上がる。

 

「そういやナニカ忘れているような…」

 

此処で夏海がなにか忘れているのに気づいた。

 

「あれ?そう言えば、卓は?」

 

ユーリはこの場に居ない卓に気づいた。

 

「「「「「「あっ!?」」」」」」

 

砂浜に行ってみると、微動だせずに砂浜で顔の部分に変な顔で出来た砂山の下に居る卓が居り、彼の周りには野次馬とライフセーバーの人がおり、おおごとになりかけていた。

 

その後の昼食は海の家にて食べた。

なお、その時、ユーリは海の家で行われていたチャレンジ、『5人前ラーメンを時間内で食べきったら無料』 『ジャンボかき氷、時間内に食べきったら無料』 と言うチャレンジに挑戦し、見事両方とも時間内で食べきった。

ユーリの見かけによらず沢山食べるその姿に夏海達は唖然としていた。

そして、泳げないチトの為にユーリと夏海がチトの手を引いて泳ぎの訓練をした。

 

 

楽しい時間と言うのは直ぐ終わり、一行は帰路についていた。

往路は電車を乗り継いできたのだから、当然復路も同じである。

電車を乗り継いで、午後8時にようやく最後の乗換駅までやって来た。

時間は既に夕食時を過ぎており、一穂を除く皆は線路わきにみかんが落ちているのを見てすっかりお腹が空いてしまったので、丁度降りた場所から近くにあった立ち食いそば屋に入ることにした。

終電は20分後なのでかなり急がないといけないが、普通に食べれば何とか間に合うだろう。

 

「うちは先に反対路線行っとくけど、次が最終ってこと忘れんなよ~。遅れたら置いてくぞ~」

 

「「「「「「は~い」」」」」」

 

こうして一穂以外のメンバーは駅構内にある立ち食いそばの店に入った。

 

「ここも都会だけあって、駅に店あるなんてスゴイよな~」

 

「そうそう、駅員も居るって知った時はビックリしたよ」

 

「結構郊外のような…」

 

「「確かに‥‥」」

 

駅の構内に立ち食いそばの店があり、駅員が居る事に驚いている越谷姉妹に対して蛍、チト、ユーリの三人は此処も十分田舎であると呟く。

 

「子供用の椅子は1つで大丈夫ですか?」

 

「あ、どもー」

 

「ウチだけ椅子ー」

 

れんげの為の椅子が用意されて後はうどんを食べるだけなのだが、

 

「……さっきの椅子1つで大丈夫ってさ、2つか1つで迷ったってことかな?」

 

小鞠は海水浴での迷子騒動以降、かなりそういう話に敏感になっているようだ。

蛍はそんな事は無いと言うが、小鞠の疑心は深まるばかり‥‥

そんな二人を尻目に夏海は自分のうどんに七味唐辛子をかけている。

チトとユーリ、卓とれんげは無言のままうどんをすすっている。

チトとユーリは、やはり食べ物に困った生活をしていたので、目の前に食べ物がきたらすぐに食べてしまう癖はどうしても直らないようだ。

 

「とうがらしぃ~、フフンフフフ~ン♪」

 

シャッ、シャッ、ドサッ!

 

すると夏海が振りかけていた唐辛子のフタが取れて、中身が全部お揚げの上に乗っかり、赤い山を形成している。

 

「‥‥」

 

大ピンチを迎えてしまった夏海は顔を強張らせて一瞬だけ固まった後に左隣にいる小鞠を見る。

 

「いやだって疑問形だったってことはさー」

 

小鞠は蛍との会話に夢中で全くの無防備であった。

夏海は唐辛子の山をおあげで隠して、自分のうどんと小鞠のうどんとすり替えた。

 

「お店の人もただ普通に聞いただけだと思いますよ?」

 

「そうかなぁ…」

 

蛍が小鞠を宥めると、小鞠はうどんを口にした。

その途端に小鞠は動きを止め、しばらくすると無言で箸を落としてペタリと座り込んでしまった。

 

「小鞠先輩?」

 

「く…くひがかりゃ…あ……っ‥‥ありゃんりゃこりゃー!!!!」

 

「小鞠先輩!!」

 

小鞠は口の中に広がる唐辛子の突然の辛味に苦しむ。

 

「ははっ、どんまいどんまーい…」

 

笑いながら夏海は誤魔化していると、不意に隣から視線を感じたのでふり向くと、れんげが自分の事をじっと見つめていた。

まっすぐで純真無垢なれんげの瞳は、夏海の良心に訴えかけてくるようだった。

 

「もしかして、れんちょん見てた?」

 

「……」

 

れんげは、夏海の問いに対して何も答えず、ただ見上げてくるばかり。

まるで自分のやってしまったことに対して、何でそんなことをしたのと逆に問いかけてくるようだ。

流石にいたずら好きの夏海でも、罪悪感を感じたのか、

 

「あぁ~姉ちゃん。それ辛いならウチが食べようか?」

 

「ほんひょ?なふみ、いいやひゅだったんひゃな」

 

「礼とかいいから心が痛む」

 

夏海は意を決して赤いうどんへ箸を伸ばし、そしてうどんをすする。

 

「なーんだ。思ったより辛くないじゃん!こんなんで辛いとか言ってるようじゃあ、姉ちゃんもまだまだだねー!」

 

「だ、大丈夫?」

 

チトが心配になり夏海に聞いてみると、

 

「ん、なになに!?ウチが無理してるように見えるの!?」

 

「いや、かなり‥‥無理しているように見えるが‥‥」

 

夏海は顔を真っ赤にして目から涙を流していた。

 

「う、うめ~! これちょ~うめ~!!」

 

夏海は無理してまたもや赤いうどんをすする。

すると、蛍はあることに気づいた

 

「れんちゃんさっきから何見てるの?」

 

「天井の電気に虫飛んでるのん」

 

「うあっ本当だねー」

 

れんげが見ていたのは夏海の犯行ではなく電灯の傍に居た虫だった。

 

「ウチ無視して、虫見てたってか! ははは……」

 

「なっつん、なんで泣いてるのん?よくわからないけど、なっつんドンマイなのん」

 

「はは、良きに計らえ…」

 

「そのうどん、そんなに辛いの?」

 

「そう言うなら、ユーリ、食べてみな」

 

ユーリは既に自分の分のうどんを食い終えており、夏海の赤いうどんが気になり声をかけると、夏海はユーリに丼を差し出す。

 

「それじゃあ‥‥」

 

「おい、止めておいた方が‥‥」

 

チトが止めるのも聞かず、ユーリは赤いうどんをすする。

 

「「‥‥」」

 

夏海とチトはユーリの様子を窺う。

 

「‥‥むぐむぐ‥ごくん‥‥そんなに辛いかな?これ?」

 

ユーリは平気な様子で赤いうどんを食べた。

 

「ユー、お前平気なのか?」

 

「うん。別に食べられなくはないよ。ちーちゃんもどう?」

 

「‥‥」

 

ユーリに促され、チトも赤いうどんに箸を伸ばす。

そして、うどんをすすると、忽ちチトの顔は赤くなる。

 

「ぐはっ!!な、なにこれ!?」

 

ユーリは平気で食べていたが、チトのリアクションからやはり辛かったようだ。

 

「ユー!!お前、よく平気で食べられるな!?」

 

「そう?」

 

「ユーリ、食べられるなら食べていいよ。ソレ」

 

夏海もギブアップして赤いうどんをユーリへと譲り、彼女は赤いうどんを平然とした様子で食べた。

皆がうどんを食べ終えたと同時に隣のホームに電車が入ってきたことを知らせるベルが聞こえてきた。

 

「あっ、電車来た!!」

 

「うわ! コレ逃したら電車ないじゃん! れんちょんも早く準備して!」

 

乗り遅れないように夏海はれんげを、蛍は小鞠を抱いて隣のホームに向かう。

 

「急げ急げ~!!」

 

素早く階段を駆けて最寄の出入り口に全員が飛び込むと、その直後にドアが閉まった。

まさに間一髪である。

 

「何とか間に合った」

 

「ですね~」

 

(良かった~、先輩持ち運びしやすくて~)

 

蛍は抱っこしていた小鞠に対してそんな事を思っていた。

 

「兄ちゃんも来てたんだ。こういうときは素早いのね。いつ乗ったんだろう?」

 

電車の座席にはいつの間にか卓の姿もあった。

夏海がふと窓の外を見てみると、ホームのベンチに座って熟睡している一穂の姿があった。

そして、無情にも彼女を置いて電車は走り出す……。

 

「ねえねえ、乗り遅れたん?」

 

「終電は確かこの電車だよね‥‥?」

 

電車の中は静かになった。

 

「えー……どんまい……れんちょんどんまい!」

 

「どんまいれんげ」

 

「ど…どんまい…」

 

れんげ以外の皆はれんげにどんまいコールをした。

 

「ウチどんまいん!!」

 

れんげは力強く答えた。

 

(やっぱり頼りない人だったか‥‥)

 

(イシイ同様、あの人もボォ~っとしている人だったな‥‥)

 

段々遠ざかる駅を見ながらチトとユーリはそんな風に思っていた。

こうして波乱万丈な海水浴はまさかの引率者の乗り遅れと言う形で幕を下ろした。

明日はどんな事があるのか?

それはまだ誰にも分からない。

でも、きっと楽しい事だろうとチトもユーリもそう思った。

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